異物語 作:一兵卒
026
忍野忍との和解のきっかけが何か、僕ははっきりと答えることはできない。それは僕の欺瞞なのかもしれないのだけれども、しかしてそれを知っているである人物を僕は一人しか知らない。
忍との現在の関係は複雑奇怪で、しかし一応は僕の方が上の立場にあるようで、さらに言えば彼女を保護する立場に僕は今あるので、春休みから続く因縁の解消と言う一大イベントの原因をはっきりと答えてもらわなければ困ると言われてしまうと返事に困るのだが、第一話冒頭で述べた通り、僕はあくまで――不完全で、負完全にしか、物事を語る事が出来ない。
完全に語る事が出来るのは、僕でも、神でも、悪魔でもなく、あくまで忍野忍しかいないのだろう。
故にこそ、いつだかに言っていた選手宣誓の様に誓った、「人類を滅ぼしもしないが人類を救いもしない」というルールの制定までの心情を僕は知らないし、そして明言したからこそ、僕はもう忍野忍に助けを期待しない。彼女の名付け親、薄汚い中年――忍野メメではないが、人はあくまで、一人で助かるだけだから。
そして何より。
僕は人間で。
彼女は吸血鬼だから。
だからこそ、今しがた彼女が――旧キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードがとった行動の、僕は驚愕する。
「か――」
鈍い音を立てて、忍がめだか(改)に殴り飛ばされた。血しぶきをまき散らしながら吹っ飛んでも、幾多もの筐体を叩き付けられて全身に傷を負っても、忍野忍は笑っていた――。
……ここで、都城王土の『
「――忍!」
「馬鹿者、一目散に駆けつけてくる奴がおるか……一発でも殴ってこんかい。今のお前様ならイチコロじゃろうに」
「でも――」
「でももへちまもあるまいよ」
不敵な笑みを浮かべながら起き上がる。これ以上血を与えることはできないだろうが、傍にいれば、多少は回復力が――吸血鬼度が強まるだろう。
「少なくとも儂はここでフェードアウトじゃな……情けないことこの上ない」
「……そんなこと、言わないでくれよ」
だって、お前が居なきゃあ、僕はきっと生きていないだろうし。みんなが生きているのはお前のおかげなんだから。
「め、めだかちゃん……」
「……人吉善吉庶務。阿久根高貴書記。喜界島もがな会計――これより生徒会執行部はフラスコ計画に全面協力します。私は『
「――ッ!」
……目が醒めたというのは、こういう事か。善吉が震える言葉でめだか(改)に真意を問うが、似たような言葉が返って来るばかりだろう。
「お前!何ふざけたこと言って――」
「まっとうな事ですよ。以前の私の方がよっぽどふざけたことを言っていたではありませんか――私は私を完成させるために生まれてきました。至高の存在を完成させるために生きてきました。生涯を統して私を完成させることが私の使命です。そのためにフラスコ計画を
今の発言で、今の黒神の在り様が――黒神めだか(改)の在り方が分かってきた。
恐らく今の黒神は、
確か、異常性を支配する心を別の心に挿げ替えるのが名瀬の実験だったはずだ……詳しくは知らないけども。その心の挿げ替えには、最早「支配」そのものと言っても良い都城そのものから干渉を受けている……そのことにより、むしろ
「生徒会を上げてフラスコ計画に協力するなんて、馬鹿なこと言ってんじゃねえよ!馬鹿も休み休みにしてくれめだかちゃん!」
「めだかちゃんではありません。めだかちゃん(改)です」
「自分で何を言っているか分かってるんですか!?フラスコ計画は全校生徒を犠牲にしかねない危険な実験なんですよ!?」
「それがどうかしましたか?箱庭学園性は生徒会長である私の役に立てることを光栄に思うべきです」
「……鍋島せんぱいたちが今どういう気持ちで戦っていると思ってるの!?みんな黒神さんを助けようと頑張って――」
「他人の気持ちに興味はありません……なんですかあなた達は先ほどから私の意見に反対ばかり。私の思考に賛同できないというのならいいでしょう」
そして黒神は冷淡に告げる。機械的に、感情など、心など挟む余地のないほどに冷ややかに――冷血に。
「人吉善吉庶務。阿久根高貴書記。喜界島もがな会計。現時刻をもってあなた方を生徒会から解任します――私の役に立たない人間は。必要ありませんから」
それだけ言うと、めだか(改)は善吉たちに一瞥もなく素通りし、そして都城たちに――『
「……阿良々木暦さん。忍野忍さん。私はあなた方の吸血鬼性に強い興味があります――私の役に立つのであれば、あなた方も参加しませんか?」
と、振り返って、黒神めだか(改)――。
「……こっちから、願い下げだよ」
「そうですか」
極めてあっさりと。
すでに興味は失ったように、視線を都城たちに戻した。