一方その頃、ルベリオスにいるヒナタは、魔法水晶を通して、監視を任せている副官のレナードからギャルド達の進捗状況を聞いていた。
「なるほど。彼はそこから冒険者達を村へ送るために、別行動を取ったのね……」
「申し訳ございません。彼の意見が合理的だったため、止めることができませんでした」
「いえ、構わないわ。元々、彼の実力を測るためにギャルド達の試験へ同行させたのが目的でしょう? そういう意味では、十分に役割を果たしたと言ってもいいわ」
「はい。報告の通り、魔法操作は苦手な様子でしたが、格闘術や武器の扱い、遠征での立ち回りは問題ありません。それ以上に、数日で彼らと打ち解けたコミュニケーション能力は、入隊前の受験者としてはかなり高いと思われます」
「ほぉ〜。レナードがそこまで評価するとはな」
「ギャルドから一本取ったんだろ? 俺も見たかったぜ」
ヒナタの両隣にいるのは、同じ隊長格であるアルノーとバッカスの二人だった。
「レナード。ここからはケイゴの監視を重視しなさい。ギャルド達なら、無事に精霊との契約を果たせるでしょうから」
「ですな。何しろ、あの時は三人とも寝込んでいましたからな」
「実力はあるんだけど、運がなかったよね〜。フリッツが見つけた果物をギャルドと一緒に食べたら、二人とも腹痛を起こしてしまって……二人の看病と遠征の疲労が重なって、リティスまで倒れてしまったんだから」
「えぇ……。私の指導不足だったと痛感したわ」
そう。
二年前、別の場所で行われた上位精霊との契約に、レナード、アルノー、バッカスを含めた六人で挑んだことがあった。
しかし、ギャルド、フリッツ、リティスの三人は、体調不良によって途中でリタイアしてしまった。
そのため、アルノー達は今回も三人が無事に最後までやり遂げられるのか、不安を感じていた。
だが、レナードから現在の経過報告を聞く限り、今回の遠征は自分達が経験したものよりも遥かに快適らしい。
……正直、少しだけ嫉妬していた。
「しかし、そのケイゴ・タダノという男は面白い人物ですな〜。年齢的にも俺と近いですから、何だか応援したくなりますな」
「そんな理由かよ、バッカス〜。まぁ、気持ちは分かるぜ。今の
「あなた達のおっさん談議はどうでもいいのよ」
ヒナタは呆れたように二人を見た。
「それより、ケイゴの件だけど――」
その時だった。
魔法水晶に映っていた景色が、僅かに揺らいだ。
レナードの表情が変わる。
「……ヒナタ様。どうやら、向こうで何かあったようです」
「向かいなさい」
ヒナタは魔法水晶へ視線を向けた。
水晶を持つレナードが駆け足で森を抜けると、そこには鎖で繋がれたエルフと、野盗数名がケイゴ達の前に立ち塞がっていた。
「これは……エルフの奴隷?」
「馬鹿な。あの森にはエルフの集落はないはずだぜ?」
「恐らくジュラの森から密輸でしょうね。そこに出くわすとは……」
「見た感じ、ケイゴ達が彼らの進行を止めているようですね……私がすぐに応援を」
「待ちなさい、レナード……もう少し様子を見なさい」
三人はケイゴ一人では荷が重いと心配する中、ヒナタは彼の真価が発揮される予感を感じながら、魔法水晶を見つめていた。
――数分前。
朝になり、ギャルド、フリッツ、リティスの三名は、上位精霊と契約するため、突き止めた神殿へ向かった。
問題がなければ夕方には神殿を出て、明日には俺達が向かう村に到着するらしい。
同時か、こちらが少し早い程度なら問題ないだろう。
「それにしても、ケイゴさんの料理、美味かったっす!」
「んだ。俺達は保存食の固いパンや干し肉くらいなのに」
「うんうん! しかもシャワーまで付いてるなんて最高ですよ!」
「そりゃどうも〜。このグッズが欲しいなら、ドアルゴンにいるドワーフのドランに聞きな。安くしてもらえるかは分からないが、話くらいは聞いてくれるだろう」
「安くしてくれないんですか?」
「向こうも商売なんだ。当然だろ?」
そんな感じで俺は、この新人冒険者であるカバル、ギド、エレンの三人と他愛もない話をしながら、のんびりと町へ向かっていた。
ドォォォーン!!
「何すか、あの爆発は!?」
「よし、行ってこいギド! 斥候なんだろ?」
「うっ……いつか盗賊にジョブチェンジしてやる」
ブツブツと文句を言いながら、ギドは何かのスキルを発動し、気配を消してどこかへ行った。
「ジョブチェンジかぁ〜。俺も剣士じゃなくて、重戦士にでもなろうかな?」
「ん? カバル、何でだよ?」
「いや、今日ここまでの道のりでさ。タンク役のケイゴさんがいるだけで、道程がどれほど楽だったか」
「うんうん。私達はまだ正式な冒険者じゃないから、職業も基本職にしかなれないし」
何かドラクエみたいなシステムだな。
「大変でやんす〜!」
「おい、ギド。何があったんだ?」
ギドがヤンガスみたいな口調で言いながら、俺達の前に姿を現した。
俺は驚きながら事情を聞き、その様子を確認するために身を隠して覗いてみた。
様子を見ると、林道には、俺が以前捕まった時のような檻付きの馬車が停められており、その中には数名のエルフが捕らえられていた。
そして、その周囲には数名の野盗がいる。
先ほどの爆発は、どうやら森の魔物との戦闘で魔法を使った音らしい。
ギドが見たのは、その戦闘の一部始終らしいが……。
「確認だけど、この世界には奴隷制度とかあるのか?」
「そりゃ、あるけどよ……でも、エルフは市民権を得ているから奴隷にするのは禁止なんだよ!」
「ってことは、あいつらは違法な奴隷商人なんだな?」
「えぇ。恐らく、この森で集落としてひっそり暮らしているエルフなのでは? それをアイツらが奴隷として捕まえたのでしょう」
「酷いよ……許せない!」
現代日本に住む俺からしたら、奴隷制度が残っていることに違和感はある。
だが、そのことにとやかく言うのはやめた。
今は、彼女達を救わなければ……。
「んじゃ、エルフを狩る者たちを狩るとしますか〜」
軽く準備運動をしながら、敵の数を数えていた。
「捕まったエルフは、檻の中に三人……野盗はざっと見て十人か」
「えっ、ケイゴさん……まさか……」
「面倒事は避ける性分だが、こんなことを見捨てるほど薄情にはなれないからな……。お前らは物陰に隠れてろよ」
「ちょっと待って、ケイゴさん! アンタ一人で行かせるかよ! いくら弱いルーキー冒険者の俺達でも、意地があるんだ!!」
「ですね。あっしも同意です!」
「うん。こんなことする人達には、お仕置きが必要です!」
「お前ら……よし、そんじゃ野盗どもを一網打尽にして捕まえるぞ」
そして、俺は彼らと作戦を立てた。
①俺が敵の前に出て迎え撃つ。
②奴らが俺に視線を向けた後、カバルが背後から奇襲を仕掛ける。
③エレンは俺とカバルが挟み撃ちにした敵を氷結魔法で凍らせる。
④ギドはその隙に、檻に捕まったエルフを救出する。
三人が配置についたのを確認したら――。
「イヤァァ!!」
「グヘヘヘ、もう逃げられねぇーぜェェェ! アチィーー!!!」
俺は、一人のエルフの女性を追いかけ回している男の尻にファイヤーボールを当てた。
「おっ、良い感じに当たった」
「テメェー、何者なんだ!」
「俺か? 俺はおっさんだ!」
「ふざけやがって! 野郎共、ぶっ殺してしまえ!!」
三人が剣を持って俺に襲いかかってきたが、大盾を横に向けて構え、防いだ。
「何!?」
「三人の攻撃を……」
「盾一つに防がれただと!?」
以前、ヒナタが言っていた。
異世界へ繋がるゲートを通った後の俺達の身体は、かなり強化されているらしい。
それを改めて実感した。
元の世界でも、三人同時の攻撃を受け止めるなんて選択肢はなかった。
「何だよ、この怪力は!?」
「んじゃ、三人仲良く寝てな!」
攻撃を受けた盾を前に突き出すと、三人がバランスを崩して後退りした。
そのタイミングで盾を水平に構え、横薙ぎに振り抜く。
三人の腹部へ強烈な一撃が叩き込まれた。
『ぐぇ!』
「まずは三人……」
「何怯んでるんだ! 続けぇ!」
「三方向から挟み込め!」
「やるぞぉぉ!!」
「三方向なら!」
「そうは、させねぇーよ!!」
さらに三人が三方向から俺を挟み込むように攻撃を仕掛けようとした。
その瞬間、真ん中から攻めてきた野盗の背後から、剣を振りかざしたカバルの攻撃が決まった。
「ぐは!」
「ケイゴさん! あと二人が!」
「ふん!」
「ぐぇ〜」
とりあえず、大盾を敵の一人の鳩尾目掛けて投げつけ、追撃を封じた。
「貰った〜!」
「ファイヤーボール!」
「あだぁ!?」
俺の背後を取って剣を振り下ろそうとした野盗は、茂みに隠れていたエレンのファイヤーボールを背中に受け、俺の近くまで吹き飛ばされた。
「へい、当店のサービスの地面にキス一つ!」
ドコォ!
「ぶべら!?」
吹き飛ばされた野盗の顔面に俺の拳を叩き込み、そのまま地面にキスする形になるように叩きつけた。
「何なんだよ、お前ら!」
「残り四人か〜。エレン! 俺の後ろに下がってな」
「うん!」
投げた盾を回収し、エレンを俺の背後につかせた。
「クソ〜。こうなればコイツを使うしかないな」
敵のリーダー格が懐から何かの笛を取り出した。
「ちょっ! リーダー、こんな所でアイツを使ったら俺らにも被害が……」
「うるせぇ〜! 俺に盾突く奴は、アイツのエサなんだよ!」
変な笛が鳴り響く。
すると、その背後に現れたのは、昨日倒した蛇の数倍はある巨大な黒い蛇だった。
『黒蛇だ!』
カバルとエレンの反応からすると、かなり有名な蛇らしい。
「コイツはジュラの森で卵から育てた俺の切り札だ!」
「コイツを卵から育てたの? 食費がエグいな〜」
「感心してる場合か!?」
「そうですよ! さすがにケイゴさんでも……」
「無駄だ! コイツの鱗はかなり頑丈だ。そこらの武器や魔法程度ではビクともしないぜ〜」
「ジュルルル〜」
黒蛇からヨダレが垂れた。
それが地面に落ちた瞬間、グツグツと音を立てて地面が溶け始める。
「毒持ちか……」
「そうだ! コイツの毒を受けたら、骨も残らねぇーぞ!」
「カバル! 悪いが、残りの野盗は任せるぞ! この黒蛇は俺が抑える!」
「ハァー!? 何を言ってるの?」
「エレン、俺がアイツを抑えるから、その隙にありったけ威力を上げたファイヤーボールを準備してくれ」
「無理だよ! あの蛇の鱗は……」
「エレン!」
不安がるエレンの肩に手を乗せる。
「心配するな〜。おっさんが守ってやるから。信じてくれ」
「……はい」
「舐めるなよ! たかがおっさんに俺のヴェノムが負けるかぁ!!」
「ヴェノムって毒液かよ。安直だな〜」
「シャァアアアア!!」
俺の一言にヴェノムは怒ったのか、一気に俺達へ向けて突進を仕掛けてきた。
こんなピンチなのに……何故だろう?
俺の中にあるナニカが燃えていて、身体が動く!
『ケイゴさん!』
突進して噛みつこうとしているヴェノムの上顎を盾で受けながら、右足で下顎を抑えて口を大きく開けるようにする。
そして左足でヴェノムの突進を止めた。
「おっさん……たまには気張るぜぇ!」
「バカな!」
「すげぇ〜」
「エレン! 魔法をコイツの口の中に!!」
「はい! ファイヤーボール!!」
エレンのファイヤーボールがヴェノムの口の中に入った瞬間、俺は一気に手を離して奴の口を閉じさせた。
体内に炎が燃え移り、ヴェノムが苦しみ始める。
「ヴェノム!!」
「外が頑丈なら、内側を攻撃すればいいだけだ!」
さらに俺はヴェノムの腹部へ、先の攻撃で鱗の一部が盛り上がった箇所に十手を突き立てる。
その十手に炎を纏わせ、大剣のような形へと変化させた。
「何だよ、その炎の剣は! 何でヴェノムの鱗に……!」
「体内の内側から圧力があれば、皮膚のどこかに亀裂が走って出血するからな〜。そこは頑丈な鱗の隙間だったってわけだ」
「そうか! そこなら剣も魔法も通るのか!!」
炎の刃はヴェノムの血管を通って全身を燃やし、ヴェノムは黒焦げの炭になった。
「俺のヴェノムが……」
ヴェノムが倒されたことで、リーダーと残りのメンバーは戦意を喪失し、大人しく捕まった。
その後、ギドと合流して、エルフのお姉様達は無事に解放された。
「ありがとうございます! 私達は出稼ぎにドワルゴンへ向かう途中で襲撃に遭いまして」
「ドワルゴンに行けば、知り合いがいるのか?」
「はい。私たちの仲間がお店をしているので」
「そっか。なら、コイツらがドワルゴンまで護衛してくれるから大丈夫ですよ」
「え? ケイゴさん、何で俺達が?」
「悪いな〜。俺が一緒にいるメンバーが所属してるのが西方正教会で、人間主義が強いんだ。ドワルゴンには大所帯で行けるわけないだろ?」
「そうか」
「それに、ドワルゴンに行けば、お前たちの目的地もすぐ側なんだから、何とかなるだろ?」
「良いの? エルフの人と一緒なら、お礼とか……」
「いつか一人で行ける時に奢ってもらえたら良いさ。それに、コイツらの護送はこっちでやるから」
俺は野盗たちを指差し、三人を納得させた。
「んじゃ、彼女達は無事にドワルゴンに届けるぜ」
「おう!」
「本当にお世話になりました。次会う時は、あっし達も成長してますので」
「それは楽しみだな」
「あの、ケイゴさん……///」
「ん?」
「さっきはありがとうございました! また……会えますよね?」
「会えるさ」
「それなら……」
エレンは懐に入れていた袋から、翡翠がひし形に加工されたネックレスを取り出し、俺に手渡した。
「コレは?」
「私の故郷から古く伝わる御守りです!」
「そんな大事なもの、良いのか?」
「はい! ケイゴさんに持っていてほしいのです。ケイゴさん、見かけよりも無茶なことをしそうなので」
「まぁ〜、これからキツイ訓練がありそうだしな。大事にしておくよ」
「はい!」
「(小声)おい、あの首飾りって……」
「(小声)えぇ、お嬢の実家に伝わる……」
何か二人がコソコソ話をしているせいか、よく聞こえないな。
「それじゃ、私達は彼女達をドワルゴンに連れて行きますね」
「村を経由しなくて行けるのか?」
「はい。エルフの皆さんが、この森の抜け道を知っているみたいなので」
「なら、レモン水と蜂蜜とパンをいくつか持って行けよ」
「良いんですか?」
「エレンに御守りをくれたし、この大所帯だと食料確保も大変だろ? 俺達は町に寄るから、食料はそこで確保するよ」
そう言って、カバルとギドに今朝作ったパンと、水が入った樽、そして蜂蜜が入った瓶を渡した。
「ケイゴさん、ありがとう!」
「ケイゴさん、ありがとうございます!」
エレンとエルフの皆さんにお礼を言われ、少し照れくさい思いをしたが、助かって良かった。
そして、彼らと別れた後――。
「素晴らしい活躍でしたね」
背後に颯爽と現れたレナードから皮肉交じりに言われ、俺はヤレヤレと思っていた。
「レナード副隊長……で、俺のこの行動について、何か言ってますか?」
「いえ、何も……入隊試験は無事に受かるだろう、と言っていましたよ」
「あっ、そうですか〜。嫌だな〜」
「そんなに不安ですか?」
「明らかにキツイ訓練があると分かって、ワクワクするほどドMじゃないんだよ」
「まぁ〜厳しいのは確かですが、貴方は騎士に向いていると思いますよ」
「男に褒められても嬉しくはないですよ〜。まぁ……」
「おーい! ケイさん!!」
「レナード副隊長もいるぜ!」
「って、何ですか! この有様は!? 怪我はしてませんか、ケイゴさん!」
遠くからギャルド達三人が見えて、俺達の所へ駆けつけてきた。
「皆といるのは嫌いじゃないぜ」
「ふっ、そうですか」
こうして、彼ら三名の隊長昇格のための遠征が終わり、俺達はルベリオスへ帰還した。
そして数ヶ月後、俺は