ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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81:初恋は実らない

 遠い地より救援物資を持ってオラリオを訪れた【アストレア・ファミリア】。

 

 そこは、つい先日まで滞在していたオラリオとは別世界が広がっていた。バベルが無ければ、ここがオラリオだとは誰も思わないだろう。かつての綺麗で静謐(せいひつ)だった街並みは見る影もなく焼け落ち、広範囲にわたって廃墟と化している。

 

 海の方角を見れば、海上には大きな船――学区が真っ二つに折れて沈んでいた。

 

 避難民の大部分が海上の船へと避難しているおかげで、オラリオの悲惨な状況が周辺諸国に漏れていないのは、不幸中の幸いと言えるかもしれない。もし弱みを見せれば、ダンジョンを奪って資源確保を目指す大国が我先にと押し寄せてくるのは明白だった。「災害救助」という名目を掲げて。

 

「これは、酷いわね。見る影もないわ」

 

「アストレア様、バベルの広間に人だかりが見えます。とりあえず、そちらに向かいます」

 オラリオの惨状は、彼女たちが想像していたよりも数倍悪かった。あちこちに焼死体が放置されており、人手が全く足りていない証拠である。今のオラリオにおいて、外部からやってきたファミリアなど、生き残った街の者たちが警戒しないわけがなかった。

 

 何処に闇派閥(イヴィルス)が紛れ込んでいるか分からない。

 

 疑心暗鬼が渦巻くオラリオに、小ぎれいな服装をした女性ばかりのファミリアが現れれば、それだけで格好の警戒対象となる。この荒れ果てたオラリオで一旗揚げるにしても、時期が悪すぎたと言わざるを得ない。

 周囲を取り囲むのは、第二級冒険者たち。下手に動けば、即座に戦闘へと発展しかねない緊迫した空気の中、神アストレアは自分たちが救援に訪れたことを示すため、一歩前へ出た。

 

「私は、女神アストレア。剣製都市から救援に来た者です。そこを通していただけませんか」

 

「……アストレアつったら、【フレイヤ・ファミリア】のところに支部があるあれじゃねぇか。【ロキ・ファミリア】の遠征で壊滅したはずの」

 

「だが、この状況でバベルに近づけるのはまずいだろうよ。俺たちの判断じゃどうしようもねぇ。上に掛け合うしかないぜ」

 

 遥か遠い場所から救援に駆けつけてこの扱いでは、新生【アストレア・ファミリア】の面々としても気分が良いはずがない。物資だってタダではないのだ。今のオラリオで絶対必要になるであろう品々を、無理をしてかき集めて持ってきたというのに。

 

 あまりの無礼な対応に、二代目【アストレア・ファミリア】団長セシル・ブラックリーザが「少し分からせてやろうか」と前に出ようとする。だが、彼女のレベルはLv.2(レベルツー)だ。地方都市では負け知らずかもしれないが、オラリオで先日の大事件を生き残った歴戦の冒険者たちを甘く見ると、ただでは済まない。

「おやおや、新生【アストレア・ファミリア】の皆さんではありませんか。遠路はるばる、どういったご用件でしょうか。皆さんは引き続き、警備と要救助者の捜索をお願いします。彼女たちは私の方で対応しましょう」

 

 落ち着いた声音で割って入ったのは、ボンドルドだった。

 

「ボンドルド院長先生がそうおっしゃるのでしたら……」

 

 医療系ファミリアというものは、こうした大災害時には圧倒的な強みを持つ。現場の生命線を握っている彼らの言葉は、この状況下では絶大な効力を持っていた。

 

「うわ、出たな……見た目、闇派閥(イヴィルス)!」

 

「皆さん、いけません!」

 

 セシル・ブラックリーザは今のオラリオにおける最大級の「危険ワード」をうっかり口走ってしまう。この場に、闇派閥(イヴィルス)のせいで家族や大切な人を失った者がどれほどいることか。彼女がそれを知るはずもなかったにせよ、迂闊な発言だ。

 

 ここ数日、一睡もせず冒険者や住民の救助にあたり、食事を提供し続けていたボンドルドたちを「闇派閥(イヴィルス)」呼ばわりした部外者。

 

 ボンドルドの制止の掛け声があとわずかでも遅ければ、この場の巡回警備にあたっていた者たちが、新生【アストレア・ファミリア】をその手にかけるところだった。セシルの喉元にはすでに鋭い短剣が突きつけられ、ほんの少し引くだけで頸動脈が断ち切られる位置にあった。他にも短文詠唱で魔法の発動を完了させている者もおり、持ち込んだ物資ごと彼女たちや神アストレアを跡形もなく消し飛ばす寸前だったのだ。

 

「オラリオの状況を把握できておらず、眷属が大変な無礼を働きましたこと、深くお詫び申し上げます」

 

「言動には、十分に注意してください。今のオラリオは、以前とは比べ物にならないほどピリピリしています。……まぁ、今回は不問に処しましょう。彼女たちは私の客人です。ここはあなた方のホームであった都市ではなく、オラリオなのです。礼節を重んじなければ、手痛い洗礼を受けることになりますよ。次は、助けません」

 

 ボンドルドは、彼らが物資を持ってきてくれたことだけは評価し、新生【アストレア・ファミリア】の面々にオラリオの現状を説明する。もっとも、ボンドルドたちも事件の最初からこの街にいたわけではない。闇派閥(イヴィルス)の幹部たちが処罰されたあたりで、『竜の谷』に置いてきてしまった固有戦力や異端児(ゼノス)たちを連れて再びオラリオの地に戻ってきたのだった。

 

 その時には、既に全てが焼け野原となっており、彼らは不眠不休で救助活動に当たっている。そんな彼らが、オラリオ全軍を使った大規模な救助作戦に参加していなかったなどとは、誰も想像すらしていなかった。

 

 

 オラリオの野戦病院では、自称テイムモンスターである異端児(ゼノス)たちが懸命に救護活動や食事の準備を行っていた。彼らが人語を話すことについて、ボンドルドは「都市最高のテイマーであるメルーナ・スレアのスキルによるものです」と周囲に念を押して納得させている。オラリオのために働く異端児(ゼノス)を攻撃しようものなら、容赦なく返り討ちにされるだろう。彼等は、『竜の谷』にて溢れ出たモンスターの魔石を食べまくり、かなり強くなっている。

 

 そしてボンドルドは、神アストレアが最も気に掛けていたリュー・リオンの情報も伝えた。彼女の奮闘によって【ロキ・ファミリア】が九死に一生を得たこと。その代償として、仲間を再びその手で撃ち滅ぼしてしまったこと。深層から持ち帰ってきた仲間たちの亡骸が蘇生できなかったことで、彼女の心は今や崩壊寸前のガラス細工のようになっているという事実を。

 

「蘇生魔法に制限が存在するのですか?」

 

「蘇生魔法とは、奇跡に等しいものです。まだ未知の部分も多いのでしょう。私も詳しくは存じ上げません。リュー・リオンさんから詳しい話を伺ってください」

 

 現在、確認されている蘇生魔法2つ。しかし、それらは決して万能ではなく、決定的な違いが存在した。

 

「具体的には、どういうことですか?」

 

「私は、蘇生魔法(・・)なんて奇跡は使えないので存じ上げません。先ほどから言っているように、ご自身でご確認いただくのがよろしいかと。物資を持ってきてくれた対価として、彼女がいるバベルの部屋までご案内しましょう」

 

 アストレアの直感では、ボンドルドは蘇生魔法が使えると思っており、会話の中で探りを入れていた。だが、神だからこそ分かってしまう……真偽が分からない。それどころか、彼が人間かも怪しいと。少なくとも5年前を知っているアストレアは、人間時代のボンドルドを知っている。中身が入れ替わっている可能性も考え始めた。

 

 他の院長たちもいるのに、中身の入れ替わりに気が付かないなどありえない。ならば、どういうことなのかと頭を悩ませる。神ですら、ボンドルドの正体に辿り着ける者は居ないだろう。

 

「感謝します。あと、フレイヤに会うにはどうしたらよいのですか? オラリオに居た眷属たちが壊滅してしまったのですから、お話を伺う権利くらいはあると思うのです」

 

「話を聞く権利はありません。少し事情が複雑なのですが、そもそもリュー・リオンさん以外、【ロキ・ファミリア】の遠征に参加はしていません。また、アリーゼさんたちは遠征失敗の彼等を救う救助作戦にも不参加です」

 

 アストレアもこの展開は想定していなかった。

 

 そもそも、アリーゼたちは、ボンドルドたちの深層への無人販売所への商品補充と【ロキ・ファミリア】の遠征応援に付き合っただけだ。それなのに、52階層まで一緒に行動して切磋琢磨した全員Lv.1(レベルワン)の【アスクレピオス・ファミリア】メンバーを見捨てた。彼女たちは、本来遠征部隊の仕事であるリュー・リオンの窮地を救うため、58階層への決死のダイブを行ったのだ。

 

「こういうのは失礼ですが……アリーゼもそこまで馬鹿ではありません。死人に口なしだからといって、話を盛っていませんか? 【ロキ・ファミリア】の遠征部隊には、Lv.7(レベルセブン)が5人、Lv.6(レベルシックス)も何人かいたのでしょう? なぜ、彼女たちが動かないといけないのです」

 

「それは、私達のセリフです。確かに、アストレア様が仰る通り、これは被害者である我々の見解にすぎません。時間はあるでしょうから、【ロキ・ファミリア】の遠征部隊の方たちにご確認ください。彼らを救った功労者である主神ならば無下にはされません」

 

 バベルの内部にいる者たちは少なく、普段働いているギルド職員はほぼいなかった。彼らは、学区と共に大半が海に沈み、残った人たちも闇派閥(イヴィルス)に殺されたり、焼け死んでいる。事実上機能不全となったギルドだ。

 

 そして、今、あらゆる業務を死ぬ気で回しているのが、ギルドの豚ロイマンと学区生徒の生き残りだ。

 

 闇派閥(イヴィルス)の一件後、ギルドの豚の所業が明らかになった。ヘディンの尋問により、彼の背後関係に闇派閥(イヴィルス)はない事だけは分かっていた。だが、命惜しさに神々を危険にさらした事や避難民を餌に使った事が露呈。今すぐにでも闇派閥(イヴィルス)同様に磔にしろと、生き残った者たちからは強い要望がある。

 

 しかし、ギルドという巨大組織を纏めていた長の知識は確かに重宝できる。だから、延命措置が取られた。ロイマンの知識や業務内容を学区の生き残りの生徒に引き継ぐという事だ。引継ぎが終わるまでは刑執行を延期……一か月で引継ぎが終われば、無期懲役という生き残る餌も用意されていた。

 

 生き残った学区生徒としては、一秒でも早くロイマンを殺したい為、必死に知識や業務内容を覚える。ロイマンも死にたくないから、出来るだけ知識を絞り出して、時間を稼ぐ。毎日、神による真偽確認が入り、偽情報や手抜きなどすれば即座に刑執行が待っていた。

 

「とても、文明的とは呼べない状況です。僅か数日でここまでオラリオは変わるものなのですね」

 

「それには共感します。医師として、あまり褒められた発言ではありませんが恨みや憎しみが生きる原動力になる部分はあります。彼等が、今も絶望に陥らないのはそういった感情があるからです。生きる原動力は、夢や希望といった正の感情だけではないという事です」

 

 ボンドルドたちは、バベルの一室に着いた。この先の部屋では、絶望で目が曇り切ったリュー・リオンがいる。神アストレアがどこまで彼女の力になれるかは分からないが、ボンドルドの仕事はここで終わりだ。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 三度目。リュー・リオンは、その手で三度もアリーゼたちを撃ち滅ぼしてしまった。

 

 1度目は、5年前にジャガーノートとの戦闘でやむを得なかった。

 

 2度目は、戦争遊戯で【フレイヤ・ファミリア】の幹部を倒すため、やむを得なかったかもしれない。

 

 3度目は、60階層で”穢れた精霊”を倒すため、やむを得なかった。

 

 仲間を何度も撃ち殺した事で芽生えたスキル正義連鎖(アストラエ・カタストロフ)を知った時、リュー・リオンの中では、ピンチになれば仲間を犠牲にして敵を滅ぼせばいいと思っている自分がどこかにいるのではないかと苛まれ始めていた。

 

 リューは、深層から戻ってくるまでの記憶があいまいだった。背中に背負っている仲間の死体だけが彼女を現実に押し戻している。彼女たちは、蘇生を信じてその身を犠牲になってくれた。

 

 だが、告げられた言葉は彼女が望むものではなかった。神フレイヤ……否、リュー・リオンの親友としてシルが告げたのだった。

 

「リュー。人はね……本来、何度も死ねないの。死んだら輪廻転生の流れに乗るのよ。それを無視して下界に再度呼び寄せるのが蘇生魔法。私も知らなかったわ。蘇生魔法にもいくつか種類があるの。例えば、数百年に一度レベルでしか成功しないけれど、肉片一つでも残っていれば何度も蘇生できるフェルズ式蘇生魔法。『白兎』ベル(・・)さんの“幸運”を併用することで確率の壁を突破できるみたいなのは、初めて知ったけれどね」

 

「待ってください、シル。この間、アリーゼ達を蘇生してくれた時はそんな事を言っていなかったじゃないですか」

 

 蘇生魔法は、誰もが夢見る魔法ではない。

 

「いくら親友のリューでも、蘇生魔法の秘密を全部は教えないよ。でも、納得できないと思って特別に教えてあげるの。ヘイズ式蘇生魔法は、1度だけ確実に蘇生させられる。でも二度目は絶対にない。だから、誰にどんなに頼まれても、私は二度目の蘇生は断ることにしているのよ。一度だけ確実に蘇生できるだけでも奇跡なの。言い方は悪いけれど、一度拾った命を捨てたのは彼女たちよ。あと、この情報はファミリアの幹部しか知らない情報なんだからね」

 

「お願いです、シル。ダメもとでも構いませんので彼女たちに蘇生魔法を…お願いします。もうシルしか頼れない。私は、アリーゼ達の人生を何度も奪ってしまった。謝れていない。彼女たちの人生を奪ってまで私は生きていたくないのです」

 

 

 蘇生魔法とは奇跡の産物だ。それをお手軽に何度も蘇生できると思う方が間違っている。リュー・リオンもその事を言われて納得した。神にすら奇跡と言われる所業だ。都合の良い魔法であるはずがなかったのである。

 

 

 リュー・リオンの後ろに並べられた綺麗に復元された5つの死体。藁にも縋る思いのリュー・リオンは、床に頭を擦り付けて懇願し続けた。奇跡が起こって、蘇生されるかもしれないと。

 

「……わかったわ、リュー。それであなたの気が済むのなら。ヘイズ、お願い」

 

「分かりました、フレイヤ様」

 

 異例の二度目の蘇生魔法が行使された。だが、アリーゼたちが再び動き出すことはなかった。分かっていた、理解していた……そう思っていたリュー・リオンの視界は真っ暗になり、そのまま倒れ込んでしまった。

 

………

……

…

 

 全ての希望が潰えてしまったリュー・リオンは、部屋の片隅で膝を抱えてうずくまっていた。部屋がノックされ誰かが入室してきたが、彼女は顔すら上げなかった。もう、全てがどうでもよくなっていた。

 

「リオン。横に座るわね」

 

「……あ、アストレア様?」

 

 遠い地にいるはずの神アストレアがいる。それは夢だと、リュー・リオンは思った。いるはずのない幻想が見えてしまう。自分ではどうすればいいか分からない彼女は、全てを神アストレアにぶつけた。

 

 アリーゼたちをこの手に再び掛けてしまった事。

 アリーゼたちが蘇生できない事。

 

 奇跡は何度も起きるものではない、一度きりでも十分奇跡だったと。

 

「えぇ、よく頑張ったわ、リオン。だから、少し休みなさい。あなたが眠るまで傍にいてあげるから。起きたら、アリーゼたちがどれだけ頑張ってあなたに命を繋いだか教えて頂戴」

 

「アストレア様」

 

 母のような温もりを感じながら緊張の糸が切れたリュー・リオンは、そのまま眠りにつく。彼女が目覚めた時、手を握ったままのアストレアがベッドの横で寝ているのを見て、彼女は本物のアストレアと話していたのだと理解した。

 

 身だしなみを整えたリュー・リオンが部屋を出る。そこには、豊穣の女主人の制服に身を包んだ親友のシルがいた。

 

「着いてきて、リュー」

 

「えぇ……なぜ、制服を?」

 

 特別な朝食をシルが用意したと言うことで彼女につられて個室に入った。そこには、見知った顔が朝食を前に早く席に座れと言わんばかりの様子で待っていた。

 

「あら、遅かったじゃないリオン。なに、その魚の死んだような目をして」

 

「失礼な目で見はりますな。まるで死人が生き返ったとでもいうような。この通り足もあります」

 

「いや~、今回も盛大に死んだな。いい加減、ジャイアントキリング止めようぜ。その度に、新しい服を用意するの大変なんだぜ」

 

「本当にね。新調した装備全部なくなっちゃったよ」

 

「いい加減、死ぬことで強くなるスキルとか芽生えそうだよ」

 

 アリーゼ、輝夜、ライラ、リャーナ、セルティ。昨日まで冷たい死体だった仲間が、今元気に朝食のテーブルを囲んでいる。

 

 そこに加わるリュー・リオンと神アストレア。

 

 扉を閉めるシルが一言だけ親友に伝える。

 

「今回だけだからね、リュー。じゃあ、ごゆっくり」

 

「シル、貴方は私の最高の親友だ」

 

 【アストレア・ファミリア】の朝食会場から少し離れた場所にいるボンドルド。彼が、シルの姿をした神フレイヤに話しかけた。

 

「貴方らしくありませんね。一文の得にもならないでしょうに」

 

「そうね。全く、その通りです。あ~あ、伴侶より親友を選ぶなんて思ってもみなかったです。リューが元気になったから、これでよかったのよ。神の終わりなき命……また、伴侶探しをします。約束通り、もう白兎(ベル)さんに執着しません。諦めました。次の恋を探します」

 

 神フレイヤは、ボンドルドに取引を持ち掛けた。

 

 神フレイヤは、ボンドルドが何かしらの手段で蘇生魔法が使える事を知っている。戦争遊戯であれだけ派手に【フレイヤ・ファミリア】のメンバーを蘇生していたのだから。それゆえに、死んだ5人の【アストレア・ファミリア】のメンバーを蘇らせて欲しいと頼んだのだった。代わりに、白兎(ベル・クラネル)は諦めるという条件で。

 

 そもそも、この状況になっても白兎(ベル・クラネル)を手に入れることは難しいだろう。これが交換条件かはさておき、神フレイヤとしては彼を諦めるためのきっかけが欲しかった。そういう事だ。

 

 この条件で本当に一文の得にもならないのは、ボンドルドの方だ。

 

「初恋は、実らない。プルシュカが言った通りになりましたね。貴方も酷い神だ。夜遅くに訪ねてきて、”困っています助けてください”とプルシュカに言うのですから」

 

「”初恋は、実らない”か。その鉄仮面で言うの止めてもらえます? なんか、納得できなくなるんですよね。それと今は、神じゃありませ~ん。ただの町娘のシルです。だから、困っているヒトなので助けて貰っただけで~す。……後、本当にいいの? ヘイズを超える蘇生魔法があるなら、オラリオで揺るがない地位になるわよ」

 

 今までの恩もあるので神フレイヤは、ボンドルド達が頂点を目指したいというのならば、支えてもいいかと思う程ではあった。そして、あわよくばプルシュカとニーナを【フレイヤ・ファミリア】の幹部に正式着任させたいと。

 

「興味がありません。我々は、あなた方神々と同じく未知を求める求道者です。……まだ、最後の大詰めは残っています。諦めたからには、妨害ではなく皆と協力してくださいね。もう、【ヘスティア・ファミリア】は終わりです」

 

「分かってます。この大惨事が終わったら、オラリオの勢力図も一変しますね。本当に三大クエストどうしましょうか。大多数の冒険者は、ヘイズの蘇生も次は使えません。だから、本当に厳しい戦いになります」

 

「……戦いになれば十分です。嘗て、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が共同で討伐に向かっても手も足も出なかった。他の三大クエストのモンスターとは、桁が違います」

 

 黒竜問題。それが地上から消えているなど、誰も知らない。1年もしないで黒竜は、太陽に沈む。

 

「ねぇ、ボンドルドさん。私ね、目標があったら頑張れると思うの……もし、プルシュカが大人になって男の子を産んだら」

 

 神フレイヤには、最近急成長した伴侶にふさわしい団長がいるとボンドルドは言いたかった。彼の頑張りをもっと見てやって欲しい。

 

「駄目です」

 

「まだ、最後まで言ってないですけど」

 

 女の恋愛事情の切り替わりの早さは恐ろしいとボンドルドは思い、その場を後にする。美の女神フレイヤが真実の愛を手に入れる日が来るかは、誰にもわからない。

 

 男はファイル保存、女は上書き保存。その言葉は女神にも通じる。

 




ちょっと長くなってしまいました。

さて、次は、ロキ・ファミリア側も少しと思っています。
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