ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
【ロキ・ファミリア】の遠征部隊……彼等は深層で多大な犠牲を払い”穢れた精霊”を滅ぼした。フィン達は、『タリアの氷園』に落ちた後、必死に仲間を探し合流した。【ロキ・ファミリア】以外で犠牲となったのはヒーラー役のアミッド。そして、死体すら見つからないヘグニ、謎の変死を遂げたレオンの3名だけだ。
蘇生魔法がある限りアミッドは何とかなる。だが、死体すら見つからないヘグニは、【フレイヤ・ファミリア】に何と詫びればいいのだろうとフィンを含めた幹部たちは悩んでいた。だが、今は身体を休めるのが先決だ。
遠征部隊は、満身創痍の身体を引きずりながら50階層の
そこにあるのは数日前に宿泊した宿。無人販売所には、食料や救援物資が沢山置かれており、この時ほど彼らがこれがありがたいと思った事は無いだろう。しかも、地上の緊急連絡用の
「これは、どんなお礼をすればいいんだろうか。全員、ここで休め。重傷者を優先しろ。無人販売所にある救援物資とポーションはありがたく使わせてもらう。リヴェリア、悪いがギルドに救援要請を頼めるか」
「分かった。それと……彼女には、誰か付いてやってくれ。精神状態が危険だ」
”穢れた精霊”討伐の最大の功労者――リュー・リオン。彼女のスキルが無ければ、”穢れた精霊”を消し飛ばす事は出来なかっただろう。代わりに犠牲となった【アストレア・ファミリア】の5人の命。
目が虚ろで光を感じられない。かき集めた仲間の遺体を背負い涙を流していた。
しかし、【ロキ・ファミリア】……主力部隊が知らない秘密が実はあった。59階層で待機していた者達は、フィン達が死闘の末に倒した”穢れた精霊”が本当は”穢れた精霊”モドキであり、ちょっと前にダンジョンが産み落としたモンスターだという事。
それをどのタイミングで伝えればいいのか、誰もが困っている。
実は、オッタルと【アスクレピオス・ファミリア】が共同で”穢れた精霊”を倒して、62階層にまで踏み込んだ。そして、帰り際に偶然発見したヘグニを連れて既に地上に帰っているなど。
今これを伝えれば、間違いなく士気が崩壊して地上に帰るどころではなくなる。片腕を失ったレフィーヤもこれについては同意していた。伝えるタイミングを誤ると帰りに事故ると。待機組だったメンバーに謎の連帯感が生まれる。
遠征部隊が被害状況を纏めつつ、治療や食事、寝床の準備をする最中、地上に連絡を入れているリヴェリアの顔色が真っ青になっていく。何度も連絡先を繰り返し押している。ギルド直通連絡、豊穣の女主人の予約連絡、【アスクレピオス・ファミリア】のお客様窓口。
リヴェリアがガレスとフィンだけを連れて、今後の方針を検討する為、宿の個室で会議を始める。リヴェリアの只ならぬ雰囲気に、最悪な状況を抜け出したが最悪が終わっていない可能性があると正直に話した。
「なるほど。ロキが僕たちの状況を直前まで見ていて、救助がない理由はそれかもしれない。おそらく、地上でも大惨事がおきている……【フレイヤ・ファミリア】がいても、対処しきれなかったほどの何かが」
「だが、儂らの『恩恵』は消えとらん。ロキが無事なのはまちがいない。動ける者だけ連れてでも地上に早急に戻るべきか。全員で戻るべきか、ココで救助を待つか。物資の余剰から考えて何日持つ?」
「……切り詰めても三日が限界だ。既に滞在時間を大幅に超過している。
深層50階層に置いて行かれるなど、残された団員に死ねと言っているのと同じ。戻ってくるだろうが、それまでここで生きて待っていろなど、伝えられるはずもない。特に、今回は主力以外のメンバーにも無理をさせた。片手を失ったレフィーヤや失明したアリシアと言ったように無事な者を探す方が難しい。
そこまでの重傷となるとアミッドかヘイズくらいしか治せないレベルの大怪我だ。
「それとレオンの死因が分かった。持ち帰る死体を調べて分かったが……恩恵が封印状態だった。学区に居るはずのバルドル様は、恐らく送還されている」
「……学区に居るバルドル様が送還。ギルド、豊穣の女主人、【アスクレピオス・ファミリア】にも連絡が付かない。救援部隊もこない。満身創痍の身体を引きずってでも、早急に地上に帰る必要がありそうだ。ここから三日で地上に帰る。その為にも、今日はここで全員休ませる」
「儂は51階層からの出入口を見張っておく」
フィンは、口にしなかったが……ギルドに連絡が通じないこの状況。蘇生魔法持ちのフェルズが神ウラノスの懐刀であり、生きている保証がない。同じく、【フレイヤ・ファミリア】が地上に居て、連絡がつかない事もあり同じく蘇生持ちのヘイズの安否も分からない。万が一を考える必要があるとはいえなかった。
………
……
…
【ロキ・ファミリア】の決死の帰還。彼等は、道中で普段見ないレベルの死体の山が転がっている事に気が付く。こんな状況でなければ、死体を回収してギルドに渡すのだが、今の彼等にそんな余力はない。
次に来る頃には、モンスターに死体まで食われて何も残っていない。特に、下層や中層に差し掛かってからがそれが顕著になる。誰も助けが来なかったわけではない。【ロキ・ファミリア】をオラリオ全軍で助けに来た途中でトラブルが発生した。
これがトラブルの結果だ。
「学区の生徒……考えたくはなかったが、我々の救助作戦は行われていたとみて間違いない。何かしらの要因で中断され、こうなったとみるべきか。僕たちにできる事は、生きて地上に帰る事だ。それ以外に、何もない」
フィンの言葉に、今まで地上は我々を見捨てたと言っていた団員達も息を飲んだ。
中層の
だが、普段とは違いそこは静けさしかなかった。あらゆる物資は捨て置かれ、人の気配がしない。遠征部隊はつかえる物を拾い集め、地上を目指した。ここまでくればどれだけ負傷しても遠征部隊がモンスターの対処に困る事などなかった。
だが、道を埋め尽くすほどの死体の山が彼等の心を消耗させる。
【ロキ・ファミリア】の遠征部隊がダンジョンの入口にある焼け焦げた死体の山を乗り越えて、遂に地上まで辿り着いた。そこに広がる光景に、彼等は別世界に来たのではないかと思うほどだ。
焼き尽くされたオラリオの街。焦げたにおいが充満しており、そこまで時間が経過していないのがよくわかる。そして、バベルの前に尽くされ、串刺しにされる冒険者の無数の死体。
それに集まり石を投げつける冒険者が無数にいた。
蛮族が納める国だってもう少し倫理観がある光景だ。その石を投げつける中に、彼等の主神であるロキも混ざっていた。
「腐れ外道の
「ロキ!!」
神ロキは、聞き覚えのある声…その方向を見て目元から留めなく漏れ出す涙を堪えられなかった。転びながらも走り寄り、遠征部隊に抱きつき恥も外聞もなく大泣きして彼等の帰還を称えた。
「よーー、帰ってきた。よく、帰ってきてくれた。ウチは、もうそれだけでええ」
「それより、これはどういうことだロキ。ここは、本当にオラリオなのか」
焼け落ちた街並み、磔にされている
「パパ!! 消毒薬が足りてないよ。もう、縫合用の針も糸も」
「針はタッカーさんたちに要望を出しておいてください。縫合用の糸は、ラーニェさんに糸の量産を頑張ってもらうように依頼を。消毒はお酒で代替えします」
野戦病院では、【アスクレピオス・ファミリア】の院長達が大忙しで救命活動を行っていた。その片割れで、
「フィン。遠征で疲れているからって、ここがオラリオじゃなかったらどこだっちゅーねん。それより、レフィーヤ達もかなりの重傷や。ヘイズもおるからこっちで色々状況説明したるわ」
【フレイヤ・ファミリア】の主力が地上に戻ってきてから二日目の朝。【ロキ・ファミリア】の遠征部隊は自力で帰ってきた。そして、この壮絶な数日間の話をロキの口から聞かされたフィン達は、自分達はあれでも恵まれた状況だったのではないかと錯覚するほどだ。
だが、未だに逃亡を続けている者がいる。
神ヘスティアとそのファミリアの眷属だ。彼らの行方が未だにつかめていない。彼等を追うより、今はオラリオの安定させる方が優先だった。
オラリオで一番長い夜・・・これで何とかなった。
次はどうしようか。メインディッシュのヘスティアFは残しておく。
前菜として、リューさんの話 か "穢れた精霊"のネタ話か…。