ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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93:極東

 『極東』…オラリオから遥か遠くにあるこの地。オラリオでも和服や刀をもっている冒険者がいるから、いない事はないがエルフより絶対数がすくない。

 

 二か月以上の旅の末にようやくたどり着いた場所だ。

 

 この地の特徴としては木造建築が非常に多く、国外から来た者に対して排他的である事だ。それゆえに、ボンドルド達は非常に目立つ。この地にいる5人目の院長を招待する為、涅マユリの案内で『極東』の国内を歩く。

 

 『極東』の出身者である涅マユリ……この地には、こんな逸材が同じ時代に二人もいた。本来なら重宝すべき存在なのだが、誰も彼の崇高な考えを理解せずに追放された形で追い出された。

 

 そして歴史は繰り返す。

 

「そういえば、涅院長は羂索さんをご存じなのですか? キョウトという場所に在住と聞いております。首都のせいか、入国審査に本当に手間取り大変でした」

 

「な~に、朝廷がある場所だから無理もないヨ。もともと排他的な土地柄で、国家系ファミリアの主神が住む場所だからネ。よそ者に対して厳しいのさ。外からの文明も取り込んではいるが、ここは代わり映えしないヨ」

 

 極東は、超巨大派閥【アマテラス・ファミリア】が纏めている。島国でありながら国内での戦乱が激しく地方に行けばそれが顕著になる。名家である一条家、二条家…五条家といった形で朝廷に仕えておりそれぞれが国家中枢で政をやっていた。

 

 そんな戦乱が激しい島国が、オラリオに出兵なんて正気の沙汰ではないだろう。近隣諸国ならまだわかるが、世界最強の軍事力といっても過言でない冒険者を山ほど抱えた場所だ。その地のうま味はあるが統治するには遠すぎる。朝廷の威光など届かない。

 

 だが、それが実現してしまった。当時、ベル・クラネルが生きていた時、”幸運”はこの地にも届いていた。自らを救わせるため国内の戦乱が落ち着いた。すべての元凶は、そこにあった。

 

「パパ。さっきから後ろをついてくる人相が悪い人達って」

 

「外国人を狙った犯罪者達ですかね。街の雰囲気から察するに、治安はふつうとはいえないでしょう。ですが、我々の出る幕はないでしょう。ここは、地元の涅院長にお任せします。ここに来るまで少しだけ極東の文化を本で学びました……なんでも、切捨御免(きりすてごめん)といえば何でも許される野蛮な風習があるみたいです」

 

 今の文明開化の時代に、恐ろしい文化圏も存在したものだ。

 

 だが、それも当然だ。極東の五条家などは、暗殺から夜の接待、殺しまで請け負う事を教育している。こんなのが今のご時世許されている。幼い子供……それこそ、プルシュカより年下の子供がそういう夜の接待でも使われている国だ。

 

 正直、滅んだ方が世のためだ。

 

「そうなんだ。じゃあ、早く羂索院長を迎えに行こうよ、パパ。……羂索さんは何処のファミリアなの? 改宗になるのよね」

 

「極東でも珍しい派閥に属していない【イザナミ・ファミリア】との事です。極東では、巨大派閥【アマテラス・ファミリア】が強すぎて、ほかの派閥はもうほとんど残っていないそうです。オラリオにいたタケミカヅチ様も国外に逃げた一人ですよ」

 

 そんな現状もあり、【イザナミ・ファミリア】は零細ファミリアだ。今では、山奥にホームを構えており数名の眷属が残るのみ。そんな中、オラリオの地に引き抜くのは心苦しいが……これも運命だ。

 

 【イザナミ・ファミリア】が国外に出られなかった理由は……これから院長に迎える予定の羂索にあった。彼が持つ能力が異質すぎる故に、国外への移動を制限された。度々、【アマテラス・ファミリア】に勧誘されたが断り続けてた結果だ。島国からでるのには、どうしても長距離を移動できる船が必要になる。それを絶たれていた。

 

 山を歩く事、2時間……朝廷がある都が大分遠くに見える。

 

 山頂に見える神社、そこが最後の院長が住むホームだった。そこには門番をするかのように青年が一人、仁王立ちしている。

 

「子連れの外国人!? 珍しい……うん? 鉄仮面、眼鏡のおじさん、光る服の変人、ひげの紳士。もしかして、母ちゃんが言ってた【アスクレピオス・ファミリア】の!? 本当に来てくれたんだ」

 

「おやおやおや、随分とお待たせしていたようです。少し寄り道をしすぎましたかね。私は、ボンドルド。初めまして、虎杖悠仁君。羂索さんをお迎えに来ました。あぁ、今のお名前は、虎杖香織さんでしたね」

 

 5番目の院長の子供である虎杖悠仁。

 

 彼の事は、手紙でボンドルド達は知っていた。その手に持っている呪具と言われる物が事前情報にあった彼らだけの能力だという事も察する。正しく運用すれば、国を落とせる程のポテンシャルを秘めている。

 

 そんな彼を見たプルシュカ。

 

「あたし、プルシュカ。名前は?」

 

「虎杖悠仁。よろしくな、プルシュカ。それにしても、オラリオじゃ、こんな子供まで冒険者やってんのか。先輩になるのか、プルシュカ先輩ご指導よろしくお願いします!!」

 

 実に気持ちが良い好青年だった。やはり、親の教育が行き届いているとこうなる。

 

 しかし、ここまでになると1点不安が生じる。だからこそ、プルシュカも真っ先に挨拶をして相手を確認した。その不安要素とは彼の魂があまりにも透明で綺麗である事だ。神フレイヤと同じく魂の色を認識できるプルシュカ。神フレイヤが新しい恋を探しており、伴侶を求めている。この魂を見た瞬間、どんなことが発生するかなど火を見るよりも明らかだ。

 

「プルシュカでいいわ。あたしも悠仁って呼ぶから。ねぇ、どんな女がタイプ?」

 

「尻と身長(タッパ)がデカい女の子かな」

 

 その言葉に、この場に訪れた【アスクレピオス・ファミリア】の面々は、彼を巡りオラリオで起こる騒動が手に取るようにわかった。もう、彼は逃げられない。

 

「そうなのね。じゃあ、先輩としてこの言葉を贈るわ。身長170cmの女性は、身長(タッパ)はデカい美人がオラリオで待ってるわよ。後、おしりもいい形している事は保証してあげるわ。プルシュカの占いは、よく当たるって評判なんだから」

 

「お、おぅ。なんかよくわかんねーが。ありがとよ」

 

 自分の将来の運命をまだ知らぬ少年。

 

………

……

…

 

 神イザナミと神アスクレピオスが双方で改宗に合意し、実行される。

 

 羂索程の才能を手放す理由は、彼ら親子の才能を極東まで活かしきれないからだ。それに加え、【アマテラス・ファミリア】から要注意ファミリアに指定されている事が原因だ。正直、羂索程の人物がいれば一人で国家転覆もできそうだが、それでは眷属たちに迷惑が掛かるという。

 

 神イザナミは一つだけ羂索について、教えていない事がある。その頭の縫い目についてだ。いつ言い出そうか迷っている。しかし、そんなことは無用な心配であった。

 

「おやおやおや、羂索さんも中々素敵なお体をしております。プルシュカから聞きましたよ。頭部の方に魂があると……この場には、我々しかいませんので、どうぞ本来のお姿をお見せください。仲間になるのですから多少の秘密はあれど、共有すべきことは多いはずです」

 

「分かるのね。そう、こっちが本体。肉体は器に過ぎない」

 

 羂索が頭部の縫い目から糸を外し、脳を見せつける。その脳には口があり喋っている。まさに神の奇跡だ。

 

 神イザナミでも、羂索程の存在は他に見た事がない。人の肉体を乗っ取り、生き続ける眷属。改宗した後、直ぐに露見するとは思っておらず非常に申し訳ないと思う。だが、そんなことは実のところ些細な問題だった。

 

「なるほど、貴方は肉体派でしたか。実は、私は記憶派です。連続した記憶を持つ者こそ私である。この肉体は、魂が抜けた神の肉体を再利用しています」

 

 ボンドルドが仮面を外し、神アルテミスであることを明かす。

 

 神イザナミも驚いた。世界に。羂索のような存在が他にもいるのか。それにしても、神の肉体という割に混ざりものが多く、一部モンスターの尻尾もある。オラリオとは、怖いところだと本気で思っていた。人間が、神の肉体を乗っ取りモンスターとも融合して、人の記憶を継承している。どう考えてもトリプル役満だ。

 

 だが、ボンドルド達のターンは終わらなかった。

 

 ショウ・タッカー院長、涅マユリ院長、フェイスレス院長が各々自身を紹介するたびに、世界は広いと感じ入る。こんな厄ネタばかり集める【アスクレピオス・ファミリア】とは、世界征服でも企む悪の組織かと思わざるを得ない。その仲間に【イザナミ・ファミリア】も加わっているのだが。

 

 神イザナミは、心に誓う。誰に敵対してもいいが、決して【アスクレピオス・ファミリア】には敵対しない。敵対すれば、碌な未来が待っていない。この場の事は、死ぬまで口外しないと。

 

「私は、結構これでもドン引きされるかと思っていたけどマシなほうだったなんて。仲良くやっていけそうね。そうそう、実はオラリオに行く前に極東でやり残したことがあるのよ。オラリオに行くなら、決してファミリアにとっても損じゃないはず」

 

 【イザナミ・ファミリア】への最後の恩返し。それは、長年羂索という存在を認め匿ってきた神へのお礼でもある。それに、自分が不在になる事で今まで以上に苛烈な嫌がらせが起こらないように。

 

 それは、巨大派閥の主神であるアマテラスの封印だ。

 

 もともと、そういう計画は巨大派閥に反抗している極東のファミリアで計画されていた。国内の戦乱にだって深くかかわる派閥だ。それに加え、朝廷に蔓延る真っ黒な名家たちの存在。今までどれだけの人間が攫われただろうか。

 

 オラリオにも侵攻中である事で、ボンドルド達にとっても邪魔である事は確かだ。

 

 魔法大国(アルテナ)のように被害を出さず、最小限の被害でアマテラスだけ封印する事で神アスクレピオスも承認する。

 

 その日の夜には、【イザナミ・ファミリア】のホームでささやかなお別れ会が開かれる。ファミリアの医療を支えてきた一人である羂索とその子供の門出であり、皆が応援する。そして、オラリオでも頑張ってくれと。

 

 皆が布団に入り眠りにつく。畳の上に布団を敷いて寝るとは奇妙な感覚であると同時に、何やらわくわくしてしまう。プルシュカも初めての感覚で布団の中でもぞもぞと動きながらクルクル回転して遊んでいた。そして、最終的にボンドルドと同じ布団に潜り込む。そこが一番安心できる場所だからだ。

 

「パパ。お布団も結構いいね。……オラリオのみんな、無事かな?」

 

「彼等は強いです。魔法大国(アルテナ)が陥落したおかげで戦力の3分の1を失いました。そして、明日には更に、減ります。これで負けるような彼等でもありません」

 

 オラリオの冒険者は強い。だが、それでも未だに戦争が終わらないのには、理由があった。オラリオは、食料輸入を諸外国に頼っている。そして海上を抑えているのが攻めている大国だ。

 

 人間も神も食事をするからには、この方法はじわじわと効いてくる。

 

 オラリオの気候や土壌に適した作物があったにしても、成長するまでには時間が必要だ。それに特化した魔法を持つ者がいたとしてもオラリオで冒険者をやるより地方で農家をやるだろう。

 

 大軍を率いている大国側も同じであり、それを見逃す程オラリオの指揮官フィンやヘディンも甘くはない。

 

「パパ。あたしね、新しいお友達が出来たんだ。イザナミ様の所にもプルシュカと同じくらいの子供が居たんだよ。団長と副団長の子供だって言ったわ。名前は、カナエちゃんていうの。オラリオに帰ったらお手紙を送るの。極東が平和になったら、一緒にダンジョンにも潜ろうって約束したんだから」

 

「あぁ、裏金ご夫妻でしたね。【イザナミ・ファミリア】も本当に色々抱えていらっしゃいます。彼らは、ただの人間ではありませんでした。気配から察するに、大精霊とは言いませんが、高位の精霊をそれなりに食べた者です。神々が降臨する前から生きていると見て間違いないでしょう。だからこそ、お互い仲良くしたいものです。プルシュカも仲良くしてくださいね」

 

 ボンドルドは、内心思っていた。【イザナミ・ファミリア】の戦力だけで、極東の朝廷などどうにでもできるのではないかと。

 

………

……

…

 

 朝日が昇る。

 

 『極東』の巨大派閥【アマテラス・ファミリア】、今日が彼等の運命の日だ。

 

 高台から朝廷や停泊している船が見渡せる絶景。その美しい光景に感動するどころか、院長達は血管が切れそうなほどの光景を目にしてしまう。

 

「パパ、お船が沈んでる」

 

「フィアさん達から連絡がないまま、沈没。オラリオ時代から共に生き抜いた異端児(ゼノス)達が詰めていたのになぜ」

 

 そして、沈没させられた船からは、海覇王(リヴァイアサン)の蒼鰭(そうき)が持ち去られていた。人が苦労して手に入れた二度と手に入らない品物を奪い去るなど、許される事ではなかった。

 

 積み荷だって、半壊した魔法大国(アルテナ)の首都で購入してきたもので、全て海に沈んでいる。不幸中の幸いなのが、黒竜の血液だけは、院長達が分散して持ち歩いている事だ。

 

「ひで~、もしかしてさ。アンタたち……港に停泊してここまできたのか?」

 

「どういう事よ、悠仁!! あの船はね、皆で作った大事な船でホームなんだから」

 

 プルシュカが悠仁を問い詰める。

 

 他人事ではない。あれは、今や【アスクレピオス・ファミリア】の移動するホームそのものだ。

 

「悠仁。貴方も【アスクレピオス・ファミリア】になったのだから言葉に気を付けなさい。朝廷の目の前で、オラリオにいた【アスクレピオス・ファミリア】の船……しかも、リヴァイアサンのドロップ品まで使われていて見逃すはずないわ。朝廷の直属の部隊ならば、結界魔法で外部との連絡を遮断し、逃亡を防ぎ沈める事もできるわね」

 

 改めて考えれば当然だった。

 

 そもそも、ボンドルド達も今から朝廷に手を出そうとしている。それなのに、相手が何もしてこないはずがなかった。相手の方が一手早かった。それだけだ。

 

 極東側の言い分としては、オラリオと戦争しており、そこに所属していたファミリアが学区が保有していたはずのリヴァイアサンのドロップを持ってやってきた。しかも、船にはモンスターも乗船している。極東の中でも巨大派閥に合流しない潜在的な敵対ファミリアに接触している。

 

 寄港して降りた瞬間からボンドルド達は当然狙われていた。

 

 今は数十名乗船していたゼノス達の行方だ。物損は何とでもなる。だが、信頼できる部下たちは何物にも代えがたい。一緒に、黒竜討伐に協力してくれた彼等こそ、真の仲間である。

 

 ボンドルドとプルシュカが”星の羅針盤”を用いて、異端児(ゼノス)達の居場所を見つけ出す。それが示す方角は、朝廷。

 

 神アスクレピオスは、今まで言わなかったが今回だけは違う。

 

「ボンドルド。名誉毀損とか言われるから言いたくなかったんだが、ベル・クラネルはやはりお前の血筋だ」

 

「以前の身体ならまだしも、今はアルテミスの肉体なのです。行く先々でトラブルが起こる原因は、絶対他にあります。しかし、今はそんなことはどうでもいい。生きているなら間に合います」

 

 プルシュカが少しだけ気まずくなる。もしかして、あたしのせいなのと。

 

 神アスクレピオスの晩御飯は当面野菜だけになるだろう。いつも美味しい食事を振舞ってくれる可愛い眷属の心にダメージを与えた結果だ。

 

「酷いアスクレピオス様。プルシュカの事をそんな風に思っていたなんて、もう晩御飯作ってあげないんだから。お部屋の掃除も。全部自分ですればいいのよ」

 

「プルシュカ、私の配慮が足りていなかった、すまない。我々の仲間である異端児(ゼノス)達を助けに行くんだ。その為なら、私の名前なんて好きに使え。全てを許す」

 

 新入りの虎杖親子。本当に何をやってもいいんだと理解する。

 

 ちなみに、この親子もLv1で経験値の蓄積を続けていた。いずれ、解放する時を楽しみにするロマンが分かるタイプである。

 




オリジナルファミリアならば誰が所属していても問題ない!!
その為、団長と副団長も適当です。
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