オリキャラ出ます
身体は水に濡れて、とてつもなく冷えている。
ただ意識を落としていただけなのに、もう何十年も寝ていたような気分だ。
どうせなら夢であって欲しかったけど、現実はそうはいかない。
ボクは…………ああ、そうか。そうだったな。
ぱちぱちぱち、とどこかで何かが燃えてる音がする。
ここは一体どこだろうか。暗く、そして温かい。
「よう、目が覚めたかお前さん」
誰か、男の人の声が聞こえる。
だんだんと意識がはっきりしていくにつれ、自動的に瞼が開いてくる。
暗いトンネルのような場所だった。
近くから下水の流れる音と匂いがして、意識が次第にはっきりしていく。
ボクは壁に寄りかかって、少し汚れた毛布で体を包んでいた。
小さな焚き火があった。綺麗な青い、青い火が燃えている。
そして目の前に座っていたのは
————グラサンをかけた、オオグソクムシだった。
「お、おわーーーーーーー!!??」
「起きがけ早々悲鳴か。元気だな、最近の若いのは」
「なんっ、えっ、なに!?何でこのビジュアルからダンディーなボイスが!?こわい!!」
「おいおい、命の恩人に酷い言い草じゃねーか。泣くぞ?いいおっさんがダンディな声で」
あっ、そうか、ここヘルサレムズ・ロットか!
多分彼は異界人なのだろう。そういえばゴキブリが板前やってたしおかしくはないか。
ぼんやりとしてた意識が覚醒した。すっごくいい目覚めである。
「いや、その、すいません。この街に来たばっかでそういったものに慣れてなくて」
「なんだ
と言って、無数の腕の一本が、近くにあったパイプ椅子を掴んでボクの方に投げられた。
彼は焚き火の近くで鉄棒に刺したマシュマロを焼いている。
「向こうから大量の土砂やクズ塵が流れてきてな。掃除がてら色々と漁ってる最中にお前さんを見つけたっつーわけだ」
「その……ありがとう、ございます」
「おうおう感謝しろ感謝しろ」
そう言って彼は刺さっているマシュマロを一つ抜いてボクに渡した。
どこにでも売ってある。ちょっとだけ焦げたマシュマロ。
なぜかとても懐かしい。
何でだろう。この世界にきてまだ、一日ぐらいしか経ってないのに。
素直に受け取り、ボクはあまり開かない口を精一杯開けて頬張った。
美味しい。
それに、柔らかい。
熱いのに、スルスルと口の中に入り溶けていく。
気づけば棒に刺さっていたはずのマシュマロは消えていた。口の中が甘い。
おいしい。
「…………」
「おいおい、泣くほど美味かったのかよ」
「え?」
「ん?お前さん、泣いてるぞ?」
彼に指摘されて初めて頬が濡れていることに気づいた。
……涙を流すのなんて、中学生の時に両親が亡くなったとき以来だ。
そっと一つぬぐえば、後から溢れるようにボロボロと落ちてくる。
「マジか。余程酷い目にあったみたいだな。もう一個食うか?」
「あり、がどうご、ざいまず……」
もう一個もらえた。うれしい。
ぐしゃぐしゃになった顔のまま、マシュマロに口をつける。
見た目はほとんど変わらないけど、先ほどより少し苦い気がする。
涙を頑張って引っ込めて、ボクはマシュマロを食い切った。
「まあなんだ、お前さん。ただ観光でこの街に来たってわけじゃあなさそうだな」
「……その、はい。少しある人たちから追われてまして」
「ほーん……ま、詳しいことは聞かん。面倒ごとに巻き込まれるのは御免なんでな」
いや、むしろありがたい。
おまけによくわからない『呪い』のこともある。
わざわざ助けてもらったのに、こんなことで迷惑をかけられないのだ。
一通り休まったし、そろそろここから出よう。
ん?
「そういえばここは……?」
「此処はHLの地下にある巨大下水路だ。ただのゴミから人の死体、よくわからんやべー物体まで色んなブツが流れてくる場所だよ。ま、廃棄処理場とでも思ってくれ」
やはり下水道だったのか。
彼が自身の後ろを指差してみれば、確かに少し遠い場所に下水が流れていく道がある。
しかし何でこんな場所に住んでいるのだろうか。彼の着ている服はそこまで浮浪者を表したような身なりではなく、普通の異界人が来ていそうなどこにでもある服装だ。
「飯だよ、飯。俺たちにとっちゃあ、此処はありとあらゆる場所から飯、必需品、金になるものがわんさか集まるユートピアだからな」
その話によれば、彼のような種族の異界人は基本的にゴミや死体と言った衛生的にあまりよろしくないものを主食にしているそうだ。
地上はどこも危険でホイホイと死体や瓦礫が生まれるが、彼らにとってはそれが逆にプラスに働いてる。
別に地上でも普通に生活しているらしいが、こちらの方が安全で堕落王の享楽にもその他の諍いにも巻き込まれずに済むらしい。
「あれ?……俺たちってことは」
「そうだな。ま、こういう場所じゃあ、そういう奴らも自然と集まってくるもんだ。というかいるぞ、そこに」
「え?」
「お前さんの後ろに」
恐る恐る振り向けば、そこにはさまざまな異界人の人たちの顔が、ほぼ鼻と目の先まで近くにあった。
特に近いのはゴキブリの顔を持った人で、黒く光る触覚が視界を横切る。
「おわぁぁぁぁあ!!??」
「「「おおっ!?びっくりしたぁぁ!?」」」
お互いが大きく後方へ飛び退いた。飛び退きすぎてボクの服が焚き火で燃えかけた。
というかあんな近くにいたのに全然気づかなかった。余程ボクが鈍感なのか、それとも彼らの隠密さが凄まじいのか。
「おいおいボス!何であっさりバラすんだよ!」
「ウルセェ、お前らの顔が怖くてあんまり長く見てられねぇんだよ」
「ボスの顔も大概じゃねぇか!」
尻餅をついたボクの上で、ギャーギャーと言い合いが始まった。
というか、声と貫禄からして只者じゃないなとは思っていたけれどボスだったんだ。
此処ではみんな、こんなふうに仲良く暮らしてるのだろう。
家族とまではいかないけれど、気のおけない友人同士のじゃれあいだ。
そして、また怖くなった。
レオが苦しんで、悶えている姿が脳裏に浮かぶ。
ボクがこんなところにいてしまえば、また、人が傷つく。
…………出よう。そして————どこへ行くの?
「外」に出たら、一体どれだけの人が被害に遭うんだ?わからない。
ここはヘルサレムズ・ロットだから、酷かっただけだろうか。もし、今日と同じ規模の災害が「外」で襲ってきたら一体どうなってしまうんだ?わからない。
怖い。もう、何もしてないのに人を傷つけたくない。
でも、死ぬにも死ねない。
どれだけ高いビルから落ちようと、どれだけ切り刻まれても死ぬことは叶わない。
だったら、やっぱり、おとなしく『密封』された方が————
「おい」
「っ、は、はい!」
「何つー顔してんだよ、お前さん。そんな死にたそうな顔してるやつ、この街じゃ初めて見たぜ」
それほど顔にわかりやすく出ていたのだろうか。
そこまで表情豊かだとは思っていなかったのだが、体が幼くなってしまったから表情筋がゆるくなっていたようだ。
背後からの視線が突き刺さり続ける。
先ほどまで何も感じなかったのに。
自然と、言葉が口から押し出された。
「…………ボクのせいで、多くの人が傷ついたんです。もしかしたら死んじゃったかもしれません」
「ほーん、それで?」
「でも、ボクはそれに責任を取らないで逃げて生き延びたいと思ってるんです。それがどれだけ他の人にとって迷惑極まりないのかわかってるのに。…………ボクは、死にたいけど死にたくない。そんな中途半端なクソ野郎のバケモノなんです」
ちょっとだけ、胸が空いた気がする。
そんな気がしただけ。そして自分自身の醜悪さを改めて突きつけられた気がして、また胸が重くなる。
誰も彼も口を開かなかった。
そもそも何を言って何を伝えたいのか、ほとんどわからないだろう。ボクの言葉は自分でもそう思えるほど短くて粗雑なものだったのだから。
「…………ふぅん、お前さん、優しいな」
「……はい?」
話を聞いていたのだろうか、この人は
「だってよ、本物のバケモンならそんなこといちいち気にもしないだろ。というか、見た目的にはこいつらの方が人に迷惑かけてるバケモンじゃねーか」
「それは……」
「はあ!?バケモン筆頭みてぇなボスにだけは言われたくねぇ!」
「俺がバケモンだと?どっからどうみてもキューティでプリティなオオグソクムシだろ」
「オオグソクムシはプリティじゃねぇ!」
「キューティはいいのかよ!」
「つーか同じ意味じゃねぇか!?」
再び罵り合いを始める皆。
その原因であったはずの彼はいつの間にかその群衆を抜け出して再びボクの方を見る。
「つーか、お前さん、何か勘違いしてるな?」
「え?」
「いいか?人間なんてなほとんど自分一人でできることなんかないんだよ。せいぜいゴミ拾い程度だ。迷惑がなんだ、んなもん、他人にバンバンかけに行った方がいいに決まってるだろ」
「でも、怪我人とか、死人が……」
「怪我する方が悪いし死ぬ方が悪い」
暴論すぎる。
「もう少し自分を見ろ。お前さんは何をしたい。どんなふうに生きたい。無論、死にたいという意見は受け付けん」
「ボクは……」
「何でもいい。お前さんがしたいことを言え」
「おれは億万長者ー!」「女ぁ女ぁオンナァ!!」「世界滅亡!!世界滅亡!!」
「黙れ。人に迷惑かけるバケモノども」
「じゃあ、ボスは?」
「腐ってない新鮮な心臓が食いてぇ」
「ガチバケモノじゃねーか!!」
ボクは何がしたいんだろう。
今世になって……いや、前世からそんなものはなかった。
両親が亡くなって、独り身になり、バイトしながら頑張って勉強してそこそこの大学に入った。
そのあとは、バイトして、勉強して……それ以外は————
「……彼女が欲しいです」
「ほう」
「女!オンナァ!?」
「ボクのことが大好きな可愛くて綺麗な女の子と付き合いたいです。……一緒にドライブしたり、水族館でデートしたりしたい!」
「いいぞ、いいぞ!!」「もっと言え!もっと言えー!!」「あわよくばぁ!?」
「あわよくばぁ!……その、あの……えっと……」
「初心かよ。——ふっ、まあいい。そうだ、それでいいんだよ、人間。もっと自分に正直に生きてみろ。そうすればお前は化け物じゃなくてただの人間だ」
…………いいのだろうか、そんな我儘な結論で。
いやでも、結構今恥ずかしいことを勢い任せで口走ったから訂正するわけにもぉ
「それで、どうするんだ。追手が来てるかもしれないんだろ?」
「……とりあえず、この街から出ようかなって。そのあとは…………精一杯自分本位に生きてみます」
「わかった。よし、お前ら誰か一人でいいからこいつを案内しろ」
「?なんで、みんなで送ればいいだろ」
「バカか。大所帯じゃ目立つに決まってるだろ。それに……まあ、俺が見送ってやる義理はねぇ」
「うわっ!」「カスだ!このボス、カスだ!」「ボカス!ボカス!」
「黙れゴミカス共。よし、じゃあそこのお前が送ってこい。この複雑な下水道を俺の次にわかってるのはお前だからな」
「わかりやした」
指名されたのは、中肉中背の異界人の男性だった。原作のリールみたいな。
え?当事者の意見は?
いつの間にか見送られることが決まってしまった。いや、確かに此処のこと知らないから助かるけれど!
「いいんですか?本当に」
「いいんだよ。これは、俺たちがやりたいことだからな」
「じゃあーなー!!気をつけてなー!!」
「ボス、見送らなくていいんですかい?」
「ああ。———それよりお前ら、お客さんだ」
暗闇の奥からやってきたのは、トレンチコートの大男。
「そこを退いていただけないだろうか、ご老体」
「断る。それは俺たちのやりたいことじゃないんでな、人間の小僧」