ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

94 / 108
94:極東2

 『極東』において巨大派閥を誇る【アマテラス・ファミリア】。その本拠地である朝廷には、本日持ち込まれた戦利品の数々が並べられていた。そこに集まる神々は、神アマテラスからの御零れを授かろうと静かに待っている。

 

 オラリオからやってきた学区と特徴が酷似した大型船舶。港に停泊した時から目を付けられていた。ボンドルド達が馬鹿正直に【アスクレピオス・ファミリア】の保有船であると港の職員に告げたことで、すぐに朝廷へ情報が連携されてしまう。

 

それからは、神アマテラスの指示により強制徴収が始まった。船に乗っていた喋るモンスター達は貴重な研究資料とみなされ、生け捕りにされる。だが並のモンスターではないため捕獲側にも尋常ではない被害が出、朝廷の特務部隊の半数が死亡、残る半数も重傷で病院送りとなった。推定Lv.4(レベルフォー)以上の化け物を大量に乗船させて朝廷の目と鼻の先にやってきたのだ。

 

「これは宣戦布告と見て間違いない」というのが、巨大派閥の見解だった。

 

「すごい!! 喋るモンスター!? オラリオで噂になっているのは聞いていましたが、しかも美しい。これはコレクションに……」

 

「待て待て、アマテラス様が先だ。勝手に分けてしまえば後でお叱りを受ける。それに気を付けろ、オラリオ産のモンスターだ……殺してしまえば消えてなくなる。剥製にするなどできないから、生かして管理する必要があるぞ」

 

オラリオの外でLv.4(レベルフォー)相当のモンスターに対応するには、相当な戦力が必要となる。ファミリアの主力でもない限り対処は困難だ。

 

「それよりも、こちらの品々もすごいぞ。オリハルコン、アダマンタイト……モンスター達が装備していた第一級装備だ。それにエリクサーや高価なポーションも山ほどある。まさに宝の山だ」

 

「魔法大国(アルテナ)産の魔道具も数億ヴァリス分あるではないか! 現金もだ。一体どんな悪さをすればこれほどの財宝が集まるんだ。宝船だぞ」

 

【アスクレピオス・ファミリア】の拠点の船舶から回収された品々。まだ一部は海の底にあるため回収作業が急がれているが、まさに宝船というに等しい。一隻で数十億ヴァリスを超える資産価値があり、これを宝と言わずして何というか。

 

重要なことだが、これらは決して朝廷や巨大派閥の財産ではない。【アスクレピオス・ファミリア】が集めてきた宝なのだ。

 

 これが朝廷の実態であり、巨大派閥で利権を貪る神々だ。

 

彼らを見て捕らえられた異端児(ゼノス)達は、安堵した。所詮目の前にある財宝に目が眩む愚かな者達だと。異端児(ゼノス)は襲撃に際し、真っ先に行ったことがある。それは、各院長達からの私物や研究資料、集めていた物資を固有戦力に託すことだった。彼らが荷物を持って逃げられる時間を稼ぐ――それこそが異端児(ゼノス)の仕事だ。

 

 今回収された品々など、金があればどうとでもなる品々ばかりだ。後から幾らでも取り返しがつく。そして、何が大事であったか分からないように最後は、船を破壊して沈没させた。これで時間は十分に稼げる。

 

 集まった神々や朝廷に出入りする名家が取り分を決め始める。「自分たちはどれだけ人数を出した」「どれだけ死者が出た」「これまでどれだけ貢献したか」といった醜い争いだ。

 

『醜いわ。本当に醜い』

 

フィアは思わず本音を漏らしてしまった。下界の人間に対して一定の理解がある異端児(ゼノス)ではあるが、ここまで醜悪な存在を前にすると本音が隠せない。これが同じ人間なのかと。いつぞやボンドルドが言っていたように、人間こそ「喋るモンスター」であるという言葉が腑に落ちてしまう。

 

「喋った!? 喋れるではないか、この半人半鳥(ハーピィ)……決めたぞ、こいつは一条家が貰う。他の財などどうでもいい。喋るモンスター、これは使い道が色々あるぞ。五条家と先に取り分を相談しておくか。あいつらもこういうのが好きだからな」

 

 醜い豚……人を食べることがあるモンスターであっても、こんな腸まで腐ったような豚を食べたら食あたりを起こす。煮ても焼いても食えない存在が朝廷で権力を持つゴミ達だ。

 

『下界の豚。貴方達の行動が、どんな結末になるのか理解していないのね。助からないわよ。この命を賭けてもいい』

 

「いっちょ前に脅してくるな。この朝廷がある場所には賊など入り込めんぞ。アマテラス様を守るための何十もの結界魔法、常に500人もの兵士が詰めている。特務部隊の強さはLv.4(レベルフォー)相当で固められた精鋭だ……その実力はお前達もよく知っているだろう」

 

フィアはそれから更なる威嚇の言葉を待ったが、相手は何も話さない。まさかその程度誇って終わりなのかと、呆れすら覚えた。

 

『深層級のモンスターを何匹も庭で放し飼いにしていたり、オリハルコン製の扉で侵入者を防いだり、初見殺しのトラップがあって適切な手順で解除しないと死んだり、水に扮した生命体がいて飲んだら体内から侵食されて死んだり、草むらに潜んだ虫が体内に入り込んで卵を産み付けられ脳を食われたりするような罠はないの?』

 

「そんなのあるわけないだろう! 朝廷でそんなトラップを仕掛けていたら毎年何人が死ぬと思っている! オラリオにだってそんなトラップがあってまるか!」

 

朝廷にも侵入者防止用のトラップはある。だが『不屈の花園』に比べれば可愛いものだった。異端児(ゼノス)にとっての「トラップ」の基準があそこにあるため、この朝廷がどれほど無防備かがよく分かった。

 

 その時、朝廷に張り巡らされた結界魔法が貫かれた。

 

◇◆◇◆

 

 先に手を出された。

 

つまり、その先は何をやっても許されるということ。プルシュカの無尽鎚(ブレイズリーブ)が火を噴く。数枚の結界をぶち抜き、内部の建物を容赦なく破壊する。

 

「すごいでしょ。こんな結界なんて、プルシュカの前じゃ紙屑も同然なんだから」

 

 パチン

 

ニーナが錬金術で同じく十枚近くの結界を消し飛ばす。シングルアクションの指パッチンで起こる爆風と熱により、周囲の建物の窓ガラスが割れ、壁にひびが入った。

 

「私も負けてないよ。えへへ」

 

虎杖悠仁は、今まで自分は周りと比べてちょっとだけ特別だと思っていた。身体能力だって高く、耐久力にも自信がある。それに呪具という特別な物が扱える。だが、自分より年下の女の子たちが強すぎてびっくりしていた。

 

 オラリオのLv1の女の子ってこんなに強いのかと。極東の地でも噂される剣姫とかLv6。じゃあ、この子達の数十倍強いとか、人間じゃねーーと。

 

「待って待って、なんでそんなに強いんだよ! くっそ、負けてらんねー! 魔法ってんなら、これで一発だっつーの!」

 

 何でもありの殺し合いだ。今までの鬱憤晴らしになる。人殺しがどうとか、そんなのは既に経験済だ。戦乱の極東において、殺しの経験がない者を探す方が難しい。

 

特級呪具「天逆鉾」。十手に似た特徴的な形をした短刀で、刃に触れた発動中の魔法を強制解除させる効果を持つ。

 

そして特級呪具「万里ノ鎖」。一方の末端を観測されなければ際限なく伸び続ける鎖で、フックが付いており、天逆鉾を取り付けて使用する。

 

 フィジカルが化け物級である虎杖悠仁がそれを振り回し、遠心力の力で投擲する。数十枚あったはずの結界魔法が全て解除される。ドヤ顔でプルシュカとニーナに実力を見せつける新入りであった。

 

「な、なかなかやるわね! でも、これで勝ったと思わないことよ、悠仁!! プルシュカにだって特級遺物があるんだからね! 種類は違っても凄いんだから! こっちも次は特級で勝負するんだから」

 

「二人とも喧嘩しないで~! 早くみんなを助けに行こう」

 

 そんな子供達の活躍を眺める大人たち。

 

「自慢の娘です」

 

「同じく」

 

「自慢の息子ね」

 

それぞれが散って処理を開始する。ボンドルドは異端児(ゼノス)を救いに、ショウ・タッカーは名家を皆殺しに、羂索はアマテラスを封印しに、涅マユリとフェイスレスは巨大派閥に属する神々と眷族の処理に向かう。

 

 全ての事が同時進行で処理されていく。敵側の対応力がこれを下回っていれば、全てが後手に回る。

 

ボンドルドは歩きながら、すれ違う者達を切り裂き進んでいく。その歩んだ先にあるのは、自分達のもとから攫われた異端児(ゼノス)達。彼らこそ財である。だからこそ、それを傷つけた者達を許すつもりは毛頭なかった。

 

重厚な扉であっても、千人楔(ヘルスジャンキー)による千人力を超える腕力で引きちぎられる。極東においてオリハルコンやアダマンタイトは希少品であり大量には存在しない。鋼鉄製の扉など、オラリオの冒険者なら破壊できる者が数多くいる。

 

檻に囚われ、片腕を切断された状態のフィア。逃亡できないよう、そのような凄惨な処置が施されていた。

 

他にも人蜘蛛(アラクネ)のラーニェは全ての足が切断され、逃げ出せないようにされていた。蜘蛛の糸が出る穴も焼いて塞がれており、酷い有様だった。

 

「皆さん、助けに来るのが遅くなり申し訳ありませんでした。ご安心ください、ここからは私が責任を持って皆さんを解放します。……プルシュカ、誰一人として朝廷から生かして帰してはなりませんよ」

 

「わかったわ、パパ。でもちょっと手が足りなさそうだから、どの子までなら呼んでもいい?」

 

確かに朝廷にいる人数は多い。錬金術で焼き尽くせば手早いが、手足を失っている異端児(ゼノス)まで焼け死ぬ可能性がある。それに、朝廷に回収された物資もできれば無傷で取り戻したい。

 

「この国は少し度が過ぎました。テンマクまで……と言いたいですが、我々がこの場にいる間は止めておきましょう。カッショウガシラまでです。あの程度ならば我々だけで対処できます」

 

『ボンドルドさん、ありがとうございます。そして、ごめんなさい、船を守れませんでした』

 

フィアの檻を破壊し、痛々しい切断面を確認する。切断された片腕は灰になっていた。ラーニェも同じく歩けない。ボンドルドは二人を抱きかかえ、歩ける異端児(ゼノス)達には仲間を支えながら付いてくるよう指示した。

 

抱きかかえられるフィアは幸せそうな顔をしていた。雌としての本能が強い雄を求めるのは自然なことだ。この光景を【アスクレピオス・ファミリア】の主神アスクレピオスが見たら、また名誉毀損のような発言をするだろう。

 

………

……

…

 

 そのころ、最深部に辿り着いた大神アマテラスが控える座。

 

羂索がここまで楽に来られたのは、警備が薄かったことと、騒動が大きくなり名家達の対応がそちらに追われていたからだ。そもそも、大神アマテラスがターゲットにされるなど彼らは思ってもいなかった。

 

「悪いね。極東を出ていく前に、どうしても懸念を無くしておきたくて。アマテラス様、悪いけど封印されてくれませんか。オラリオに着いたら余すことなく調べて分解して再利用するので……『獄門疆』開門!!」

 

「なんだ、この気持ち悪いマジックアイテムは。虎杖香織、今なら不問にしてやる。わらわの元に来い。お前の才能を失うのは惜しい。人が作ったマジックアイテムで神を封印できるはずもなかろう!」

 

 羂索は、呆れていた。

 

人間はいつまでも神の遊び道具ではない。人は神の力がなくてもやっていける。それに、才能を十分に使い切るための最高の環境へ先日転職したばかりだ。彼らと共に進めば、さらに高みへ辿り着ける。

 

 院長各位が持つ素晴らしい知見や設備、そしてオラリオという特殊な環境で自由な発想の下で研究ができる。だから、その身体が欲しい。神の肉体を持つボンドルドがいる。神の器は人が乗っ取れる事が証明された。

 

 ならば、自らが知る最高の器が欲しいと思うのは人の性だ。

 

「アマテラス様、貴方の目は節穴です。子供ですら私のことを見抜けたのに、いまだにこの肉体が本体だと思っているとは。覚えていませんか? この縫い目を……もう100年以上前ですよ。貴方が降臨した極東の地で、加茂憲倫という男に世話になった記憶はありませんか。あれが、私ですよ」

 

 カパっと頭蓋骨を開き脳みそを見せる。

 

 その瞬間、アマテラスは過去を思い出した。この地に降臨した際に、世話になった加茂家。

 

「お、おまえは!! 何で生きている」

 

その記憶の回想が仇となった。体感時間1分を数メートル範囲内に収めることで対象を封印できる凶悪な特級呪具。それがアマテラスに纏わりついて拘束する。もはやこれで『神威』すら発動できない。それどころか、封印が完了すればこの世から隔絶され『恩恵(ファルナ)』が途絶える。

 

「ええ、死にかけましたよ。ですが、こうして生き残った。イザナミ様に拾われなければ死んでいたでしょうね。たかがモンスターに人の子供を宿す実験をしていただけだというのに……未知への挑戦、人の可能性を引き出す――神である貴方がそれを否定してどうするのです」

 

「なにが『受胎九相図』だ! そんなものを世に出すわけにはいかん。だから殺した……殺し損ねたがな! そんな研究などわらわだけでなく、誰も認めるものか!」

 

 神アマテラスが全否定するその研究成果。

 

だが、それを求める異端児(ゼノス)がいる。人の子を産みたいと思うモンスターがいるのだ。素晴らしいことだ。新たな生命を産み出すことで未知が生まれるのだから。

 

「はははは、貴方に認められなくても別に構わないわ。アマテラス様の研究は、他の研究が終わってからじっくりとね。大丈夫、神の肉体は人でも奪えることが分かったから安心して。大事に使うからさ。言い忘れたけど、これに封印されると『恩恵(ファルナ)』もロックされるからね」

 

「待て!! 止めよ! そんなことをしては眷族たちが――」

 

他国に進軍している眷族など羂索には関係ない。「閉門」と一言唱え、神を呪具の中に封じ込めた。

 

 パチパチと拍手喝采される。いつの間にか集まっていた子供達。神を封印する様子をしっかりと目撃していた。

 

「すごーーい! 神様を封じちゃった! しかもこんなに小さくなるなんて、特級呪具やるわね。さぁ、早く行こう。タマウガチやカッショウガシラを呼んだから、プルシュカが一緒に安全な場所まで案内してあげます!」

 

「俺たちもちょっと特殊だと思っていたけど、プルシュカもすごいんだぜ。訳が分からないっていうか、変な生物をドンドン呼び出すんだ。しかもなんか微妙に強いしさ」

 

朝廷があった都が「死の都」と化すまで、そう時間はかからなかった。全てを回収し、奪われた以上の物資を拾い集めたボンドルド達。船の修理や長期航海の準備などがあり、神アマテラスの封印から三日目にして、ようやく極東を後にするのだった。

 

再び戦乱となる極東。かつての権力者であった一条家から五条家は没落した。主戦力を失い、後ろ盾である朝廷も滅びた。巨大派閥の、アマテラス以外の神々は『賢者の石』の資源として利用された。捕らえるにしても数が多すぎて邪魔にしかならないからだ。

 




今ごろ、オラリオではアマゾネスたちが男狩をしているのだろう。

それを見ているオラリオ達。あいつ等、戦場でナニやってんだとかいってそう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。