仏の口にも刃   作:こたつでみかんを食べる

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ややご都合主義強めになってしまったかと思います。


足りぬもの

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Side:坂柳 成守

 

 

――時計へ目を向ける。

 

 時刻は、約束していた時間の少し前、理事長室には、壁掛け時計の秒針が進む音だけが静かに響いていた。

 

 カチ、カチ、と規則正しく刻まれる音。もう放課後だからだろうか、窓の外から差し込む夕方の光も、少しずつその色を変えている。

 

 私は執務机の上に置かれた書類へ目を通すが、今日の仕事はもうほとんど片づけた。そのせいか、机の上に積まれていた書類も、今では数えるほどしか残っていない。

 

 とはいえ、まだ帰るつもりはない。むしろ今日もっとも心待ちにしていた瞬間を待つ。これから来る生徒との面談だ。

 

 最初聞いたときは驚くと同時にほんの少し苛立ちを覚えたものだ、私も忙しい、いくら何でもポイントで勝手に面会の約束はしてほしくなかった。停職処分も考えたが、話を聞いて減給処分にと止めておいた。どのくらいの額になるかはこれから会う彼次第ではあるがね・

 

 まさかもうこの段階でSシステムを筆頭に学校の仕組みに気づくものが現れるとは思いもしなかった。いや実際に気づいているものいるのかもしれない。だがこの段階で私の面会を望むものは初めてだ、彼は何を聞きたいのか、あるいは何を提案したいのだろうか。

 

 窓の外へ目を向けると、校舎の廊下を歩く生徒の姿が、時折見える。授業が終わり、それぞれが各々の時間を満喫している、楽しそうに買い物に行くもの、部活動に励むもの。だが明るい側面ばかりでないのはこの学校だからだろうか、そんなものたちをただ羨ましそうに流れるそんな生徒も決して少なくはない。

 

 いつもの変わらない日々というと、もしかしたら、この学園を運営する、張本人が何を言っているのかと怒られてしまうかもしれない。

 

 そんな普段と変わらない学校の一日。

 

 その一方で、この部屋ではこれから一人の生徒と、少々特殊な話をすることになる.....かもしれない。せっかくだ、楽しい時間になると良いんだけどね。

 

 私は机の上に置かれた茶器へ目を向けた。コーヒーと紅茶、好みは分かれるものだ。私はどちらでも構わないがね、一応どちらでもいいように一杯ずつ用意させている。

 

「……そろそろかな」

 

 時計を見る、約束の時刻まで、あと数分。私は椅子に座ったまま、静かに待つ。

 

 この部屋は広い、けれど、必要以上に物を置いてはいない。執務机、本棚、来客用のソファ。壁際に並ぶ資料と、いくつかの調度品。どれも学校を運営するために必要なものばかりだ。

 

 ここへ来る生徒の多くは、部屋に入った瞬間、少なからず緊張する。まあ、それも無理はない。普段、生徒が立ち入るような場所ではないのだから。・・・彼はどうかな?少し楽しみだ。

 

 私は再び時計を見る。

 

――あと一分。

 

 秒針が進み、そして、約束の時刻になった。その直後、静かな部屋に、扉を叩く音が響いた。

 

 時間通り。一秒の遅れもない.....少なくともまめな性格ではあるようだね。

 

「どうぞ、入ってきてかまないよ」

 

「失礼する」

 

 私が返事をすると、扉の向こうから一人の生徒が姿を現した。

 

 日向優慈。今日、この部屋へ呼んだ生徒だ。いや私が呼び出されたという方が実は正しいのかもしれないね。

 

 背筋はぴんと伸びている。そして、入室する際の一礼にも一切のよどみがない。深すぎず、浅すぎず。角度、速度、姿勢――どれを取っても見事なものだ。一種の芸術と言ってもいい。

 

 だが――。その顔には、感情が抜け落ちている。まだ人形の方が感情を宿しているだろう。あまりにも整然としているせいか、そこから彼の考えていることを読み取ることができない。

 

 緊張しているのか、警戒しているのか。それとも、何も感じていないのだろうか?僕ですらその心のうちを見通すことができない。

 

「……」

 

 彼は何も言わず、こちらへ歩いてくる。無駄話はお嫌いなのかもしれない。なるほど、これはなかなかどうして面白い。ふふっ。もしかしたら、良い政治家になれるんじゃないかな?そんなことを、ふと思った

 

 さて――。何を彼は話すのかな?

 

 

「まぁ、座りなさい、いやしかし驚いたよ、私と会いたい一年生がいるだなんて.....コーヒーと紅茶はどちらがお好きかな?」

 席に促しながら、私は尋ねる。

 

「紅茶で結構だ、大した差はない」

 そういうと、彼はティーカップを手元へ寄せる。

 

「それで今日は何のようかな?申し訳ないのだけど、成績の優遇などはできないよ」

 恐らく違うのだろうな、そい思いながらも彼に尋ねる。

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 しばらく彼と見つめ合う。そして――彼は、懐から紙束を取り出すと、そのうちの一枚を机の上へ置いた。なるほど、交渉が苦手故に事前の準備で戦おうとするのか悪くはないね、なかなかユニークなアイデアだ。

 

 

 私は紙へ視線を落とす。そこに書かれていたのは、あまりにも簡潔な文字だった。まるで買い物のメモだ。

 

「えーっと、――『三月 退学者を出さない』だって?」

思わず笑みが漏れた。話には聞いていたが随分と直球だ交渉というものをこの方してこなかったのかもしれない。とはいえそれ踏まえての実力、僕が考慮すべきことでもないだろう。

 

「なるほどねぇ」

 

 私は紙を手に取った。

 

「まず確認しておこうか。君が言っている『三月』というのは――何のことかな?」

 

 日向は答えない。ただ、もう一枚の紙を差し出した。

 

『学年末 試験 退学処分 確定』

 単語をつなぎ合わせた、余りにも拙いもの、だが話には聞いていた通り本当に特別試験について理解しているらしい。それに学年末試験、集大成の結果にもなるこの試験、だからこそ生徒たちには全力を出し切ってもらいたい、必死になってほしい。.....故に全クラスから出るわけではない、だが学校側は確実に退学させるものを出す.....忸怩たるものはあるが、そういう意図は確かに存在する――凄まじいね.....けれど。

 

「うーん、確かに学年末に試験あるとも、だがまぁごく一般的な試験だとも、難易度は多少難しいかもしれないけどね。とはいえ確実に退学だなんて、あはは.....そんな物騒なものではないよ」

  

 認めるにはやや強引すぎるし、僕にも立場がある。生徒や教師達に禁止しておきながら、はいそうですと簡単に頷くことはできない。

 

 そう言うと、彼は複数枚の紙を机の上に並べる、・・・おっと邪魔になりそうだ、私は慌ててコーヒーを抱える。

 

 そこにはいくつかの推測が書かれており、相も変わらず簡素である。上級生の席数、救済商品や監視カメラなどの学校の制度、そして、それらを繋ぎ合わせた推測。見たところ教職員達の反応で確信に至ったのか.....なるほど。

 

 決定的な証拠はない、物的証拠もない。だが――推測だけでよくここまで見抜いたものだ。本当だとも

 

――しかし。

 

「ふむ……」

 私は紙を机へ置いた。

 

「確かに、興味深い推測だねぇ、けれど、残念ながら僕には何のことだか分からないな」

 それでも私は笑みを崩さない。

 

 日向は黙っている。そして、しばらくしてから紙へ新たな文字を書いた。

 

『実力主義、三日目、報酬』

 

……なるほど。最初からこれが狙いだったかな?ならば彼がここまで急いでいたのも頷ける。

 

「確かに随分と早く辿り着いたものだ」

 

 私は素直に感心した、この学校に入学して、まだこの先を見据えてもほんの僅かな時間しか経っていない、それにもかかわらず、制度の裏側に目を向けている。確かにそれはほめるべき事柄だ。

 

「……面白いね」

 僕は紙から顔を上げる。

 

「これは証拠ではない。あくまで推測だ」

 

「・・・・・・」

 彼は何も語らない。

 

「だがそれでも、入学して間もない君が、そこまで辿り着いたことには価値がある」

 僕は小さく笑った。本当に優秀な生徒だ。恐らくこと観察眼においてのみなら綾小路先生の息子である彼にも勝るかもしれない.....

 

「確かに君の言う通り、ここは実力主義の学校だ。ならば、その実力を示した生徒に相応の機会を与えるのも、理に適っているとは思わないかい?」

 

 頷きもせずこちらを見つめ、相も変わらずそこには何の意図も伺い知れない、虚無のような無表情。普通少しは喜びが出そうなものだけど.....

 

「だからね。君の言う試験について、少しだけ教えてあげよう」

 私は椅子に深く腰掛け喋り出す。

 

「三月に行われる特別試験。確かに学年末試験、とも呼ばれている。当然、簡単なものではないよ。例えば――負けた場合、退学者が必ず出るような内容になっている.....かもしれないね?」

 

 日向君は何も言わない、ただ、紙に一文を書いた。

 

『退学者を出さないでほしい』

 

「それは無理だねぇ」

 私は即答する。論ずるに値しない事柄だ。

 

「日向君、君のことは評価している。ここまで短期間でこの学校の仕組みに気づいたこともね」 

 しかし、それとこれとは話が別だ。

 

「それに、君も知っているだろう?二千万ポイント。それさえ払えば、退学を取り消すことはできるよ、それじゃいけないのかな?」

 私は笑みを浮かべる。

 

 彼は頷いた。そして紙へ書く。

 

 『そのポイントを安くしてほしい』

 

「へえ。なるほど.....確かにそれなら考慮に値するかもしれないね。もちろんただとはいかないよ、その条件は何かな?」

 

 日向はまた紙を差し出した、そこに書かれていたのは、短い一文。

 

 『俺がすべての退学者を当てる』

 

 その下に続く。

 

 『当たった場合、認めてほしい』

 

「……ふむ、試験の内容も、どのクラスから何人退学者が出るかも分からない。もしかしたら、退学者が一人もいないかもしれない」

 笑みがこぼれる、それを抑え、少し考える。

 

「つまり、そんな中で退学者を当てた場合、退学者にBクラスの生徒がいたら、その生徒だけ半額にしてほしいと...そういいたいのかな?」

 

「そのとおりだ」

 初めて聞いたかもしれないな?彼の声は.....

 

「しかし、うーん……君のクラスだけを対象にするのは、やや公平性に欠くね」

 綾小路君を勝手に入学させた身で何をとは思うが、それでもこれは守らなければならない。

 

「……」

 

「だから、こうしようじゃないか?まず君は1000万ポイントを払ってもらおう、勿論今じゃないよ。その上で、君が当てた人物は、全員退学を取り消す。だからね、他のクラスで退学者が出た場合、その生徒も助けることになるよ」

 

……退学者を出すこと自体が学校にとって目的ではない。必要なのは、生徒に危機感を与え、実力を示させること。彼の行動、その結果として退学者を救済したところで学校側の損失は大きくない。

 

「承知した」 

 彼は確かにうなずいた。

 

「いいじゃないか、ただし、条件を付けさせてもらうよ。今のままだといささか君に有利すぎる、本来2000万ポイント、もしかしたらそれ以上かかるかもしれないわけだからね。」

 

 日向がこちらを見る。続きを促しているようだ。

 

「先ず一つ目、今回の契約の適用範囲は三月の特別試験だ。それ以外の試験は認めとめない。予測するのは、試験の告知後。そして期限は試験前日まで、そして告知前に試験内容を探ってはいけない。君がどれだけ興味を持っても、大人しく待っていてもらう」

 

 日向君は頷いた。

 

「そして、先ほども言ったが、予測すると同時に一千万ポイントを支払ってもらう、本来なら二千万。けれど一千万でいい。君がここへ来た理由は、恐らく二千万が1年時には集めるのがやや厳しいからだろうしね」

 報酬にしてはサービスが多いかな?だから彼にもリスクは背負ってもらおう。

 

「ただし、失敗した場合のペナルティは重くさせてもらおう」

 

 私は彼を見る。

 

「どんな理由があろうと外した場合、君は退学だ。無論退学者が一人もいないのに誰か予測していた場合も外したとみなすよ。そしてこの退学はポイントで回避することもできない」

 

「承知した」

 

 即答だった。驚いたな……動揺しない。まるで自分自身の退学など、どうでもいいとでもいうように。自販機で飲み物を買うくらいの気軽さで彼はそう頷いた。

 

 私は少しだけ目を細めた。

 

「次に守秘義務だ、この契約に関する情報を関係者以外誰にも話してはいけないよ、意図的な漏洩が確認された場合は、失敗した場合と同じ処置を取る。君一人の力で乗り越えて見せなさい」

 

 僅かに頷く、今のところ特に不満はなさそうだ。

 

「この契約の内容を誰にも話してはいけない。もちろん、君の担任である星之宮先生にもね、あくまで君一人で乗り越えなさい」

 

「承知した」

 

 もう慣れたものだ、彼の平然とした様子は、どんな条件を出せば驚くのだろう?そう思いながらも私は頷く。

 

「さて、成功した場合も考えておかないとねぇ」

 

「前述通り、君がすべての退学者を当てられた場合、その人数分だけ退学を取り消そう。もちろん、他のクラスも含めてだよ。言っておくけど、かなり譲歩しているからね」

 

 日向は何も言わない。ただ紙へ条件を書き足していく。

 

……実に用心深い。こちらの言葉を一つずつ条件として残している。私はそれを悪いことだとは思わなかった。

 

 むしろ、感心している。

 

「さて、それと――」

 

 私は一枚の紙を差し出した。

 

「この連絡先に、指名とポイントを振り込んでくれたまえ。試験を担当している専門の職員のものだ。期限は試験公表日から、試験前日までだ。」

 

 日向君が紙を受け取りしまう。

 

「無論、この契約以外には機能しないように言い含める。だから、他の試験や情報収集なんかには使わないでくれると嬉しいね。契約が終われば、その連絡先も使えないようにするつもりだから、それも了承してほしいね」

 

「承知した」

 

「当然、この契約については僕も一部の関係者にしか伝えないよ、だから、当日、教員たちにも、君が成功した場合には試験結果後に伝えるから、やや騒がしくなるかもしれないけど許してほしい」

 迷惑をかけることになって申し訳ないけどね、そこは頑張ってもらおう、ボーナスも出せるといいんだけども。

 

 「そして、何の理由もなく退学が取り消されれば、余計な疑念を抱く者も出る。だから、この契約は一度限り。そして、君と僕との間で結ばれた契約であること。この2つだけは公表させてもらう、まぁ聞いた後で僕への交渉に来るものはいるかもしれないがそこはこちらでうまく対処しておくよ。」

 

 日向君は頷いた。

 

「それと――君とはもう交渉しないよ、特別扱いは何度もできないからねぇ」

 

 私は苦笑する、そんなことしたら大問題だ。

 

「異論はない」

 

「よし、いい返事だね」

 

 私は一通りの条件を確認する。

 

 そして、最後に思い出した。

 

「ああ、そうだ。最後にこれも付け加えよう、一千万ポイントが当日までに支払われなかった場合、この契約は無効とする」

 

 私はペンを取り、そう付け足す。

 

 日向君はこちらを見る。

 

「だから、もし嫌なら逃げても構わないよ」

 仮に彼が、この契約に頼らず試験を乗り越えたのなら何よりだ、この契約を上手く処理できたのなら、それはそれで構わない、彼が優秀であること自体は好ましい。

 

――もし失敗するなら、僕の見る目がなかったというだけの話だ。

 

「これでいいなら、契約書を作るとしよう」

 

「承知した」

 

 私はコーヒーを飲みきり席を立つ。

 

「さて、契約書を用意するまで少し時間がかかるからねぇ。お茶でも飲んでいて構わないよ」

 

 日向君は黙って席についた、私は契約書を作りながら、ふと思い出したように口を開く。

 

「そういえば、僕の娘の話をしていなかったねぇ、有栖というんだけど、君と同じ学年にいるんだ」

 

「……」

 興味があるのか、ないのかわからない、それでも彼はこちらを見る。

 

「たぶん、君には興味を持つと思うよ。もし向こうから声を掛けてきたら、その時は少し遊んであげてくれないかな?」

 

「自らの子を谷に落とす、にもかかわらず愛を語るか、見事なものだとても俺には真似できん。.....良いだろう、過ぎた相手だとは思うが」

 

「ははっ、その通りだ。返す言葉もないね。でもありがとう、きっと気に入ってくれると思うよ。」

 親失格そう言われても仕方がないけれど、あの子がそうしたいというなら僕は応援してあげたいからね。それに贔屓目抜きにしても有栖は優秀だからね、きっと問題はないだろう。

 

 そうしているうちに、契約書は完成した。

 

「終わったよ。じゃあ、サインをしてもらおうか」

 

「拙速だな」

 

「いやいや、このくらい、いつもの仕事や昔やっていたことに比べたら可愛いもんだよ。五分もあれば十分さ」

 

 私は署名欄へ名前を書く。

 

 日向君に続いて、自分の名前を書いた。

 

 互いの署名を確認する。

 

 これで――契約は成立した。

 

「これで正式な契約だねぇ」

 

「承知した」

 

 日向は契約書をしまい、立ち上がる。そのまま部屋を出ようとしたところで、私はふと思い出した。

 

「ああ、そういえば」

 日向が足を止める。

 

「今回の紙を使った交渉、なかなか面白かったよ」

 私は少し笑う。

 

「ただ――もうやめた方がいい」

 

「……」

 

「君が成長したいと思っているのなら、だけどねぇ」

 

 私は穏やかに続ける。

 

「短い言葉だけだと、都合よく曲解する悪い大人もいるだろう。それに、君のことを知らない者からすれば、不誠実だと感じる者がいてもおかしくない」

 

 日向は黙って私を見る。

 

「言葉は、伝えるためにあるものだからね。もう少しだけ、自分の考えを言葉にしてみるといい」

 

 果たして、この忠告、まぎれもない本心が届いたのか。私には分からない。

 

「……承知した。紅茶は……やはり大差はないな」

 

 ただ、それだけ。

 

 日向君はそのまま部屋を出ていった。扉が閉まる。

 

 

 私はしばらく、その扉を眺めていた。そして、小さく笑う。

 

「さて……どうなることやら」

 

 入学して間もない生徒が、学校の制度へ牙を剥いた、しかも、自分自身の退学を賭けて。

 

――実に面白い。彼はこの学校でこの先何をなすんだろう?とても楽しみだ。

 

 

……減給処分は考え直さないとね.....とても有意義な時間だったとも。

 

 

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Side:日向 優慈

 

 交渉は、上手くいった。

 

 目的も果たし、条件も確認し、そして契約も結ばれた、結果だけを見れば十分だ。目的に関しては想定よりも良い結果になった。多く救えるならその方がいいだろう。たとえ相手が敵になるかもしれない相手であってもだ。

 

 だが――学ぶことは多い。少なくともしばらく交渉には関わらない方がいいだろう。俺は、それ以前の問題のようだからな。

 

「言葉は、伝えるためにあるものだからね。もう少しだけ、自分の考えを言葉にしてみるといい」

 

 理事長の言葉を思い返す。

 

……何も言えん。今回の交渉も、他に余地がなかったとはいえ、随分と荒っぽいものになった。

 

 紙に書き、条件を示す、相手が返し、そしてそれに応じる。

 

 必要なことは伝えられたのだろう、だが、それで十分だったのかと問われれば――否だ。

 

 もう少し言葉を尽くせるようになれば、俺は変われるのだろうか。

 

……いや、変わらねばなるまい。

 

 自分の考えを口にする、か。少しは周囲にも話しかけてみるとするか。とはいえ――。

 

 「「「一言多い。」」」

 

 昔から、そういう助言はよく受けてきた、だからこそ、俺は必要なことだけを簡潔に伝えるようにしてきた。まだ足りなかったのだろうか?これからも精進する以外にないか.....

 

 廊下を歩きながら、考えをまとめていく。

 

 契約まで、まだ時間はある。それに――特別試験は、一つや二つではないだろう。今回の契約だけを見ていてはいけない。備えなければならない。

 

 ここへ来てから、まともに身体を鍛えていなかった。……体は資本だからな。大事にせねばなるまい。

 

 それから、ポイントも貯めるべきだ。一千万。簡単な額ではない。だが、必要なら稼ぐ、やるべきことは決まった。

 

 

 歩みを止める理由はない、できることをやるだけだ.....約束を果たすために。

 

 

カルナ語の下に、丁寧語の原文ってほしいですか?冗長になってもいけないと思い省いていたんですが。

  • ヤハ【カルナ語検定3級】
  • 俺は...高円寺でも藤丸でもない!!
  • 私は好きにした、君も好きにしろ
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