異物語 作:一兵卒
誰かBluetoothキーボードをください
006
はてさて場所は研究所地下一階の迷宮。
第四話始まっておよそ二行での悲報になって申し訳ないのだが、僕たちは普通に迷ってしまった。
いや確かに、人吉は善吉と楽しくおしゃべりしたり、決意を固めていたりしたが、いかんせん広すぎると思うのだ。先の『拒絶の扉』のように異常度で人を選別するのかと思ったが、黒神まで迷っていることから、ここは普通の迷宮のようだった。
「よし、喜界島会計。ここはいつだかに遊園地の迷路アトラクションで使ったあの手を使おう」
「ああ、あの手!」
「え!?お前ら二人で遊園地とか行ってんの!?」
人吉はともかく、阿久根まで柄もなく大声を出している。はは、みんなの仲が良くて何よりだ……まあ僕には友達がいないのだけれど。
……いや、ニュアンス的な意味で言うなら友達はいる!男友達はいないけど、生徒会メンバーは男女混合で仲良しなのだからなんら問題はない!
「男子も誘えよ!俺たちは全員揃って生徒会メンバーだろ!?」
「でも黒神さん、あれあとでやったあとこっぴどく怒られちゃったけど……」
「私が許す。構わん、やれ」
「……うん、わかった。それじゃあ──」
はは、まるで時を止めることができる吸血鬼みたいなセリフだな──なんて思うのと同時。喜界島が深く息を吸い込み──発声。
「あん!」
「あ……グッ……あッ!?」
「阿良々木先輩!?」
耳が──!?敵の攻撃──いや違う、喜界島の大声だ!
「だい……じょうぶだ」
事実を確認すると同時に、頭のわずかに冷静になる──吸血鬼の力で強化されたから、余計に大きく聞こえたようだ……つーかやるならやるって言えよ!
飛びかけた意識を手繰り寄せているうちに、どうやら黒神がこの階層の構造を把握したようだ。
一体どうやってやったんだよ。まさかソナーの原理と同じとか、そんな馬鹿げた能力なわけがないし……。
「……ソナーの原理だろ?コーモリとか潜水艦とかと同じ要領で」
「つまり音の反射で、彼女はこの迷宮を攻略したと言うことだよ」
そんな馬鹿げた能力だった。
そんなことを可能にするには、とんでもなく鋭敏な肌感覚ととんでもない肺活量が必要になる──忘れかけていたが、黒神めだかは元より、喜界島もがなは特別だ。
か弱い女の子ではなく、守るべき対象でもなく、頼れる仲間なのだ。
「さあ、このまま階段まで最短距離で──」
──「そんなにつれねーこと言うなよ」
振り返るとそこには、褐色肌の巨漢がいた。
彼を認識してからの僕たちの行動は迅速だったと言えるだろう。
躊躇なく、迷いなく、そして容赦なく拳を振るった……はずだったのに。
強化された人吉の拳を、破壊臣モードの阿久根の襲来を、吸血鬼の力が強化された僕のパンチは、全てあっさりと躱されて、そしてやつはいつのまにか、黒神のそばにいた。
──いや、かわしたと言うよりも、そもそも見当違いの方向へ殴りかかったような──奴は一体、何をした!?
「折角視察に来たんだ、ゆっくり見学してけや。理事長からもオマエラを歓迎するよう言われてんだぜ?」
「歓迎?ちょっかいの間違いだろう。貴様の顔にも見覚えがあるぞ──理事長室でちょっかいをかけようとした男だな?」
「ちょっかいってのは──」
巨漢はいつの間にか、黒神が着用していたメガネとヘアゴムを奪い去っていた。
「こう言うことかい?」
「ッ!」
その事実は、あの黒神めだかさえも奴の動きに反応できないと言うことを簡潔に示していた──。
「自己紹介だ黒神めだか。『十三組の十三人』・棘毛布の高千穂仕種だ」
「『第九十八代目生徒会』・生徒会長の黒神めだか」
──そう言って二人は構える。高千穂はボクシングスタイル、黒神それに合わせてか同じくボクシングスタイルだ。
この場面で驚愕すべきは、黒神めだかが構えたと言う点。彼女が構えたと言うことは、高千穂が自身に匹敵しうると認めたのだ。
彼女が構える相手なんて滅多にいない──僕の知る限り、
彼の計らいで、この戦いに勝利すれば高千穂のすべての研究データが詰まったUSBを持っていっても良いらしい。
「来い。その計らいと最上級生の貴様に敬意を表して先手は譲ろう」
「そうかい?じゃ遠慮なく──」
そうして繰り出された攻撃は、まさかの真空飛び膝蹴り。
助走無しで彼は飛び上がり、わずかワンステップで、やはり目にも止まらぬ速度でその屈強な膝を黒神の顔面へ叩きつける。
そうか、奴のバトルスタイルはボクシングではなくキックボクシング!
そのことに対して人吉は卑怯だと言ったが、これは実戦である。勝利を掴む方法に卑怯もクソもあるまい。
黒神に言わせれば、これを卑怯と呼ぶならば鍋島に笑われるらしい。本当にそうだ、あいつ色々と酷いんだぜ?
常人であれば防御不能・回避不能である上に、意識を保つことすら困難であろう一撃。しかし相手は黒神めだかだ。迎撃にヘッドバッドを選択し、その衝撃を相殺してしまった。
本来であれば失明待ったなしの一手、良い子でなくても真似しないだろう。
「ッ、だったらこれはどーよ!?」
続けて彼が繰り出したのは黒神のコメカミを狙ったハイキック。しかし彼女はそれすらも回避せず、その目は、高千穂が首からネックレスのようにぶら下げているUSBだけを見据えていた。
「めだかちゃん!」
……首から上が吹っ飛ぶようなキックを受けてなお意識を保ち、そしてあまつさえ目的の代物を手にしているのだから大したものである。
……が、そのUSBは、再び高千穂の不可視の移動によって奪い去られる。
限界値ギリギリまで強化された僕の視力でも、その異動を捉えることができない。と言うことは、あの移動はただの高速移動ではない……はずだ。
そして高速移動の正体の一切が不明であることは、黒神にとっても同じである──しかしそれでも彼女は笑う。
あいつは嬉しいのだ。
自身と同格以上の相手が現れたことが。
「はてさて参ったな、私では全く貴様の高速移動のタネが理解できない──故に!」
そう言って彼女が取り出したのは──スーパーボール?
あの色とりどりの跳躍弾は、どうやらあの悪名高き雲仙冥利の私物らしい。彼に関して僕はそこまで詳しくないけれど、風紀委員というのはどうやら一風変わった武器を使うらしい。
「掛け値なしの乱反射弾幕!すり抜けてみよ、高千穂三年生!」
そうして放たれた跳躍弾──いな超躍弾は、到底スーパーボールが放つことのできない音を立てながら、四方八方から超スピードで高千穂に迫る──が、それら全ては、一つもその巨体に掠ることすらなかった。
──これを見て、僕はあの謎の高速移動──否、高速挙動の正体と彼の異常性を理解した。
それはどうやら黒神も同じらしい。
「阿良々木先輩、説明してやってはくれないか!」
え僕?……まあ確かに今日はいいとこ無しだしな。
「あいつの高速移動──いや、高速挙動には多分だけど思考から行動までのタイムラグがない……『考える前に』、『思わず』、行動できる反射神経こそがあいつの異常だったんだよ」
その説明を聞いて、彼はくつくつと笑う──。
「ご名答!俺は生まれつき異常で過剰な反射神経の持ち主でな──言うなれば自動操縦の戦闘機!」
「そしてぇ!」と彼は続ける。
「俺はお前の完全さの理由を掴んだぜ黒神!何せ肉体が勝手に動いて、頭脳が暇だったもんでなあ!」
ここから先、僕が出来ることは一切なくなる。できることといえば、精々が邪魔にならないようにするだけだ。
茶番が終わった。
本番が始まる。
二次創作むずいです
原作キャラの兼ね合いとか