ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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ベル君が本気をだせば、このくらいになるだろうと思っています。


78:オラリオで一番長い夜2

 闇派閥(イヴィルス)の準備は、完璧だった。盟主であるヘスティアと心で通じ合う彼らにとって、彼女の行動はまさに闇派閥(イヴィルス)が求めることを全て行ってくれているものだった。抜かりのない彼らは、オラリオで事を構えるべく【ロキ・ファミリア】の遠征が始まった頃から入念な準備を行っていた。

 

 【ヘスティア・ファミリア】の白兎(ベル・クラネル)の憧れである『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインがダンジョンの深層に向かった。そして、白兎(ベル・クラネル)と彼女の仲は全く進展していない。つまり、意図的に問題を発生させ、解決することで親密になるという十八番が仕掛けられると踏んでいた。

 

 その結果は想定通り過ぎて、闇派閥(イヴィルス)は思わず感心したほどだ。一体、何をどうやればあれだけの戦力を有していた遠征を失敗させられるのかと。

 

 学区から『ナイト・オブ・ナイト』レオン・ヴァゼルフまで導入されたおかげで、手薄になった学区にも闇派閥(イヴィルス)の魔の手が及んでいる。彼らの存在はオラリオの外を守る要であり、闇派閥(イヴィルス)としても邪魔だと思っていた。

 

 先日一般開放された学区内部には、闇派閥(イヴィルス)の者たちも下見に参加していた。内部構造やどこを狙えば良いかなど、入念な計画が立てられていたのだ。そして、オラリオ全軍……学区の生徒まで徴用されたタイミングで闇派閥(イヴィルス)は学区に潜入し、重要な推進システムに時限式の爆弾を設置。さらに、バラストの調整ができず沈没する細工も済ませていた。

 

 彼らの狙いは、今すぐ学区を沈めることではない。オラリオで問題を起こしたときに、必ずここに避難民を集めると読んでいたのだ。避難民を満載したところで沖合に出る学区を海に沈める作戦である。学区の緊急時マニュアルにも、避難民の収容という項目は存在していた。

 

 味方より、敵の方が勤勉である事はよくある事だ。

 

 そして、学区の整備員に紛れ込んでいる闇派閥(イヴィルス)の者たちが、オラリオからの避難民を誘導して学区に導く。彼らの献身的な行動が、まさか闇派閥(イヴィルス)の策略だとは誰も思わないだろう。

 

「皆さん、落ち着いてください。慌てず、乗船してください。乗船しても止まらず、奥へ進んでください。他の方が乗り切れなくなります。皆さんが乗船次第、船は沖合に一時避難します」

 

「あ、あの、私達に何か手伝えることはありますか?私は、ギルドの職員でエイナ・チュールといいます」

 

 闇派閥(イヴィルス)の誘導員は、エイナ・チュールという名前を聞いて懐からメモを取り出す。

 

 【金髪】【エルフ】【長髪】は、白兎(ベル・クラネル)への貢物だから手を出すな。触ると火傷じゃすまない。微妙にこれには該当しなさそうではあった。この程度のなら替えが聞くから無視しようかと思ったが、闇派閥(イヴィルス)内部資料にある白兎(ベル・クラネル)の女性相関図にその名前が存在している事を思い出す。

 

 白兎(ベル・クラネル)の女性相関図……そこに名を連ねる20を超える女性たち。わずか半年で惚れ込まれた女性たちであり、闇派閥(イヴィルス)の度肝を抜いた資料だ。この資料に書かれている女性に手を出すことは固く禁じられている。

 

 間違いがないか、闇派閥(イヴィルス)の者は再度顔を確認する。

 

「失礼ですが、ギルドの職員でエイナ・チュールさんでお間違いないでしょうか? 白兎(ベル・クラネル)様の担当アドバイザーであり、学区には妹のニイナ・チュールさんが在籍しており、現【ヘスティア・ファミリア】。そして、母君はアイナ・リンドールでお間違いないと」

 

「えぇ。妙に私の事に詳しいですよね。その通りですが」

 

 エイナは、妙に自分の事情に詳しい誘導員に疑問を抱く。だが、ギルド内部では有名な話でもあった。だからこそ、今はそれを追及するより、避難民の誘導の手伝いを優先するのだった。

 

「では、我々と一緒に避難民の誘導をお願いします。できるだけ多くの避難民を乗せなければなりません。あなたのご同僚には、学区内で避難民を落ち着かせるようにお声がけをお願いしています。きっと、皆さん不安でしょうから」

 

「わかりました」

 

 エイナ・チュールは、学区への乗船ではなく誘導に加わる。それが、避難民を地獄に突き落とす事になるとは夢にも思わないだろう。

 

 これも運命か。深層で生き残るため、”幸運”を吸い上げ続ける誰かによって、未来の分の幸運まで搾取された学区への避難民。彼らの未来はまもなく、出航した沖合で決定する。

 

………

……

 

 それから1時間もせずに、オラリオからの避難民が全員学区に乗船完了する。これ以上は待てない。港町メレンにも闇派閥(イヴィルス)の手が回ってくるかもしれないからだ。

 

「これ以上は待てません。一度、学区を沖合に避難させます。これ以降に来た避難民は、港に停泊している一般船を使い学区への避難を行います。エイナ様はギルド職員で顔も知られておりますので、ここに残って手伝いをお願いします」

 

「エイナ様? 私はそんな身分でも……いいえ、分かりました」

 

 遠ざかる学区。避難民たちは安堵しただろう。学区と言えば、世界を回りモンスターを討伐して治安を守る要のような場所だ。そこには神もいるし、学区の教師陣もいる。闇派閥(イヴィルス)とて、海に出てしまえば手が出せないと。

 

 そう、その認識は正しい。

 

 だが、海に出る前に既に準備は完了していた。整備員にも闇派閥(イヴィルス)は紛れ込んでおり、学区は今や泥舟も同然だった。

 

 それから20分ほど待ったが、避難民は誰も来なかった。そろそろエイナも避難しようと思った矢先、誘導していた者たちがエイナの前に膝をついて臣下の礼をとる。

 

「え? ええ? どうしたんですか、急に」

 

「我らが盟主ヘスティア様、その主力たる白兎(ベル・クラネル)様のアドバイザーであり、良き理解者であられるならば、臣下の礼をとるは当然です。あなた様方のご活躍があったからこそ、今の我々があるのです。さぁ、今からエイナ様と我々の成果をご覧いただきましょう。どうか、この成果をヘスティア様へ良き報告としてお伝えください」

 

 誘導員が指し示した方向は、沖合に避難した学区。

 

 それが大爆発を起こし炎上する。真っ二つにへし折れた学区が沈んでいく光景が、エイナの脳裏に焼き付けられた。あそこには、彼女の同僚や仲間もいる。オラリオから救い出してきた多くの民間人が乗っているのだ。

 

「そんな……どうして!! 何がどうなっているの」

 

「おっと、失礼いたしました。まだ名乗っておりませんでしたね。我々は闇派閥(イヴィルス)。盟主ヘスティア様に従う者たちです。そして、【タナトス・ファミリア】の生き残りでもあります。さぁ、あなた様を安全な場所にお連れしましょう」

 

 驚きのあまり開いた口が塞がらないエイナ。

 

 ギルド内部でも【ヘスティア・ファミリア】の破天荒な行動は色々と問題視されていた。それこそ、半ば冗談で闇派閥(イヴィルス)ではないかと噂する者たちすらいた。彼女自身も、二分の一くらいの確率でその可能性があるのではないかと内心不安を抱いていた。

 

 先日の戦争遊戯(ウォーゲーム)を見せられれば、誰だってそう思いかねない。だからこそ、エイナは妹であるニイナ・チュールを遠ざけようと努力したのだが、それは無駄に終わっていた。

 

 海に沈む母校であった学区をみたエイナは、呟く。

 

「バルドル様達は……」

 

「学区の神ですね。ご安心ください。万が一にも生き残れないよう、自爆兵を使っております。最初の爆発がそれです……船上で神が送還される光が立ち上っておりますね。作戦は成功です。やはり、策士リリルカ・アーデ様のやり方は大変参考になります」

 

 自爆兵として利用されたのは、闇派閥(イヴィルス)に子供を人質に取られた民間人だ。将来有望そうな【金髪】【長髪】【エルフ】になりそうな女児の両親たちが、自爆兵として使われていたのだ。

 

「ニイナは……」

 

「そちらもご安心ください。我々の賛同者はどこにでもおります。深層で活動できる冒険者もおり、救助部隊に混ざっております。深層に取り残されていた春姫様とニイナ様を救出し、地上に向かっていると連絡を受けております」

 

 エイナ・チュールはギルドの一般職員であり、幹部ではない。だからこそ、今回の救出作戦の詳しい状況は知らされていなかった。闇派閥(イヴィルス)から親切丁寧に説明され、作戦失敗の実体を理解する。

 

 その上。大量殺戮の手伝いをさせられ、その手を真っ赤に染め上げられたエイナ・チュール。

 

 彼女の心は、罪悪感で崩壊してしまった。彼女の心がベル・クラネルから離れていなければ、”幸運”も手加減をしただろう。だが、ニイナ・チュールを遠ざけようとした行動が今の惨状を生んでしまった。

 




これが"幸運"が回収された人たちの末路です。
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