多くの異形と人間が混ざり合って暮らす街——ヘルサレムズ・ロット。
今日も今日とて珍しくもなく、街の一角に多くのHLPDの警察官たちが集っていた。
その中でおそらく警察官ではないであろう、顔に傷の入っている紳士服の男が警察官と話をしながら、その惨状を一瞥した。
「おざぁいます、スターフェイズさん」
銀髪褐色の太々しさを顔に貼り付けたような背の高い青年が無理やりポリスラインのテープを超えて入ってきた。
視線の先にはほとんど跡形もなく吹き飛んだアパートの残骸と、その中で調査をしている警察官の姿。
「ザップ。来たか」
スターフェイズと呼ばれた男——スティーブン・A・スターフェイズは片目を隠した警官との会話を止め、その青年——ザップ・レンフロに向かい合う。
「こりゃあまた随分とド派手すっね」
「そうか?まだ跡形が残ってるだけだいぶマシだろ」
視界の端には転がる生首を一瞥しながら、ザップは違ぇねぇと笑って返す。
随分と閑散とした場所だ。近所の人はほとんど住んでいない半ゴーストタウンと化し、の囀りとサイレンのデュエットだけが響く。
「んで?なーんでまたこんな人っこ一人いねぇようなところに
ヘルサレムズ・ロッドに於いて世界の均衡を保つために結成された秘密結社。この異常都市にて様々な超常現象や異界犯罪等を相手に秘密裏に解決することを目的として活動している。
そんな彼らが出張るほどの重大事件。
これがHLでは日常的に起こるただの爆発事故であったなら彼らが呼び出されることはなかっただろう。
「
「えぇ〜〜〜〜またっすかぁ?」
すごく嫌な顔をするザップ。
世界を守るべき人間のする態度と顔つきではないがもう今更なので特に注意することもなくスティーブンは言葉を続けた。
「ただの
疲れ切った顔でため息を吐き、彼は床に捨てられた資料を拾い上げる。
複雑な文字式の羅列と怪しく光る魔法陣に加え、妙な流体の画像まである。
赤く黒く青く白く光る人型を模したスライムのような物体が残されていた。
「うっわっ、なんですかこりゃきめぇ」
「イングランドのとある非政府組織が作り出した人工の
「なーんで
「写真ではなく色鉛筆で書いたらしい。まったくうんざりするほど写実的だ。非政府組織なんてやってないで画家でも目指せばよかったものを」
「つまりこの薄気味悪ぃ奴が脱走してこの街のどこかに潜んでやがるっつーわけっすか」
「そう。…………それだけだったら良かったんだが」
ザップの結論に対し、なぜかスティーブンは気だるげに返事をする。
そもそも人間ごときに吸血鬼は作れない。奴らは何者かによってそのDNAに特殊な術式を書き込まれている。
まるで弄ぶように作られたそれらを、たった人間の知恵ごときで作れるわけがない。仮にできたとしてもそれは吸血鬼にもなれないただの屍鬼だ。
いつになく真剣な表情で彼はまた別の紙を取り上げる。
どれもこれも血がついていて汚れていてわかりずらいが、それは先ほどのまっさらなA4の印刷用紙とは違う、黄ばんだしわくちゃの和紙だった。
「?なんすかこれ」
「これは世界中から集められた呪具、および呪物の一覧が載ったリストだよ。菅原道真の木笏、アビゲイル・ウィリアムズの遺骨、クロカカ藁人形、崇徳上皇の口舌、レストネード旅行記、ホープダイヤモンドの欠片、妲己の爪、パッチノートver6.66、ただのビデオデッキ。一つ一つがとんでもない呪いを呼びかねない代物だ。しかも諸々追加で特定不能の呪具、呪物がてんこもりと来た」
「はあ、それが
「そうだな…………なぁ、ザップ。ここは元々なんの建物が建てられていたと思う?」
そういってスティーブンは部屋の床を指差した。もちろん下に何かあるわけではなく、何かを暗示しているわけでもない。
天井を見る。あるのは暗い曇り空と回りの空き家の壁のみ。だが角に聳えている残った柱の長さから、その全貌はわかる。
やけに要領をえない、唐突な問いに対し疑問を覚えながらザップは答える。
「何って……ただのアパートすっよね?高さ的にちょうど四階か三階だてぐらいの」
「ああ、ちょうど四階建てのアパートだ。部屋はそれぞれ階ごとに分かれていたらしい。もし……もしそれぞれの階に、全く無関係な組織が四つあったらどう思う?」
「……は?」
口をあんぐりと上げるザップに対し、スティーブンは何度目かわからないため息をつきながら答えを出した。
「一階は今言った人工
「い、いやいやいや。んな何千分の一の確率っすか。つーかそんな秘密組織のごった煮してんなら誰か気づけよ!!」
「その何千・何万分の一が起こるのがHLだろう。昨夜この
なるほど、やけにバラバラの服装を着て死んでるなーとは思っていたがまさかそんな理由だったとは。
その爆発事故の結果、その流体は中身が空っぽの人間の身体と合体し、異界との接触によって人並み以上の知恵を得たらしい。
「異界と接触した人間の肉体を得ている人工の
「蒐集呪体?なんすかそれ」
「呪いを集め、ストックし、それを一斉に解き放つことによって災厄を齎す
「最悪じゃないっすか!!!」
豪運のエイブラムズ。ライブラのリーダーの師匠すじに当たる人物であり、世界屈指の吸血鬼ハンター。
それゆえに吸血鬼にはこれでもかと恨まれており、ありとあらゆる呪いのオンパレードが彼の身には降り注いでくる。
本人はなぜかその豪運ゆえにかすり傷ひとつつかないが、その代わりとして周囲がこれでもかと壊滅的な被害に遭ってしまい、ライブラの面子も幾度となく被害を受けた。
つい先日も、ザップはその被害を受け両足を複雑骨折したばかりだ。
ライブラのほぼ全員のメンツから頼りになるしすごい優秀な人物だけどあんまり関わりたくない、と太鼓判を押される人物。
無論人格面に一切の問題はない。我は強いが善人だ。だから困ってるんだけど。
そんなある意味では味方にも恐れられている彼が敵に回ったと考えれば、めちゃくちゃ憂鬱になるのも不思議ではないだろう。
めんどくせーと意気消沈している最中、ザップのスマートフォンから着信音がなる。
画面を見てみれば発信元は、後輩のレオナルド・ウォッチからであった。
「おーう、どうした陰毛頭。……はぁ!?
目をぱちくりと何度も瞬きをするザップと、口内が乾くほどの深いため息を吐くスティーブン。
そして、事態はより混迷を極めていくことになる。
厄ネタてんこもりオリ主くん
呪物は半分オリジナル、半分元ネタありです。他にも色々載せたかったですが怖いのでやめました。