ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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89:常識に左右されない新しいアプローチ

 海の上に浮かぶ【アスクレピオス・ファミリア】の新しいホーム。そこに持ち込まれたのは、院長達が泣いて喜びそうな”黒竜の鱗”だった。もはや、地上に現存する分しか存在しない貴重なレアアイテムである。しかも、あと半年程度でこの世から消失してしまい、二度と拝めなくなる代物だ。

 

 限りある貴重な資源が、このまま消えてしまっても良いのだろうか。

 

 本来ならば誰もが見送るしかない現実。だが、院長達は違った。

 

「ダンジョンで生まれた黒竜が死ねば、魔石になって消えてしまいます。これは変えられない事実です。ですが、それは正解であり間違いでもあります。ほんの僅かではありますが、鱗の根元の方に血の塊が残っているのです。これがその答えになります」

 

「本当だ、パパ! これを集めればいいのね。そういえば、ダンジョンでもモンスター本体は消えても、浴びた返り血は消えないもんね。でも、切断されて手足が消えちゃうモンスターもいるじゃない? その時に飛び散った血も……なんで消えないのかな」

 

 子供の成長は早いものだった。大人が気づかないうちに学び、疑問を抱き成長していく。

 

 プルシュカが抱いたような疑問から、研究の第一歩は始まる。そしてそれを解明し、使いこなせるようになることで、人類は一歩ずつ進歩してきた。

 

 モンスターの返り血という現象。冒険者なら当たり前すぎて誰も気に留めない。だが、ボンドルド達にとっては、これこそ解き明かすべき謎だった。死ねば魔石となって消えるモンスター。当然、その流れ落ちた血液も地面から消え、宙を舞った血液も消滅するはず。

 

 では、それが消えない条件とは何か……彼らはそれを解き明かそうとしていた。

 

 一緒にオラリオを離れた異端児(ゼノス)達も研究には非常に協力的だった。オラリオを離れ、外の世界を自由に飛び回り、世界中を旅する船に同行させてもらえるのだから当然と言えた。あんな薄暗いダンジョンで生涯を過ごすなど、外を知ってしまった異端児(ゼノス)達にはもう耐えられない。

 

 オラリオのダンジョン地下で潜伏生活を送っている同胞に、いつか帰省した時に外の世界を自慢しようと、日々の出来事を日記に書き連ねる者すらいた。

 

 集められた”黒竜の血液”の量は、僅か50ccにも満たない量だった。だが、紛れもない本物だ。『神威』を無効化する特性があり、その事実が全てを物語っている。そこで彼らがまず始めたのが、この血液の培養実験。

 

 だが、その研究も困難を極めた。元々人間の血すら人工で作るのは不可能だと言われているのだ。それなのに、いきなり黒竜の血を増やそうというのだから、流石の院長達も匙を投げそうになる。だが、こんな時に役立つのが、奇跡の産物である遺物という便利なアイテム。

 

 時間を止めたり、死者を蘇生させたり、決して切れない糸(スター・スレッド)が存在したり、世界のルールを書き換えたりと、既存の物理法則が一切通じない代物だ。

 

「常識に左右されない新しいアプローチが試されるべきと考えます。一つは、特級遺物”命を延ばす酒(ディプシーイオン)”。その名の通り、飲むことで寿命を伸ばすほど肉体が活性化します。これに”黒竜の血”を混ぜることで、新たな生命として増殖する可能性があります」

 

「『お酒は大人になってから』と言って、プルシュカにくれなかった特級遺物だ! パパ、プルシュカが大人になったら絶対に頂戴ね。パパが寂しくならないように、ずっと一緒に居てあげるわ」

 

 これを見せた以上、この場にいる全員に配る予定だったボンドルド。最近入手した貴重品であり、数は多くない。ファミリアの全員に配れば使い切ってしまう量だ。全員分をまた手に入れるには、更なるダンジョン探索が必須。

 

「えぇ、勿論です。皆様の分もありますので後でお分けしましょう。私にはもう不要になりましたから。……それと、もう一つは”欲望の揺籃”です。等級は付けていませんが1級以上の品です。”願いを叶える卵”……ですが、歪んだ形で叶ってしまうため、”黒竜の血”を増やしたいと願えばどのような形で実現するか想像もつきません。最悪の形で叶ってしまうでしょう」

 

「うん? パパ、何でそれを知ってるの? 遺物って、パパとアタシしか使えないよね? そんな危険な遺物の効果なんて、試さなきゃ分からないんじゃ……」

 

 実に簡単な答えだった。ボンドルドは自らの身体で遺物の効果を確認しているのだ。だからこそ、それがどれほど危険かも把握しており、使い方も熟知している。祈手(アンブラハンズ)を従えるボンドルドだからこそ出来る方法だ。

 

 その会話の最中、ショウ・タッカーが血液を慎重に一滴取り出した。

 

「ボンドルドさん。あなたが言うほど歪んだ形で叶うのなら、それはやめておいた方が良いでしょう。まずは”賢者の石”で増血が出来るか試しましょう。成功すれば、今後の研究にも困りません」

 

 錬成反応こそ起きたものの、増血する前に”賢者の石”が耐えきれず砕け散ってしまった。等価交換の法則すら打ち破るアイテムですら、黒竜の血を増やすことはできない。万が一成功させるとしても、大国の住民すべてを捧げるほどの巨大な石が必要になるだろう。

 

「貴重な一滴なんだヨ。無駄にはしないで欲しいネ……遺物の奇跡も錬金術の奇跡も当てにならないとなると、ここは私とフェイスレスが見つけた、モンスターが死んでも『血液が消えない方法』を試そうじゃないか。これなら未来に向けて希望が残せるというものさ」

 

「僕たち天才だからね。その秘密の方法を知りたい子は手を挙げて~」

 

 プルシュカとニーナが元気に手を挙げる。モンスターの血液が消えずに残る方法。普段なら難しい研究に興味を示さない子供達だったが、一体どういう方法なのか、ここまで言われれば知りたくなるのが世の常。

 

 二人は言われた通り袖をまくって腕を机の上に置く。そして、その生肌の上に血をたらす。そう、それだけだった。あとは一滴も残らずその血を綺麗に回収する。

 

「そういう事ですか。本当にただの『返り血理論』だったという訳ですね。これは盲点でした。言われてみれば、あの白兎(ベル・クラネル)も街中をモンスターの返り血を浴びたまま歩いていたと言います。ここまで単純だと、逆に拍子抜けしてしまいますね」

 

「私も気が付かなかったな~。いつも錬金術でモンスターを灰にしてたから、血を浴びる機会なんて無かったし」

 

 リンゴが落ちるのと同じく、モンスターの返り血は残り続けるという世界の法則が存在している。リンゴの場合は重力があるから落ちる。だが、返り血が残るというのは、それ自体がこの世界の法則だ。

 

 単純な事だが、言われてみれば思い当たる節も沢山あった。こんな簡単な方法で”黒竜の血”が永久保存されることになったのだ。人類の貴重な資源が未来へと繋がれた瞬間だった。そして近い将来、この”黒竜の血”から誕生するであろう……飼い慣らされた新たな”黒竜”は、防衛装置として人類の必要悪となるの。

 

 その一匹目となる存在こそが、後にプルシュカの誕生日に贈られ『メイニャ』と名付けられる可愛らしいモンスターが誕生する。彼女と共に成長するように特別な神字文字が刻まれた新たな生命体。

 

 世界を巡り危険物を回収して、それを平和利用する。世界には、三大クエストで討伐されたモンスターのドロップ品を悪用しようとする者達も多かった。学区に使われていた海覇王(リヴァイアサン)の蒼鰭(そうき)の所有権を巡っても、熾烈な争いが起きたほどだ。

 

 だからこそ、そんな争いの種にならないよう、院長達は先回りして危険物を回収し、自分達の手で平和利用するための実験を行うことにしたのだ。医療系ファミリアとして、結果的に苦しむ人が減るのであれば、それは間違いなく「医療」であった。

 

 彼らが次に目指す場所は、巨大な「灰の砂漠」だ。かつて三大クエストの一つである『陸の王者』ベヒーモスが討伐された跡地である。その広大な砂漠は、ベヒーモスが消滅した際に飛び散った魔石の毒によって周辺が汚染され、灰と化した土地だった。今なお汚染区域に指定されており、人が安易に立ち入れない領域となっている。モンスターが異常繁殖しており、『竜の谷』ほどではないものの、地上において極めて危険な地帯とされていた。

 

 その土地を除染し、再び人が住める場所へと変えること――それが彼らの次の仕事だ。

 

 

◆◇◆◇

 

 オラリオの地下に広がるダンジョン深層。そこにポツンと佇む一軒家があった。オリハルコンで作られた頑丈かつ重厚な扉を備えており、一般人の男性が全力で押したところで微動だにしない作りになっている。

 

『ベル~、今日は新しい仲間を連れてきたよ。オークの女性のエミリーさん。最近生まれた異端児(ゼノス)なんだよ』

 

『あら~いい男ね!! ハーレムを所望しているなんて、そんな怯えた顔も最高じゃない。白兎(ベル・クラネル)なんてネーミングも、本当に食べちゃいたいくらい可愛らしいわ。じゅるり……さぁ、ベッドに行くわよ。大丈夫、死なない程度に手加減してあげるから。さぁさぁさぁ!!アンタの子供をたくさん産んであげる!!』

 

 白兎(ベル・クラネル)の女好きに理解のあるウィーネ。神の恩恵が消えたことで手加減しなければならないのが残念だが、彼女はそれもまた新しい愛の形なのだと受け入れていた。

 

 ダンジョンに愛を求めるのは間違っていない。

 

 早く白兎(ベル・クラネル)の子供を産みたいとお腹をさするウィーネ。彼女はプルシュカ達が極東から帰ってくる日を今か今かと心待ちにしていた。

 

『ウィーネがベルの子供をいっぱい産んであげるからね……あ、リド!? 久しぶり、元気にしてた?』

 

「リドさん、助けてください!! 僕はここにいます。お願いですから、助けてください!!」

 

 だが、その声に応える者は誰もいない。

 

 もはや『幸運』のアビリティは機能していない。女難が続くのは、彼が持ち合わせた純粋な運の悪さゆえである。しかし、美女や美少女といった存在は皆無だった。美しい容姿のレイですら夢から覚めたかのようで、彼のハーレムに加わる事はなかった。代わりに来たのがメスオークだった。

 

 美少女という奇跡は、ウィーネだけで充分だ。

 

 換気用の小さな窓から必死に助けを求めるベル・クラネル。

 

 リドだって、死にたくない。万が一、ベルを逃がせば、アステリメスやウィーネを敵に回す事になる。深層で魔石を大量に食べ、階層主の魔石も食べつくすような彼女たちと敵対しようなどとは全く思えない。そもそも、同じ異端児(ゼノス)なのだ。

 

『当然だぜ! 近くを通りかかったからベルの様子を見に来たんだが……まあ、元気に叫んでるようだな。多分ここまで誰も来ないとは思うが、オラリオがダンジョンを解放したらしいから、出会ったら地上に送ってやってくれ。地上じゃ、戦争が近いって話だ。情報誌を置いておくから、読んでおくといい』

 

 そこにはオラリオの情勢だけでなく、世界情勢までもが記されていた。

 

 アミッド・テアサナーレの尊厳崩壊魔法による聖水攻撃……来るべき決戦に向けた訓練で、その恐ろしさが露呈する。圧倒的な水量に沈められた【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者達が、あらゆる穴から汚物や嘔吐物を垂れ流し窒息して失神。大勢の観客の前でそんな哀れな姿を晒すことになり、回復魔法を攻撃に転用する恐ろしさに、オラリオの高レベル冒険者達も脱帽していた。あの『頂天』オッタルですら「自身の防魔効果は魔法攻撃には強いが、回復魔法に対しては無力だ」と発言したという。

 

 【アスクレピオス・ファミリア】は灰の砂漠の緑化活動を開始。かつてベヒーモス討伐により汚染された死の大地を、再び人が住める地に変えるべく汚染除去の原因であるベヒーモスの魔石回収に挑む。難航する作業であったが、彼らの真摯な活動を見た近隣住民や冒険者達が徐々に手伝いに集まり始めていた。

 

 それを見たウィーネは、そんなことより「早く極東から院長さんを連れてきてくれないかな」と思っていた。

 




人造ゼノスも作れた。
人類が団結する為には、巨大な敵が必要だ。

人造黒竜……蛮神バハムートを作りたい。
収拾した神と三大クエストのモンスターゆかりの品で行ける気がしてきたぞ。
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