転生したらカミソリ女騎士の部下になりました   作:ダレ狐

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おっさん、大地に立つ!

やぁ〜皆、只野お兄さんだよ!

 

異世界に来て早々、女騎士に殺されかけた俺は、今、この世界の犯罪者達と同じ檻馬車の荷台に揺られていた。

 

「はぁ〜……俺、どうなるんだろ。タバコ吸いてぇ〜……」

 

捕まった時に所持品は全て回収された。

 

タバコ、財布、警察手帳、携帯電話……。

 

他の荷物はバイクに括り付けていたから、今頃元の世界で燃えてるだろうな……。

 

「あんちゃん、あんた何者や?」

 

背後を振り返ると、ファンタジー世界でよく見るドワーフのおっさんが声を掛けてきた。

 

「俺は只野圭吾。皆からはケイさんって呼ばれてる。あんたの名前は?」

 

「我の名はドランじゃ。よろしくな、ケイ坊!」

 

「坊って……俺、もう35だぞ?」

 

「ダハハハ!! 我らドワーフからしたら、まだ赤子みたいなもんじゃ! ……んで、あんたは何をして捕まったんや?」

 

「川に落ちて、たまたま騎士団長様の水浴びに遭遇して、変態扱いで捕まった」

 

「ダハハハ!! “神の右手”と恐れられてる騎士団長の水浴びを覗いたのか!! 大した大物だ!!」

 

「どうせ捕まるなら、胸か尻をちゃんと見てからにしろって思うけどな……」

 

シュタン!!

 

「ひっ!?」

 

俺の横へ、羽根ペンが矢のような勢いで突き刺さった。

 

恐る恐る視線を向けると――。

 

「余計なお喋りは慎みなさい……次は息の根を止める」

 

瞳孔を開き、殺意マシマシの騎士団長様がそこにおられた。

 

「はい……気をつけます……」

 

こんなおっさんが、可愛いヒロインとイチャイチャ出来るなんて高望みはしてない。

 

でも、こんなカミソリみたいな美女じゃなくても良くねぇ?

 

……そうじゃなくても、何も分からねぇのに。

 

「あれ? そう言えば、名前聞いてなかったな。何て言うんだ?」

 

「あら。これから処罰されるかもしれない相手に、わざわざ名乗る必要がある?」

 

「容赦ねぇな……。たく、名前聞くのって罪になるのかよ? 思春期特有の反抗期か?」

 

「……ヒナタ・サカグチ。日本人なら、“坂口日向”の方が馴染みやすいわね」

 

「本当に日本人だったのか。俺より若そうなのに、えらく血の気が多いよな」

 

「この世界は、元の世界より過酷なのよ。“弱肉強食”……油断していたら、すぐ命を奪われるわ」

 

「そうかよ……」

 

非行少年少女の補導で関わることはあったが、ヒナタの目付きは、それらとは比較にならないほど過酷なものを物語っていた。

 

「えぇ。だから檻の中で大人しくしてなさい」

 

冷酷に見えるが、理不尽な奴ではない。

 

その気になれば、俺を殺すことなんて簡単だろうに、わざわざ檻に入れて運んでいるんだ。

 

「ところで、何処に向かってるんだ?」

 

「西方聖教会の拠点よ」

 

「西方聖教会? こっちの世界じゃメジャーな宗教なのか?」

 

「メジャーって……。そうね、大きな宗教団体と思ってくれればいいわ」

 

「ふーん、なるほど」

 

そこからヒナタに、西方聖教会について大まかな説明を受けた。

 

ざっくり言うなら、人類に仇なす魔物を粛清するのがモットーらしい。

 

大義名分は立派だが、この手の宗教組織は癒着や派閥争いがありそうなイメージだ。

 

「他に聞きたいことは?」

 

「俺みたいな異世界人って多いのか?」

 

「多くはないけど、何人かはいるわ」

 

「そうか。同じ境遇の人間がいるのは助かるな〜」

 

「異世界人が来る方法は主に二つ。一つは私や貴方みたいに、“神隠し”のように飛ばされる場合。もう一つは、“異世界召喚”よ」

 

「召喚ってことは、こっちの世界の人間が呼び出したのか?」

 

「えぇ。表向きは“勇者召喚”だけど……」

 

ヒナタはそこで言葉を濁した。

恐らく、人間兵器か奴隷扱い……ろくでもない理由なんだろう。

 

「まぁ、ろくな話じゃなさそうだな」

 

俺はヒナタに背を向け、改めてドラン達を見る。

よく見ると、この檻の連中からは犯罪者特有の空気を感じない。

そこに違和感を覚えた。

 

「今度は俺から聞くぜ、ドラン。あんたら、何で捕まったんだ?」

 

檻の中には俺とドラン以外に三人。

十歳くらいの少女、その母親らしき女性、そして小太りのおっさん。

どう見ても殺人犯には見えない。

 

「我らは、いわゆる“不法移民”じゃ」

 

「不法移民?」

 

「彼らは俺達の管轄区域に不法滞在していたんだよ」

 

急に会話へ割り込んできたのは、ヒナタと同じ騎士服を着た銀髪の軽薄そうな少年だった。

 

「不法滞在で、こんな檻に入れるのか? えっと名前は……フックだっけ?」

 

「フリッツだ!! あんたの服乾かしてやっただろうが!!」

 

「悪い悪い。んで、不法移民だけでここまでやるのか? せいぜい強制送還くらいで済みそうだけどな」

 

「ったく……ワザとだろ。確かに普通ならそうしたいが、今回は上からの命令でな」

 

「命令? その西方聖教会が統治してる……何だっけ、フリックス君」

 

「フリッツだ!! 神聖法皇国ルベリオス!! ……で、その中でも権力を持ってるのが“七曜の老師”だ」

 

「へぇ……んで、その老害共に何頼まれたんだよ?」

 

「おい、ケイ坊。気をつけろよ。そいつらにとっては身内みたいなもんじゃぞ?」

 

「いや、それは無いだろ」

 

俺は肩を竦めた。

 

「もしそうなら、ヒナタやコイツらは俺にもっと攻撃してる。少なくとも、盲目的に忠誠誓ってる感じじゃない」

 

さっきの覗きの時は容赦なく物を投げてきたのに、今回は何も飛んで来ない。

つまり、図星だ。

 

「同じ神様を信じてる仲間ではある。でも、仲良しって感じじゃない……そんな所だろ?」

 

「ケイゴ・タダノ。これ以上の言動は、我々への侮辱と見なす」

 

突然、会話へ割り込んできたのは、金髪の長髪を後ろで束ねた青年だった。

確か……ヒナタの副官、レナードだったか?

 

「不用意に罪を増やしたくないなら、大人しくしていろ」

 

「へいへい、気をつけますよ〜レナード副官さん」

 

「あっ!? 何でレナードさんだけ名前覚えて、俺は忘れるんだよ!?」

 

「うるさいわよ、フリッツ」

 

「フリッツ、空気を読んでください」

 

「俺の扱い酷くない!?」

 

フリッツが喚いているのを横目に、俺は改めて檻の中の面々へ向き直った。

 

「まぁ、こんな狭い檻の中の縁だ。改めて自己紹介しようぜ」

俺は軽く手を挙げた。

 

「只野圭吾。こっちじゃ“ケイゴ・タダノ”か? 絶賛、騎士団の皆様に睨まれてる三十五歳のおっさんです。よろしく」

 

「ケイ坊の切り替えの早さには驚くわ……ほれ、お前さん達も」

 

ドランに促され、小太りのおっさんが頭を下げた。

 

「自分はボレスです。食事処で給仕係をしていました」

 

「私はウルです。この子は娘のローラ。私達もボレスさん達と同じ店で働いていました」

 

「……よろしく、お願いします」

 

「よろしく」

 

改めて話を聞くと、彼らは元々、西方諸国の小国で暮らしていたらしい。

だが、高額な税に耐えきれず、土地を追われた。

流れ着いた先が、ルベリオスとイングラシア王国の国境付近にあった集落だった。

似た境遇の者同士、肩を寄せ合って暮らしていたらしい。

だが、その集落には犯罪者紛いの連中も紛れ込んでいた。

そいつらが、“魔王ロイ·ヴァレンタインの配下”を名乗り、ルベリオスへ魔物を放つ計画を立てていたという。

ドラン達は無関係だった。

だが、ヒナタ達が踏み込んだ時には、肝心の犯罪者達は既に逃走済み。

残された彼らだけが、不法移民として拘束されたらしい。

 

「つまり、俺達はタイミング最悪って訳か」

 

「まぁ……ケイ坊は本当に運が無いのぅ」

 

「自分達も……もう慣れましたから」

 

さっきまで明るかったドラン達の表情が曇る。

この世界は、俺の元いた世界よりずっと弱者に厳しい。

そんな事を考えていた時だった。

 

「……あれ?」

 

俺は遠くに複数の馬車を見つけた。

土煙を上げながら、こちらへ全速力で向かって来る。

 

「あれって……」

 

「あいつら、集落に居た連中だ!」

 

ドランが声を上げる。

だが、次の瞬間。

馬車の後方から、大量の狼が飛び出した。

 

「アレは牙狼族だ!!」

 

「牙狼族? 魔物か?」

 

「ヒナタ様! 牙狼族はジュラの大森林が主な生息地です! この辺りに、こんな数が居るなんて……!」

 

「えぇ……どうやら、逃げた連中が解き放ったのでしょう」

 

ヒナタは即座に剣へ手を掛けた。

 

「フリッツ! 彼らの警護を!」

 

「了解!」

 

「レナード! 私の攻撃を抜けた個体を仕留めなさい!」

 

「承知しました」

 

次の瞬間。

ヒナタの姿が消えた。

「は?」

 

遅れて、牙狼族が数匹まとめて吹き飛ぶ。

まるで砲弾だった。

 

「何だあの速度!? めちゃくちゃ速ぇ!! お前ら全員あんな動き出来るのか!?」

 

「いやいや!! 騎士団長が異常なんですよ!! 俺らは無理ですって!!」

 

フリッツが悲鳴混じりに叫ぶ。

だが、その時だった。

ガサガサッ!!

背後の森から、別の牙狼族の群れが現れた。

「チッ……!」

 

前後から挟まれた。

このままじゃ馬車が持たない。

 

「おい! 俺を檻から出せ!!」

 

「はぁ!? こんな時に何言って――」

 

「お前、あの数の牙狼族を相手に、馬車守りながら戦えるのか!?」

 

「うっ……!」

 

「少なくとも、ヒナタ達の所へ誘導した方が生存率は高い!」

 

フリッツの表情が揺れる。

俺は更に言葉を重ねた。

 

「それに、ここで民間人死なせたら、“七曜の老師”の連中にお前らの失態として使われるぞ?」

 

「っ……!」

 

図星だったらしい。

フリッツは舌打ちしながら檻を開けた。

 

「……俺に出来るのはここまでだ!」

 

そう言って、フリッツは馬車の手綱を俺へ放った。

俺はそれを受け取り、ニヤリと笑う。

 

「ありがとよ――“フリッツ”」

 

「っ!? こんな時だけ真面目に名前呼ぶの反則だろ!!」

 

フリッツは顔を引き攣らせながらも、すぐに牙狼族へ向き直った。

剣を抜き、俺達を逃がすため前へ出る。

その背中を見送りながら、俺は馬車を走らせた。

 

「うぉぉぉぉ!! 行けぇぇぇぇ!!」

 

馬達が悲鳴のような嘶きを上げながら疾走する。

目指す先は、ヒナタ達が戦う前方。

少なくとも、あそこまで辿り着けば生存率は上がる。

だが――。

ズドォォォォンッ!!

 

「なっ!?」

 

突如、地面が爆ぜた。

土砂を巻き上げながら、巨大な影が地中から飛び出す。

それは全長十メートル近い巨大ムカデだった。

 

「ギシャァァァァ!!」

 

巨大ムカデは一直線に馬へ喰らいつく。

馬車が大きく傾き、そのまま横転した。

 

「うおぉぉぉぉ!?」

 

激しい衝撃で俺は地面へ投げ出される。

背後では檻が転がり、中から悲鳴が響いた。

 

「きゃあああぁぁ!!」

 

「ローラ!!」

 

ウルが必死に娘を抱き寄せる。

だが、巨大ムカデは獲物を逃さぬと言わんばかりに、檻へ巨大な顎を突き立てた。

ギギギギギ……!!

鉄格子が嫌な音を立てながら歪み始める。

 

「マズい……!」

 

俺は咄嗟に立ち上がった。だが距離がある。

ヒナタ達は前方の牙狼族に足止めされている。

この距離じゃ間に合わない。

俺は走り出しかけ――止まった。

駄目だ。

足じゃ届かない。

間に合わねぇ。

 

「クソッ……! バイクがあれば……!!」

 

その瞬間だった。

 

『告。機械騎馬(オート・バジン)を召喚しますか?』

頭の中へ、あの妙な声が響く。

 

「……はい?」

 

『肯定を確認。召喚を開始します』

 

次の瞬間。

眩い光が弾けた。

地面へ巨大な鋼鉄の塊が出現する。

銀色の装甲。無骨なボディ。そして、見覚えのあるフォルム。

 

「うぉぉぉぉ!? マジで来たぁぁぁぁ!!」

 

そこに現れたのは、俺がかつて憧れた機械。

仮面ライダーファイズに登場した機械馬――オートバジンだった。

 

「ケ、ケイ坊!? 何じゃそれはぁぁ!?」

 

ドランが絶叫する。

俺は興奮のままオートバジンへ飛び乗った。

 

「俺の切り札だよ!!」

 

アクセルを捻る。

爆音と共に、オートバジンが地面を駆けた。

一直線。

巨大ムカデへ向けて突撃する。

 

「おぉぉぉ!! 白バイ時代でもやった事ねぇ前輪アタック!! 最高だぜぇぇ!!」

 

ドゴォォォンッ!!

前輪が巨大ムカデの頭部へ直撃する。

衝撃でムカデの巨体が大きく仰け反った。

その隙を逃さず、俺はタンク部分のエンブレムへ触れる。

 

「頼むぞ……変形しろ!!」

 

『Battle Mode』

 

電子音声と共に、オートバジンの装甲が展開した。

車体が変形し、人型へと姿を変える。

鋼鉄の騎士。

まさしく、あのオートバジンだった。

 

「おぉぉぉぉ!! マジで変形したぁぁぁ!!」

 

異世界へ来て初めて、心の底からテンションが上がった。

だが。

 

「ギシャァァァァ!!」

 

巨大ムカデはまだ生きている。

怒り狂ったように、こちらへ襲い掛かって来た。

すると、オートバジンが左腕を前へ突き出す。

ホイールが高速回転し始めた。

嫌な予感がする。

 

「え、ちょ――」

 

次の瞬間。

 

ダダダダダダダダッ!!!

至近距離で銃撃音が炸裂した。

 

「うるせぇぇぇぇぇ!! こんな近くで撃つなぁぁぁ!!」

 

鼓膜が破れそうな轟音に、俺は思わず絶叫した。

無数の弾丸が巨大ムカデを撃ち抜く。

甲殻が砕け、緑色の体液が飛び散った。

数秒後。

巨大ムカデは痙攣し、そのまま動かなくなる。

 

「はぁ……はぁ……勝った……?」

 

だが、その直後だった。

強烈な立ち眩みが俺を襲った。

 

「っ……!?」

 

膝から力が抜ける。

視界が揺れる。

 

『Vehicle Mode』

 

電子音声と共に、オートバジンは再びバイク形態へ戻った。

 

「もしかして……」

 

俺は荒い呼吸をしながら理解する。

 

「俺の中の魔力か何かを使って動いてんのか……」

 

時間にして数分。

まともに戦える時間は短い。

切り札にはなる。

だが、燃費が悪すぎる。

 

「使い所が難し過ぎるだろ……」

 

そう呟きながら立ち上がろうとした時だった。

 

 

ウォォォォォォン!!

 

遠くから牙狼族の遠吠えが響いた。

まだ終わってない。

 

「チッ……動け……俺の身体……」

 

だが、足に力が入らない。

視界も霞む。

ヤバい。

そう思った瞬間――。

 

 

「全く……余計な仕事を増やすわね、貴方は」

 

聞き慣れた声が響いた。

次の瞬間。

上空から無数の光が降り注ぐ。

閃光。

轟音。

そして爆発。

牙狼族の群れが、一瞬で消し飛んだ。

爆風で木々が揺れ、白煙が辺りを包む。

その煙の奥から、一人の女がゆっくり歩いて来た。

 

冷たい視線。見慣れた白銀の騎士服。ヒナタ・サカグチだった。

 

「……助かった」

 

そう呟いた瞬間。

張り詰めていた意識が限界を迎える。

視界が暗転し――。

俺はそのまま地面へ倒れ込んだ。

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