「やらかしたやらかしたやらかしたぁ!!!」
ボクは市街地の道路をみっともなく走る。
なんであんな出会い頭で会うのかなぁ!!どんな確率なの!?しかもよりによって正体を見破れるレオなの!?
というかダイアンズダイナーってあんなところにあったのね!立地がいいね!
しかも、少し走ってさらにやらかしたことに気がつく。
そもそもレオは他のライブラの面子と比べて戦闘力はほとんどない。視界に関することは全て意のままにできるだけでそれ以外はほとんどミジンコ以下の戦闘力だ。
…………無理に逃げなくても、彼に話ぐらい聞いてもらうことぐらいできたのでは?
レオはしっかりと良識と常識を持ったごく普通の一般人である。一癖も二癖もあるライブラの一同や、それなりに奇抜な容姿をもつ異界人と普通に仲良くやれるコミュ力のある善良な人間だ。すげぇよアイツ。
もし助けを求められた相手が
あれ?レオって主人公じゃないんだっけ?でもアニメだと完全に主人公の立ち位置だったんだけど…………え、違うの?あの芋っぽさで?
神々の義眼とか明らかに主人公の能力でしょ。狂言回し?……なにそれ。
焦りすぎて逃げ出してしまったが、やっぱり戻った方がいいのかな?でももう連絡されてしまっただろうか。
あの距離だからおそらく名前までは見られてないと思いたいけど……
死に物狂いで走っちゃったせいでどうやって来たか覚えてない。途中で銀行強盗に2回、
「なはは……」
気のせいだ。気のせいでなければどれだけ運がないんだ。えっ、何、もしかして知らない間になんか呪われてたりします?*1
HLは確かに一分に一度は何かとんでもないことが起こり続けるおかしな街ではあるが、にしても一人当たりの事件エンカウント率ってこれほど高かったっけ?
死亡率100%の標識を見た覚えは一度もないのだけど。
「…………これ以上は考えない方が良さそうだな」
それにしても霧が濃い。もしかしたらここら辺は中心部に近かったりするのだろうか。
えーーっと……永遠のぉ……うろ?みたいな名前の、中央駅があったところだよね。
それってつまり
「回れ右!旋回旋回旋回せんかっ———」
ごつん
直後、右脇腹に何かが突き刺さった。
それは槍と言うのはあまりにも鋭すぎた。
鋭く、重く、そしてなぜかけたたましいエンジン音を鳴らしていた。
それはまさに、F1カーであった。
「ガガガガガッ!!!イダダダダダ!!!オボボボボババババ!!!」
やあ、ボクの名前は[編集済み]!現在、時速300kmを走行しながら地面と熱い抱擁をかわしている最中だよ!
いや物理的に熱い!摩擦熱が!!痛い痛い痛い!!マジで今までで一番痛い!前頭部から腹にかけて丁寧に下されてる!大根下ろしになっちゃう!!マジでケチャップにされるぅ!
再生するところから丁寧に身体を削られら意識を落とそうにも
顔面から直にくらっているので何も見えない。
眼球は潰れて、再生する断面もろとも削られる。
アスファルトのクソまずい味が口の中に入ってきてそれすらも吐き出せない。
散るのは火花ではなく、生々しい鮮血と砕けた骨の粒。
これがヘルサレムズ・ロットの洗礼なのか。
な訳無かろう。いい加減にしろ。
というか運転手は何してるんだ。人が突き刺さってるんだぞ。止めてくれ、本当にお願いだから止めてください。
「てやんでぃ、てやんでぃ!これでおらも億万長者じゃああああ!」
銀行強盗の方でした。なるほど、先ほどからエンジン音の合間に聞こえる紙の音はお札の音だったのね。
……なんで江戸っ子?
確かにこんな街で銀行強盗するならF1カーの一つや二つあってもおかしくないか……その運転手が江戸っ子口調でも……これ本当に江戸っ子か?
……マズイ、思考回路がこっち側に染まって来ている気がする。
今までに感じたことのない激痛にもそろそろ慣れて来て、今このように冷静に思考できる自分が恐ろしい。
「モゴゴゴゴゴ……モゴフゥ……」
あの、もう良くないですか?なんか拷問の時間、長くないですか?
いい加減止めないと、本当に身体の前部分が無くなっちゃうんです。これ以上、アスファルトとディープすぎるキスをしたくないんです。舌どころか喉仏でチューし始めてる。このままじゃR-18Gになっちゃう。
「もがっ!!」
すり減ってゆく脳みそをフルで稼働し、覚悟を決める。時速400kmを超えたF1カーに突き刺さったまま、ボクは無理やり腕を折り曲げて、アスファルトに勢いよく突き刺した。
骨が幾度となく砕ける音がした。壊れたところから直し、治し、
血を集めて、地面に打ち込み続け、勢いを弱めたF1カーはそれでもフルスピードを維持しようとしていた。
「う”らぁ”!!」
地面に埋め込んでいた肘を思いっきり折り曲げた。
アンカーとして固定化された腕は筋繊維一つ一つを丁寧にちぎっていくが、それよりも早くボクの身体は再生していく。
腕を中心にしてF1カーが円を描き始め、壊れたメリーゴーランドのように延々と回り続ける身体が吐き気を催すが、そもそも吐き出す物をしまっている内臓もないので問題なしだ。
「べらぼうめぇ!?」
その時、無理やり方向を変えたせいか、F1カーのタイヤが外れた。
何やら危なっかしい音を立てながら回転していくそれは、まるで意志を持ったようにボクの横っ腹をぶん殴ってどこかへ飛んでいく。
運転手の悲鳴と共に深く刺さっていたF1カーの先端から抜けるボクの身体。
よっしゃあ!!やっとF1市中引きづり回し地獄から解放された!!高速回転するタイヤにぶん殴られるのも大概運が悪いしクソ痛いけど、今までより全然マシだ!
そして頭を再生し、眼が生えて、視界がようやく開け、ボクは気づいた。
「わぁ。たかぁい」
ヘルサレムズ・ロットのビル群が目下に映る。
耳がキンキンと聞こえ、肌がとてつもなく冷え込んで……えー……空がとーーっても綺麗に見えるネ。
時速400kmを乗り越えたと思ったら今度は高度400mですか。
キロじゃなっだだけマシかな……マシかも……
「こんな高さで落ちたらぺっしゃんこだぁぁ……よぉぉぉぉおおおおおおお!!」
そこらへんのジェットコースターを超える速度で落ちゆくのはボクの身体。重力が引っ張り、空気抵抗が腹の中を押しつぶす。
「おおぉぉぉおぉぉ——ペギュ!」
後頭部にビルの先端がぶつかって潰れる。
「ペギっ、ぷガッ、ゴゲッ、ぼごぅふぅ」
人間が出してはいけない音を出したまま回転して、そこら辺を飛んでいた飛行船の尾ひれにぶつかり、跳ねた先でスカイフィッシュにタックルをされ、そして二、三件のビル群を勢いよく窓ごと貫通しながらボクは地面に頭から突き刺さった。なはは、犬神家みたいだ。
ちなみにズボンはしっかり履けてるので局部が露出されるなんて事故は起きなかった。なんという耐久性か。もしくは漫画補正か。
そういえば作中の
しかし、どうしよう。
レオ、クラウス、ツェッドあたりなら話が通じると思う。なんとか頑張って話まで持っていければ。
チェイン、K・Kはそもそも接触が難しいだろう。何せ支援で後方にいることが多いから。
ザップはそもそも会話できるか怪しいけど多分逃げられる。馬鹿だし、猿だし。
そう、だからもっとも最悪なのは————
なんてことを考えていたから、また悪運が回って来たのだろうか。
背後から殺気すら飛ばさず、気配を消してやってきた彼にボクは気がつくことができなかった。
人はこのような状況をフラグ回収と呼ぶ。
「エスメラルダ式血闘道——
ボクの背中を貫きそれはそれは、綺麗で鮮やかな氷剣が腹をぶち破いて顔を出した。