異物語 作:一兵卒
013
自体は悪化の一途をたどる。
「人吉、逃げ……ッ!」
「全くまいったよね。今度こそ暗殺だ」
「なッ……!」
はじめの暗殺が失敗するやいなや、宗像は再び高速移動を繰り出し――そしてその矛先は人吉に向けられる。
胴を大きく袈裟斬り。
人吉は血を吐き出しながら、全身から力が抜けたように斃れ伏した――。
黒神の真っ赤に染まった髪の毛が、普段の濃い藍色に戻る。幼馴染の死を見て、膝から崩れ落ちる。
「善吉」 「善吉」 「善吉」「善吉……」
ぼろぼろと、大粒の涙が溢れ出す――。
「お」
「お前えええええええええええええええ!!」
「あまり大きな声を出さないでくれよ――殺したくなる」
「ぐ!?」
怒りのまま、感情のままに実行した宗像への突貫は、あっさりと、視界の左半分が潰されたことにより阻止される。
それだけならいい、焼けるような痛みと遅い傷の治り……まさか!
「いやいや全く、暦と戦うことなんて想定したなかったんだからさ、あんまり準備ができていないんだよ――」
そう言いながらその手に持っているのは、鈍く光る十字架。
手裏剣よろしく投げ当てたってわけか!
再び投擲された銀製の十字架が三つ。いくつか掠ったものの、クリーンヒットは避け、再び肉薄する。
「あああああああ!」
「まったく獣よろしくって感じだな。やっぱり獣には
どこからともなく取り出したのは、一見ちんけな水鉄砲。なんで今――いやまさか!
「ッ!」
「よく飛ぶでしょ、理事長からもらったんだ」
水は水でも聖水鉄砲!しかも雲仙の超躍弾よろしく魔改造された物か!それも二丁!普段であれば口につけない限りどうってことないものだが、限界まで吸血鬼性を高めた今ならば皮膚に触れただけで効果を発揮する代物だ。
せっかく再生下ばかりの左頭部に掠る、強力な酸か何かを掛けられたような痛みが襲う。
「~~~~ッ!」
「これでも止まらないか――っと!」
振るわれる巨大な十字架。伸ばしていた髪の毛を吹き飛ばしながら頭上を掠める。
「よくも、よくも人吉を――ッ!?」
「先輩、まるで死んだみてえに言わないでくださいよ……ッ!」
――人吉善吉は生きていた。人吉善吉は死んでなどいなかった。
「死ぬかと思ったぜ……お肌が荒れちまうじゃねえか限界野郎!
――よくも!めだかちゃんを泣かせたな!」
「……よしとけよ。せっかく助かった命だ、大事にしな」
「妙なことを言うなあ
人吉は何を言って……いや、もしかして
もし仮にこの予想が的中しているのなら、宗像は随分と……そして僕は最低なやつになるな。
「……世迷言をほざくなノーマル――殺すぞ!」
枯れた樹海の――ラスト・カーペットの本気。しかし取り出された無数の暗器が即座に振るわれることはない。
「めだかちゃーん、ここらで一つ、俺に頑張れって言ってくれないか?」
「!!」
深く、深く息を吸って、黒神めだかは唯一の幼馴染の願いに応える。
「がんばれ!」
「がんばる!」
人吉は再び地面を踏みしめて――地下二階全体が揺れ始める。
まさかこれ、大規模な震脚か!だとしたら狙いは――。早くここから逃げて「痛ッ!?」
何で足が溶けて……あああ聖水!靴に聖水が染みて!
そうこうしているうちに、宗像が全身を、どこからともなく――天上から降り落ちてきた刀剣によって切り刻まれる。
最初のほうに人吉が蹴り上げておいた刀を、震脚によってゆすり落としたのだ。
最後の攻撃で宗像はついに、本当に斃れ、人吉もまた震脚で体力を使い果たしたのか、前のめりに倒れるようにして……真黒に抱き留められる。そこは黒神じゃないんかいとか言ってはいけない。
「……勝ったはいいけど、彼をどうする?指名手配中の大量殺人犯は、流石に警察に突き出すしかなさそうだけど」
「いや、それは大丈夫だと思いますよ阿久根先輩。だってその人、人を殺したことなんてありませんから」
「!?」
やはりな。殺す方法に精通しているという事は、殺さない方法に精通しているという事だ。その証拠に、あれだけの凶器を振り回しておきながら誰一人として死んでいない……いや、まあ僕の首は飛ばされたけど。加えて人吉は胴を袈裟斬りにされて尚生きている。
「え……なんだよじゃあ」
「
「……僕の殺人衝動は本物だよ」
と、そこで気絶したはずの宗像が起き上がり、そして語り始めた。
宗像形の今までを。
枯れた樹海の――殺す木が、殺す気がない殺人鬼の人生を。
014
「人間を見ると殺したくなるのも本当だ……だけど僕はそれをずっと我慢してきたのさ。だって人間は、殺したら死んじゃうじゃないか
「だから僕は殺人者を名乗り
「派手に凶器を振り回し
「派手に殺意を振り撒くんだ
「そうすればみんな殺される前に逃げてくれるからね――僕は人殺しにならずに済む
「殺したいほど大好きな人間を、殺さずに済む。
「人を見ると殺したくなる僕は、人を見ないで生きてきた
「だけどそんな生き方は寂しいんだ
「
「仲よく遊べる友達が欲しかった
「だからフラスコ計画に参加したんだけど
「
「何せ、殺しても死なない
「ありがとう
「楽しかったよ
「それと人吉くん、随分と危険な真似をするね
「刀剣の雨を降らすなんて、それこそ人殺しになるつもりかい?
「――信用か。そんなことされたことなかったな
「……ねえ人吉くん、暦
「僕と……友達になってくれるかい?」
……なにを言っているのかと思った。こいつにはついさっき首を刎ねられたし、おまけに全身をめった刺しにされたし、足を溶かされるし、頭の左半分を抉り飛ばされたし――
「あのなー。あんたと俺は命をかけて戦ったんだぜ?――それじゃあ俺たちはもう友達じゃねえかよ!そんなよそよそしいこと言われたら傷つくぜ」
「そうだな、僕なんて左手を噛み千切られたやつとも友達だし、全身をバカスカ殴ってきて内臓をぶち抜いた上で尊敬してくるような後輩もいるんだ。ただ首を刎ねられた程度なんて、蚊に刺された方がまだつらいな……あと一ついいか、友人たちよ」
「どうしたよ
「あ、ワリ……」
「悪いけど早く抜いてくれないか」
「なるほど、途中から感じて違和感はこれでしたか。お兄さまはそのことが分かっていたからこそ!宗像三年生にカムフラージュとしての暗器を伝授したのですね!」
「……え?あ、うん。そうだよ」
「(へえ……違うんだ……。)」
生徒会メンバーと心が一つになった気がした。
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