仏の口にも刃   作:こたつでみかんを食べる

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天の采配

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Side:星之宮 知恵

 

 今日は朝から機嫌がいい。合コンの失敗続きなんて、ほんの些細なことに思えてくる――。

 

……いや、やっぱりそれは別。普通にムカつくわね。

 

 とはいえ、それを差し引いても、今日は気分がいい。理由は至極単純だった。

 

 今年の一年B組は、かなり当たりの部類に入る。担任として何年も生徒を見てきたから分かる。最初の段階で「このクラス、ひょっとしていけるんじゃない?」と思える年は、実はそう多くない。

 

 でも、今年は違う。

 

 まず、一之瀬帆波。あの子は間違いなくAクラスでも十分に通用する。

 

 学力だけじゃない。人付き合いの上手さ。周囲への気配り。そして、本人が意識せずとも自然と人をまとめてしまう力。クラスの中心に立つだけのものを、最初から持っている。

 

 それに、あの明るさも大きい。クラスの雰囲気が悪くなりそうなときに、自然と間に入れる子なんて、そう簡単には見つからない。もちろん、優しすぎるところは少し心配だけど。そこさえ上手く扱えれば、Bクラスを引っ張っていく存在としては申し分ない。

 

……まあ、あの子自身がどこまで自分の力を自覚しているかは、これから見ていく必要があるけど。

 

 次に神崎隆二。彼も優秀だ。文武両道で落ち着きがある。物事を感情だけで判断せず、周囲を冷静に見られる。あの子がクラスにいるだけでも、かなり安心できる。協調性が低いことは少し問題視されていたけど、一之瀬さんのおかげか、思ったよりクラスにも馴染んでいる。

 

 この二人がいるだけでも、クラスをまとめる土台としては十分。それに、他の子たちも全体的に悪くない。突出した子が二、三人いるだけじゃない。クラス全体の平均値が高い。

 

 これはかなり大きい。

 

 学校の評価は、結局のところ一人の力だけでは決まらない。どれだけ優秀な生徒がいても、周りが足を引っ張れば簡単に崩れる。逆に、全員が一定以上の水準にあれば、多少の問題が起きても立て直せる。

 

 その意味では――。今年のBクラスは、かなり期待できる。……もしかしたら、本当にAクラスまで狙えるかもしれない。

 

 そう考えると、自然と口元が緩んでしまう。

 

 そして、何よりも――。

 

 日向優慈。

 

 この子については、少し笑ってしまうくらいだった。学力、知性、判断力、身体能力。確認できている範囲だけでも、どれも学年トップクラス。

 

 特に身体能力については、教師として見てもかなり異質だった。協調性については、神崎君よりも難があるようだけど。中学校時代の評価を見る限り、人と協力する意思そのものがないわけじゃない。

 

 だから、そこまで問題視していなかった。

 

……とはいえ、この学校では、個人の能力だけでどうにかなることばかりじゃない。人と協力しなければならない場面もある。そう考えると、日向くんの協調性は、これからの大きな課題になるかもしれない。

 

 

 これだけ能力の高い生徒が、一之瀬さんや神崎くんと同じクラスにいる。……やっぱり、今年は当たりだ。少しくらい問題児がいたって、このメンバーなら何とかなる。むしろ、この程度の個性なら可愛いものだ。

 

 私は今年の一年B組の名簿を眺めながら、改めてそう思った。

 

 

 

――Aクラス。もしかしたら、本当に狙えるかもしれない。そう考えたところで、胸の奥に別の感情が浮かんだ。単なる憎悪では片付けられない、ヘドロのように重く黒いこの感情。

 

 そう、Aクラス。私にとって、それは単なる目標じゃない。この学校で教師をしている以上、担当クラスをAクラスへ導くことは、もちろん大きな意味を持つ。ボーナスだって貰えちゃうしね。

 

 でも――私にとっては、それだけじゃない。Aクラスになれば。私のクラスがAクラスになれば――。あの女のクラスは、Aクラスになれない。

 

 それだけでいい、それだけで、十分だった。

 

 11年前。私たちのクラスを壊した女。卒業を目前にして、自分の恋人を切り捨てることができなかった。その選択が、クラス全体を巻き込んだ。最後には、積み上げてきたものまで全部崩れてしまった。

 

 あのとき、サエちゃんが、あの男が......もう少しだけ割り切れていたら。

 

 あのとき、ポイントを失わなかったら。

 

……そんな「もしも」を、私は何度考えただろう。

 

 茶柱佐枝。私の愛しい愛しい――愚かなサエちゃん。あの女は今、教師になっている。

 

 そして私は知っている、あの女が、生徒たちをAクラスへ導こうとしていることを。自分の過去を清算するために。あの日、自分ができなかったことを、生徒たちを使ってやり直そうとしている。

 

 そんなこと、させてたまるもんですか。あの女だけが、過去を綺麗に終わらせる。自分だけが前を向いて、何もなかったような顔をして、生徒たちと一緒に新しい未来を手に入れる。

 

 そんな都合のいい話を、私は認めない。11年前に置いてきたものを、私だけが抱え続けるなんて――。絶対に、許さない。だから私は、このクラスをAクラスへ連れていく。あの子のDクラスを、絶対にAクラスにはさせない。

 

 

 

 

「……いやぁ、今年はほんと最高よねー」

 思わず独り言が漏れてしまった。

 

 そのまま一年B組の教室前までやってくる。朝のホームルーム、教師としては明るく元気に始めるのが一番。何事も最初が肝心だ。

 

 私はいつものように扉を開けた。

 

「はーい! みんなおはよう! 愛しの星野宮先生がやってきましたよー!」

 

――そして、開けた瞬間に気づいた、教室の空気が、やけに重い。

 

「時を経ても、やはりまだこの場に残るのか? どんな醜態をさらそうが、転校のため奔走するのが身のためだと思うが……憂うべき有様だ」

 

……おっとぉ?チエちゃん、大☆誤☆算☆、あれれ~? クラスの絆が、もうボロボロだ~?

 

 声の主は日向君。その前には一之瀬さんがいる。何やら話していたらしい。いや、何があったの?まだ三日目なんだけど。転校を考えるくらいの大喧嘩でもしたの!?

 

 周囲を見渡す。一之瀬さん自身が抑えているのか、何か言いたそうにしながらも口を挟む生徒はいない。ただ、何人かは今にも掴みかかりそうなほど怒っている。

 

 一触即発。……あれ?私が想像していた1年B組って、こんなクラスだったっけ?

 

 その一方で、姫野ちゃんのように一部の生徒は外を眺めたまま我関せず。すごいわ、彫刻みたいに微動だにしてない。人物画のモデルでも楽勝ね。

 

「にゃはは……ごめんね。何度も言うけど、私はこの学校で頑張るよ。日向君も協力してくれない?」

 一之瀬さんが困ったように笑う。

 

……何度も?これ、何度目なの?朝っぱらから随分と仲良しね、なんて現実逃避したくなる。

 

「そうか……ならば控えるよう。仕方がない。馬に何を言ったところで意味などない。その上、これ以上泥を塗りたくる趣味もオレにはない。助けだと? できることなどない。荊棘を踏み越え、傷つきなお往くその様を、陰から見させてもらおう」

 

……学級崩壊って、こういうの?日向君は怒鳴っているわけでもない。表情も変わらない。ただ淡々と、一之瀬さんの言葉を切り捨てている。これが日向君の特徴なのかもしれない。

 

 本人に悪意がない――という資料の記述を、私は昨日から何度も読み返している。……本当に?信じていいの、あの資料。

 

 一之瀬さんも慣れてきたのか、呆れているのか、もう諦めたのか。

 

 ただ困ったように笑っている。

 

 いやいや、ちょっと待って。この二人、私が期待していたクラスの中心候補なんだけど。片方は学年トップクラスの能力を持つ、扱いの難しそうな子。もう片方は、自然と人をまとめられる天使みたいな子。その二人の関係が、今にも切れそうな古い橋のロープくらい危うい。

 

 まっずい!!三日目の朝から、クラスの中心同士で空中分解なんてされたら、担任として笑っていられない。

 

「ちょ……ちょっと、ストーーップ!」

 私は慌てて二人の間に割って入った。

 

「はい、今からホームルームでーす! みんな席についてね~!」

 

 笑顔。完璧な笑顔……の、はず。その裏で心臓はものすごい勢いで鳴っているけども。

 

 生徒たちが渋々と席へ戻っていく。私も何食わぬ顔で教卓へ向かった。

 

 その途中、ふと日向君を見る。能力だけを見れば、本当に申し分ない。学力、知性、判断力、身体能力。どれも一級品のはず……面接官が節穴じゃなければ。

 

 そんなことを考えながらホームルームを始めようとしたところで、一人だけ席についていないことに気づいた。

 

「……日向君? えーっと、席に座ってほしいんだけど。な、なにか質問でもあるのかな?」

 

「まさか暇ではあるまいが、放課後、少し問う。時間を借りたい」

 あれだけ揉めた後にもかかわらず、その顔には感情が何も浮かばない。

 

「……う、うん!」

 

 私は笑顔を浮かべる。

 

 ひきつってないはず……たぶん。

 

「チエちゃん先生は、いつでもウェルカムウェルカム! だから今は席に座ってほしいなぁー?」

 

 心から懇願する。

 

「感謝する」

 

 日向君は素直に席へ戻った。

 

……よかった。

 

 その一方で、私は少しだけ期待していた。

 

――もしかして。もうポイントシステムに気づいたのかな?もしそうなら、本当に優秀だ。いや、そんなレベルじゃない。この学校の仕組みを入学して三日で理解できるなら……。

 

 やっぱり、Aクラスも夢じゃない。私は小さく息を吐き、笑顔のままホームルームを始めた。

 

 

      

       ◆

 

 

 

 その日の放課後。

 

 職員室では、私はいつものようにサエちゃんのところへ顔を出していた。

 

「サエちゃん、大変そうだねー。もうクラスポイント減り始めてるんでしょ?」

 本当にウケる。

 私のクラスは歴代でも最高だけど、Dクラスは歴代でも最悪。悲惨の一言じゃとても表せられない有様だ。

 

 このままじゃ歴代初のクラスポイント0スタートしちゃうんじゃない?

 

 

「関係ない。Dクラスだ。予想できた範疇だろう」

 その顔には冷や汗の一つも流れていない。

・・・おかしい?いつものサエちゃんなら、もう少し焦ってもいいはず......何かあるの?

 

「いやー、優秀なうちのクラスの子、何人か分けてあげたいなぁ」

  Dクラス、確かに尖った能力の子は多いけど、その分とびきりの問題児たちが集められていたはずなんだけど。

 

「余計なお世話だ」

 

「ふふ、そうだよねー」

 でも何があっても関係ない......私は笑う、私は今の自分のクラスに、それだけの自信がある。

 

「でも、これじゃあ今年もAクラスなんて無理よね~」

 どんな可能性の芽だって摘んであげる。

 

「そのとおりだな、何が言いたいんだ?」

 さえちゃんが即答する。怪訝そうにこちらをうかがいながら。

 

 私は笑顔のまま、少しだけ声を落とした。

 

「間違っても、下剋上なんて考えちゃだめだよ?」

 

「……っ」

 サエちゃんの顔から、僅かに顔が歪む。

 

 私は笑う。でも、胸の奥では笑っていない。――絶対に、Aクラスにはさせない。

 

 そんな時だった。

 

 コンコン。職員室の扉が叩かれた。

 

「星之宮はここか?」

 

――この声は。

 

「あ、日向君だ」

 

 私は立ち上がった。

 

「はーい! いるよー!」

 

 扉を開けると日向君が立っている。職員室に入るとき、みんな少しくらい緊張するんだけどそんな様子は見られない。

 

「どうぞどうぞ、入っていいよ~」

 

 日向君が入ってくる。

 

 そして私と茶柱を見るなり、ほんの少しだけ眉を動かした。

 

「友との親交とは、随分と仲睦まじいことだ」

 

「うん?」

 急に褒められた?何でだろう?

 

「だが、理解し難いな。本来の務めである医療を捨て、ここに居座る理由はなんだ?、咎められぬのなら、随分と寛いだ職場だな」

 

 いや皮肉だこれ、くっ、最近理事長にもちょっと釘刺されてるんだから思い出させないでほしいんだけど。

 

「ご、ごめんなさーい。つい来ちゃうのよね~。サエちゃんと話すの楽しいからやめられないのよね~、基本は保健室かここにいるから大丈夫だとは思うよ~」

 笑顔を崩さず、そして、少しだけ思い出したように続ける。

 

「あ、それと日向君、『星之宮』じゃなくて、ちゃんと『先生』って付けてねー? もう、サエちゃんの前でそんな呼び捨てなんて、先生恥ずかしいわ~」

 ちょっとさすがにね、一応言っておかないと、指導不足と思われても給料減っちゃうし~軽く笑ってみせて私はそう注意する。

 

 すると日向君は私をじっと見た。黒いあまりに澄んだ瞳。

 

――ぞくり、背筋に冷たいものが走る。

 

「……なるほど、過去に心を置き、怨恨に燃え、その身に今だ制服を纏いながらも、先に生きる者として振る舞うか」

 

「え?」

  心臓が跳ねた。

 

「言葉が出ないな、教師の鑑と呼ぶべきなのか。星之宮先生、巡り合わせに感謝する」

 

……何を。この子は何を見ている?何を知っている?

 

「その限られた視野で、精々足掻くことだ」

 

「…………」

 

 胸の奥に、冷たいものが落ちた。知っているはずがない。十一年前のことを、この子が知っているはずなんてない。ポイントも情報購入の使用履歴はなかったし、この子にそんな伝手はない。それなのに、その全てを見てきたこのように彼は語る。

 

「ん~……なんのことかな?」

 

 私は笑う、いつもの私。何も知らない、少しお馬鹿で可愛くて明るい先生。内の動揺を隠しきり、そう振る舞うそれ以上、日向君は何も言わなかった。これ以上はぼろが出る、誤魔化すように私は聞く

 

「それで、聞きたいことって何なのかなぁ?」

 

「退学に関する必要なポイントが知りたい」

 単刀直入にひどく淡々と彼は聞く。

 

「……」

 私は一瞬、言葉を失った。この職員室にも緊張が走る。

 

......あはは、早いっ!!この学校の入学式から、まだ二日、もうそこまで気づいたの?

 

「んふふ~。優秀だね~。もう気づいたのかな?二千万ポイントだよー。退学も、その取り消しもね~」

 私は笑いながら答える。

 

 そこで、私は朝の光景を思い出した、一之瀬さんに向けた、あの言葉。転校を心の底から願ってそうなあの言葉、そこへ、この質問。

 

……まさか。私は思わず一之瀬さんの顔を思い浮かべた。この子、一之瀬さんを――。

 

「でも、チエちゃん先生的には、使うなら後者がいいと思うな~。一之瀬ちゃんを筆頭に、みんないい子たちばかりだから」

 さりげなく釘を刺す、日向君は少しだけ、ほんの数ミリ程度、首を傾げた。

 

「答える必要はない。それに誘導とは、些かいただけないな」

 

「…………」

 教師が必要以上に生徒に干渉できないことも知っている!?洞察力が高い、なんて言葉じゃ片付けられない。

 

「う~ん、そうだね。自由に使っていいよ~」

 今は大人しく引いておく。実際に過剰な干渉は処罰の対象だ。まぁとはいえ、なんだかんだ皆、干渉自体はするんだけどね。

 

「他には何かあるかな?」

 さすがにないと思うが、訪ねておく。

 

「……ああ」

 日向君は少し考えてから口を開いた。

 

「定期的な試験でクラスを競わせているな?」

 

「――」

 固まった、空気はもう氷河期だ、特別試験の存在にも気付いている!?予想外すぎる

 

「学年末には直接、退学がかかったものもあるんじゃないか」

 

 追い打ち!!しかも学年末試験、選抜種目試験のことは、生徒会の資料にも載せてはいけないはず......なんで!?

 

「な、なんのこ……」

 

「いや、十分だ。もう意味のない問いだ」

 彼はすぐに会話を打ち切る。

 

「え......?」

 えっ、何?何なの?

 

「失礼する」

 そう言って、日向君はあっさりと踵を返した。

 

「ちょ、ちょっと――」

 

 呼び止めるより先に彼は扉へ向かい――ふと振り返った。

 

「忘れていたな、理事長に会いたい。いくらだ?」

 

「……へ?」

 私は目を瞬かせる。

 

「まさか聞こえなかったのか?老人でもあるまいに......理事長への面会だ」

 

 女性に言うなそんなこと!!、私ピチピチなんだけど!!!それに、そんな要求、簡単に通るわけがない、私は少し考えたあと、冗談半分で答えた。

 

「うーん……ちょっと難しいかな?あはは、もしも十万ポイントくれるならいいよ~」

 さすがにね~まさか三日目でポイントがそのまま残ってるなんて有り得ない、どうせ払えない、そう高を括る。

 

「承知した、存外少ないな、想定よりも安く済む」

 

「…………え?」

 日向君は端末を操作する。――ピコン。ポイントの移動を知らせる音。

 

「…………」

 私は画面を見た。

 

 十万、本当に!?

 

「はえ?」

 さすがにもう取り繕う余裕はない。

 

「これ以上は時間の無駄だ、ここにいる意味もない」

 

 そのまま日向君は職員室を出ていった、扉が閉まる。

 

「…………」

 

 しばらく、私は動けなかった。そして、ゆっくりと職員室を見回す。

 

……なんだろう。なんでみんな、そんな目で私を見るの?まるで、「お前、やったな、まぁ今までありがとう」とでも言いたげな顔をしている。サエちゃんさえも「お前、そこまで...」とでも言いそうな顔だ、ふざけないで、やるわけないでしょ、ネタバレなんて!!

 

 いやいやいや。言ってない何も言ってないよ本当に、チエちゃん無罪だからね!!!!!

 

 そう私は悪くない。退学に必要なポイントを聞かれたから答えただけ。特別試験については、具体的なことなんて何も話していない、というか何も言わせてもらってない。理事長への面会だって、十万ポイントと言っただけ、......これは最悪私の給料から天引きかもしれないけど、ここまで優秀な生徒だ。多少のお目こぼしがあったっておかしくはない。

 

 そう自分に言い聞かせているうちに、さっきまでの驚きが少しずつ薄れていった。代わりに別の感情が膨らんでいく。

 

……あの子。本当に、とんでもない。入学して二日。もう学校の仕組みに気づき、退学制度を疑い、必要なポイントを調べ、さらには結果として理事長との面会まで買ってみせた。

 

 何を考えているのかは分からない。けど、朝の一之瀬さんとのやり取りを見る限り――クラスを守ろうとしているようには、とても見えない。

 

 むしろ逆、自分が気に食わないなら、あの子ですら切る可能性すらある。

 

……いいじゃん!いざという時に切り捨てられないなら、Aクラスなんて夢のまた夢でしかない。あの時のように。

 

 私は嗤う。

 

 能力は本物だ。あの子が本気で動けば。今年のBクラスは、大きく変わるかもしれない。

 

 Aクラスに届くだろうか。そして。Aクラスになれば――。Dクラスは、Aクラスになれない。そのためなら。多少危険な生徒がいたところで、どうということはない。それこそ悪魔だったとしても、構わないんだから。

 

 

「……ふふ」

 笑ってしまう。もしかしたら。本当に、今年は。

 

 日向君。何を考えているのか分からない、何をしでかすのかも分からない。

 

 だけど。この子なら――。サエちゃんを、あのあきらめの悪い女を叩き潰せる。十一年間、胸の奥に沈めていたものを、今年こそ終わらせられるかもしれない。

 

「……やってやろうじゃない」

 

 まずは理事長への連絡。その前に――。この職員室に漂っている、この養豚場の豚さんを見る地獄の空気を、どうにかしないといけない。

 

……頑張って無実を証明しなくちゃ、目的のためならこれくらいどうということはない。私はいつもの笑顔を浮かべたまま、心の中で小さく拳を握った。

 

 このくらい、やってやる!!!

 

 

 

 

――まさか、合コンが無実の決定打になるとは思ってなかった、人生何が役に立つかわからないものね。

 

 

 

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Side:日向 優慈

 

 いや、大したものだ。やはりオレは、人の縁に恵まれている。

 

 星野宮先生。初め、先生と呼ばなかったのは、復讐者には無粋かと思ったからだが。あれほどの怨恨を抱えながら、それを生徒に向けることなく、教師であろうとする。オレのような者にまで気を配ってくれるのだから、実に良き師に巡り合えた。

 

 この学校で何があったのかまでは知らない。だが、過去を乗り越えられることとよいのだが。

 

 人生というものは、思いのほか長い。オレの祖父も「もう死ぬ、もう死ぬ」と言い始めて十年、今も元気に波乗りに励んでいる。

 

 復讐を果たしたその先で、彼女が幸せを見つけられることを祈ろう。身勝手な願いではあるかもしれんがな。

 

 まさか推測が全部当たっているとはな、他の教員の反応から見ても間違いはなさそうだ。それにしても、この学校も難儀なものだ退学にさせる必要もないとは思うんだが……

 

 結果として、理事長との面談が想定より安く済んだのは幸運だった。50万ポイントは最低でもかかると思っていたのだが、気を遣ってくれたのだろうか。だとすれば、ありがたいことだ。

 

 これで、保険のための交渉に入れる。

 

……交渉か。オレは口で語るのが、あまりすこしばかり得意ではない。うまくできるだろうか。

 

――いや、待て。別に、全てを言葉で伝える必要はない.....のか?

 

 準備には少々手間が掛かるだろう。だが、試す価値はある。もし駄目だったなら、その時は言葉を尽くせばいい。

 

 さて――一体どうなることやら。

 

カルナ語の下に、丁寧語の原文ってほしいですか?冗長になってもいけないと思い省いていたんですが。

  • ヤハ【カルナ語検定3級】
  • 俺は...高円寺でも藤丸でもない!!
  • 私は好きにした、君も好きにしろ
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