Fate/alter Seven Sight ――the First Sight――   作:どっこちゃん

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二章ー2

(月曜日・放課後)

 

 結局のところ、この日の授業は平穏無事に終了しそれぞれに用事のあるクラスメイトたちと別れた私は一人帰途についていた。

 

 独りになり羽を伸ばすように伸びをして、心身がだいぶほぐれているのを確認した。無理を押して登校したのは間違いではなかったようだった。

 

 結局、私は皆にアパートの住所を教えてしまった。

 

 無論それも優柔不断のなせる業、――というわけでは、さすがにない。

 

 それも総て織り込み済みのことなのだ。引っ越したといっておきながら新しい住所を隠そうとするのは不自然だし、興味が無い筈の人間にまで余計な違和感を与えることになってしまう。

 

 だから私は先の遁辞の辻褄を合わせるため、実際に魔術戦の拠点として使用するつもりで用意していた場所とは別にカムフラージュ用のアパートメントも用意しておいたのだ。

 

 少々警戒しすぎな気もするが、こういう用意は出来る限りしておいたほうがいい。それにいざという時には実際に予備の拠点として使えないこともない。そう考えればまあ、そうそう無駄ともいえない用意だといえるだろう。

 

 実際の拠点は市の北西部郊外の空家だ。放置されて久しい、曰く付きの洋館で、こちらは地下室を中心に私が勝手に要害化して使用しているものだ。

 

 どうせ持ち主が来ることなんて在り得ないし、来てもすぐに使用することはないだろう。最初に中に入った時の荒廃ぶりはひどいものだった。

 

 人目につかないよう、夜な夜な通い詰めて敷地そのものを自分の陣地としたのだ。

少しづつ、しかも師にも気取られないようにやらなければならなかったので、実に半年月以上もの時間を費やすことになってしまった。

 

 うって変わって、こちらのアパートは南東部、学校よりも中心街に近い位置にある。

 

 この辺りには近隣の大学や専門学校に通う学生や、隣県から市内に出てくる若者のためにアパート等がたくさん用意されており、私一人が入居しても目立つようなことはありえない。

 

 こちらはこちらで、隠れるには悪くない条件が揃っている。

 

 まだ学生の私が一人で入居するとしても、まあ、不自然とはいえない行動な訳だ。

 

 とにかく、日常、接点のある人間に出来るだけ違和感を抱かせないことが重要なのだ。そういう部分から計算は狂っていくものなのだから。

 

 それにここからなら、南西部にある病院もほど近い。

 

 見舞いに行きやすいというのも真っ当な理由だろう。

 

 遁辞の種にするのは些か心苦しいが、そのためにもこの儀式が終わったら、実際に見舞いに行くべきだろうか。最近は忙しすぎて見舞いに行く暇がなかったから。

 

「あ、(くろむ)姉さん」

 

 考えながら歩くに足を任せていると、突然声をかけられた。

 

 聞き知った声に危機感こそ抱かなかったものの、何せ予期せぬことだっただけにさすがに身が強張るのは避けられなかった。

 

 勢い振り向くと線の細い、華奢な体躯の少年が嬉しそうにこちらを見ていた。

 

「……アー君? どうしたの、こんなところで」

 

 声をかけてきたのは黒髪の美しい少年だった。

 

 その姿に、私も不覚ながら一時安堵の念を抱いた。明らかに純正の日本人とは思われない、弟というよりも妹を見ているような気になってくるような美麗な少年だ。

 

 とはいえ、彼は私の実弟というわけではない。

 

「今から姉さんのお見舞いに行くところなんだ」

 

「……ああ、そうか」

 

 故にこの「姉さん」とは私のことではなく彼の実姉のことである。

 

 彼の名はアズル・フォン・シュタウフェン。何を隠そう、我が魔道の師であるルベル・フォン・シュタウフェンの実子なのである。

 

 つまりは彼も魔術師の子息ということになるのだが、彼は母親や一緒の屋敷に住んでいた私が魔道に関わる類の人間であることを露ほども知らない。

 

 本来、魔術師というものは自分の総ての研究成果を次代の人間に託すために優秀な後継者を欲する。そのためその研究の成果が遺産相続のように分割されるような事態を大いに嫌うのだ。

 

 魔術師にとっての家門の発展とは一般人の場合とは違い、一本の道のようなものであり、あまり枝分かれした分家筋の派生を良しとしないものなのだ。

 

 魔術の目的とは一直線に神秘の根源に到達することであり、決して家門の繁栄ではないということであろう。

 

 それゆえに、魔術師が複数の子息をもうけた場合、どちらか一方を後継者として育て、もう一方には生涯魔道の何たるかすら教えないというのが通例なのである。

 

 それに倣い、わが師ルベルも長子である姉を己が後継者として選び、弟である彼にはいたって普通人としての生活を用意していたのである。

 

 しかしその点についても、現在少々問題が発生していた。

 

 私の唯一無二の親友でもあった彼の姉は、現在ある種の霊的奇病を発祥してしまい、長期の入院を余儀なくされていたのだ。

 

 もう一年になるだろうか、このすぐ近く、北西部にある魔術師の息の掛かった病棟に入ったままだ。

 

 あれほど可憐な彼女があんな高い所に一年も閉じ込められているのは、何にも増して不憫なことだと思った。

 

 故に、私も折に触れては見舞いに行っていたのだが、最近は儀式の準備に追われて疎かになっていたのだった。

 

 しかし見知った顔が出てきたにもかかわらず、私は瞠目せざるを得なかった。

漏らしかけた安堵の息を飲み込んで、今度こそ渾身で身を強張らせた。まるで凄まじい引力に吸着されたかのように、私の視線は釘付けにされていた。

 

 彼にではなく、彼に同伴していた人物に、である。

 

「…………そちら、は」

 

「あ、そうか、涅姉さんは初めてだったね。 島原夕子さん。クラスメイトなんだ。今日は車で送ってもらって」

 

「ッ!? シマバラ――」

 

「夕子ちゃん。ほら、いつも話してるでしょ? あの涅姉さんだよ」

 

「……ッ、……」

 

 アズルはとても嬉しそうに私のことを紹介してくれているが、私は暫し言葉を忘れていた。

 

「始めまして」

 

 礼をとる少女はひどく時代錯誤な感慨を纏っていた。

 

 まるで平安時代の貴族か何かを思わせる長い黒髪と白い肌。今は制服姿だが、洋装よりも和装が似合うであろうことは想像に難くない。

 

 精緻に造りこまれすぎた日本人形のようであった。だが何より私を動揺させたのは彼女の名だ。

 

 島原――それは確かこの土地で聖杯戦争を開催した御三家の一角。千年の古よりこの地に根付く魔道の大家の名ではなかったか。

 

「…………ええ、よろしく。もしかして耀子先生の妹さん?」

 

 礼を返しながら、私はそれが疑いようのない事実なのだと確信していた。持っていた知識が、今実感と結びついて私にそれをもたらしたのだ。

 

「はい、耀子は姉の名です。近年会っていませんが、こちら(笹ヶ谷市)で教師をしているとか。生徒の方なのですね」

 

 私はそうだと応えた。

 

 ――実のところ、私も島原という名だけでここまでおののいていたわけではないのだ。

事実、私の担任教師である島原耀子もまたその魔道の大家の出身であることはすでに調べがついている。

 

 しかし、彼女はアズルと同じく魔道については何も知らない一般人として生活しているというのはすでに調べがついていることだ。

 彼女には魔道の素養が全くといっていいほどないのだ。

 

 では、この夕子と名乗る少女はどうなのだろうか。

 

 ――疑うべくもない。彼女の秘める魔術的ポテンシャルは私の数十倍から百倍、それ以上からも知れない。それが一瞬でわかってしまったのだ。所謂格の違いというやつである。

 

 これだけの魔力なら、どれほど強力なサーヴァントであろうとも御するのは造作もないことだろう。

 

 だが、おそらくは彼女も中学に上がったばかりのアズルと変わらぬ歳のはずである。

 

 はたして、島原は彼女を今代のマスターに選んだのだろうか?

 

「では、姉にはよろしく伝えていただけますでしょうか。夕子は健勝ですと」

 

 小柄な私よりも、幾分低い位置にある白い貌は表情が読めず、その内実は窺い知れない。

 

 マスターだったとしたら体のどこか、大方は左右の腕のどこかに印が現れるはずなのだが、今のところ見当たらない。

 

 もっとも、それなりに気が効いた魔術師ならそれを隠蔽することも決して難しくはないはずだ。現に私も自分の令呪の隠蔽には気を遣っている。今彼女から受ける印象や情報だけでは判断がつかない。

 

 もしも彼女が敵だったというなら、この場で私はどうするべきなのだろうか。

 

「…………ええ、もちろん」

 

 曖昧に応えたが、よほど顔に出ていたのだろう。アズルのほうが私に心配そうな声をかけてきた。

 

「涅姉さん、どこか具合が悪いの? 顔が真っ青だよ」

 

 実際、私は気圧されないように必死だったのだが、そこで一度小さく息を吐いた。アズルの友人だというなら、いきなりこの場で魔術戦ということもないだろう。

 

 彼はとても人見知りする性質なので、自分やその周りの物に害を及ぼそうとする手合いと連れ合うとは思えない。

 

 その生来の感覚はやはり魔術の子息ならではのもので、その辺の危機感知能力は私よりも確実に優れている。

 

 とはいえ、この場でボロを出すわけにも行かない。ここはやり過ごすに限る。私は咄嗟に彼の言葉に乗った。

 

「……うん、ちょっと具合悪くてね、帰って横になろうかと思って」

 

「大丈夫なの? ど、どうしよう。――そうだ、これから一所に病院に」

 

「……いいの、すぐ近くだから。休めばよくなると思うし」

 

「う、うん」

 

「……気にしなくていいから、アー君はお見舞いにいってあげて、私もしばらくいってないから」

 

 私と大して変わらない、今時の中学生としては小柄な身長しかない少年は無理をするように声の調子を上げた。

 

「わかったよ。じゃあ、今度は一所に行こうね」

 

 彼も無理をしているのかもしれなかった。

 長年一緒に育った実姉があの塔に囚われ、今度はもう一人の姉同然に育った私が一時的にとは言いながら家を離れたのでは、彼も心細いことだろう。

 

 こんな状態でなければ、私のほうで彼をなぐさめてやりたいところなのだが……。

 

「……そうだね」

 

 そう言って私は早足で二人から離れた。

 心配そうに私を見る少年と、ぺこりと頭を下げた少女はそのまま、待たせてあったやたらと長くて黒光りする車に乗り込んだ。

 

 最後に、夕子と名乗った少女がちらりと向けてきた眼差しには、研ぎ澄まされた白刃のような怜悧な光があった。

 

 やはり、……彼女は敵なのだろうか? 少なくともこれから先彼女のことはこの先常に念頭においておかなければならないだろう。

 

 気がつくと息が切れていた。早足で歩いているつもりだったが、小走りになっていたのだろう。一度、どこかで息を落ち着けなければならなかった。

 

 そうしなければ、この胸とは真逆に冷え切った心胆のほうが耐えられないと思えた。

 

 ああも唐突でなければまだ対処のしようもあったのだが、それもままならなかった。

 

 彼女がもしもマスターで、そして単独で、サーヴァントを連れていたなら、私は今確実に死んでいた。

 

 なんのこともなく過ぎ去ったかに見えた、ありふれた日常の一幕の裏にその実、薄氷を踏むかのような危うさが隠されていたことが逆に私の心胆を凍えさせる。

 

 九死に一生を得たかのような感慨を、私の喉の奥に残していた震えが背後から追いかけてくるようであった。

 

 それがあまりにも胸に痞えるので、私の動悸はしばらく治まることがなかった。

 

 耳鳴りのような鼓動を聞きながら、私は今後のためにも、やはりサーヴァントは常に身の回りに待機させておかなくてはならないのかもしれない。と、考えを改めざるを得なかった。

 

 私は歩先を曲げて、近くの自動販売機に向かった。

 

 喉が渇いていたわけではないが、少しでも気持ちの矛先をどこか別のところへ向けなければならなかった。対象は何でも良かったのだ。

 

 と、小銭を取り出そうとしたところで視界の隅から自販機の陰へ入り込んだものがあった。何か、小さくて白いものだ。

 

 紙切れか何かかと思ってそれを追って塀と自販機の陰を覗き込むと、そこには小さな子猫がいた。

 

 真っ直ぐにこっちを見つめてくる。そこで私は視線を合わせないように、何も無かったかのように身体を戻した。

 

 こういうとき上から真っ直ぐに見つめてはいけない。 

 

 素っ気無い風を装い、向こうが興味を示すのを待つのである。

 私は当初の予定通り自販機でコーヒーを買うと、自販機の脇に寄りかかりそれをちびちびと飲み始めた。

 

 動作はあくまでゆっくりとである。急に動いて脅かしてはいけない。

 

 白い子猫はこちらの目論見どおり興味深そうに自販機の陰から出てきた。私は視界の端でそれを確認したが、それでもまったく興味がございません、とばかりに見向きもしなかった。

 

 そのせいか、子猫は無用心に私の匂いを嗅ごうと近づいてきた。

 

 ――すでに間合いだった。

 

 そのとき、私の手には常備してあるプラスチック製の猫じゃらしが握られていたのだ。

 

 なぜそんなものを持っているのかと思われるかもしれないが、別におかしいことではない。魔女の嗜みである。

 

 あいかわらず、私の視線は明後日の方を向いている。しかし突き出した猫じゃらしには手ごたえがあった。

 

 ――掛かった! 

 

 後は見ても大丈夫である。夢中になった子猫をあやしながら、今後は手で直にあやし始める、ワシャワシャしてやると無我夢中になっている子猫は相手がなんなのかを確認することも無く奮闘を続けている。

 

 こうなればこちらのものである。後はあやしつつ、咄嗟に両手で包み込むように抱き上げた。

 

「……男の子だね。一人なのかな? お母さんは?」

 

 興奮しきっていた子猫はそこで我に返ったのか、声を上げて鳴きだした。

 

 するとそれにつられるように道の反対側の細い路地から同じような子猫を引き連れた親猫が現れた。

 

 やせた親猫だった。警戒はしているが一定の距離を保ってこちらを見ている。私は手にしていた子猫をそっと放した。

 

 子猫は母親の元に一目散に駆け寄った。私はといえばその隙を利用して今度は親猫に近づこうとしている。

 

 注意点はさっきと同じである。あまり眼をあわせるようなことはせず、身を低くしてゆっくり近づく。

 

 敵意がないことを示しつつ、私はゆっくりと鞄からある物を取り出した。丸く、金属の質感を備えたそれは翳り始めた日の光に鈍く輝いていた。

 

 前述の猫じゃらし同様に私がどこに行くにも常備しているネコ缶であった。

 

 ――一応言っておくが、これも別におかしいことではない。繰り返すようだが、魔女の嗜みである。

 

 しかし、なにが悪かったのか、猫たちは踵を反してしまった。私は行き場をなくしたネコ缶の行方を納める術を知らず、それを追わずには居られなかった。

 

(※注こういう場合、本来は追いかけてはいけません。猫たちを悪戯に怖がらせるだけです)

 

 猫たちを追って狭い道に入り込んで行くと、そこには奥まった空き地、というか乱立する商業ビルの隙間、とでいうような妙なスペースがあった。

 

 猫の親子はそこにいた。というかそれだけではなかった。そこは猫の集会場だったようで、もう四、五匹の猫たちがいた。

 

「……こんな所に私のしらない集会所が……」

 

 私は興奮気味に呟いた。

 

 いや、恥ずかしい話だが、知らない顔ばかりだったこともあり、確実に興奮していたといわざるを得ない。

 

「……足りるかな?」

 

 私は手持ちの装備を全解放した。

 

 しかし生憎、ネコ缶は三つしかなかった。

 

 訝る私の足許には目ざとくそれを見止めたやくざな奴らが摺り寄ってきていた。

 

 とりあえず、さっきの痩せた母ネコを優先しようと思ったのだが、何処から出てきたのか、気付くといつの間にか十匹以上の猫たちに四方を囲まれていたのである。

 

 これではあの親子にいきわたらない可能性がある。

 

 多少高く付くが、仕方が無かった。

 

 期待に濡れ光る二十以上もの瞳に見つめられ、私は一路、近くのドラックストアーまで奔らねばならなかった。

 

 

 

 アパートメントへの帰途へ着くとすでに空は赤らんでいた。

 

 秋口の夕暮れはことのほか早い。私は半ば急ぎ足になって仮初の住居へ急いだ。私の手にはビニール袋に入った十数個の空缶と、ぼろぼろになった猫じゃらしがあった。

結局、無駄な出費になったことは認めねばなるまい。

 

 その上だいぶ時間も食ってしまった。いやいや。しかし、なにも悪いことばかりではないではないか、良い精神のリフレッシュになったのだし、それにあのネコたちとも新たに契約を果たすこともできた。耳寄りな情報も引き出せた。

 

 ……とはいえ、やはり冷静になって考えてみると、反省を要することかもしれない。猫の事になると我を忘れるのが私の悪癖である。

 

 こんなことで予定を崩すのは本位ではない。

 

 考えに耽っていると、いつの間にか自分のアパートの前だった。殊更に特徴に欠ける場所にひっそりと立っていた。だからこそあえて選んだのだった。

 

 仮初であるのだから、本来ここに立ち寄る必要はないのだが、用心はしておいて損はない。実際、この部屋はろくに片付いていないのだし。

 

 それに、ここから実際の要害となる南東部郊外の空き家までの経路はここから市の中心街を真っ直ぐに突っ切って、市そのものを斜めに移動することになる。

 

 私はとりあえずこの間の区域を毎日別の経路で視察しながら巡回し、一度郊外の空き家へ移ってから諸々の作業に取り掛かるように、日々の予定を組んでいた。

 

 それを繰り返すことで、少しでも街の変化を感じられるようにとの考えからだった。……ライダーはことのほか不満そうだったが。

 

 無論のこと、こんなことをしていては敵に発見される可能性も高くなる。

 

 しかし私のような外様の参加者はそもそも御三家に比べて情報の面で最初から劣勢に立たされているのだ。

 

 少々の危険を冒してでも先手を打って行動していかなければならない。そのための周到な用意なのだ。

 

 穴熊を決め込むなどというのは、事の動静を静観できるだけの余裕がなければ無理な話なのだ。

 

 物理的、心理的な猶予の乏しい者が耐久戦を挑んでも結果は目に見えている。ゆえに、一抹の猶予も持たぬ私は一抹の油断もなく先手を打つことでしかアドバンテージを獲得することが出来ないのだ。

 

 分の悪い挑戦だということは最初からわかりきっている。この儀式はあらゆる点で不平等なスタートラインが設定されているのだ。

 

 もっとも、そもそもこの世に平等という観念はないのだ。

 誰もがそれぞれに固有の資質を持ち、違う環境で育ち、別個の通念を構築しながら生きてゆくのだ。

 

 フェアなんていう言葉は、体のいい隠れ蓑でしかない。

 

 不平等が当たり前であるということを、正しく受け入れた者だけが、この世界を正しく見つめられる。

 

 この世界をありのままに受け入れ、ベストを尽くすという選択に辿り着く。

 

 平等という言葉に侵され捻じ曲がった人間は不平等であることを糾弾し、何かの理由にする。そして正しき行いに背を向ける。

 

 簡単なことだ。何かを不平等のせいにすればそれでいいのだから。

 

 私は不平等であることに不満は抱かない。そこが私のスタートラインなら、それなりにどうするかを考えるだけだ。

 私はベストを尽くす。後のことはあまり考えていない。

 

 完全なる予知能力でもない限り、物事の可否を考える時間は無駄でしかない。

 

 その分を、今なにを行うかという決断に費やすべきなのだ。遠い未来にばかり目を向ける人間はきっとその遠い未来でもまたその未来のことばかり見ているのだろう。――今という掛け替えのない時間を蔑ろにして。

 

 私は違う。

 

 私は今という時間にベストを尽くしたい。だから、私は不利を承知でこの儀式に参加したのだ。

 

 考えながら、ひさしがつくる影の中に入って、私は錆びの目立つ階段に足をかけた。私の部屋は二階の一番奥なのだが、そこでふと階段の上に人影を見つけて、私は咄嗟に足を止めた。

 

 私の部屋の前に誰かがいるのだ。

 

 胸元の下辺りまで伸びた長い三つ編みが印象的だった。すぐにその正体がわかり、私は声をかけて階段を昇った。

 

「……アヤちゃん?」

 

 さすがに予想外だった。そこいたのは先ほど学校で分かれたはずのクラスメイト、百朶文目だったのだ。

 

 彼女は何時ものように、困ったような顔で微笑んだ。

 

 

「――……でね、先生の話だと、この街の各所に見られる大きな畦みたいな溝、つまり古代に使われていた経路の後じゃないかって言われているんだけど、この街のそれはどういう目的で作られていたのかわかっていないらしいの。

 先生が言うには、道というよりは何かの絵みたいに見えるって言う人もいるみたいなんだけど。そうナスカの地上絵みたいに。確かにそうも思えるのよね。なにより……――」

 

 あれこれと話し込んでいる内に外もだいぶ暗くなっていた。とはいっても私はそれとなく相槌を打っているだけであった。

 

 この時のあやめは平時とはうって変わって饒舌に、華麗な声の調べをかきたてていた。彼女らしくない強引な来訪に多少訝る気持ちもあったのだが、その語調はけっして不快なものでもなく、私もいつの間にか聞き入ってしまっていた。

 

 私のことを待っていたらしいあやめに声を掛けると、彼女はいつものように俯きかげんになりながら事の次第を語った。

 

 なんと、彼女は学校をあとにしたあと、本当に私の手伝いをするためにわざわざアパートを訪れてくれたというのだ。

 

「……学校で言ってくれれば、こんなに遅くはならなかったのに。……結構待ったんじゃない? こんなところで」

 

「ううん。今日は研究会があって私も遅かったし、ちょうどいいかなっておもったの。それになんだか……みんなの前で言うのが、恥ずかしくて……」

 

 いいながら、この学校きっての優等生は照れくさそうにうつむくのだが、私としては彼女がなにを恥ずかしがっているのかもよくわからない。

 

 兎角、あんなところで散々待たせた挙句、そのまま帰ってくれとも言いがたいものがあったので。私は彼女を部屋に上げたのであった。

 

 こんな時間ではろくに片付けなどしているヒマはないと思っていたのだが、彼女に手伝ってもらうと諸所の些事はあっという間に片付いてしまった。

 

 私も長年家事にいそしんできた自負のようなものがあったのだが、彼女の手際には舌を巻いてしまった。万能の才人とはこんなところにも才覚を発揮できるものかと感心したほどだ。

 

 なのでお礼というほどのことはないのだが、こちらも負けじと手料理など振舞って労をねぎらうことにした。

 

 彼女は手伝いに来ただけなのだからといって散々遠慮する気配を見せていたが、このまま帰すのはさすがにこちらの気が咎める。

 

 それに、懸念もあったのだ。

 

 極めておとなしい性質を持つ彼女が、こうも突飛な行動をしたからには何か深刻な相談でも持ちかけられるのではと、私はうっすらと予測していたのだ。

 

 しかし彼女は私の部屋でどうということの無い話を延々としていた。彼女が部活で研究している古代道についての知識だ。

 

 なんでも、

 

 古代道とは、日本が近代化する以前に各所に敷かれていた道のことを指すのだそうだ。話によると、それらは長い間、人々の往来による踏み分によって自然発生したものだと考えられていたそうなのだが、近年歴史地理学の研究によってそれらの中には直線的計画道路の存在が考察されるようになったのだという。

 

 それらの推定経路の存在が確認されると、この笹ヶ谷市に存在する経路にも注目が集まり、大学等から有志を募り十数年前から本格的な調査が始められているのだという。

 

 とまあ、そのように滔々と、にもかかわらず歌うようにして、あやめは話し続けていたわけである。

 

 ちなみに彼女の言う「先生」とは担任の島原耀子のことである。

 

 彼女はあやめをはじめとした文系の優等生ばかりが集まった研究会の顧問をしており、自らが所属していた近隣の大学のゼミとも協力して、度々そのような歴史・民俗学についてのフィールドワークを行っているのだという。

 

 彼女の話しぶりからすると、なんとものどかで平和な集まりのように思えてくる。

 

 さて、平時なら別に邪険にするほどのこともないのだが、今はさすがに日が悪い。私はいい加減彼女を帰らせるべきだと考えていたのだが、どうにも今日の彼女にはつけいる隙がないのである。

 

「――……それでね、あの街中から山頂の神社のお社まで伸びてる一本の大きな道があるでしょ? あれも古代道の一種なんですって。

 この笹ヶ谷市って言う街自体、妙に網の目みたいに区切られた場所ってあるでしょ」

 

「……そうだね。所々、わかりにくいところがあるなとは思ってたけど……」

 

「そういう場所は、もともとあった道や区画がそのまま使用されてるからなんですって。

 勿論、新しい高速道路とか大きなビルとかがたくさん建ってしまって、わからなくなってしまっているところも多いんだけど、おそらく昔は街全体が均一な企画で区切られてたんじゃないかって言われているの」

 

「……京都の町みたいなものなのかな、なんか呪術的な意味合いでもあったって事?」

 

「先生はそれもありうるって言ってたわ。そういう話は風地相学のような東洋的なものだけではなく、西洋にもあるの。

 

 さっきったナスカの地上絵も、あの広大な経路の上を歩むことで何らかの儀式を執り行ったのだという話もあるし、他にも、英国ではコーンウォールの外れにあるミカエルラインやストーン・ヘンジにも関係のあると言われる規格的な経路を総じて「レイ・ライン」と呼ぶそうなの。似たような話は世界中にあるのよ。

 

 でも、やっぱりこの町の古代道は、特に不思議よね。こんな山奥に、少なくとも千年以上も昔にそんな小京都みたいな街があったなんて……――」

 

 

 あまり集中して聞いていたわけではないのだが、それを聞いて私は、なんとなくこの街の成り立ちに魔術師の影を感じた。

 

 しかし今はそれを考慮しているような状態ではなかったので軽く相槌を打って受け流していた。

 

 だいたい、その手のオカルティズムな話は私の専門なのだ。今更解説を受けなくても知っていることばかりだ。もっとも、そんなことを彼女に言うわけにもいかないのだが。

 

 そのうちに、歌うかのごとく滔々と語っていた文目は、ハッとしてそろそろ帰るといった。

 

「ご、――ごめんなさい。長居しちゃったみたい。ちょっと夢中になっちゃって」

 

「……別に構わないけど」

 

「それでね、涅ちゃん……その…………」

 

 あやめは最後に何かを言おうとしていたようだった。

 

 私はやはり、何かあるのかと思った。

 

 このまま帰ったのでは、彼女は結局なにをしに来たのかわからない。私が予感したとおり、何か悩みでもあったのだろうか? 

 

 この場合、もっと突っ込んで私のほうから探りを入れなければならなかったのだろうか? しかしこんな時に人様の悩みを聞くような余裕などないのだが……。

 

 それでもわざわざ私を選んだというならチエたちに言ってはならないことなのかもしれない。女子バスケ部に関連でもあることなのだろうか? 

 

「……何か用があったんじゃないの?」

 

 意を決して――というほどのこともないが、私は居住まいを直してから訊いてみた。

 

「え――と、その……」

 

 あやめは桃色だった頬を更に淡く染めて、何かを言おうとし、そして言いよどんだ。

 

「……?」

 

 私が首を傾げると、あやめは真っ赤になったまましばらく固まっていたが、俯いたまま、意を決したように口を開いた。

 

「きょ、今日のお昼に、その、涅ちゃんが聞いてきたでしょ? 今週末ヒマかなって……」

 

「…………ああ、そっか!」

 

 私は小さく声を上げた。そうであった。何か忘れているような気が、微かにしてはいたのだ。昼間は他の奴らが騒がしかったこともあり、失念していたのだ。

 

「……あれね、うん。――いや、でも……?」

 

 しかしそういわれても、素直に納得しづらいものがある。

 

「……でも、そんなことくらい、別に明日でも良かったんじゃ……」

 

 そう言うと、あやめは自身のしなやかな長い肢体を圧縮するかのように縮こませ、

 

「う、うん。確かにそうなんだけど、その、……なんだか、気になっちゃって。……それに、その、みんなの前で聞きなおすのってなんだか……恥ずかしくって……」

 

 蚊の鳴くような声でそう言って、また俯いてしまうのだった。だが、そういわれても私にはなにが恥ずかしいのか皆目検討がつかないのであった。

 しかし、なんにしろその程度のことならこちらも気負うようなことではない。

 

「……大したことじゃない。ペアチケットもらったから今度映画にでも行かないかってききたかっただけ。……秋乃たちは部活みたいだし、私、他に誘うような人いないから」

 

 勿論、これは事前に自分で用意しておいたものである。

 

 今後この儀式がどのような展開を見せるかはさて置くとして、ライダーにやる気を出してもらうためには、彼女の姿を見せるという約束を守るための具体的用意があるのだと提示するための小道具だったのだ。

 

 しかしそう言うとあやめは暫し呼吸も忘れて呆然と虚空を眺め、そして爆ぜるかのごとく、そして狼狽したかのように声を上げた。

 

「い――行くわッ! じゃ、無くて、その、全然平気! 何にも予定なんてないから! 無い筈だから!! ちゃんと暇にしておくから! 絶対、絶対行ける。絶対行くから――――お願い! 私に、い、行かせて?」

 

「…………うん。じゃ、行こう」

 

 気圧されて、そうとしかいえなかった。

 

 すると今の今まで全身を強張らせていたあやめは一変、ニコニコと満足そうにニヤけているのである。

 

 彼女の場合、いくらニヤけようがその美貌は一向に崩れやしないが、しかしどうにも挙動不審である。この優等生はたびたび私の理解を超えたところで何かを一喜一憂している感があるようだ。

 

 もっとも、それを厭う理由はないのだし、むしろこうもこちらの都合に沿って動いてくれるとは好都合だといえた。

 

 ――あとは、この「餌」にライダーがどれだけ食いつくかなのだが……。

 

 

「……じゃ、また明日」

 

「うん。――――涅ちゃん……あのね、私」

 

「……なに?」

 

「私は、その…………ッ。いいえ、なんでもないの。ごめんなさい。またね」

 

 何かを言いかけて止めて微笑み、文目は帰途に付いた。辺りは暗くなっていた。私はそれを見送って一息ついた。

 

 なんだったのだろうかと思いつつ、ひとりで戻ると不意に部屋の中が幾分温度と色彩を欠いたように感じられた。

 

 地味にまとめられた風貌を好む文目だが、それでもやはり常人には及びも付かない華があるのだな、と私は改めて思った。

 

 それにしてもこういう狭い部屋に住むのは初めてだからなのか、ひとりでいる室内がいやに寒々しく感じられた。

 

 しかし、そんなセンチな感慨も不意に実体化した巨大すぎる筋肉の塊の存在感に掻き消されてしまったわけなのだが。

 

 その良し悪しは別として、驚くには値しない。実は一時間以上前からこの気配が部屋の中に侵入していたことを私は知っていたのだ。

 

 たとえ霊体化したままでもマスターは己のサーヴァントの存在を知覚できるのである。

 

 六畳間のど真ん中に胡坐をかいたまま実体化したライダーは、珍しく難しそうな顔をしていた。太い眉根を寄せてなにやら考えるようにじっと押し黙っていた。

 

 何かに腹でも立てているのだろうか? まあ、あの空き家に置き去りにしたことやその他諸々、なにに腹を立てても別に不思議ではないだろう。

 

 とりわけ、この男は四六時中なにかにつけて理不尽な文句をつけたがっているような男なのだし。

 

「……何かあったの?」

 

 さて、なにやら文句のひとつでも飛び出すかとげんなりしながらも、私は声をかけた。

 

 しかし反応がない。何時までも待っているのもバカらしいので、私は背後に回っていつものように礼装に着替え始めた。

 

 衣服を残らず脱ぎ去り、代わりに手製の香油を手にとり体の隅々まで丹念に塗り込んでいく。

 

 数種の軟膏を重ねて擦りこむたびに、えも言われぬ芳香が湧き起こる。

 

 別に初めて見せるわけでもないのでライダーのことは気にせず作業を続ける。しかし確かに妙といえば妙。変だといえば変であった。

 

 何時もならいやらしく薄笑いを浮かべてこの作業を魅入っているような下衆な奴なのだが、今日に限って見向きもしない。

 

 いよいよ不審に思って再度声をかけようとしたそのとき、唐突なライダーの声がそれに先んじた。

 

「主よ。……オレ様は決めたぞ」

 

「……なにを?」

 

 唐突で意味の判じがたい言葉だ、しかし驚くには値しない。いつものことだからだ。

 

「なにを、ではない。昨夜の褒美の件だ!」

 

 確かに、ライダーに言うことを聞かせる報償として紹介するといった美女とは文目のことであった。

 

 しかし、私は今日彼女をライダーに見せるつもりはなかったのだ。彼女が自主的に私のところに来てしまったのは慮外の事態だった。

 

 おかげで、急きょ用意した週末の映画チケットもこれで無駄に終わってしまったわけである。

 

 結局一緒に行くことになってしまったが、本来なら週末までに成果を上げてみせろとライダーを焚きつけるつもりだったのだ。

 

 だいたい、人の命令を無視しておいて結局のところ敵を逃すにいたったヤツに褒美なんて出るとでも思っていたのだろうか?

 

 しかし見せてしまったものは仕方がない。先ほどからなにやら思案しているのは彼女のことなのだろうか?

 

「……約束どおり見せたでしょ。気に入らなかった?」

 

「とんッッでもないッ!!!」

 

 巨馬鹿は座ったまま一気に此方へ向きかえった。相変わらず馬鹿みたいに声がでかい。

 

「オレ様は決めたぞ。あの娘だ。いや、あの娘しかおらぬ。あ、あれほどの美女とは思わなんだ。

 ――何ッッたる可憐! 一目見てより、息をするのを忘れておったわ。こ、こんなことはあの時以来だ。そう、あの……いや言うまい。過去の傷に触れるは野暮であろう。

 ――兎角、あの娘はオレ様のものにするぞ。絶対だ! もう決めたぞ。我が主よ。一刻も早くあの娘をオレ様にくれい!!」

 

 いや、霊体化していたのだから肉眼で見えたわけでもないだろうし、そもそも息もしてなかっただろう。とは、まあ口にはしなかった。

 

 とりあえず、私にはこいつがなにを言っているのかがいまいちわからなかったのだが、とにかく、彼女を気に入ったということでいいのだろうか。

 

「……くれもなにも、私にはどうすることも出来ないよ。まさか暗示にでもかけてそのあいだに何かする気?」

 

「なるほど魔術師なればそういう手も…………馬鹿なッ! そのような狼藉などせぬわ! フン。そうだな、まずは約束どおりこれからも敵の首級は挙げよう。

 

 おぬしの指示にも従おうではないか。故に、今度の褒美は是が否にもオレ様とあの娘とを引き合わせて欲しい……いやいや、それでは足りん、まずはオレ様が受肉せねばなならんな。

 

 このような身体では何時までも主の世話にならねばならぬし、あんなこともやそんなことも支障をきたすであろう。それはよろしくない。

 

 ……ううむ。そうだな、まずは受肉し、そのあとだ。そのあとで取り計らってくれれば……うむ。そうだ。そうでなければならぬのだッ!」

 

「……いや、ちょっと……」

 

「フン。――聞けい、主よ! 決めたぞ!!」

 

「……いや、さっきから聞いてるんだけど」

 

 とにかくすごい声量だ。うるさくてかなわない。

 

 という以上に、近所から苦情が来るのでやめて欲しい。とにかく声を抑えろというように手振りで示したのだが、とても見ちゃいない。

 

「オレ様の願いだ。我が戦うべき理由よ! 驚くなかれ、オレ様は先刻あの娘に惚れ申した!」

 

 驚くも何も、この醜態を見ていれば凡その予想は付いていたが。

 

「故にオレ様はいま一度の生を獲得し、あの娘と添い遂げることと致した」

 

「…………」

 

「いや、言うな。あの娘にはそれだけの価値があるのだ!」

 

 なんにもいってねぇ。……私はそれは白々とした視線でこの馬鹿の狂乱を見ていたことであろう。もっともこの馬鹿には何の意味もないようであったが。

 

「……別にそうしたいなら構わないけど、私にどうして欲しいの?」

 

「うむ。よく聞けぃ! 取り敢えずはこの戦を制して受肉する。それまではいい、至極簡単な話だ。だが問題はその後なのだ。

 

 オレ様とて己を省みぬわけではない。オレ様のような武芸の腕によってのみ身を立てる男と斯様なうら若き貴婦人とでは、何よりも接点がない。いざ宴席にでも着けば意気投合するは違いないのだが、そこに行くまでが難しい。

 

 傍から見れば勇猛なるオレ様の容貌は、しかし女人の誤解を生みかねんのだ。特にこの時代はそうなのであろう? 

 

 ――そこでおぬしの出番よ。先ほどもなにやら親しげであったではないか。

 

 あの調子で受肉したオレ様とあの麗しの君とを引き合わせて欲しいのだ。そうすればおぬしは目的を果たせてオレ様も想いを遂げられる。どうだ。万事うまくゆくではないかッ!」

 

「………………まぁ、…………それくらいなら、いいけど」

 

 生返事をしながら、私は一体この男の頭の中にはどのような地獄絵図が展開されているのだろうかと考えていた。たぶん想像しないほうが賢明なのだろう。

 

「うむ! 決まった。いや、めでたい。めでたいぞ! フフン。そうとなれは、善は急げだッ!」

 

 

 そう言ってライダーは立ち上がり、自前の装備である画戟を取り出し掲げ上げた。

 

 当然、六畳間の狭いアパートメントの一室である。二メートルをゆうに超える大男が三メートル以上もある長物を振り回せば、当然やわな壁や天井は障子紙のようにぶち抜かれる。

 

 よもや屋根まで抜いてはいないだろうな。と私が思案する間に、直刃に添えられた三日月形の刃が凄まじい光明を伴いはじめた。

 

「ふぉぉぉぉぉおおおおッ! 来ぃぃたれぇぇぇえ、わぁが愛馬ぁぁぁああ!!!」

 

「……外でやって、外で」

 

 意気込みまくって雄叫びを上げる馬鹿を何とか制止した。

 

 こんなところで宝具を使われたら部屋どころかアパートそのものが半壊する。というか、これだけ騒げば何の被害もなくても近隣の住民から不審に思われたことは確実である。穏行のための仮住まいだというのに、これでは意味がない。

 

 やる気になってくれたのはいいが、やはりこいつには当分の間振り回されそうだ。

 

 




キャラクタープロフィール


名前:アズル・フォン・シュタウフェン
一人称:ぼく
性別:男
身長:155㎝
体重:45㎏
好きな物:くろむ、を含む家族。友達。
趣味:人の役に立つこと
悩み:最近、家族がバラバラで孤独なこと。
魔術属性・特性:不明
備考:くろむの師匠であるルベル・フォンシュタウフェンの息子に当たるドイツ人ハーフの中学生。十三歳。
 黒髪で、瞳は文字通りのアズール(空色)。
 常に献身をいとわぬ、心に悪徳の芽を持たない天使のような少年であり、そのため物語の主役にはなれない因果を負っている。
 彼については『ネクストサイト』で詳しく。

名前:島原夕子
一人称:わたくし
性別:女
身長:147㎝
体重:35㎏
好きな物:?
趣味:?
悩み:?
魔術属性・特性:不明
備考:くろむの担任、耀子の歳の離れた妹。アズルの同級生。姫カットの十三歳
 魔術師としての現島原の当主とされ、同時にシマバラの巫女の資格を持つとされる。詳細は不明
 すさまじい魔術的ポテンシャルを誇るようだが、今のところ思惑もサーヴァントの有無も不明である。
 髪の色は漆黒で、瞳も混じりけのない黒。




 ライダー、それは悲しき道化。
 というわけで、くろむの日常生活編をお送りしました。
 次回からは再びバトルになります。こうご期待。
 
 にしても、ルビとかがふりにくいよぉぉぉぉ! ワードならもっと簡単なのにぃぃぃぃッ!
 ……慣れればそうでもなくなるのかなぁ。時間かかって仕方ないッス。
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