ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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85:ヘスティア・ファミリア4

 復興の目途が見えないオラリオ。

 

 【ヘスティア・ファミリア】討伐部隊の出陣の裏で動く神ヘルメス。彼は、白兎(ベル・クラネル)を英雄に仕立て上げようとした戦犯の一人だ。その結果、多数の冒険者を失ったが、彼こそが『黒竜』を討伐できると僅かながら信じている。

 

 そして、自分に彼を託してくれた神ゼウスへの連絡を試みようとしていた。定期連絡は常に行っており、最後に連絡したのは【ロキ・ファミリア】の遠征時。その時点での報告は、ニイナ・チュールの脳を焼き尽くし、【ヘスティア・ファミリア】に改宗させた所までだ。

 

 その後は怒涛の展開で連絡する機会もなく、ようやく手が空いたのが今だった。現在オラリオにおいて【ヘスティア・ファミリア】は危機的状況であり、ベル・クラネルは行方不明。この絶望的な状況を伝え、外部からの支援を頼るしかない。オラリオ外に潜伏している神ゼウスと神ヘラ……彼らの眷属の大部分は黒竜討伐失敗で死亡した。強者は失われたが、僅かに生き残った眷属と共に再起し、ベル・クラネルを救出してほしいと。

 

 その手紙のやり取りには、人を介さない古典的な方法が用いられていた。鷲を使った通信だ。誰かの手に渡れば中身を盗み見られ、神ゼウスの居場所が露見してしまう恐れがあるからだ。

 

 ヘルメスが鷲に手紙を託し、大空へ放とうとしたその時――。

 

「頼んだぞ。オラリオの状況は、最悪だ。ゼウスやヘラの力が今のオラリオにどのくらい通じるかは分からない。だが、ダンジョンにいる英雄を助けに行けるだけの戦力はあるはずだ」

 

「なんや、ヘルメス。こんな場所で誰かに手紙を送ろうなんて。姿を隠してオラリオの外に出たかと思うたら、つまらない事やな。今のウチは、優しくないで。ヘルメスが、言葉巧みにごまかす事は分かっとる。だから、どんな手段を使ってでも全部吐かせるで」

 

 胡散臭い神ヘルメス。彼の動向は当然警戒されていた。神フレイヤが「ヘルメスは絶対に何かを企んでいる」と事前に警告していたことも大きかった。既に神フレイヤがベル・クラネルを見限っている以上、敵対する可能性のある勢力は徹底的に潰される運命にあった。

 

 言い逃れが出来ない尻尾が出るまで泳がされていた。

 

「僕としたことが、油断していたつもりはなかったんだけどね。弁明の余地はあるかい?」

 

「あると思うとるんか。ドちびと縁があった神は全員監視対象にしとる。ミアハは白。ヘファイストスはグレー。ヘルメスは黒や。とりあえず、これから【ヘルメス・ファミリア】の眷属を全員拘束するさかい、覚悟しとき」

 

 ヘルメスの逃亡は不可能だった。神ロキがこの場に連れてきているのは、ラウル・ノールドとアナキティ・オータムら第一級冒険者だ。他のメンバーは、オラリオ内にいる【ヘルメス・ファミリア】の眷属たちを既に捕縛していた。要注意人物である『万能者』アスフィであっても、『剣姫』アイズの相手ではない。

 

 芋づる式に、神ヘスティアを救おうとする内部勢力が排除されていく。これはオラリオにおいて、フィンとヘディンが手を取り合って立案した作戦だった。内部に潜むゴミを炙り出すため、あえてオラリオの警備を緩める。そのタイミングで動く神は紛れもなく黒だと判断されたのだ。

 

………

……

…

 

 神ヘルメスとその眷属たちは、全員縄で厳重に縛られていた。眷属たちは口枷を嵌められ、麻袋を頭から被せられて何も見えない。声も発せられない。ただ、周囲の会話だけが聞き取れる状態だった。

 

 神会(デナトゥス)が開かれる会場にて、裁判が開始された。

 

 集まった神々は、神ヘルメスまで裏で関わっていたのかと疑心暗鬼に陥っていた。神ヘスティアと親交のあった神々が、次々と危険分子として認識されていく。実際、神イケロスなどの実例があるから否定しにくい。

 

 神ロキが、押収したヘルメスの手紙を一言一句違わずに読み上げた。そこに記されていたのは、各地に散り散りとなり一般人に紛れて生活している【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の生き残り集め、オラリオを救ってほしいという懇願だった。最後の希望であるゼウスの孫、ベル・クラネルはダンジョンの深層でまだ生きている、と。

 

 ゼウスの孫……その言葉に反応する神がいる。

 

「待て!! ゼウスの孫だと!? ベル・クラネルはあそこの眷属の子供なのか!? 5年前の事件……アイツ、完全に闇派閥(イヴィルス)じゃないか!」

 

「ヘラまで生きているのか!? 確か、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】……思い出してきたぞ。十数年前だ。『静寂』の妹に手を出したゼウスのところの自殺志願者がいただろう!」

 

 風化しかけていた当時の記憶。大戦争の一歩手前まで発展した大事件。『静寂』アルフィアの妹を傷物にした人物――それこそが、ベル・クラネルの父親だった。神々のゴシップ好きの本領が発揮される。暇を持て余し、未知の混乱を歓喜していた時代の記憶だ。

 

 神ロキもベル・クラネルの出自までは調べ切れていなかったが、まさか裁判の場で一気に露見するとは思ってもみなかった。案外、他の神々の噂網も頼りになるものだと実感する。

 

「ゼウスとヘラのところの子供がベル・クラネルか。なるほどな……つまり、ウチとフレイヤに追放されたことに対する刺客みたいなもんか。確かに、恐ろしいほどダメージを負わされたで。5年前といい今回といい……オラリオが事実上2回も滅びかけた。これにはフレイヤも驚きやったやろ?」

 

「別に。ベル・クラネルの出自は、大分前から知っていたわ。分かったうえで、彼を欲していた……それほどまでに彼の心は美しかったのよ。私の好みをドンピシャで当ててきたともいえるけど」

 

 白々しく知らなかったと言えば済む話だったが、神フレイヤはそんな姑息な真似はしなかった。

 

 それからは、神ヘルメスの尋問に移った。

 

 神ヘルメスが神ヘスティアと共にダンジョンに入り、迷宮の楽園(アンダー・リゾート)で黒いゴライアスの出現に関与していたこと。

 

 神ヘルメスがベル・クラネルを歓楽街に連れ出し、【イシュタル・ファミリア】の壊滅に関わっていたこと。

 

 神ヘルメスが地上に這い出した異端児(ゼノス)の事件に関与していた事。

 

 神ヘルメスがベル・クラネルと共に学区に潜入し、工作活動に関わったこと。

 

「なぁ、ヘルメス。ウチだけじゃなくて、この場の全員の総意やと思うんやが……お前さん、この神会によく顔を出せてたな。お前の席は、ここにはないで」

 

「私もベルを手に入れるため、多少の手を出したつもりだったけれど。あなたの仕業に比べれば可愛く見えるレベルね……今だから言うけれど、怪物祭(モンスターフィリア)の時にちょっかいを出したのは私よ。ごめんなさいね」

 

 神ヘルメスの罪が重すぎて、神フレイヤのやった事が非常に軽く見えてしまう。平時ならば問題だろうが、今この場で言われてしまえば、神フレイヤを責める者などいない。本当に規模的にも被害的にも可愛く見える。

 

 このままでは間違いなく天界へ送還され、眷属たちも凄惨な処分を受けることになる。神ヘルメスに残された手札は残り少なかった。

 

「信じてくれ、僕は三大クエストを達成するため、ベル君を英雄にしたかっただけなんだ! 彼こそが現代の英雄なんだよ! 悲願達成のためには絶対に彼の力が必要になる、分かってくれ!」

 

「そのためにどれだけの者が死んだと思ってんねん! あんまり舐めた口叩いとると今すぐ送還すっぞ! で、言いたいことはそれだけか? 知ってるか、闇派閥(イヴィルス)は全員オラリオの広場に磔や。眷属含めて並んでみるか?」

 

 神ヘルメスがお調子者を演じて逃げ出せるような状況ではなかった。この場にいる神々は全員、オラリオで甚大な被害を受けている。その元凶はすべてベル・クラネルに関連するものだ。その悪事の手助けをしていたとなれば、神ヘルメスとその眷属たちに温情がかけられるはずもない。

 

「……僕なら、ゼウスとヘラをオラリオに呼び寄せることができる。だから、アスフィたちの命だけは保証してくれ」

 

「10点満点中3点やな。それじゃ足りんわ。何をするかわからん眷属の『恩恵』はすべて抹消しや。その上で、ヘルメスがゼウスとヘラをオラリオに誘導し、諸悪の根源を滅ぼして初めて罪が清算されるんやで」

 

 これで5年前の清算も出来る。後の憂いも消える。

 

 神ヘルメスがこれを承諾しなければ、強制送還された後に眷属たち全員が磔にされる。生き残るため、神ヘルメスは神ゼウスと神ヘラを売り渡す決断を下した。

 

………

……

…

 

 【ヘルメス・ファミリア】の処遇が決まり、会議が一段落した頃、【ロキ・ファミリア】団長のフィンが大急ぎで会議室に飛び込んできた。

 

「会議中失礼する! 今、ヘディンから連絡があった……【ヘスティア・ファミリア】を『竜の谷』で発見。神ヘスティアと数名の眷属を捕獲後、その場で焼却処分したとのことだ。やはり、闇派閥(イヴィルス)と行動を共にしていた」

 

「よっし!! よーやったで。これで、オラリオの平和まであと一歩やないか。なのに、暗い顔してどうしたんやフィン」

 

 深呼吸するフィン。この報告はそれだけ重大な案件だ。伝え方に気を付けなければならない。

 

「落ち着いて聞いてほしい。【ヘスティア・ファミリア】に囚われていたギルド職員のエイナ・チュール氏によれば……彼らの目的は、神ヘスティアの『神威』による風印解除だった。ヘディンの予想通り、ベル・クラネルに『黒竜』を討伐させて凱旋する計画だったようだ。仮に討伐できないほど黒竜が強くとも人類総力戦になるのは明白で、【ヘスティア・ファミリア】の力が必要になり、結果的にオラリオへ戻れるという企みだったそうだ」

 

「今まで通り自作自演が通じると思ってんのか。後者やったら、使い潰した後にウチらが殺したるわ」

 

 闇派閥(イヴィルス)の盟主ともなれば、考えるスケールが違いすぎると集まった神々は戦慄する。神ヘルメスも「そんな馬鹿な」と口を大きく開けて呆然としていた。

 

「問題はここからだ……『竜の谷』に風印が確認されなかった。それどころか、本来周辺にいるはずの深層級モンスターたちもすべて綺麗に消え去っている。監視役である『ファナシェの里』もヘディン達から事実を聞いて驚いたそうだ。だが、最後に確認した時は、確実に風印が存在していたと」

 

「ははは、冗談うまいなフィン。この場で冗談いうのは、流石にアカンで。他の神たちもよーさんいるんやからな。そういう事は、宴会の二次会だけやで………はぁ~、で、最後に確認されたのは、いつや?」

 

 この場にいる全員が予感していた。

 

「僕たち遠征に行った日だ。つまり、オラリオが不幸に見舞われた日はどうなっていたか、誰もわからないってことだ。なんでも、最近まで謎の疫病が流行して、監視任務どころじゃなかったらしい。今、ヘディンたちが大急ぎで戻ってきている。それまでにやるべきことをやろう。ヘファイストス様、これ以上の事態悪化は最悪だ。神ヘスティアの『神威』を抑える手錠と檻を作ってもらえるかい」

 

「出来るわ。この命に代えても必ず彼女の『神威』を完全に封じる物を作るわ」

 

 神ヘファイストスも眷属を守るため、疑いを晴らさなければならない。だからこそ、彼女は全力でフィンたちの要望に応えるだけだった。【ヘスティア・ファミリア】という、結成して半年しか経っていないファミリアが、オラリオどころか世界を揺るがすまでに発展したこの事件は、未だ終息に向かう気配を見せていなかった。

 

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