「クラウス、標的を見つけた」
スティーブンは電話をしながら、その流星と化して落ちていく方へと走る。
それぞれ別々に分かれ、『蒐集呪体』の捜索に当たっていた最中、落ちていく奴の姿を発見した。
ビルの先端に頭をぶつけ、飛行船に右腕を切られ、スカイフィッシュに鳩尾を貫かれながらソレは道のど真ん中に落下する。
そのまま起き上がったついでと言わんばかりにみるみると再生する体。
あたりは先ほどの銀行強盗のせいで人がまだらだ。そのおかげで奴もこちらに気づいた様子はない。
ならば先手必勝。あの再生速度の速さから、間違いなく『蒐集呪体』
己の技術だけでは奴を仕留められる可能性は低い。ならばやることはいつも通りの時間稼ぎだ。
「エスメラルダ式血闘道————
背中を巨大な大剣が貫き、そこから瞬時に奴の身体は凍結した。
氷の剣は地面に刺さり、意識外による攻撃で油断していたのか簡単に抜け出すような様子はない。
やはりまだ力を十全に使いこなせていないのだろう。
「……」
想像以上に…………若い容姿をしている。
ライブラ最年少のレオナルドより幼く、あどけない少年のようだ。
黒い髪に白い肌。赤い眼。そして首筋に付けられたバーコードのような跡。
あれは違法人身売買による錬金術によって生み出された人間の肉体の跡だろう。
まったく、胸糞悪い話だ。
金のために作られた肉体。兵器のために作られた血。殺すために作られた呪体。
まさしく人間の悪業が産み出した、無辜の怪物。
一方的に作られ。一方的に追われることとなったヤツに思うところがないわけではない。
だがこれまでの報道から、現在HLで起こっている大半の事件の原因は間違いなく彼だ。
その身が呪われている限り、際限なく厄災は起こり、降りかかり、大勢の命が危険に晒されるかもしれない。
だから殺す。
慈悲もなく憐憫もなく。世界のために必要だから殺す。
何の悪事も非道も何ひとつ行なっていない生物を殺せる。
スティーブン・A・スターフェイズはそれができる男だ。
「『蒐集呪体』は現在、凍結拘束中だ。しかしそれはいつまで保つかわからん。急いでくれ、クラウス、レオ!」
連絡を取りながら、我らがリーダーに催促する。
そして
猶予はない。奴の目的はおそらく、このHLからの脱出。
それだけでは絶対に避けなければならない。この魑魅魍魎蔓延るHLならまだしも、その呪いの力が「外」へ溢れ出したら一体どうなることやら。考えただけでもゾッとしてしまう。
「…………『呪い』というのは凄まじいな。それなりに離れているここからでもその異質さが見て分かる」
そう言って、誰にも届かないような独り言を愚痴る。
覇気とは違うおどろおどろしくじめっとした怨霊のような何かがまとわりついているようだ。
レオの眼で見れば、きっともっと悍ましいものが見れるのだろうか。
この時のスティーブンはある意味油断していた。だが、もちろんそんなことは誰も責めないだろう。
なぜなら紛い物とはいえ、目の前に
だから周囲の状況の異変に遅れても、それは仕方がないと言えるのだから。
「焼きたてのポップコーンはいかが〜〜?」
「は?」
空から、ものすごーくポップで陽気な演奏が流れ始めた。
(なん……なんだこのキューティでプリティな謎の音楽は。ドラム上手いな!?)
右をチラリと見れば、何かものすごいでかい自販機のような物体が突然空から降り落ちてきたのだ。
ズドン、と重たい音を鳴らし、埃が舞う。そしてなり始める謎のBGM。
中央に猫っぽい可愛らしいキャラクターが首を横に振り続けいるのだが……何だ、これは?
ほのかに伝わる熱と塩の風味が、それの正体を教えてくれる。
「まさか、ポップコーン……?」
なぜ落ちてきたのか、なぜこんなに大きくなってるのか、なぜ中央にこんなキャラクターが座しているのか。
いや、いい。今はそれどころじゃないんだ。害意がないならそれでいい。
謎の闖入物に戦意を少し削がれたが、それはともかくとして奴から目を離してはいない。
というか向こう側も明らかに困惑してる。まあ、気持ちは理解できるが
「はい、どうぞ!あついから気をつけてね〜」
可愛らしいその宣言と共に、その自販機が徐々に大きく揺れうごき始めた。
まるで地震のように周囲の建物の外れかかった瓦礫が落ちてくる。
まずい、このまま地面が砕ければ氷も一緒に割れてしまう。そうなれば奴はすぐに同じように逃げ出すだろう。
こちらも凍結させることにしたスティーブンは片足を巨大な自販機の方へと向けた。
「エスメラル———「ありがとうございました!またきてね〜!」」
言葉が言い終わった途端にその自販機は大爆発を起こす。
溢れ出す巨大ポップコーン。道路を埋め尽くし、ビルを次々に破壊していく。
どこか発泡スチロールのような柔らかさと塩のベタベタ加減がやけにリアルだ。
「くそっ、エスメラルダ式血闘道!———
ポップコーンで圧死される前に、何とか足場を見つけたスティーブンは急いで一面に浮かぶそれらを凍結させた。
熱を急速に失ったポップコーンはもはやただのコーンだ。一度崩れれば連鎖してみるみる数を減らしていく。
災難だ。まさか上空から降ってきた巨大ポップコーン機に潰されかけるとは。
(いや違う。今注意すべきなのは——!!)
疲れかけた身体を起こし、奴からの追撃を警戒する。だがもうそこに、『蒐集呪体』の姿はない。
逃げられた。レオの時と同じだ。もしくはあの爆発に巻き込まれてどこかに飛んで行ったのだろうか。
「目標……ロスト…………!」
遠くから見ていたレオナルド「ハ⚪︎ーキティだぁぁぁぁぁ!?」
知らないクラウス「?」