異物語 作:一兵卒
015
はてさて、善吉の応急処置を終えて地下三階へと下ったのだが、迷宮・日本庭園に続いたのはなんと動物園だった。
黒神がはしゃいでる、超はしゃいでる。意外に可愛いところがあるのだな……にしたって珍しい。
まあ、それも無理がない状況だろう。
僕がまだ語っていないが、黒神めだかの特技(?)には動物除けと言うものがある。彼女の秘めたる圧倒的な力を、矮小な自分との圧倒的な力量差を察知した動物たちは、黒神を見るや否やどこかへ去ってしまうのだ。
しかしここの動物たちはまったくそんな様子が見れない。
「真黒、何か知らないか?」
「……いや、僕は何も。よっぽどよく躾けられているのか、薬品でも使われているのか……どっちにしろ異常だ。僕のころにはなかった施設だし、管理してるのは僕の知らない
「なるほどな……」
なぜか喧嘩を始めた黒神と喜界島を尻目に、単独で行動していた阿久根を追いかける。
「阿良々木先輩」
「危ないぞ阿久根、何があるか分かったもんじゃ……」
「誰かと思えば高貴くんと阿良々木先輩じゃねえかよォ~」
「「!?」」
「おっと大きな声を出さないでくれよ二人とも。俺が話がしたいのは高貴くんだけなんだが……ま、阿良々木先輩がいてもいいか」
「……知り合いか、阿久根」
「はい……十一組から十三組に移籍した変わり種。二年十三組の名瀬沃歌さんです」
「ハハ!柔道界の王子様に覚えててもらえて光栄だな!だったらかったりー前置きは無しだ、取引しようぜ高貴くん」
「……取引?」
「ああそうだ、取引だ。何せ生徒会役員の中で日本語が通じそうなのはお前くらいだからな」
……ひどい言い草であるが、確かに取引なんてものに応じそうなのは阿久根ぐらいだろう。あそこで生徒会長と会計が喧嘩してるし、庶務は取引なんて受けないだろうし。
あれだろう、名瀬は十中八九
「話は簡単だよ、お前らもう帰ってくれねーかな?いや――いっそこの学園から出て行ってくれよ。俺たちの研究の邪魔なんだ、頼れる先輩を二人も潰されてすげー迷惑してるんだよ」
「……」
阿久根は答えない。
『お前たち』に僕は含まれているのだろうか?
「もちろんただでとは言わねーさ。黒神の事はあきらめるよう理事長には俺が話をつけてやるし、お前ら全員の転校手続きだって俺が取ってやる――どこの名門校でも逆指名しな。そこで好きなだけ生徒会を執行してろや……これ以上後輩に怪我させたくねーだろ?俺たちも気がしたくねーし。せっかくの人生だ、お互い関知せずに行こうぜ――
「ッ!?」
突如、口元に何か布のようなものが押し当てられる。
しかしそれは背後からではない。ましてや正面でもしたからでもない――上からだった。
「阿良々木暦、てめーの人生は俺がめちゃくちゃにしてやんよ」
急速に意識が遠のく。全身から力が抜ける――。
――誰だお前は。
――
024
章がいくつか飛んでいる……ではなく。口元に布のような斧を押し当てられるのと同時に消失した意識が覚醒した。
周囲は暗い、体が動かない……限界まで強化した吸血鬼性でも破る事が出来ないようだ。
「ふん、もう目覚めたのか……予定ではもう三時間ほど眠ってもらうつもりだったのだがな」
「生憎目覚めがいい方でね」
大嘘である。
「
「……どういうものか聞いても?」
「安心しろ、そこまで
「なっ……!?」
「吸血鬼性の再生能力は記憶にすら及ぶというわけだな。益々気に入ったぞ」
「一体何を言って――!」
「ここで死ね、阿良々木暦」
ぶわ、と全身から脂汗が噴き出した。
死ねと言われたことに?――否である。
「死んで解き放つのだ」
理性を爪先で削られているような錯覚に陥る。
脳みそを
「伝説の吸血鬼を――異常の王を!」
脳みそが沸とうする――セカイの根底がヒっくりかえ「らない」。
「かかっ」
視界の端で金髪が揺れる。
目の前の自称王とはまた別の、透き通るような金髪が――。
「よくもまあ我が主様を誑かそうとしてくれたのう、裸の王」
「ふん、その冴えない男を『我が主』と呼ぶか。最底辺の都落ちだな、元女王――キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードよ」
「儂が居るところが都じゃよ」
そう言って彼女は――普段の姿より十年近く成長した忍野忍は、口からズルリと一本の大太刀を、妖刀「心渡」のレプリカを取り出す。本物の「心渡」は怪異特効であるがゆえに、人間には効果を発揮しない。
「戦うつもりか?だが
周囲を覆う暗闇の向こう側から足音が響く。
「目には目を、歯には歯を――化物には化物だ」
そこに、いたのは。
「いいえ都城さん。私は化物ではありません」
普段では考えられないような、機械的な口調で話す。
「私は黒神めだか(改)です」
黒神めだかだった。
「黒神……ッ」
「暦さん、黒神ではありません。黒神(改)です」
「お前……黒神に一体何を!」
「言ってなかったか?
「洗脳ではありません。私は洗脳などされていません。ただ、目が醒めただけです」
「……まあ、確かにそうかもな」
「かかっ」
忍は創り出した刀を振るい、僕の拘束をあっさりと斬り捨てる。
「早くここから逃げよお前様。いかに儂といえども、今の状態でこの二人を相手することは難しいじゃろうから」
「でも忍……!」
「お前様よ」
忍はこちらに振り向いて、こめかみに青筋を立てながら言った。
「儂の八つ当たりをなめるなよ?仮に完全復活するようなことがあれば――世界を滅ぼす」
「舐められたものだな、阿良々木が死に、そして完全復活した貴様も死ぬことを――」
「黙れ」
今の忍は、僕と同年代まで――要は高校三年生まで成長している。腰まで伸びる髪を纏めていたヘアゴムが弾け、髪の毛がうねる――。
「儂は今、過去最高に怒っておるぞ?頼むから儂に本気を出させないでくれ――儂はまだ、こやつを裏切りとうない」
忍はこちらを指差しながらそう言った。
……そうか、裏切りたくない人間か。
「任せた」
「任された」
黒神めだかが洗脳されてしまった――この事実を伝えたところでどうしようもないかもしれないけど。それでも目的を果たすために、走り出した。
ちなみに今は喜界島VS行橋の終わり際です。47箱あたり?
感想・評価・お気に入り登録お願いします