原作内容が1話終わるたびにプロローグから原作の間の話を投稿します。
今回からいろんなキャラからの視点が入ります。
「各自戦闘用意…初め!」
落ち着いた声が静まった模擬戦闘場に広がる。その声に答えるように僕は一室から飛び出した。ここはビルや裏路地を再現したものらしく、入り組んだ通路にいくつもの部屋が配置されている。銃撃戦も想定した作りなのだろう。遮蔽物も多く、多くの死角がある。僕はその中の一室にいる。
「…ささっと済ませるか」
そもそも僕がなんでこんなところにいるのかというと…
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「DAで実力調査…ですか」
ミカさんからもらった紙を見ながら、僕はそう問う。内容はリコリス10人。内訳はファースト1人、セカンド2人、サードが7人。
10対1って…完治したばかりだというのにこんなことやらせるなんて。あそこも大概だけど、DAも負けてないな。
「怪我明けですまないが、あっちがどうしてもすぐにやりたいと聞かなくてな」
「問題ありません。怪我明けの調整にはちょうどいいです」
これも仕事だ。これから生きていくにはDAからは逃れられないし、仕方ない。
「すまないがよろしく頼む」
「日程は明後日ですね、了解です」
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ということで今に至る。
正直、体の状態は万全ではない。
1ヶ月も寝たきりだったし、足を踏み出すたびに体の奥に鈍い重さを感じる。普通の人ならこんな動きをすること自体止められるだろう。でも僕はこの程度の任務なら支障はない。
左に3…いや4か?
足音の間隔が妙に揃っている。前方に3人、後方に1人。このままだと鉢合わせるな。
突然、目の前の十字路の曲がり角で足音が止まる音がした。おそらく僕に気づいたのだろう。
別に耳がいいわけじゃない、静かなここならこれぐらい聞こえる。
遮蔽物もあるから慎重に行ってもいいが早く終わらせたいのでここは少し強引に行こう。
僕は一気に加速してリコリス達の方へ向かう。距離は10メートルぐらい、相手はまだこちらの動きに気づいていない。曲がり角の敵を視界に捉えた瞬間、壁を蹴る。こっちの様子を伺っていた部隊長と思しきリコリスが驚いた顔でこちらを振り返る。
いきなり後ろに人が現れるから驚くだろう。慌てて銃の照準をこちらに向ける。1人遅れてるな。刹那、僕は遅れたリコリスから順に銃を手早く落とし制圧する。女性に暴力を振るうのはいくら訓練であってもやりたくない。
腰からペイントの付いたナイフを抜き、4人の胸元にそっと突き立てる。
10人って言ってたらあと6人か…
次はどうしようかと思っているとまた奥の角から敵が3人現れる。
今倒した4人の連絡を受けて増援に来たのだろう。銃を構える姿が見えたのですぐにまた壁を蹴って死角に入る。
距離もある、相手には銃、僕には何もない。ならここは一択。
わざとらしく足音を大きく立てて走り出す。それに向かって彼女たちも追跡してくる。こっちに来ることを確認した僕は急に方向転換し、今度は彼女たちの方へ向かう。
壁を駆使しながら相手の照準をずらしペイント弾を避けて、彼女たちを通り過ぎる。
少し掠ってしまった…やっぱり病み上がりだから体がついていけてないな。
彼女達は僕を仕留めるためにこちらに向く。
次の瞬間、バチャと音を立てて彼女たちの制服はペイントまみれになった。通り過ぎざまにペイントの入った手榴弾を足元に置いておいたのだ。
これにも気づかないなんてお粗末だな。
もちろん口には出さない。余計な反感を買うのはごめんだからね。
…さて、残りもさっさと片付けるか。
ミカside
「
「これでも完治してすぐの状態だ。本調子を取り戻せばあっという間に蹂躙してしまうだろうな」
模擬戦闘場が一望できる場所から陽華の様子を伺う。
楠木は何も言わず、静かに陽華を見つめていた。
「これほどの戦力があと7人もいたと考えると…正面衝突は避けられて良かったですね」
「それも彼女のおかげだ」
「……そうですね」
誰かを守るために笑っていた彼女と、冷徹に仕事をこなす陽華。
2人はまるで違う。
それでも、ふとした仕事の端々に、彼女の面影が重なって見える。
「本当に頭が上がらないな」
「…生きて帰ってきてくれればもっと良かったですが」
「…だな」
千束が現れるまで、彼女はずっとトップだった。
潜入も、暗殺も、狙撃も。
何をやらせても一流だった。
任務後に落ち込んでいる者がいれば声をかける。食事では少し馴染めてないリコリスの隣に座り、輪を作る。
少し浮いていた千束にもそうしてくれた。
誰からも慕われる、そんなリコリスだった。
『訓練終了、勝者赤チーム』
少し思い出に耽っているとアナウンスが鳴り響く。
「残りはファーストとセカンド2人だったはずですが…手も足も出なかったようですね」
目を向けると一番見えやすい部屋の中にはペイントに染まった2人のセカンド。尻餅をついたファーストの胸には、赤いペンキが付着している。
そして、それを冷徹に見下ろす陽華。
「それでは予定通り、彼はリコリコでお願いします。……本部よりそちらにいた方が彼にとってもメリットがあるでしょう」
「……そうだな」
戦闘が終わったというのに感情のない目つきを保ちながらこちらへゆっくりと歩いてくる。そんな彼を見た私は少し寒気を覚えた。
陽華side
「お疲れ様だ、陽華」
「…どうも」
先ほど来ていた戦闘服から無地の白いTシャツと黒いジャージに着替えてミカさん達の元へ行くと楠木さんが社交辞令を伝える。
「お前の実力はある程度わかった。千束同様に未知数だとな」
「…そんなことはないですけど。ま、これぐらいなら余裕ですね」
僕にはそんな実力はない、現に仲間を1人も守れずにここにいるのだから。電波塔をテロリストから1人で守った彼女とは違う。
「奴の言う通り、DAの支部にてお前を監視することにする。異論はあるか」
「つい最近まで敵組織の幹部だった者を扱うにはここでは危険すぎる…ので抑止力が居て、かつ自分たちの監視下に置けるには合理的ってところですかね?」
「…そうだ」
どうやら図星なのだろう。事情を知っているとはいえ少し前までは敵対組織にいたのだから無理もないけど。
「用事は済みました。戻りましょう」
「ああ、そうだな」
ここにいると前の組織のことを思い出してしまうから出来るだけ早くここを離れたかった。
「待て」
そう言うわけにはいかないらしい。言うことがあるなら手っ取り早く済ませてほしいな…
「外で活動する時はそれを着ていけ」
楠木さんの視線を辿ると白いブレザーと彼岸花のような柄の入った赤いネクタイにチャコールグレーのパンツが入っていた。
おそらく高校生に擬態する用の制服だろう。
「了解です。こちらは…なんですか?」
それともう一つは少し重量感を感じる謎の機械…装備品?形状的に腕につけるものなんだろう。
「現在リコリス用に開発している新型のワイヤーだ。従来のものとは違い、移動にも使える。試作品だがな」
「便利なものですね。なぜ僕に?」
「身体能力が高いお前なら使いこなせるだろう。それに銃撃戦を得意としないお前には近距離戦に持ち込む手段が必要だろう」
「…ありがとうございます」
移動手段として扱えるのは大きいし、今までの僕は銃相手には距離を詰める方法があまりないからこれは非常にありがたい。
「だが使用には痛みを伴う。慎重に使ってくれ」
…なるほど。大事なリコリスじゃなくて僕で実験しようって魂胆か。便利だから使わせてもらおう。万全の状態になったら試してみるか。
「色々お世話になります、それでは」
そう吐き捨てると僕は颯爽と出口に向かう。退院明けで体は重いが無事関門は突破した。
これからはDAの駒として生きていくのか。
…まぁ、あそこにいるよりは何億倍もマシだけど。
人生何が起こるかわからないな。
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楠木さんとの話が終わったあとすぐに車に戻り、ミカさんの運転でDAの支部とやらへ向かう。
「改めてお疲れ様だ」
「ありがとうございます」
「見事だったな、話には聞いていたがあそこまでやれるとは」
おそらくあの人からある程度僕たちのデータが送られていたのだろう。
「お世辞はいいですよ。怪我明けなんであれぐらいしかできないです」
とはいえそれほど動けなかった僕を相手に完膚なきまでに叩き潰されたリコリスはもっと危機感を持った方がいい。本当に治安を維持しているのか心配になるレベルだ。
「あれだけできれば十分だ。千束ともうまくやれるだろう」
「そうだといいんですけどね…」
錦木千束。今のDAの核とも言える人物。DAを討つことを目的としていた前の組織でも当然話題に上がる。
幼くして1人でテロリストを無傷で制圧した化け物。DAを堕とすには彼女を倒さなければ話にならない。それほどの逸材。
そんな人と僕がやっていけるのか。不安でしかない。
「そういえば…支部ではどんなことをしてるんです?DAの補助や小さな事件の解決とか、でしょうか」
一番大切なことを聞くことを忘れていた。これから僕の拠点となるところの詳細は少しでも把握しておきたい。
「それもそうだが基本的には喫茶店だ」
「…喫茶店?」
聞き間違えだろうか。
思わずミカさんに聞き返してしまう。
「そうだ」
…どういうことだ?
「コーヒーとかケーキがある、あの?」
「そうだ。うちの場合は和菓子だがな」
念のため、もう一度確認するがやはり間違ってないらしい。
「……DAって面白い組織なんですね」
「ははっ、そうかもな」
天下のDA様がそんなことするということは何かしら意味があるのだろう。客の会話から情報を得たり、困った人が相談に乗ったり…なんて都合が良すぎるか。
「それなら厨房は任せてください、料理は得意なので…」
その方針なら、それに従おう。幸い僕は料理ができる。情報収集は苦手だが料理であれば問題ない。厨房に居れば客に関わることもないだろうしね。
「そうか。じゃあ帰ったら無理のない範囲で腕を見せてもらおう」
「……任せてください」
とはいえこれからの生活がどうなっていくのか未知数すぎて少し心配だった。
千束side
今日は陽華くんの退院の日!病室にはちょくちょく遊びに行ってたけどやっとリコリコに来る!
あんなことがあった後だから元気なかったけど、先輩は私と相性いいと思うって言ってたからきっと仲良くなれるよね。
「戻ったぞ」
お店の扉が開いた。その先には先生と後ろから陽華が入ってくる。白Tにジャージって…素材はいいのに勿体ないなぁと思う。
「おっかえり〜‼︎リコリコにようこそ〜」
「…よろしくお願いします」
「えー‼︎それだけ‼︎」
思っていた以上に淡白な返事が返ってきてびっくりしたよ。
病室で会った時もこんな感じだったけど、改めてリコリコに来て話すと余計に距離を感じる。
目の前にいるのにどこか遠くにいるみたいな…そんな感じ。
陽華くんは少し店内を見渡すと突然キッチンの方へ向かい始める。
「どこいくのよ!?」
陽華くんの突然の奇行?にミズキも驚いてる。
「厨房担当としての試験、と言ったところですかね」
厨房担当?え、陽華くん料理できるの!?なんか意外かも…そんなことより!
「先生???」
どういうこと?と伝えるように私は先生に鋭い視線を送る。
「確かにそんなことは言ったが、まさかすぐにやるとは…」
「ねー、陽華くん。
「そんなの後でいいじゃないですか。今は僕がここに立つだけの腕があるかどうかの方が大切です」
「もっと気楽に行こうよ〜」
「ところで前掛けはどこに?」
「あー陽華、これこれ」
陽華くんはやる気満々すぎて止まらなかったがミズキからリコリコの和服を渡されて少し困惑していた。
「うちの制服、店にいる時にはこれ着なさい」
「…DAは指定の服が多いんですね」
そんな愚痴を吐きつつ更衣室に入っ…て行ったと思ったら1分足らずで出てきた。いや、早すぎじゃない?いやいや、そんなことよりめっちゃ似合ってる!
「おぉ〜!様になるね〜」
「ねぇ君、年上とか興味ない?」
「コラ、ミズキ〜」
ひとまわり近く離れている男の子に手を出そうとするなんて…しかも私の相棒だぞ!今度お説教が必要だな。
「それでは早速取り掛かりましょう」
「ちょちょちょい、せっかくだから記念写真撮ろうよ」
「そんなの別に撮らなくてもいいじゃないですか…」
「大事な思い出だよ⁉︎こうやってちゃんと残しておかないと〜。まずは2人で!」
「ほら陽華、あっち向いて!」
先生にスマホを渡して、私は陽華くんの肩に手をかけてピースする。陽華は無表情で腕を組んでる。
「祝!相棒記念!こうして伝説は始まるのだ!」
正直リコリコで初めて相棒ができたことがすごく嬉しい。これからもっと仲良くなれたらいいな…先輩にも陽華くんのこと頼まれてるし!
先輩がしてくれたことを今度は私が陽華くんにしてあげるんだ。
「もう済みましたか?それではやりましょう。和菓子は初めてなので手順を教えてもらってもいいですか?」
「あぁ、まずはこれをだな」
「そこ!もう少し感傷に浸れ!」
男子チーム少し目を離すだけですーぐに料理を始めようとする。初めての出会いだよ!?もっとセンチメンタルに行こうよ…
現代陽華side
「なっつかし〜」
僕がスマホの写真を見ていると横から千束が覗き込んでくる。なんとなく昔の写真を見ていると初めてリコリコに来た時の千束とのツーショットが出てきた。
「この写真残してくれてるんだ」
「当たり前だよ。だって大事な思い出、でしょ?」
この写真の時の僕は荒れていたと思う。ぶっきらぼうすぎて思い出すと恥ずかしくなる。
「この頃の陽華はたきなより手強かったな〜」
「…その節はご迷惑をおかけしました」
「お見舞いに行った時も、遠回しに帰って欲しいみたいなこと言ってたし」
「…うぅ」
「雰囲気もずっとギスギスというかツンツンというか…もう怖かったよ」
「そんなに?ほんとに色々とごめん…」
まさか千束から怖いって思われてるなんて思ってなかった。確かにあの時は人と関わりたくなかったから無理矢理にでも距離を置いていたし。口調も強かったと思う。
…そう考えると怖いと思われて当然か。
「でも陽華がリコリコに来てくれて良かった!今、めっちゃ楽しいし!」
「…ありがとう」
「たきなも来たし、もっと楽しくなるね!」
「うん、きっとそうなるよ」
あんな状態だった僕も今ではこうやってリコリコで元気にやれる。きっとたきなさんも馴染めるはずだ。
???プロフィール
千束が現れるまで最強と言われていたリコリス。
面倒見が良く、みんなから慕われていた。
とある組織の潜入任務中に命を落とす。
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