ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:新グロモント

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97:アスクレピオス・ファミリア2

 約1年半ぶりにオラリオへ帰還したボンドルドたち。

 

 彼らを待ち受けていたのは、お先真っ暗なオラリオの現状だった。元々低かったオラリオの出生率は、驚異の0.2だ。しかもそれは、貧民街であったダイダロス通りの住民における数字だ。冒険者の子供に至っては、プルシュカやニーナの世代を最後に一人として産まれていなかった。

 

 実に恐ろしい事態である。

 

 もともと外部からの人口流入に支えられている悲しい街であったが、先日の戦いでオラリオが焼け野原となったことでダイダロス通りは完全に消滅した。当然、そこに住んでいた住人たちは生活が成り立たなくなり、オラリオを去っていった。つまり、現在のオラリオにおける出生率は……前人未踏の「0.0」。この1年半、誰も子供を産んでいないのだ。

 

 どこの世界に、出生率が0.0の世界有数の大都市が存在するだろうか……それがここ、オラリオであった。

 

 今はもう存在しない三大クエストの黒竜討伐よりも、まず解決すべき火急の問題がここにある。現在の冒険者たちの質は極めて高い。彼らの優れた遺伝子を後世に託さずしてどうするのか。万が一の事態に備えて未来に保険をかけるのも、冒険者としての大切な仕事ではないだろうか。

 

「おやおや、これは困りましたね。戦争中はまだしも、終戦から1年が経過しても新生児がゼロとは……オラリオ生まれの最年少がプルシュカたちになるとは思いませんでした。これはテコ入れをするしかありませんね」

 

 “オラリオ最後の砦”……彼らこそが、オラリオの出生率を上げられる唯一の存在だ。まさか、そういう意味で最後の砦と呼ばれることになるとは、今まで誰も想像していなかった。ボンドルドとショウ・タッカーは定期的にギルドの会議室を借り受け、冒険者たちに家庭を持つ大切さと子育ての意義を伝える場を用意することにした。

 

 プルシュカやニーナがその場に同席することで、参加者が少しでも子供を欲しいと思えるように配慮された。こうして、第一回目となるボンドルド主催の婚活・妊活・結婚相談会が開催される運びとなった。参加は事前登録制であり、希望者が多い場合はギルド側で厳正な抽選が行われる手筈となった。

 

 

 開催まで2週間という期間があったため、ギルドの掲示板には【アスクレピオス・ファミリア】のボンドルド院長主催による相談会の告知が大々的に掲出された。やがて尾ひれ背ひれがつき、「参加すればプルシュカが良い男を紹介してくれる」といった、嘘のような本当の噂まで広まっていく。シルが極東からのイケメンとデートしている姿をこれよがしに見せつけつつ、「手を出したら殺す」と威嚇しながら宣伝し、「プルシュカの紹介なのだから、彼女の顔を潰すような真似をしたらさらに容赦なく殺す」とまで念を押していたのだ。

 

 その噂の原因を作った女神フレイヤに文句を言うため、プルシュカが世界旅行の大量のお土産を携えて【フレイヤ・ファミリア】のホームへ向かったのだが……そのまま丸一週間も帰ってこなくなってしまう。毎日、【フレイヤ・ファミリア】の幹部たちが交代で無事の報告に訪れるとともに、虎杖悠仁なる人物の実力を見極めるための力試しが連日繰り広げられていたのだ。

 

 男同士の打ち解け合いは存外簡単なものだった。いわゆる拳で語り合う関係である。もちろんLv.(レベル)差はあれど、それを感じさせないほどの規格外のフィジカル。それに加え、呪具という特殊な武装を使いこなして格上との差を埋めていく。勝っても負けても相手を褒め、良い点を見つけて仲良くなる。昼飯を一緒に食べに行けば、帰ってくる頃にはすっかり親友になっている。彼のコミュニケーション能力もお化け並みであった。

 

………

……

…

 

 ようやくプルシュカは自分のホームへ帰ろうとした。だが、彼女に懐いた【フレイヤ・ファミリア】の団員たちがそれを許さない。成長したプルシュカのパワーをもってしても、第二級冒険者や第一級冒険者……さらにはLv.7(レベルセブン)のヘグニまでもが全力で引き留めにかかるため、力負けしてしまうのだ。

 

「今日こそは、パパのところに帰るの。は~な~し~て!」

 

「プルシュカちゃんのお部屋はここにあるでしょう? だから、あと数日だけいてちょうだい。今見せてもらっている回想器(ミサグラファ)が終わるまででいいから。1年半前の深層遠征時の記録なんて見せられたら、最後まで見ないと気が済まないの」

 

 お土産を渡してすぐ帰るつもりだったプルシュカだったが、こうして足止めを受けること数日。

 

 1日程度ならと油断したのが運の尽きだった。深層の映像を音や匂い、臨場感まで伴って再現できる遺物は、プルシュカかボンドルドにしか扱えないのだ。

 

 数日経ってもプルシュカが帰らないことを心配したニーナが【フレイヤ・ファミリア】のホームまでやってきたが、彼女もまたミイラ取りがミイラになるハメとなった。ファミリア全体から全力でおもてなしをされ、ご機嫌なフレイヤ様自らにもてなされてしまっては、帰れるはずもなかった。

 

「今日はダメなの! パパがギルドで相談会をやるから、プルシュカも出席しないといけないんだから。そんなことをしている暇があったら、皆もいい人を探さないと手遅れになっちゃうわよ? パパの研究によれば、10代を過ぎたら子供を作るのが大変になるって……あ、ヘイズお姉ちゃんが血を吐いた!?」

 

「ぐはっ……! 私だって、子供が欲しいと思ったことくらいあるわよ! でも……私には蘇生魔法なんてものがあるから、付き合ってくれる男なんて寄り付きもしないのよ。そりゃあフレイヤ様のことは崇拝しているわ。でもね、いい年になって女の幸せも欲しいって最近思うことが増えてきたんだからね……! もうちょっと言葉には気をつけて、プルシュカちゃん。正論は人を深く傷つけるのよ……回復魔法でも癒せないんだから!」

 

 ヒューマンの女性陣が何名かショックで倒れ込む。

 エルフと違い、ヒューマンには容姿が衰える年齢がある。その上、毎年若く魅力的な女性が外部からやってくるのがオラリオだ。男性という生き物は若い女性が大好きである。例え永遠の愛を誓ったところで、目移りしてしまうのが関の山だろう。

 

 ましてや、ヘイズと釣り合う男性などこの街全体を探しても片手で足りる。

 

 これまでにも数々の王族から交際や求婚の打診が寄せられていたが、それらはすべて女神フレイヤによって却下されてきた。彼女に釣り合わないという理由でだ。そもそも、一度も会ったことのない男からいきなり求婚されても、ヘイズとしても困惑するばかりである。

 

「そっかぁ、良い男が欲しいんだ……【フレイヤ・ファミリア】の中にはいないの? 天下の大派閥じゃない。フレイヤ様もファミリア内での恋愛を推奨しているって言ってたわよ? 成果はゼロみたいだけど」

 

「プルシュカちゃん……実は男の子だったりしないの?」

 

 ヘイズはすでに派閥内での恋愛を諦めていた。そもそも【フレイヤ・ファミリア】への入団条件は、神フレイヤを崇拝することから始まる。美しく永遠に若々しい女神フレイヤは、街娘シルとしての姿と女神としての姿を使い分け、男性眷属たちの脳を焼き尽くして楽しんでいる。

 

 結果、性癖がねじ曲がった手遅れな男たちばかりが残ってしまった。

 

 だからこそ、もしプルシュカが男であったなら神フレイヤも交際を認めるだろうと、血迷った期待をしてしまったのだ。まあ、そんなことが実際に起きれば派閥間戦争が勃発するレベルの事態だが。

 

 ここまで追い詰められた発言をするヘイズにも無理はない。彼女は現在19歳。そして間もなく20歳の誕生日を迎えようとしていた。19歳と20歳……たった1歳の違いでしかないが、年頃の女性にとっては天と地ほどの差がある。この世界において、20歳を超えて独身でいれば「行き遅れ」と呼ばれても文句は言えなかった。地位も名誉もすべてを手に入れたヘイズだったが、唯一パートナーだけが手に入らなかった。

 

「昨日も一緒にお風呂に入ったじゃない。プルシュカは女の子だよ……一応確認だけど、ヘイズお姉ちゃんは男の人が欲しいの? それとも子供が欲しいの?」

 

「それって何か違うの……? ……こ、子供」

 

 その答えを聞き、プルシュカは少し首をひねって考え込んだ。そして、にっこりと微笑む。

 

「それなら何とかなるかも! 後でパパに相談してあげるね。とりあえず、一緒に相談会に行こう? 早くしないと遅刻しちゃうから!プルシュカが枠に捻じ込んであげる」

 

「養子はちょっと嫌かな……できれば、女に生まれたからには自分でお腹を痛めて産んで育てたいの。子供と一緒にダンジョンに行ったりして……プルシュカちゃんたちを見ていると本当に思うのよね。親子でダンジョン攻略ってすごく楽しそうじゃない。子供の成長を一番近くで見られるのって、きっと幸せなことだと思う」

 

 子供は欲しいが養子は気が進まない。我が子を産みたいが相手の男がいない……など、女性たちの要望は実に多岐にわたった。もちろん男なら誰でも良いわけではない。彼女たちは口を揃えて「普通の男で良い」と言うが、彼女たちが求める婚活シートの全項目で「普通」を満たせる男性が、どれほど希少で「普通ではない」存在なのか、本人たちは気づいていないのだろう。

 

 こうしてプルシュカに連れられ、何名もの女性たちがボンドルド主催の相談会会場へと引っ張られていくこととなった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 会場となったギルドの会議室は、超満員御礼の熱気に包まれていた。

 

 わずか30席の募集枠に対して、実に500名近い応募が殺到。ギルド職員たちが厳正なる抽選を行う事態となった。不正されないよう、複数の冒険者および神々の立会いのもとで公開抽選が実施され、幸運を射止めた男女がこの場に集結した。

 

 それを見てボンドルドが思った感想。

 

「ここに集まった皆さん同士で、まずはお付き合いから始めてみてはいかがでしょうか? 同じオラリオの冒険者同士、お互いの顔を知らないはずもありませんし……無理ですか。はい、分かりました。私は皆さんに対して失望しています。オラリオの出生率は、この1年間でまさに0なのです。これから、私どもが用意したチェックシートに回答していただきます。その結果に基づき、希望のある組と希望のない組に分類します。希望のある組は、プルシュカからお付き合いの基本から学んでください。希望のない組には、私が最終手段をお伝えします」

 

「安心してね! 簡単なチェックだから不合格になるなんて滅多にないんだから。頑張ってね、ティオナお姉ちゃん、アイズお姉ちゃん、アリーゼお姉ちゃん、ヘイズお姉ちゃん……あ、緑のお姉ちゃんはテストを受けなくても大丈夫だよ。パパが個別で対応するからね」

 

「なっ!? 100歳だから不合格だとでもいうのか!?」

 

 そうではない。エルフの王族に見合うお相手を探すことが極めて困難である、という現実的な理由からだ。そのため、最初から別室にて最終手段を提示することになったのである。

 

 まるで腫れ物でも扱うかのように退場させられる緑のエルフ。個人情報保護の観点から名前は伏せられているが、彼女自身も大いに焦っていた。血筋的にも年齢的にも……実質的に娘のように育ててきたアイズと一緒にこの場に参加している時点で、色々と察せられるものがある。

 

 何が悲しくて、【ロキ・ファミリア】の頂点に君臨し都市最高の魔導士とまで称される王族の彼女にこのような残酷な現実を突きつけなければならないのか。ボンドルドは心底疲れ果てていた。すべては神ロキの体たらくが原因であった。

 

「ハッキリ申し上げます。あなたに釣り合う男性は、このオラリオには存在しません。もし意中の相手がおられるのでしたら、今すぐ仰ってください。私がお伝えする最終手段は、本当に最後の最後の手です。墓場まで秘密を持っていく覚悟がなければお話しできません。倫理的にも非常に重大な問題を孕んでおりますので」

 

「そこまでのことなのか……残念ながら、意中の相手などいない。仮にいたとしても、私には身分がある。軽率に選べば、オラリオ中のエルフから命を狙われかねんからな……」

 

 ボンドルドもその事情は痛いほど理解していた。エルフ族における王族信仰は根深く、下手に相手を選べば男性エルフのみならず女性エルフからさえ嫉妬と怒りの標的にされるおそれがある。

 

 唯一、オラリオで条件をクリアできそうな存在といえばヘディン・セルランドくらいのものだ。彼ほどの格と実力であれば、オラリオにいるエルフたちも満場一致で認めざるを得ない最低ラインを満たしている。つまり、彼が足切りラインだ。

 

「そうですか。では、最終手段をお伝えします。ここで聞いたことは神にも親友にも、誰一人として明かさず墓場まで持っていくと、その名に誓っていただけますか?」

 

「……誓おう。アールヴの名に懸けて」

 

 ボンドルドは彼女の言葉の真偽を確かめ、そこに嘘偽りがないことを確認した。そして、あらかじめ「希望のない組」のために準備していた極秘資料を取り出した。

 

「いくつか方法があります。どれもあなたの子供を作ることができる確実な方法です。まずはプランAから説明しましょう」

 

 【プランA――代理母出産】

 被験者の卵〇を採取し、第三者の精〇を用いて体外受精を行う。その受精卵を代理母の胎盤にて育成・出産させる方法。オラリオどころか、この世界の常識を超越した技術である。この方法によって誕生したのがプルシュカであり、すでに実績のある確実な手段だ。

 

 【プランB――新鮮胚移植】

 被験者の卵〇を使い、第三者の精〇を用いて体外受精を行う。その受精卵を被験者本人の子宮へ戻して育てる方法。自らの体内で我が子を育てるため、母親としての実感を強く得られることから、女性には特にお勧めできるプランである。

 

 【プランC――単性体外受精】

 被験者の卵〇を使い、“賢者の石”の触媒作用によって卵〇の遺伝情報から人造精〇を精製する。それを用いて受精卵を作り出し、代理母または被験者本人の胎盤で育てる方法である。

 

 まさに、相手の男性が存在しない中で子供を強く望む女性にとっての「最終手段」であった。女なら、最悪相手の子種だけでも手に入れられる。そこは彼女たちに頑張ってほしい事だ。

 

 女性であればこそ、自らの胎内で我が子を育て、親になる実感を得ることができる。男性の場合は代理母を探すハードルが極めて高いが、女性であればその心配もない。もっとも、ボンドルドたちも代理母のあっせんまでは手を出さない方針をとっている。

 

「ボンドルド院長……これは割とどころか、神々に真正面から喧嘩を売るような恐ろしい方法だ。少し考える時間を貰えるだろうか。選択するにしても大きな覚悟が必要だ。……ちなみにだが、プランBとプランCの併用は可能なのだろうか? 私以外の女性の卵〇から……その、精〇を作ることは可能なのか?」

 

「技術的には十分に可能です。女性同士であっても、お互いの遺伝子を継いだお子さんを妊娠・出産することができますよ。ですが……将来、産まれてきたお子さんにどのように説明されるつもりですか? 子供は親の玩具や所有物ではありません。あなたがどのような選択をされても尊重いたしますが、未来のお子さんの幸福も十分考慮した上でご選択されることを強くお勧めいたします」

 

 今日この日……ボンドルド達が用意した婚活チェックリストで不合格者が多発した事は言うまでもない。そして、最終手段にすがる者達が大量に湧いた。

 

 ここからが本当の地獄の始まりだった。

 

 卵〇や精〇を手に入れる方法。更には代理母をどうするかだ……男連中は、姉や妹がいれば、オラリオに呼んで土下座する。それも無理なら母親を呼ぶ化け物まで現れた。だが、これを勝機を見た闘国(テルスキュラ)がオラリオでの一部利権と引き換えに名乗りを上げる。

 




次は、ベル君……君を救う番だ。
ハーレムが欲しいという君の願いを叶えよう。
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