ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
【ヘスティア・ファミリア】の
その結果は想定通り過ぎて、
学区から『ナイト・オブ・ナイト』レオン・ヴァゼルフまで導入されたおかげで、手薄になった学区にも
先日一般開放された学区内部には、
彼らの狙いは、今すぐ学区を沈めることではない。オラリオで問題を起こしたときに、必ずここに避難民を集めると読んでいたのだ。避難民を満載したところで沖合に出る学区を海に沈める作戦である。学区の緊急時マニュアルにも、避難民の収容という項目は存在していた。
味方より、敵の方が勤勉である事はよくある事だ。
そして、学区の整備員に紛れ込んでいる
「皆さん、落ち着いてください。慌てず、乗船してください。乗船しても止まらず、奥へ進んでください。他の方が乗り切れなくなります。皆さんが乗船次第、船は沖合に一時避難します」
「あ、あの、私達に何か手伝えることはありますか?私は、ギルドの職員でエイナ・チュールといいます」
【金髪】【エルフ】【長髪】は、
間違いがないか、
「失礼ですが、ギルドの職員でエイナ・チュールさんでお間違いないでしょうか?
「えぇ。妙に私の事に詳しいですよね。その通りですが」
エイナは、妙に自分の事情に詳しい誘導員に疑問を抱く。だが、ギルド内部では有名な話でもあった。だからこそ、今はそれを追及するより、避難民の誘導の手伝いを優先するのだった。
「では、我々と一緒に避難民の誘導をお願いします。できるだけ多くの避難民を乗せなければなりません。あなたのご同僚には、学区内で避難民を落ち着かせるようにお声がけをお願いしています。きっと、皆さん不安でしょうから」
「わかりました」
エイナ・チュールは、学区への乗船ではなく誘導に加わる。それが、避難民を地獄に突き落とす事になるとは夢にも思わないだろう。
これも運命か。深層で生き残るため、”幸運”を吸い上げ続ける誰かによって、未来の分の幸運まで搾取された学区への避難民。彼らの未来はまもなく、出航した沖合で決定する。
………
……
…
それから1時間もせずに、オラリオからの避難民が全員学区に乗船完了する。これ以上は待てない。港町メレンにも
「これ以上は待てません。一度、学区を沖合に避難させます。これ以降に来た避難民は、港に停泊している一般船を使い学区への避難を行います。エイナ様はギルド職員で顔も知られておりますので、ここに残って手伝いをお願いします」
「エイナ様? 私はそんな身分でも……いいえ、分かりました」
遠ざかる学区。避難民たちは安堵しただろう。学区と言えば、世界を回りモンスターを討伐して治安を守る要のような場所だ。そこには神もいるし、学区の教師陣もいる。
そう、その認識は正しい。
だが、海に出る前に既に準備は完了していた。整備員にも
それから20分ほど待ったが、避難民は誰も来なかった。そろそろエイナも避難しようと思った矢先、誘導していた者たちがエイナの前に膝をついて臣下の礼をとる。
「え? ええ? どうしたんですか、急に」
「我らが盟主ヘスティア様、その主力たる
誘導員が指し示した方向は、沖合に避難した学区。
それが大爆発を起こし炎上する。真っ二つにへし折れた学区が沈んでいく光景が、エイナの脳裏に焼き付けられた。あそこには、彼女の同僚や仲間もいる。オラリオから救い出してきた多くの民間人が乗っているのだ。
「そんな……どうして!! 何がどうなっているの」
「おっと、失礼いたしました。まだ名乗っておりませんでしたね。我々は
驚きのあまり開いた口が塞がらないエイナ。
ギルド内部でも【ヘスティア・ファミリア】の破天荒な行動は色々と問題視されていた。それこそ、半ば冗談で
先日の
海に沈む母校であった学区をみたエイナは、呟く。
「バルドル様達は……」
「学区の神ですね。ご安心ください。万が一にも生き残れないよう、自爆兵を使っております。最初の爆発がそれです……船上で神が送還される光が立ち上っておりますね。作戦は成功です。やはり、策士リリルカ・アーデ様のやり方は大変参考になります」
自爆兵として利用されたのは、
「ニイナは……」
「そちらもご安心ください。我々の賛同者はどこにでもおります。深層で活動できる冒険者もおり、救助部隊に混ざっております。深層に取り残されていた春姫様とニイナ様を救出し、地上に向かっていると連絡を受けております」
エイナ・チュールはギルドの一般職員であり、幹部ではない。だからこそ、今回の救出作戦の詳しい状況は知らされていなかった。
その上。大量殺戮の手伝いをさせられ、その手を真っ赤に染め上げられたエイナ・チュール。
彼女の心は、罪悪感で崩壊してしまった。彼女の心がベル・クラネルから離れていなければ、”幸運”も手加減をしただろう。だが、ニイナ・チュールを遠ざけようとした行動が今の惨状を生んでしまった。
これが"幸運"が回収された人たちの末路です。