ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
オラリオでは、
一部の魔導士が決死の魔法で突破口をこじ開けたものの、
町の火事は広がり続け、人々の住む場所は焼かれ続けている。
それをただ眺める事しかできないのが、バベルへと避難している神々だった。眷属がいなければ、彼等は下界の子供と変わらぬ無力な存在に過ぎない。力こそが全てという時代を自ら築き上げてきた神々。その不都合なツケが、いま目の前に悲惨な現実として広がっている。
ダンジョンから地上に戻ってくる裏口を除くすべてのルートを、
………
……
…
その頃、【アスクレピオス・ファミリア】の地上にあるホームも
オラリオ全土が焼けているのだから、物資不足になるだろう。
そんな惨状に溜息をつきながら、主神アスクレピオスは”不屈の花園”で院長達の帰りを待っていた。彼等との『恩恵』の繋がりは生きており、無事であることだけは確かだ。このような未曾有の危機に陥ることを察知し、ギルドの救助部隊に強制徴兵される前にオラリオを抜け出し、5人目の院長を迎えに行ったのだろうと神は推測していた。
また一人、癖の強い院長が増えるのかと思うと、神はただ天を仰ぐばかりだった。
地上が落ち着くまでここに引き籠もり過ごそうと腹をくくっていた神の耳に、ダンジョンの裏通用口の方角から無数の足音が響いてきた。不審に思った神アスクレピオスは、警戒しながら通用口に向かって歩を進める。
オラリオの外へ向かったはずの院長達。だからこそ、聞こえるはずのない方角からの足音だ。まさか別の隠し通路でも掘り進めて、ダンジョン遠征にでも行っていたのかと、思わず妙な勘違いをしてしまうほどだった。
やがて姿を現したのは、先頭を行く都市最強の『頂天』オッタル。そして彼に続くように【フレイヤ・ファミリア】の主力勢が並んでいた。本来この裏口は、場所を特定できたとしても解錠方法を知らなければ突破できないよう、重厚なオリハルコン製の扉で封鎖されているはずだった。
「騒がしいね。ここにいるという事は、誰かが教えたのだろう。どうしたいんだい、【フレイヤ・ファミリア】の皆」
「アスクレピオス様。プルシュカにこの裏口を教えてもらった。我々は急ぎ地上へ戻りたい」
単刀直入に意図を述べたオッタルに対し、神アスクレピオスは静かに「ついて来なさい」と頷いた。
ダンジョンから隔離されたこの”不屈の花園”には院長達の危険な研究所が点在しており、不用意に立ち入れば初見殺しの防衛機構が作動する危険地帯でもあった。
ここで見たもの、聞いたものは一切他言無用。武勇を誇る【フレイヤ・ファミリア】の傑物たちがその約束を違えることはないと、神も信頼を置いていた。
「ヘイズ君。君は蘇生魔法を修得する際にここへ来たことがあるね。踏み込んではいけない区域へ立ち入りそうな者がいたら止めてくれ。私一人では後方まで目が届かない」
「分かりました。アスクレピオス様」
通路の脇には、土に植えられ生かされ続ける冒険者達の無残な姿があった。クオンガタリの生息地帯で今なお激痛に悶える者たち。命を落とした冒険者の頭部をボール代わりに弄ぶタマウガチ。湧き水に群がり喉を潤すカッショウガシラ——異様な光景が広がっている。
「誤解しないでほしいのだがね。ここに拘束されているのは、ボンドルド達が保有する研究成果……『賢者の石』などの秘術を探りに来た冒険者や悪質な犯罪者たちだ。彼らの献身的な貢献のおかげで、数々の新薬や画期的な医療技術が確立されたのだからね」
「そんなことはどうでもいい。まだなのか」
主神フレイヤの安全確保のみが絶対の最優先事項であるオッタルにとって、目の前の非道な実験など取るに足らないことだった。ここでの出来事は地上に出れば全て忘れる契約だ。今どれほどおぞましい説明を受けようと、意に留める必要などなかった。
「そうだな。興味のない者に語る話ではなかった。この坂を上がった先にある大扉を開ければ、ファミリアのホーム跡地に出る。まったく、何度もホームを焼き払うのは容赦してほしいものだ。再建の苦労も考えてもらいたい」
「感謝する。アスクレピオス様」
オッタルが感謝を伝える。そして、後ろをついてくる団員に告げる。
「深層からここを出るまでの間の事は、全て忘れろ。フレイヤ様に聞かれても、何も応えず、俺に聞けとだけ答えろ。全ての責は俺が負う。プルシュカが信じて教えてくれた裏口だ。フレイヤ様への敬意も大事だが、此方の無理な願いにこたえた彼女たちの信頼を損なう事は許さん」
団長が団長していると、思わず目元が熱くなり泣いている団員もちらほらいる。
頼もしい団長すぎる。深層の階層主だろうが、モンスターの大軍だろうがオッタルが居れば戦えるという心の支え。現代の英雄はオッタルこそ、相応しいと皆が思うほどだ。
そして、扉を開けた先は、地獄に相応しい光景が広がっていた。
立ち上る焦煙の臭い、焼き焦げる肉の残香。だが、どこを探しても阿鼻叫喚する都市住民の悲鳴は聞こえない。逃げ惑う避難民はこの時、学区と共に海の藻屑となっている。
『白妖の魔杖』ヘディンは、静寂に包まれた周囲の惨状から、敵の主力戦力が中央タワー『バベル』に集中している可能性が高いと瞬時に洞察した。人の気配がないのは避難が完了したか、あるいはバベル内部に押し込められているかのどちらかだ。見上げれば、天高くそびえるバベルの上層から凶凶しい煙が吐き出されていた。
「メルーナ。お前はアスクレピオス様と共にここに潜んでいろ。プルシュカとの約束を果たせ。そして……万が一にも我々の『恩恵』が途絶えた時は、直ちにアスクレピオス様から新たな『恩恵』を賜り、ここから離脱しろ」
「はぁ~……分かったよ。私も同行しよう。君たち万が一のことがあればオラリオは完全に終わりだからね。その代わり、私の護衛はしっかり頼むよ」
隠れてやり過ごすつもりだった神アスクレピオスも、事態の深刻さに腹をくくり同行を決意する。これにより、ヘディンが思案していた最悪の展開への完璧な保険が成立した。主神フレイヤを何としても救い出す覚悟ではあるが、戦場に絶対はない。
万が一主神が送還される事態となれば、即座に新たな神から『恩恵』を授かり、
主神であるフレイヤの不測の事態を仮定すること自体、団員にとっては万死に値する不敬であったが、今の窮地においては誰もが沈黙をもってその覚悟を容認していた。
都市最強派閥【フレイヤ・ファミリア】の怒涛の反撃が、いま始まろうとしていた。
◇◆◇◆
神たちが避難しているウラノスの地下神殿。
本来はダンジョンを封じるための祈りの場として使われるが、緊急時においてここ程堅牢なつくりは他にはないだろう。だが、その入り口を封鎖している場所に幾度となく火炎石を使った爆破が行われ、強引にこじ開けようとされていた。
この神殿へと続く隠し通路を知る者は極めて少ない。集まった神々ですら、初めて足を踏み入れた者が大半だった。この聖域が露見した原因は、直前にここへ全速力で逃げ込んできたギルド豚の失態にあった。彼は
その醜態ゆえに、ロイマンは神々から冷悪な軽蔑の視線を浴びせられていた。
だからといって彼を追放するわけにもいかない。今この瞬間に内側から解錠すれば、押し寄せる
「ねぇウラノス。ギルドなんて組織、本当に必要なのかしら? 無能な首脳陣は速やかに挿げ替えないと、組織から腐敗して崩壊するわよ」
「フレイヤ。ロイマンは、
無能か有能かで言えば有能なのだろう。
だが、そいつのせいで
神フレイヤは時間を確認した。ヘディンと連絡を取ってから、37分が経過している。約束時間まで後3分。それまで、扉が耐えられるか。直ぐに扉が壊れて3分で神たちが全滅させられるか。
「……止まった。最後にティオナが死んでから20分。だれも死んでへんぞ!! フィン達は無事や。もしかして、これはもしかしとるんやないか」
神ロキが眷属たちの死が止まった事を喜ぶ。20分も経過して、誰も死んでいないのならば、深層60階層での激闘が終わった。その判断は正しい。ただし、【ロキ・ファミリア】の代わりに、【アストレア・ファミリア】で5名の死者が出ている。
リュー・リオンの新スキル
それが可能になったのは、
Lv8級のアステリメスとLv5級のウィーネにタッグを組まれ、長時間の攻防を耐えたが、最終的に奪われる貞操なら最初から全てを諦めて捨てていれば、地上の不幸は減っただろう。
守るべき純潔がない事で”幸運”も止まった。これにより、全てが正常に戻る。
もう、
「カウルス・ヒルド!!」
闇派閥が雷撃により消し炭にされた。
防護壁がオッタルの筋肉により粉砕され、籠城していた神達の前に【フレイヤ・ファミリア】の幹部が勢ぞろいする。
「予定より3分早い到着ね。褒めてあげるわオッタル、アレン、ヘディン、ヘグニ………?ヘグニ?何で貴方ここに居るの?」
そのあまりの酷い一言にヘグニは、心をえぐられた。
今の今まで深層60階層で【ロキ・ファミリア】と共闘して”穢れた精霊”を討伐していたと思っていた神フレイヤ。当然、神ロキも何でお前がここにいるねんと、ぼやく。
【ロキ・ファミリア】の遠征に付き添い、死にかけ、戻ってきたところ直ぐに救助部隊に編入され、深層までもぐり、主神のピンチで必死に舞い戻ってきたヘグニに掛ける言葉としてはあまりにも酷だった。
オラリオで一番長い夜 も終わりが見えてきた。
後は、逃げ出したヘスティアとリリルカの処遇です。
それと、ダンジョンに取り残された者達への対応か。
あれ?意外とながくなるかも。