ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
一か月……ボンドルド達がオラリオを出て経過した時間だ。その間、誰もが信じられないくらい平和だと思っていた。毎月のように、【ヘスティア・ファミリア】が騒動を起こしては、潰されるファミリアが存在していた。
この焼け野原で再建が進む今の方が平和とかどれだけだったのかと、冒険者達は全員が思った。『幸運』の搾取がどれだけ危険だったのかを実感できる日々だ。これが普通だ。一か月程度でオラリオの勢力図が変わる方が異常だった。何年も鍛え上げてきた積み重ねが、一日で消えるなど本来あり得ない。
変わることと言えば、本日……一人の神が死ぬという事だけだ。ヘスティアと同じく天界に帰る事すら許されない大罪を犯した神。
「ヘルメス……お前さんには失望したで。何が、ゼウスやヘラを呼び出せるや。待てど待てど来る気配すらない。約束の日時はとうに過ぎたで。最後くらい、役に立つかと思ったんやがな。約束通り、元ファミリアの連中も助けへんで」
「待ってくれ、それは約束が違う!! 僕は、ちゃんとゼウスとヘラを呼び寄せる手紙を出した。それは本当だ。彼らを売る覚悟だった」
しかし、約束した場所や日時には誰も来なかった。
来ないのは当然だ。
Lv.8のオッタルに勝てる戦力を捻出する事など不可能。更にフィンやヘディンが協力して万全の体制を敷いている。蟻の子一匹入り込めない。そんな状況で、生き残った僅かな眷属を集めても、オラリオに一歩でも踏み込んだら消し炭になる。
ゼウス達にしてみれば、ヘルメスを切るというのが正しい選択だった。
女神フレイヤは、神ヘルメスが納得して死んでくれるように説明する。答えは単純だ。
「ゼウスとヘラの残党を呼び寄せて、罠に嵌めたら
「黒竜が残っている以上、必ずアスフィのスキルは役に立つ。だからお願いだ。ロキ、フレイヤ……僕の最後の頼みだ。彼女たちの恩赦を」
オラリオに残った神々の総意で決まっている事だ。
それがないなら、アスフィ達のような
「ヘルメス。自分の努力が足りないから、ゼウスとヘラが来なかったのよ。それを私達に責任転嫁するような言い方はやめてくれないかしら。私だって、本当はこんなことをしたくないのよ。何が嬉しくて、見知った神や下界の子供を殺さないといけないのよ。こうなったのも全部身から出た錆でしょう。それとも、なにか取引になるような情報でも持っているの?」
ここが最後の賭けだ。
神ヘルメスは、眷属たちを助けるため脳内で必死に打開策を考えていた。今まで口先だけで、どんな修羅場も生きてきた。なんでもよい、一分一秒でも時間を稼ぐ特級のネタを生み出す。
生半端な情報では駄目だ。最低限、眷属だけでも恩赦が受けられる程の情報でなければ即座に刑を執行するだろう。今の神ロキと女神フレイヤ、そしてオラリオにいる神々はそれほどまでにピリピリしている。
「僕の『権能』で世界中の情報を集められる。『神威』で黒竜を探せる。いいや、見つけ出して見せる。黒竜自体には『神威』は効果がないだろう。だが、誰かの瞳にさえ映ればそこから場所が分かる」
「そりゃ、凄いな。本当にそれができるなら、恩赦に値するで……まぁ、嘘やったら楽に死ねなくなるだけやから、よーーく考えて答えたほうええで」
オラリオに居る神々だって、名が知れた者達が多い。各々に『権能』がある。だが、誰も黒竜の所在を掴めなかった。地上での『神威』の乱用は、本来厳禁とされているが、緊急事態故に色々見逃されている。
「やって見せる!! だから、この『神威』を封じる拘束を解いてくれ。この命に代えても、必ず黒竜を見つける。だから、アスフィ達の命を保証してくれ」
「私はそれで構わないわよ。ロキもそれでいいなら…ただし、目的以外な事に『神威』を使えば、直ぐに死んでもらうわよ」
神ヘファイストスが作り上げた使い捨ての神殺しの槍。前回は、オッタルがこれを使ってヘスティアを殺した。そして、今回は【ロキ・ファミリア】から大任が選抜され、団長であるフィンがその担当だ。
嫌な役回りではあるが、彼としても仕方ないと受け入れている。やらかし過ぎた神の末路だと。心臓を何時でも貫ける準備が整えられ、神ヘルメスの拘束が解かれる。彼は深呼吸をして人生、これで全てを失ってもよいという覚悟で全身全霊の『神威』を発動した。
この星の隅々にまで人の眼がある場所なら、どこでも盗撮できるほどの……だが、黒竜は空を飛べるし、水中にいるかもしれない、人里離れた場所にいるかもしれない。本当に運が良ければ見つかるかもしれない。その賭けだった。
だが、そこに一つの光景が見える。
どこかの研究所なのか、見た事もないような器具が並んでいる。飼育ケースの中にいる謎生物を神ヘルメスがはっきりと捕らえた。しかし、神ヘルメスにもなぜこんな視界を見ているのか分からない。だが、一つ言える事は黒竜などいない。そもそも、黒竜のサイズは数百メートル以上あり、その強大故に風印に至っては『竜の谷』を覆う程だ。
こんな小さい研究所に収まるはずもない。
『(おやおや、誰かの『神威』を感じたから来てみればヘルメス様でしたか。のぞき見とは趣味が悪いですね。プルシュカ、こちらに来てください。今、取り除きますから)』
『(はーい。ねぇねぇ、パパ。この子の名前考えたの、メイニャ!!)』
神ヘルメスの『権能』では、音声までは拾えない。だが、彼は確実に見た。あの紫色の光るスリットの鉄仮面を。その瞬間から、『神威』が強制切断される。
「なんだ、あの映像は……まさか、あれが黒竜なのか」
「お!! ほんまに、黒竜見つけたんか!! やるやないか……どこにおった!? 黒竜を見てきたんやろう。サイズや見た目を詳細に書き起こせや。出来栄え次第では、恩赦もありえるで」
神ヘルメスは、己の『権能』と『神威』を信じて、見たままを絵におこす。下手な嘘は火に油であり、真実こそ価値がある。
そこに描かれたのは、ウサギともカエルともつかない羽のような耳のようなものが生えた何とも言い難いかわいらしい生き物。色も黒などが一切なく、爪もない。牙もない。耳のような翼はあるが……こんな生物にベヒーモスとリヴァイアサンを倒した【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が手も足も出ずに敗北したなど信じられない。
命が掛かった状況であり、神ロキ達も本気なのかと神ヘルメスの正気を疑った。
女神フレイヤはその絵をみて、可愛らしい生物だなと思ったほどだ。
「随分と可愛らしい黒竜ね。もしかして、数百M程あって、凄く早くてかたいとか?」
「いいや、子供の頭に乗る位のサイズでモチモチのプニプニそうだった。動きもカエルと兎を足して2で割ったより遅いだろう。神である僕でもアレには負けないさ。まだ野良犬の方が強いだろう」
神ロキは理解してしまった。死の恐怖で壊れたんだと。地下の暗闇の中で大分長い時間監禁していたから、それもやむなしかと。少しだけ、神ロキが同情する。
「そか、わかった。分かった……で、他には何が見えた」
「そうだ!! ボンドルド院長とビーカーに映ったプルシュカの姿が見えた。あいつらが、絶対何か知っている。僕を信じてくれ」
神ヘルメスの素晴らしい推理。実にいい線をいっていた。だが、彼には肝心な問題があった。
「ヘルメス。人も神も信頼の積み重ねって大事だと思うのよ。貴方の言葉と彼等の今までの行動……信じるに値するのがどちらかは明白でしょう。神として、恥ずかしくないの?小さく純粋な子供を生きるための出汁にして。こんな生物が黒竜だったら、誰も苦労しないのよ。それに、いつ、どうやって、彼等が黒竜をどうにかできるのよ。間違いなく
「せやな、それについてはウチも同意見やで。お前さん、落ちぶれたな。あかんで、無理すぎるやろう。筋もとおらへん。生き残るために、プルシュカを出汁にして殺し合いでもさせようってんだろう。壊れたフリしてこれとか……ヘルメス、もう助からんで」
神フレイヤと神ロキの中で、神ヘルメスは既にいない事になった。少なからず期待していたが、神ヘルメスがやろうとしていた事は、遠方の地で医療活動や汚染除去など国際活動をしている【アスクレピオス・ファミリア】に全ての罪をかぶせて、殺そうという提案に等しいのだから。
神ヘルメスと彼の眷属たちが全員バベル前の広間に磔にされる。今のオラリオの治安を象徴するかのような光景だ。だが、闇派閥の連中が死んでいくことで治安は確実に回復に向かっている。
ボンドルド達の旅…
やっとの思いで『極東』に到着する。
と進めたいが、本編のフィナーレが迄もう少し頑張るぞ。