転生したらカミソリ女騎士の部下になりました   作:ダレ狐

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おっさん、キャンプする

ウルグレイシア共和国 北部の森

 

「皆さん! 前方から大型昆虫型モンスターが接近しています!」

 

「よし! 連携で行くぞ! フリッツと俺がモンスターの側面から攻める。ケイゴはその大盾でリティスを守りつつ、召喚魔法で俺達の援護をしてくれ!」

 

『了解!』

 

ギャルドの指示で、俺はオートバジンをバトルモードで召喚した。

 

俺の役割はタンク。

 

盾を構え、回復役のリティスを守る。

 

警察時代の暴動鎮圧訓練でも盾はよく使っていたから、比較的馴染みやすかった。

 

「Boon!」

 

「怖っ!」

 

「ケイゴさん、行きます! アイシクル・ショット!!」

 

大型の蜂型モンスターが毒針を飛ばしてくる。

 

俺は大盾でそれを防ぎ、背後のリティスが氷塊の散弾を放った。

 

数匹の蜂が撃ち落とされる。

 

「ギャルド、行くぜ!」

 

「ああ、こっちも決める!」

 

同時に、フリッツとギャルドが挟撃の形で魔法を放った。

 

「エア・ウォール!」

 

「ファイヤーボール!」

 

フリッツが風の檻を形成し、その中へギャルドの火球が飛び込む。

 

閉じ込められた蜂達は逃げ場を失い、一瞬で焼き尽くされた。

 

「オートバジン! あそこにある巣を取ってくれ!」

 

俺は近くの大木にぶら下がっている蜂の巣を指差した。

 

オートバジンは即座に飛び出し、巣を回収する。

 

「本当に抜け目ないですよね、ケイさんのそういうところ」

 

「何言ってるんだ。蜂蜜は貴重な栄養源だぞ?」

 

「そうは言いますけど、さっきまで戦っていた魔物を……」

 

「文句があるなら食わなくてもいいんだぜ? その代わり、パンもスープも無しだが」

 

「生意気言ってすみませんでした!!!」

 

フリッツが慌てて頭を下げる。

 

彼がこう言うのにも理由がある。

 

遠征が始まって数週間。

 

俺は、この世界の食糧事情と野営環境の貧弱さに危機感を覚えていた。

 

そんな時、ユニークスキル『生還者』の影響なのか、新たに三つのスキルを獲得した。

 

『野営の知識』

 

『狩人の直感』

 

『野営料理人』

 

簡単に言えば、キャンプに必要な知識や道具作成、食材の調達、調理技術などを補助するスキルだ。

 

戦闘向きではない。

 

だが、長期遠征では極めて有用だった。

 

道具類はドランに依頼して製作してもらった。

 

主な装備は、

 

・ダッチオーブンや各種鍋

・コッフェル

・コットテント

・包丁

・解体用ナイフ

・金属製の串

 

などだ。

 

特にコットテントは大正解だった。

 

最初は普通のテントも考えたが、寝る時くらいは一人の空間が欲しかったのだ。

 

おかげで、寝袋だけだった頃とは違い、今では結界付きのテントで快適に眠れるようになった。

 

そして現在。

 

俺は、このメンバーの食事係になっている。

 

戦闘面では彼らの役に立てない――というより、俺は面倒事を避けたい。

 

そのための大義名分として、この役割を引き受けていた。

 

「ダハハハ! 俺達はすっかりケイゴの料理に骨抜きにされたな!」

 

「本当にそうですね。テントのおかげで疲労も減りましたし……簡易シャワーは本当に素晴らしいです!」

 

リティスが言う簡易シャワーとは、高い位置に設置した水タンクへシャワーヘッドを繋げた簡易設備のことだ。

 

アタッチメントを交換すれば、ウォーターサーバーとしても使える。

 

「本当にケイさんの世界の技術は凄いですね〜。ヒナタ様は、そういう話を全然してくれませんでしたから」

 

「俺の場合は、スキルとドランの技術のおかげだよ。運が良かっただけだ」

 

今になって思う。

 

『生還者』と『超幸運』が、まさかこんな形で噛み合うとは。

 

「けど、その料理の腕は元々だろ?」

 

「まぁな。キャンプも趣味の一つだから」

 

俺は回収した蜂の巣を麻袋へ入れ、空樽を用意した。

 

「オートバジン。絞り出してくれ」

 

命令通り、オートバジンは蜂の巣を圧搾する。

 

袋の隙間から蜂蜜が滴り落ち、樽へと溜まっていった。

 

「これが蜂蜜?」

 

「昨日作ったパンにつけて食ってみろよ」

 

「こんな液体が……」

 

もぐもぐ。

 

「うまい!! 甘くて最高だ!!」

 

「本当ですか!? 私も――」

 

もぐもぐ。

 

「~~♡♡♡ 最高です!!」

 

「これは確かに美味いな」

 

三人とも蜂蜜の良さを理解してくれたらしい。

 

苦労して回収した甲斐があった。

 

「んじゃ、昨日作ったレモン水に蜂蜜を入れてみろよ」

 

俺は川から汲んだ水にレモンを絞った樽から、三人のコップへレモン水を注ぎ、そこへ蜂蜜を加えて渡した。

 

「昨日の酸っぱい水が、ほんのり甘くなりましたよ!」

 

「すげぇー! ガブガブ飲めますよ!!」

 

「身体に染みるな〜。ケイゴ、これは何なんだ?」

 

「レモネードだ。川の水だと、生水を飲みすぎたら腹を壊すからな。だから塩とレモンの果汁を混ぜたんだ」

 

もっとも、この世界がゲームのような中世ヨーロッパ風の世界だとは思っていたが、インフラや医療までその時代に近いとは思わなかった。

 

というか……ヒナタは生活環境の改善とかにスキルを使わなかったのか?

 

そんな疑問が頭をよぎった、その時だった。

 

「助けて!!!!!」

 

「ん? 何か声が聞こえたな?」

 

遠くから誰かが助けを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

そちらへ目を向けると、二人組の男――いや、よく見ると一人は男の背中におぶさっているようだ。

 

「もしかして、近くの冒険者っすかね?」

 

「だろうな……ってことは、後ろにいる大蛇に追われてるみたいだな」

 

ギャルドの指摘通り、人間を丸呑みできるほどの巨大な蛇が、二人へ迫っていた。

 

「ギャルド、待て! 俺が行くよ。今日の晩飯に良さそうだ」

 

「ケイゴさん!? あの蛇も食べるのですか?」

 

「心配するなよ、リティスちゃん。今日まで食べてきた俺のキャンプ飯より、美味いもの食わせてやるよ」

 

俺は背中にマウントしている大盾と、腰に装備した十手を取り出して構えた。

 

「お前ら、早く走れ!」

 

俺は駆け足で蛇へ向かい、そのまま飛びついた。

 

蛇は俺を見ると、丸呑みにしようと大きく口を開ける。

 

だが、俺は大盾を突き出して丸呑みを防いだ。

 

その隙に十手へ火炎魔法『烈火』の炎を纏わせ、刃のような形状へ変化させる。

 

「火炎斬り!」

 

蛇の首を斬り落とす。

 

巨体が地面へ倒れ、そのまま息絶えた。

 

「ケイさんの火炎魔法のコントロール、凄いですね〜」

 

「ああ。火力は俺より劣るが、こちらの世界へ来て半年も経たないうちに、武器へ魔法を込める技術を習得しているんだからな」

 

「入隊前の私達には、そんなことできませんでした……」

 

俺の火炎魔法『烈火』は、無詠唱で炎を自在に生み出す魔法だ。

 

この遠征で分かったことだが、火力自体はギャルド曰く中級より少し下くらいらしい。

 

だが、この炎には別の強みがある。

 

俺がイメージした形へ自在に変化させられるのだ。

 

火球。

 

火の刃。

 

炎の鞭。

 

必要に応じて形状を変えられる。

 

「さて、動画とかでは蛇は蒲焼きにして食うみたいなことをしてたが……イケるか?」

 

今の俺にとって重要なのは、この蛇をいかに美味しく食べるかだ。

 

数分後――。

 

『美味かった〜』

 

どうやら蛇のなんちゃって蒲焼きは好評だったらしい。

 

こういう時は、実家のうなぎ屋兼焼き鳥屋を手伝っていた経験が役立って良かったと、つくづく思う。

 

「何か、すみません」

 

「あっし達までお呼ばれしてしまって……」

 

「本当に助かりました〜。二日もまともに食べてなかったので〜」

 

今の感想を言ったのは、剣士カバル、斥候のギド、魔法使いのエレン。

 

話を聞くと、彼らはつい最近冒険者パーティとしてデビューし、ブルムンド王国にある冒険者ギルドへ入会するために旅立ったところらしい。

 

だが――。

 

「しかし、ブルムンドに向かうなら、森を南下せずに北へ向かって、ウルグレイシア共和国経由で行けば安全だろう?」

 

ギャルドの指摘はもっともだった。

 

俺達は、ギャルド達三人が上位精霊と契約できると言われている神殿へ向かうため、この森へ来ている。

 

俺達はウルグレイシア共和国を経由せず、海岸線沿いに進んで森へ入った。

 

理由としては、あくまで「特訓のため」と言われている。

 

だが、俺の予想では――。

 

ヒナタが所属しているルベリオスは、西方諸国という一つの共同体に属している。

 

一方、このウルグレイシア共和国はそこには属していない。

 

余所者である俺達がうろつけば目立つ。

 

だからこそ、国境警備の比較的緩い海岸線に沿って移動してきたのだと思う。

 

そして、カバル達が目指しているブルムンド王国は、ウルグレイシア共和国から北東に位置する。

 

明らかに、俺達とは真逆の方向だ。

 

だからこそ、少し疑念を抱いている。

 

「おっしゃる通りです。ですが、お嬢曰く……」

 

「せっかく冒険者ギルドに入るなら、何か成果がないと厳しいと思ったの……でも」

 

「へい。恥ずかしい話、森に入ったら迷子になるわ、食料も魔物との遭遇で失くすわで……」

 

「よく今日まで生きてこれたな」

 

あまりにも無鉄砲な行動に、俺達は呆れていた。

 

「んで、どうするんだ、ギャルド? こいつらを近くの村まで送るのか?」

 

「確かにそうだが、俺達もこれ以上ここで足止めを食うわけにもいかないからな」

 

「ケイさんが現地調達してくれているとはいえ、保存食も底を尽きかけていますし」

 

「何より、上位精霊がいると言われている神殿も、あと数日で姿を消すと言われていますから」

 

リティスの言う通り、目的地の神殿は数年に一度、森の中に姿を現すと言われている伝説の場所らしい。

 

何でも、同じ場所に滞在するのは十日間。

 

そして、今日は八日目。

 

明日には神殿へ向かわないと、いよいよ時間が厳しい。

 

だが、近くの村までは地図で見ても二日はかかる。

 

この三人を送れば、確実に神殿が姿を消してしまう。

 

この機会を逃せば、次に現れるのがいつになるかは分からない。

 

これ以上時間をかければ、ギャルド達三人の隊長試験にも影響が出る。

 

「んじゃ、ギャルド達三人はそのまま神殿に向かって、俺がこいつら三人を近くの村まで送るよ」

 

「ケイゴ。だが、お前が精霊との契約を――」

 

「そうですよ! そんなことをしたら、ケイさんがヒナタ様にドヤされますよ!」

 

「おいおい。アンタら三人は確かに『上位精霊との契約』を条件として言われたが、俺はそもそも入隊前の特訓として付いてきただけだ。別に入隊試験には関係ないだろ?」

 

「確かに、そうですね……」

 

「入隊試験で精霊との契約が必須ってわけじゃないだろ? 現に、隊長試験で上位精霊との契約が条件なら、俺はその時で問題ないだろ?」

 

「確かにな……ケイゴは俺達に付いてきているから、忘れていたけど」

 

「ケイさん、そもそもまだ入隊すらしてなかったんすよね……」

 

「ケイゴさん、改めて考えると凄い人ですね」

 

何だか三人からの評価が上がっている気がするが……。

 

まあ、どうでもいい。

 

これで大義名分を作って、面倒な役職コースから逃げられる!

 

俺はのんびりとした異世界生活を望んでいるんだ。

 

下っ端でヘコヘコしているくらいがちょうどいい。

 

「それじゃ、お前らは俺が近くの村まで送るぜ」

 

こうして、俺達の目的が決まりそれぞれに移動を開始をした。

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