ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
ボンドルドの研究施設で開発された、新たな遺物兵装。それにはヘスティアから紹介された、三柱の神々の知識が流用されていた。神の知識のおかげで、人類はまた一歩、深淵へと歩みを進める。人を導く存在である神とは、実に素晴らしい。
現在、検証実験を兼ねてボンドルドはプルシュカと共にダンジョンに潜っていた。将来的にはプルシュカに与える兵装になるかもしれない。今のうちからその性能を見せておくのは有意義だ。何より、子供ならではの柔軟な視点があれば、改良の余地や新たな運用方法が見つかる可能性もある。
「パパと一緒にダンジョンに行くのは久しぶり! プルシュカ、十八層の『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』って初めてだから楽しみだな~」
「中層の入り口である第十三層から先は、保護者同伴でなければ流石に許可できませんからね。道中のモンスターも上層と比較して格段に強くなります。もう少し経験を積み、信頼できる仲間が増えたら、探索許可も考えてあげましょう」
遠距離攻撃を仕掛けてくるヘルハウンド。愛らしい兎のような外見に反して石斧を振るうアルミラージの群れ。上層と違い、殲滅速度が足りなくなれば瞬く間に包囲され、詰んでしまう。だがその分、得られる経験の質は遥かに高い。
ダンジョンという閉塞空間でこそ真価を発揮する、ボンドルドの遺物兵装。その装甲に刻まれた、紫に怪しく光る縦のラインが輝きを増していく。
「明星へ登る(ギャングウェイ)」
「パパ、カッコいい!! プルシュカも負けないんだから」
プルシュカの腕に仕込まれた呪い針(シェイカー)が、『明星へ登る(ギャングウェイ)』から逃げ惑うモンスターを的確に貫き、次々と魔石へと変えていく。残弾数の把握、敵の配置、優先すべき行動。中層における戦い方を確実に吸収していく子供の成長力には、凄まじいものがあった。
安全を確保して確実に進んでいくボンドルド一家。
子供は親の背を見て育つ。一人の冒険者として父親の横で戦える事に彼女は、わくわくが止まらない。
「いい子です、プルシュカ。貴方には本当に素晴らしい才能がある。その年齢でダンジョン中層まで足を踏み入れた子供は、歴史上でも稀でしょう。しかも、そのステイタスでこれほどの立ち回りができるとは……前人未到です。誇って構いませんよ」
「パパの子供だもん、このくらい当然だよ! あんなモンスター、この間ニーナちゃんと一緒に倒した強化種ミノタウロスに比べたら楽勝だもん」
ボンドルドの背中によじ登り、肩車されるプルシュカ。大好きな父親に自分の頑張りを身振り手振りで伝え、それを褒められる。ここがダンジョンの只中でなければ、どこにでもある微笑ましい親子像だっただろう。
プルシュカの視線は、ボンドルドが背負っている大型の新型兵装に注がれていた。一般的に巨大な兵装ほど強力だが、取り回しの問題から、ボンドルドが製作する遺物兵装はコンパクトにまとめられたものが多い。
「おや、これが気になりますか。神々から得た知識を反映させた新たな遺物兵装、『アラカブキ』です。ヘファイストス様から学んだ鍛冶技術を応用し、特殊な銃身と遺物を組み合わせて製作しました。神聖文字(ヒエログリフ)も刻んでみたのですが、私の技術では真の意味を成すには至らず……神の高みを改めて実感しましたよ」
「流石パパ!! 神様の技術を真似られるなんて。パパの新しい遺物兵装、プルシュカ早く見たいな~。ねぇ、パパいいでしょう」
新しいおもちゃを強請る子供だ。年相応と言うにふさわしい。
「お楽しみは、17層まで我慢ですよ。プルシュカでも取り回しができるように、貴方専用を用意してあげますから」
「17層……階層主はLv.4相当だって聞いたことあるよ、パパ」
だからこその実験だ。人類が無限の可能性を示すために必要な儀式。リポップの周期を考えれば、今こそが最高のタイミングだった。ロキ・ファミリアが地上へ帰還する時間帯であるため、万が一仕留め損ねて撤退することになっても、彼らが後始末をしてくれるという算段もあった。
ボンドルドは道中、プルシュカに先導を任せ、指示を出させるなど教育を徹底した。各モンスターの特性、回避方法、弱点。そして何より重要な、安全な休息の取り方。壁や天井の死角を利用し、モンスターの視線から外れる技術。彼は『月に触れる(ファーカレス)』を応用してポータレッジ(懸垂型テント)を作ることが、この階層での最善策であると教え込んだ。
………
……
…
17層の階層主ゴライアスが出現する大広間。
現在、広間には静寂が満ちていた。遠征中のロキ・ファミリアが通過時に討伐したからだ。しかし、間もなく再出現(リポップ)の時が来る。一度倒されればしばらく姿を消す階層主は、レベルアップを狙う冒険者にとって極めて重要な存在だ。
Lv.2が主力となる中層において、Lv.4相当の階層主の力は圧倒的だ。中堅ファミリアであっても、総出で挑んで死者が出ることは珍しくない。
「おやおや、貸切状態とは好都合。階層主の出現と同時に全火力を叩き込みましょう。モンスターは誕生の瞬間が最も無防備なのです。反撃の隙すら与えません」
「ねぇパパ、このアラカブキ、今のプルシュカには大きすぎるよ。パパの身長と同じくらいあるんだもん」
ボンドルドはアラカブキを構え、床に固定用ボルトを深く打ち込んだ。威力のみを追求し反動を度外視した設計のため、『千人楔』で肉体を強化しているボンドルドでさえ、その衝撃にどこまで耐えられるかは未知数だった。
「相手は階層主ですからね。弾丸も特別なものを使用します。プルシュカ、一番のケースを開けて中身を出してもらえますか?」
「はーい! えっ、これ……『骨肉弾頭・アラカブキ』? 武器と同じ名前なんだね」
それは神性を帯びた『生きた弾丸』。遺物に生きた素材を喰らわせ、弾丸へと加工したものだ。不変の力を宿しているため、生きたまま長時間持ち運べるという一品だ。材料も不変であることからどれほど損耗しても死なず狂わず、エリクサーを用いれば無限に増殖させることができる。加工に手間はかかるが、その威力は既存の火器とは比較にならない。
あと数十分もしないうちに、階層主ゴライアスがリポップする。
用意した特殊弾は三発。これで仕留めきれなければ、第十九層の『迷宮の楽園』へ逃げ込むか、一時撤退すると決めていた。無理に執着せず、引き際を見極めることが生存の鍵だ。
待機中、空間に異変が生じると同時に、ボンドルド親子の横を一組の冒険者たちが駆け抜けていった。白髪の少年。Lv.2へのランクアップ最短記録保持者として名を馳せつつある、ベル・クラネルだ。彼らは怪我人を抱え、死に物狂いで第十八層を目指しているようだった。
目もくれず走り去る冒険者。それは強力な何かに追われていることを示唆していた。警戒すべきは『怪物進呈(パス・パレード)』。階層主の出現と重なるような悪質な行為であれば、それはもはや紛争の火種になりかねない事態だ。
「大丈夫だよパパ! 周りに他のモンスターはいない。パパ、階層主をやっちゃって!」
「ありがとうございます、プルシュカ。私が指示する前に状況を確認するとは、いい子ですね。では、貴方の未来の兵装、そのお披露目といきましょう」
ゴライアスが壁から這い出そうとした瞬間、遺物兵装が駆動音を上げた。
『砲身凝縮開始』
ボンドルドが引き金を引くと、弾丸は光の尾を引いてゴライアスの頭部を直撃した。直後、凄まじい爆風と轟音が空間を震わせる。
銃の反動で床に設置したボルトが緩み始める。
「ゴライアスの頭部は想像以上に強固ですね。次弾は他の部位を狙いましょう」
「パパ、さっきの冒険者たちがやっとこっちに気づいたみたい。酷いよね、ずっとここに居たのに」
使い捨ての薬莢からは、どろりと生々しい肉片みたいな何かが漏れ出した。「生きた弾頭」という呼称は、文字通りその性質を表していた。
ゴライアスが標的を認識するよりも早く、二射目が放たれた。今度は胸部を貫き、七メートルを超える巨躯を数歩後退させる。だが、それでも死なない。流石は中層の王、上級冒険者への登竜門とされるだけあり、その耐久力は桁外れだ。
「全くもってしぶとい。我々のような文明の利器を頼らず、ただ『恩恵』による人力のみでこの階層主を討伐する冒険者とは、一体どのような怪物なのでしょうね」
「パパ、これが最後の特殊弾だよ! 撤退の準備もできてるからね」
まさに阿吽の呼吸。極限状態においても、親子は完璧な連携を見せる。
しかし、プルシュカは撤退することにはならないと確信していた。彼女にとって、父親への信頼は絶対的なものだからだ。
そして、最後の一撃が放たれた。逃げ場のない大広間、ゴライアスの無防備な腹部に直撃。それは巨体に巨大な穴を穿ち、向こう側の景色を透かして見せるほどだった。霧散していくゴライアスの巨躯と、残されたドロップアイテム。それだけが、今起きた現実の凄まじさを証明していた。
階層主すらレベル1で葬る父親。ステイタス的には同じであるプルシュカは、将来は自分もと今からわくわくしてたまらなかった。
迷宮の楽園って、だいぶ深い場所にあるよね。
ベル君たちは、生きるためとはいえここを目指したのは本当に正解だったのかと思ってしまう。上に逃げれば、モンスターが弱くなるし、人も増えるからそっちの方が生き残れる可能性あるんじゃないだろうか。