ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
世界とは広い。国家ごとに特色があり、風土も食事も住民も全てが違う。ボンドルド達が極東に向かう前に立ち寄ったのが、『
魔法なんてただの飾りであり、人間は魔法などなくても戦えるし、暮らしていける。そう思っているボンドルド達。彼らがこの国家に立ち寄ったのは、学区から回収した
「寄港して、必要物資を購入に向かいましょう。お金の心配は不要です。世界を回り、治療の際に頂きました魔導書が大量にあります。予算無制限で欲しい物をリストアップしてください」
「じゃあ、アタシはパパと一緒に魔導書を売りに付いて行く。パパ、メイニャにも何か買ってあげていい?」
魔導書一冊で最低1億ヴァリス。それを10冊以上束ねて、ボンドルドとプルシュカは街にある魔道具専門の取扱店に向かった。『
多種多様な人種や種族の者達が交ざり合う街中では、ボンドルド達が多少風変りであっても目立つことはあまりなかった。だから、今回は静かに事が終わると誰もが思っていた。極東に向かう前の最後の補給地点……何事もなく穏やかに過ごしたいと。
だが、それは甘い考えだった。
【アスクレピオス・ファミリア】は、良くも悪くも注目されていた。この世界において、『
だから、彼等が寄港した瞬間から狙われていた。
『
ここまでくれば、『
国家ぐるみで、【アスクレピオス・ファミリア】を嵌め殺しにするつもりだった。
ボンドルドが魔道具を扱う専門店に大量の魔導書を持ち込む。魔法絶対主義の街において、日々研鑽して魔法を増やそうとする者や、魔法が使えず肩身が狭い思いをしている者達からすれば、喉から手が出るほどの極上の商品だった。
「全部で15冊……全て本物の魔導書である事が確認できました。合計で18億ヴァリスでどうでしょうか?」
「おやおやおや、随分と足元を見られますね。オラリオとの緊張状態に備えて、物価は青天井のはず。このような戦略物資は、いくらあっても困らない物です。1冊2億ヴァリスは下らないはず。『
買い取った魔導書に利益を乗せて権力者や国家に販売するため、手間賃込みで1冊2億ヴァリスでも十分な利益になる。ボンドルド達がオラリオから来たばかりで現地の相場を知らないと高を括られていたのだ。
実際、この店で販売されている魔導書は1冊2億ヴァリスを超えている。売れ行きは非常に好評であり、これだけの数を一気に買い取れるのなら、本来なら色をつけて買取額を上げてもいいはずだった。
「……あなたもお人が悪い。ですが、30億ヴァリスを一気に現金で支払うとなれば、商会の金庫が枯渇してしまいます。それが分からないあなた様でもあるまいに……当商会の現金26億ヴァリスと、不足分は当店の品々で補填するというのはいかがでしょう」
ボンドルドは提案を受け入れ、生活物資や食料、医療用品を含めて商会から4億相当の魔道具を買い漁った。残った巨額の資金は各院長達に分配され、各自が街を巡って大金を支払っていった。周辺の商店にとっては、まさに降って湧いたような特需であった。
プルシュカにも専属の説明員がつき、魔道具の丁寧な説明を受ける。ダンジョン探検で役に立ちそうな品から生活を豊かにするもの、さらには利用目的すら解らない珍品まで並んでおり、「なぜこんなものを売っているのだろう」と疑問が浮かぶほどだった。
………
……
…
それから数時間後、街で買い集めた物資を船へ積み込んでいる最中のこと。なかなか戻ってこないタッカー親子が逮捕されたという報せが飛び込んできた。一体全体どうしてそうなったのかと言いたくなるような事態――ショウ・タッカーは痴漢の容疑で街の憲兵に捕まり留置場におり、娘のニーナ・タッカーも窃盗の容疑で拘留されたという。
普段なら痴漢や軽窃盗程度では迅速に動かない街の憲兵が、ピンポイントで二人を狙い撃ちにして捕らえたのだ。
「まったく、理解に苦しみますね。我々はただ買い物のために立ち寄っただけだというのに。そこまでして”賢者の石”が欲しいのでしょうか。次の手は……この船の接収でしょう。私とプルシュカで直接迎えに行く必要はなさそうですね」
彼等の下に憲兵が使者として遣わされる。
憲兵側の言い分は、翌朝に開かれるショウ・タッカーの裁判で判決が出るまで出国を認めないというものだった。さらに、モンスターを乗船させている点も追及され、市民の安全確保の名目で即刻引き渡すよう要求してきた。
「どうする?パパ」
「事を荒立てるつもりはありませんよ。裁判というからには、神の下で公平に裁かれるはずです。真偽を見抜く神がいらっしゃるのですから、無実はすぐに証明されるでしょう。それによって、どこまでがこの件に関わっている組織なのかも見えてきます」
当然、このようなでっち上げの冤罪を容認するつもりなど毛頭ないショウ・タッカー。膝の上で眠るニーナの姿があるからこそ、かろうじて怒りを抑えていたのだった。しかし、ニーナのカバンに故意に商品を忍ばせて泥棒の罪を着せた愚行を、彼が許すはずもなかった。
彼が一番、明日の裁判を楽しみにしている。
『
すべての国家において、裁判には神の立ち会いが認められており真偽判定が用いられる。だが、それすらもかいくぐるための悪賢い下準備はすでに完了していた。
痴漢事件においては、被害者たる女性側の証言が圧倒的に有利に働く。そのため、ショウ・タッカーのすぐ近くにいた無関係の女性に対し、第三者が紛れて痴漢を働き、その罪を彼になすりつけたのだ。実行犯たる真犯人を捕まえない限り、神の真偽判定をもってしても冤罪の証明は不可能に近い。本人は無罪を主張しても被害者が本気で犯人を彼だと思っている。
窃盗の罪も同様の手口だった。防犯の魔術が解除されていない商品を、何食わぬ顔でニーナ・タッカーのカバンへ忍ばせる。事情を知らない店の店主は、当然ながら彼女を万引き犯として扱い、そのまま憲兵に通報して逮捕させたのだ。
すべての工作には、工作員ではない無関係の第三者を介在させている。これにより、どのような神の真偽判定すらも掻い潜ることができる。二人を拘束した憲兵たちも、ただ通報を受けて業務を全うしただけに過ぎず、真相など何も知らされていないのだから。
………
……
…
明日の裁判に向けて、この旅に同行しており院長達の保護者兼管理者でもある主神アスクレピオスも出廷することとなった。彼は当然、院長たちの無実を信じており、彼らが早まった行動を起こさないよう切に願っていた。
神オーディンのお膝元である『
相手が神であろうと悪魔であろうと、売られた喧嘩は言い値で買うあの院長たちだ。万が一にも神オーディンが送還されるような事態になれば、オラリオへ向かった彼の眷属たちは、遠い異郷の地で壮絶な無惨死を遂げることになるだろう。今のオラリオには、敵に対して容赦するような甘さは一切存在しないのだから。
かつてのラキア王国侵攻の時のように、適当にあしらって追い返すなどという生温かい対応はしない。一人残らず殲滅されるのが目に見えている。
院長たちの身の安全よりも、むしろ『
「これは、御高名のアスクレピオス様にこのような場でお会いできるとは皆の者に時間ができます。世界の奇病や伝染病、汚染除去などあなたの名において救われた人々は多いでしょう。
「確か、この国の宰相殿だったな。ご丁寧にどうも。それで、大事な眷属の裁判を控えたこの時に何の用だ? タッカーだけでなく、幼いニーナまで裁判にかけるとは……後でどうなっても知らんぞ。たかが痴漢や窃盗程度で、一国の宰相がわざわざお出ましになるような事でもあるまい」
現在、院長たちはこの国の法律や過去の裁判判例を急速学習している最中だった。彼らの弁護は、院長たち自らが行う予定だ。要するに、裁判の場で法的に叩きのめして勝てば無罪になる。あるいは示談金を積んで和解へ持ち込めば、こちらの勝ちも同然であった。
「司法取引に参ったのです。国家転覆の罪に問われているショウ・タッカー氏とニーナ・タッカー氏……彼らの無罪放免と引き換えに、貴方方にはこの地にホームを構え、活動拠点としていただきたい。定期的な”賢者の石”の提供を条件に、オーディン様が破格の特権をお約束されました。全人類の悲願である黒竜討伐のため、貴方方の稀代の叡智を失うのはあまりにも惜しいのでな」
「はぁ……その手の貪欲な話なら、嫌になるほど聞かされてきた。そういう連中に嫌気がさしたからこそ、院長たちは私の下へ来たのだ。そしてまた余計な厄介事が増える。どうして貴様らはそうやって自ら墓穴を掘るような真似ばかりするのだ。私がどれほどの苦労をしていると思っている。上がってくる報告は事後報告ばかりで、神である私が胃痛に悩まされるなど、ストレスもいいところだぞ」
神アスクレピオス。院長たちの治外法権的な活動成果がすべて彼の偉業として宣伝されたこともあり、いまや大神に匹敵する知名度を獲得しつつあった。だがその反面、いたって常識的な感覚を持つ彼の胃袋には絶え間ない負担がかかり続けているのだった。
自らの死刑執行書類にサインしたも同義であり、院長達は読んでいた法律書を投げ捨てた。神アスクレピオスもショウ・タッカーだけなら、今まで苦労を掛けられた来た事もあるので、たまにはいい薬になるだろうと思ったかもしれない。だが、ニーナ・タッカーという眷属の子供には手を出したのはまずかった。
それは、ファミリアに喧嘩を売ったに等しい。
極東では、5番目の院長が呪具を使う予定です。
ボンドルド同様に特級といった階級管理された呪具がたくさん。
アマテラス様を獄門疆に封印したらどうなるんだろう。