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【追記】プロローグを差し替えました。
20XX年6月6日 日本 東京
街灯がほとんど無い、とある山道。
すでに日は落ち、あたりは暗闇に包まれていた。
梅雨の東京は記録的な豪雨が容赦なく叩きつけている。
山の間から遠くの街の明かりが微かに滲み、濡れた道路にぼんやりと反射している。それ以外に行先を照らすものはなかった。
そんな中、1人の少年がゆっくりと足を進める。傘も差さず、雨具も着ていない。
所々破れた黒い戦闘服。
その隙間から覗く肌にはいくつもの銃創と赤黒い打撲痕。
激しい戦いがあったのだろう。
雨は容赦なく少年の体を打ちつけていた。
体は冷え、指先の感覚は薄れる。靴の中で水が揺れ動く。
破れた戦闘服は水を吸い、体に張り付いている。傷口に雨水が入るたびに激痛が走る。
それでも少年は止まらない。
一歩。また一歩。
足を引き摺りながら、少年は進んでいく。
しかし、足を地面につけるたびに体が崩れ落ちそうになる。
少年は時折、後ろを振り返った。
誰かが追いかけてくるわけではない。それでも何度も振り返る。
まるでそこにいるはずのない誰かを探すように暗闇の向こうを見つめる。
「…………」
暗闇に人影はない。あるのは激しい雨音だけだった。
「…………んで」
雨に紛れて声が震える。
「また……僕だけ…………」
頬に雫が伝う。でもそれが雨か涙かはわからない。
「みん……なで……自由………に…なる……って………決め……た……じゃない……か」
少年の声は、雨音に呑まれる。
突然ガクンと膝をつく。無理もない、これほどの怪我で動けているのが不思議なくらいだ。
少年はスマホをポケットから取り出し、電話をかける。
…出ない。
もう一度かける。
…出ない。
何度も、何度も、何度も。
それでも相手が電話に出ることはなかった。
やがて、ボタンを押していないのに画面が黒くなる。充電切れのようだ。
「………っ」
少年はスマホを山に投げ捨てる。ガードレールを越えて深い森の奥に消えていった。
擁壁に寄りかかりながらなんとか立ち上がり、そのまま擁壁に沿って今にも倒れそうな状態で歩みを進める。支える手にも、もうほとんど力は残っていない。
帰る場所も、親しかった友人も、頼れる場所も残っていない。
彼はこのまま消えてしまいたかった。
『私の分もたくさん生きてね』
最後の笑顔が脳裏に浮かぶ。
『元気でな!』
いつも厳しい先輩が今までにない優しい声でそう言った。
次々と蘇る最後の仲間達の光景が少年の胸の奥を締め付ける。
「ひと…りで……どう……す…れば……」
弱音を吐いても歩みだけは止まらなかった。何かを求めるように。
「…………っ!」
雨水が流れていた擁壁に手を滑らせた少年はその場に倒れ込んだ。ベチャッ、と道路に流れている水が無慈悲な音を立てる。
「……くっ…そ」
地面に手をつき、起き上がろうとする。
それでも身体が持ち上がらない。
もう一度力を込める。
だが、手が震えるだけで少しも動かない。
視界が歪み始める。
端から少しずつ暗くなっていく。
先ほどまで嫌なほど聞こえていた激しい雨音も遠くなっていく。
「………ま………だ……」
立たなければ。
まだ歩かなければならない。
そう思っているのに、身体がいうことを聞かない。
「み…んな………」
最後の力を振り絞って伸ばした手が、力無く地面に落ちる。
「……………」
ここで終わってしまうのだろう。そう思った。
前方から光が見える。
車のライトだろうか、眩しくて目を細める。
「彼だ、間違いない!」
誰かの声が聞こえた。
「千束!早く乗せて!すぐに病院に行くから!」
別の声が響く。
「わかってる!もう少し頑張って!絶対に死なせないから!」
誰かに担がれる。
暖かい。
冷え切った体には、その温もりすら現実のものと思えなかった。
どの声も聞き覚えのない声だった。
少年には、それが誰なのかもわからない。
(みんな…僕もそっちに行くね…)
そう思った少年は、暗闇の中へ沈んでいった。
▽▲▽▲△
目を覚ますと白い天井が見えた。
ぼんやりとした視界に、見慣れない天井が映っている。
鼻をくすぐるのは雨や土の匂いでなかった。消毒液のようなどこか鼻につく匂いだった。
「…………?」
ゆっくりと瞬きをする。
ふかふかの布団。
首の高さにちょうどいい枕。
視界の端には、透明な液体が入った点滴バッグが吊り下げられている。
(病室……?なんで?)
少年は記憶を辿ろうとする。
雨、暗い山道…………そこからはうまく思い出せない。
体を起こし、自分の体を確認する。
包帯がほぼ全身に巻かれている。傷口もほとんど痛まない。あれほど重かった体が嘘のように軽かった。
指を動かす、手を握る。不思議なくらいちゃんと動く。
ふと窓に目を向ける。
ガラス越しには雨に濡れた青い紫陽花が風に揺られていた。
昨夜の暗闇とは正反対とも言える穏やかな景色に肩の力が抜ける。
それでも胸に空いた穴だけは埋まらなかった。
コンコン。
突然病室のドアが叩かれ、返事をするまもなくドアが開く。
「え!起きてる!」
黄色がかった白髪の少女が驚いたように目を見開いている。
少年が返答するまもなく向かってきて少年の両手を握る。
「生きてて良かった〜、2週間も寝てたから心配したよ〜」
訳もわからず「はぁ…」ということしかできなかった。誰かもわからない人からこんなこと言われれば無理もない。
「それじゃ、これから仲間だから!よろしくね!」
「は?」
少年の頭は完全に混乱していた。
何一つ状況を理解できないまま、そう返事することができなかった。
週一で投稿できたらなと思ってます。
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