ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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ここまできたら、闘国(テルスキュラ)の状況も知りたいかなと。


95:闘国(テルスキュラ)

 オラリオ……ダンジョンを有する世界中の冒険者が集う迷宮都市。

 

 闇派閥(イヴィルス)と戦い崩壊しそうになること、数度。

 

 戦火に巻き込まれ焼き尽くされること、数度。

 

 とある冒険者の”幸運”により滅びそうになること、1度。

 

 だが、それらをすべて跳ねのけて生き残った。焼け野原からの復興作業が進む。1年前に三大国からの侵攻を退けたオラリオは、彼らの祖国に賠償を求めることはなかった。そもそも、2つの国家は実質的に消滅しており、賠償を求める先が存在しなかったというのが正しい。

 

 戦争中に突如恩恵を失った魔法大国(アルテナ)。あのゼウスにも匹敵する大神が治めていたが、国家の経済力のみならず全国民が魔導士であり、世界に魔道具を供給する大国であった。それが崩壊したことによる被害は、一国にとどまらない。

 

 同じく戦争中に突如恩恵を失った極東。巨大派閥のアマテラス率いる多数の神の眷属が三日間でほぼ恩恵を失った。朝廷があった場所では、大災害に見舞われたかの如く全てが灰になっていた。生き残った者曰く、異形のモンスターが多数出現して皆殺されたと。

 

 前線に出ていた『恩恵』を失った冒険者たちは、闘国(テルスキュラ)の戦士に肉壁にされたり男狩りの対象にされたりと、むしろオラリオの冒険者の方が彼らの身を心配したほどだ。

 

 バベルの上層階から復興様子を眺める神達。その様子を見た神フレイヤは呟く。

 

「戦争が終わってから戻ってくるファミリア……図々しいわね。何の苦労もしらないくせに。崩壊した魔法大国(アルテナ)や極東からも移住してくるファミリアがいるんでしょう。神会(デナトゥス)で荒れるわよ、ロキ」

 

「せやかて、仕方ないやろう。ダンジョンで増えすぎたモンスターを間引きするのにも、数は要るんや。オッタルやフィン達を上層や中層で遊ばせておくわけにもいかん。それにな、戦争前に出て行ったといえば、アスクレピオスのところも同じやろう」

 

 オラリオにホームを構えるファミリアの主神は、すべて神会(デナトゥス)への出席が義務付けられている。オラリオの文化であり伝統でもあるが、それを好ましく思わないファミリアもいるため、色々と問題が生じていた。

 

 だが、「嫌なら出て行け」という一言で皆が従う。都市最強の2大派閥【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】に正面から逆らうバカはいない。

 

「ねぇ、ロキ。戦争も終わったし、主神としてそろそろ向き合わないといけない問題があるって気が付いているかしら。ダンジョン深層の探索よりずっと問題なことよ。眷族たちの婚活問題……エルフは多少先延ばしにできるからいいわ。でもヒューマンは駄目よ。あと、リヴェリアのことをどうするのよ。彼女が結婚しないと、あなたのところのエルフが皆結婚できないわよ」

 

「リヴェリア・ママはもうママやから結婚なんてせーへんぞ。あと、アイズもウチが認めた相手としか許さへんで。ベートはいい線いっとるんやが、アイズが興味なさすぎて絶望的や。……あれ?ウチのところってもしかして、独身しかおらんくないか」

 

 全ファミリアに言えることだが、オラリオのファミリアは実質独身限定。「おひとり様ファミリア」だと外では言われている。不名誉なことだが事実だった。美女や美少女が沢山いるのに、全員相手がおらず、交際経験もゼロという致命的なデバフ持ちばかりだ。

 

 冒険者はいつまでも若くはない。結婚して所帯を持つ幸せも存在するのに、彼らはそれを知らない。オラリオの地で一般人を除いて、唯一の子持ち冒険者だったのが【アスクレピオス・ファミリア】のメンバーたちだ。

 

 子供とはいいものだ。子供の素晴らしさを知っている【フレイヤ・ファミリア】では、ファミリア内での恋愛を許容している。むしろ望ましいとすらしていた。

 

「あら、貴方の所ってアナキティとラウルだったかしら?仲睦まじい関係だっていってなかった?」

 

「……それな。この前の戦争でラウルが闘国(テルスキュラ)に捕まったやろう。救出された時には絞り尽くされて、アナキティとの関係がギクシャクして進展がま~ったくないんや。もう1年やぞ。子供こさえていてもいいちゅーねん。それに備えて、再建したホームじゃ託児所まで作ったんやぞ。安心してダンジョンに行けるように。その施設がまだ誰にも使われへんのや……今じゃ荷物置き場にされとるんやぞ」

 

 闘国(テルスキュラ)との戦いは酷いものだった。アマゾネスたちの目的は、オラリオの屈強な冒険者という名の資源……男狩りだった。捕まった男たちは、未来のアマゾネスを生むための種馬にされた。

 

 彼女たちに捕まったら最後、絞られるだけ搾り取られ……お土産を渡されて五体満足で返される。そのお土産とは、魔法大国(アルテナ)や極東から派遣された軍隊が持っていた様々な物資だ。

 

 五体満足で帰れるだけでなく、褐色肌の美人揃いのアマゾネスと濃厚な子作りができてお土産まで貰える。それが分かると、露骨にオラリオ冒険者たちの攻撃が緩くなった……特に男性を中心に。あの【ガネーシャ・ファミリア】の眷族ですら、「ここは俺に任せて先に逃げろ」と言って自ら捕まった第一級冒険者がいるほどだ。

 

 まさに闘国(テルスキュラ)の一人勝ちだった。かの国は、次世代で更なる強者が生まれるだろう。オラリオで鍛えられた冒険者の種を持ち帰り自国で育てる。そして次世代も同じことを繰り返し成長していく。

 

「懐かしいわね。でも、なんで1年も経っているのに進展が無いの?他に問題があるんじゃないかしら。別に、被害者はラウルだけじゃなかったでしょ」

 

「それがな~……闘国(テルスキュラ)からラウル宛に『あなたの子よ』って手紙が届くんや。『大きくなったらオラリオで会わせてあげる』とかでさ。『養育費を払ってね』と言われて、あの阿保はマジで払ったんや。なにが『僕の子かもしれない』だ。その時、横にアナキティが居たんやぞ。ウチは、アナキティに何の声も掛けられんかったわ。主神失格やったわ」

 

 闘国(テルスキュラ)は狡猾だった。食い散らかして、勝手に産んで、養育費を請求する。しかも、ちゃんと子供を連れて会いに来てくれる。自分の子供を見た男性は脆い。そのまま絆されて、闘国(テルスキュラ)に一緒に帰国してしまう。すべては計算し尽くされた行動だった。

 

「馬鹿じゃないの。どう考えてもラウルの子供じゃない確率の方が高いじゃない。状況的に誰の子供か分からないのに、なんで信じているのよ」

 

「フレイヤ、世の中には恐ろしい魔法があるんや。闘国(テルスキュラ)のカーリーが手に入れていた使用限度がない魔導書……『本当のパパが分かる優しくない魔法』とかいうクソみたいなものがあるんや。何処からともなく現れた銀髪のエルフが、昼食をご馳走してくれたお礼において行った品らしいで」

 

 使い道が局所的すぎる魔導書だ。攻撃、回復、防御などではなく、父親を特定するためだけの魔法。冒険者にとって、こんなくだらない魔法で枠を埋めることになったら最悪だ。

 

 だが、それは使い方次第である。

 

「どこのエルフか知らないけれど、使用限度がない魔導書なんて神器レベルのものをぽんと渡すなんて……どこかの王族かしら」

 

「一応、リヴェリアにそれとなく銀髪のエルフについて聞いてみたんやが、心当たりはなさそうやったで」

 

 

 オラリオで食われた男性冒険者たちが、必死にダンジョンで稼ぎを伸ばしている理由がハッキリする。遠い国に住む妻と子供のため、仕送りを頑張る。その姿は実に素晴らしい……仕送り先が昨年攻めてきた闘国(テルスキュラ)でなければ、だが。

 

 戦争には勝ったが、勝負には負けた。少なくとも、神ロキはそう思っている。

 

「もう、アマゾネスを蛮族なんて呼べないわね。私のところの強靭な勇士(エインヘリヤル)も何人か食われたから、その手に乗らないよう注意喚起を出しておくわ。しかし、どうしようかしらね……アマゾネスの脅威もあるから早く所帯を持って欲しいし、第一級冒険者以上を対象にした婚活パーティーでも開く?男性は一般女性との結婚もできるけれど、女性は一般人男性じゃ挿さりもしないし、自分よりレベルが低いと捩じ切っちゃうんでしょ……圧力で」

 

「なにもそこまで強靭にならんでもええのにな。『恩恵』の弊害やな。フレイヤのところも男幹部か~……オッタル、アレン、ヘディン、ヘグニ、あとガリバー兄弟。全員、フレイヤに妄信しとるやん。そんなのと付き合える女なんてどこにおるねん。お前さんのところのファミリア内部で見つからないなら、誰も居らんで。女幹部のヘイズやメルーナなら、ウチの男どもも大歓迎するで」

 

 フレイヤは、【ロキ・ファミリア】の男幹部を思い浮かべる。フィン、ガレス、ベート……ダメすぎる。それはロキも十分承知していた。つまり、第一級冒険者なんて成長しきる前に異性を捕まえておかねば、生涯独身確率が極めて高くなるのだ。

 

 この問題は、女性のみで構成されている【アストレア・ファミリア】では致命的な問題だ。それを無自覚に理解していたからこそ、野生の勘でアリーゼは、有望株であったボンドルドを狙っている。

 

 戦争より重大な問題。

 

 一難去ってまた一難。今度は力では解決しない。暴力がすべてを解決すると思っていたのは間違いだと理解する。今の冒険者は、「恋愛はタイパが悪い」「コスパが悪い」など、良くない風習が蔓延してきた。

 

 歓楽街が流行るのには、それなりの理由があったという事だ。

 

 1年経てば、眷族たちは1歳歳をとる。それは不変の事実だ。ヒューマンや獣人のタイムリミットは短い。それまでにどうにかしてこの問題を解決するのが主神の仕事だ。

 

 オラリオに居るほとんどの主神が、この問題を棚上げしている。臭い物に蓋をして、永遠に封印し続ける。眷族たちを幸せにしてあげたいフレイヤ。燃えるような恋を経験させてあげたいと。

 

 ダイヤモンド・サンドペーパーで尻を拭いても無傷な冒険者に幸せになってほしいと本気で思っている。最近では、【フレイヤ・ファミリア】の女性用お風呂には、垢すりとしてダイヤモンド・サンドペーパーが常備されている。フレイヤは驚愕した。これで身体を擦っても無傷なのかと。事実ヘイズの背中には傷ひとつ付かなかった。

 

 結論が出ないまま、神ロキと神フレイヤはその場を分かれた。

 

 夕暮れが沈む最中、フレイヤはバイトの時間を思い出し、豊穣の女主人に向かう。彼女がもう少し、夕日を眺めていたら遠くに見える大型船に一早く気がついただろう。

 




(|)「子供が欲しいですか、簡単ですよ」

(+++++)「簡単ですね」

とか、言い出すよ。



さて、そろそろ終わりの完結の足音が…。
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