ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか 作:新グロモント
オラリオを地獄に落としたボンドルド達。院長や子供達が総出でダンジョンに向かう……だが、その彼等の後を追随する者達がいる。婚活相談会に参加した冒険者や”最終手段”を選んだ冒険者達だ。
彼らは、嫌がらせをしているわけではない。院長や彼等の子供達に万が一があれば、全てがとん挫する。つまり、自主的に【アスクレピオス・ファミリア】を守るために集まった者達だ。その命を賭けて必ず無事に院長達を地上に返すと固く誓った連中だ。
ファミリアは違えど彼等の目的は同じ。【アスクレピオス・ファミリア】に何かあれば、オラリオが滅ぶと理解していた。普段、敵対関係のファミリアだろうが、仲が良くないファミリアだろうが関係はない。
今は同じ目的を持った友として、無言で手を取り合いあらゆる脅威から彼らを守ることこそ、自分が生きてきた価値であると信じている。
【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の幹部の半数がここにそろっていた。万が一に備えて、ヘイズまでダンジョンに行くことになっている。深層攻略にでも向かうレベルの戦力だ。
大病院での院長回診と言わんばかりに、着いてくる冒険者達。その異様な光景に、事情が分からない冒険者達は首をかしげるばかりだ。
これから新たに加わった虎杖親子を連れて、初めてのダンジョン。それなのに、これでは醍醐味もくそもない。ダンジョンで先輩風を吹かせたいプルシュカやニーナが落ち込んでいる姿が彼等には見えないだろうか。
普段は、こんなことを言いたくはないボンドルドも仕方なく、彼等に言う事にする。
「おやおや、皆さんお暇なのですね。こんなところで油を売っている暇があるのでしたら、他にやるべきことがあるでしょうに……ファミリアの遠征ですので、どうかお引き取り下さい」
「そうよ。久しぶりのダンジョンなんだから、邪魔するなら皆嫌いになっちゃうからね!! 大丈夫よ。だって、今度は新しい仲間もいるし、無理な冒険はしないから。ちょっと、深層までいって帰ってくるだけ」
深層までのどこがちょっとなのかと。
だが、彼らの機嫌を損ねるのも悪手であった。冒険者としての彼らの実力は、疑いようがない
「じゃあ、私だけでも…ヒーラーですし、蘇生魔法もあります。それなりに戦えます。口も堅いです」
「ヘイズさんですか。貴方はなにも」
口の堅さには定評があり、魔法も便利で戦えるヒーラーであるヘイズ。確かに便利だった。怪我の治療は、ポーション頼りだが、彼女がいれば大分変わる。ダンジョン初見の人もいるので、不測の事態には備えるべきだ。
「見てません。聞いていません。伝えません。知りません。覚えていません」
「ヘイズお姉ちゃんは……パパの判定で合格と出たので、一緒に来てもいいわよ。これで文句はないわよね。みんなも持ち場に帰るの!! 」
ヘイズは、ボンドルド達の蘇生秘密を誰にも言っていない。主神であるフレイヤにも一切言わずにいるからこそ、信頼がある。そういう積み重ねにより、院長達の信頼を勝ち取っている。
だからこそ、婚活の”最終手段”において彼女の願いを全て院長達が叶える。その対価として、彼女が持つ回復魔法や蘇生魔法は死に際に貰う契約が既に取り交わされている。先日は、「ごめんなさい、フレイヤ様」とかいいながらヘイズはノリノリでボンドルド院長自ら施術を受け、彼女のお腹には新しい命が宿っている。
どこで種を仕入れてきたかと言えば、虎杖悠仁がフレイヤ様の寝室で一夜を過ごした後のゴミ箱だ。捨ててあるなら拾っても誰も文句は言わないだろう。掃除担当なら誰の警戒心もなく種を仕入れられるチャンスであり、出来る女の行動は早い。希望がない組の女性が増える程、優秀な種の仕入れには苦労する事は間違いないのだから。
………
……
…
ボンドルド達のダンジョン遠征は、上層で肩慣らしとダンジョンの構造や特性の説明を行いながら進む。初心者にもわかりやすいように注意事項やどうしてダンジョンが元通りに再生するのか。
それを黙って聞き、置物のように静かに付いて行くヘイズ。彼女は、無事に彼らを地上に連れて帰る事が第一である。注意しているが、出番など来ない。むしろ、中層に差し掛かったら、縦穴を使ったショートカットなど、世間では知られていないコースを使い始める始末だ。
その間、ヘイズは虎杖悠仁をしっかりと観察する。やはり、オラリオでは見かけないレベルの好青年であり、強い。プルシュカが使う遺物兵装とは毛色が違う呪具という武装を使っており、その性能は第一級装備を越えるレベルだ。
中層にある
リヴィラの街を観光し、虎杖親子の顔も紹介する。これは非常に大事な事だ。顔役に挨拶しておく事で何かあった際に役に立つ。街の住人も、オラリオの医療系ファミリアとは仲良くしたいので、お互い良い関係になれる。
この街の顔役は、ボールス・エルダー。
この1年半の知識をアップデートする為にも、大金叩いて彼を深層入口まで雇う。
深層に着くまでの間に、【アスクレピオス・ファミリア】がオラリオを去ってからの1年半の出来事やオラリオの現勢力図など、ボールス自らが丁寧に説明する。
「ギルドの後釜は、学区の生徒達だったんですね。どうして、お若い人が多いと思いました」
「全くだぜ。まぁ、ウラノス様がギルドの運営をするって事にはかわりねーがな。元職員で働いているぜ。ただし、あのロイマンは吊るされた。裏で色々やっていた事が判明した結果だ。だから、神たちが持ち回りでギルド職員の不正を検知する為、定期的な審査が導入されたぜ」
当然の結果だった。
バベル前の広場にあった磔処刑場は今でこそ撤去されたが、当時を知る者達からすれば印象深いだろう。誰かが吊るされるたびにオラリオの治安が良くなるという。神であろうが、ギルド長であろうが、どこぞの王女であろうが、関係はなくみな平等に裁かれた。
「それで、院長さん……本当にあの子等だけで階層主をやらせるんか?流石に、どうかとおもうが」
「何事も経験です。インターバル的には丁度よいです。アンフィス・バエナの特性、弱点、攻撃モーションなどを伝えていただければ問題ありません」
特級呪具釈魂刀。あらゆる防御を無視して、相手を切り裂く。モンスターの物理的な防御を突破できるため、階層主の首もこれで一発切断できる。これを防げるのは同種の概念を持つ武器や防具位なものだ。
前衛でモンスターを引き付ける虎杖悠仁。中衛としてモンスターを拘束したり、後衛のニーナを守るプルシュカ。後衛で最大火力で錬金術を行使するニーナ。この組み合わせによる並の階層主ならば敵ではなかった。プルシュカとニーナは経験者であることから錬金術により足場に氷を作っている。
化け物、化け物と心の中で思うボールス。到達階層62という記録が嘘ではない事を目の前で見せられた戦闘で実感する。子供達だけでこれなのだから、親も加われば、そりゃいけるだろうと。
この1年半で増えたファミリアには、ギルドが管理している到達階層の記録をみて
ギルドも注意しているが、レベルを絶対的な強さの指標にする連中には無駄だった。死んだときにはじめて理解する。
金をもらった以上仕事はきっちりこなすボールスは、深層前でボンドルド達と別れた。この先で何をしようが彼は関知しない。関与しない。そういう、割り切った考えができるから今まで街の顔役として長年勤めあげてきた。
彼にしてみても、半年程度でオラリオを崩壊させた
ボンドルド達は、ようやく目的の階層に辿り着く。
そこは、階層主ウダイオスがいる場所であり、同行していたヘイズとしても流石に肩慣らしで戦うモンスターではないと思っているが、黙っている。彼女もここの階層については、良く知っている。だからこそ、本来のルートを外れて明後日の方向に向かう彼らに何の目的があるのか理解できなかった。
誰も向かう事がないルート……未開拓領域であり、そこにうま味があるとは全く思えない場所だ。道中にある、
【フレイヤ・ファミリア】ですら、ここを通る労力は避けるだろう。通過できるが、ここに来るくらいなら、下の階層に行く方が一般的だからだ。そして、道を進み続けた。ある場所の結晶を破壊すると下に隠しルートがありそこを進み続ける。
ついに辿り着く……”愛の巣”に。
そこには、
バグ・ベアー、バトルボア、マッドビートルのメス
このメス
彼女は、待ちわびた友人……と5人目の院長を1年半待っていた。
『プルシュカちゃん、ニーナちゃん!! おかえり~、本当に待ってたよ! 』
「ウィーネちゃん。ただいま。一杯お土産も持ってきたからね。皆で分けてね。ここでの生活にも役に立つだろう魔道具が沢山あるから。それとね、今日は新しい仲間を紹介するね」
虎杖親子が紹介される。
当然、この神をも魅了する魂の持ち主である虎杖悠仁。メス
アステリメスが早速、虎杖悠仁の格を試そうと準備運動を始める。
そんな騒ぎを聞きつけた、ぽつんと一軒家の小窓から手を伸ばして生存をアピールする一人の男がいた。彼の眼には希望が宿っていた。1年以上絞られても、まだ尽きない精力と生への執着は、流石はゼウスとヘラの孫だ。
【アスクレピオス・ファミリア】以外の人間……しかも、【フレイヤ・ファミリア】なら助けて貰える可能性がある。
「ヘイズさん!! 僕です。
「えっ!?
だが、生かされていた。彼の生存が表に出れば、オラリオから討伐部隊が間違いなく送り込まれる。その規模は、【フレイヤ・ファミリア】【ロキ・ファミリア】【ガネーシャ・ファミリア】と言った現オラリオのトップ派閥に加え、彼の被害にあった冒険者が総力を決するだろう。
実は、あと一人生かされている者が存在する。あまりにも有益な魔法がある為、殺すには惜しいという見解からだ。レベル・ブーストを持つ春姫……フレイヤが魅了する事で木人形を
「おやおやおや、まだお元気そうですね。これならば、安心してウィーネさん達も子作りに励めますね。今や、オラリオでもベビーブーム到来です。さぁ、よろしくお願いします虎杖院長」
「あれが、噂のね~。えぇ、任せて頂戴。人とモンスターの子供。新しい生命を作る喜びを」
世界には、闇が一杯だと理解するヘイズ。産まれてくる子供には、世の中は自分が見える世界だけでなく、表社会の重鎮が裏社会を牛耳っているような者達もいると教えると決意する。
ヒト同士の異種族婚ならば、よく聞く話だ。割と珍しい事もない。
神と眷属のプラトニックな愛の話も、あるにはある。数年に一度くらいの確率で発生する話だ。だが、人とモンスターとの子供なんて、常識では考えられない話だ。しかし、その常識がここ数年で崩壊している。
【アスクレピオス・ファミリア】が雇用契約している
「ヘイズさ~ん、聞こえていますよね。ここです。ここにいます!!」
「おかしいですね。以前は、多少なりとも魅力を感じた事もあったのですが、何も感じない。これが”幸運”の影響だった言う事ですね」
そんなことを感じつつ、ヘイズは周囲を観察する。
確かに
各院長達がこの異様な
「ウィーネちゃん、モンスター避けのお守りだけど数か月前に消えちゃった。だから、神様の体内で浄化したベヒーモスの魔石を持ってきたよ。これがあれば、よっぽどのモンスターじゃなきゃ近寄れないから安心して」
『ありがとう!! 流石、プルシュカちゃん。ウィーネも深層や階層主のドロップを沢山集めておいたから何でも持っていっていいからね。あそこにゴミ置き場にあるから』
山積みにされているドロップ品。魔石は彼らの力の糧になるから、食われているがそれ以外は煮ても焼いても食えないので、ボンドルド達が引き取っていた。一財産を軽く超えており、これだけを一度に市場に放出したら値崩れ間違いなしだった。
それから二日ほど院長達と過ごしたヘイズは、いい男が汗を流しながら強者と戦う姿を間近で見て心を潤した。タオルを差し入れたり、飲み物を渡したり、回復を行ったり、診察したりと主神であるフレイヤがいない事からといってやりたい放題だった。
数か月後に、お腹が大きくなったヘイズを見て、【フレイヤ・ファミリア】は誰も父親について追及しなかった。彼女を切っ掛けに、ファミリアではベビーブーム到来を告げる。兄様が大好きなアーニャも後に続いたりする……ちなみに、アーニャの妊娠が発覚したと同時に副団長がヘディンに代わる事になる。原因は誰も知らない。
【ロキ・ファミリア】でも次々に産休が発生して、ダンジョン攻略が遠のく。
出産後は育児もある事から、ダンジョン攻略や黒龍問題をどうするかをトップ派閥たちは真剣に考える必要が発生する。喜ばしい事だが、それとは別の問題が出てくる。
子作りから墓場まで……オラリオの最後の砦となる。
オラリオがどれほどまでに危険な場所であるかは、それが物語る。