転生したらカミソリ女騎士の部下になりました   作:ダレ狐

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ドワルゴン編
おっさん、ヒゲ剃る 天使が微笑む


 

 

あいつとの出会いは、何年前だったかな?

 

確か、交番勤務で左遷されて、東京に来て間もない頃だったか。

 

その頃はオヤジ狩りが流行っていて、夜のパトロールで自転車を走らせていたら――

 

「おい、おっさん〜。いい大人がゲームなんてしないで、もっと働いて税金を納めろよ〜」

 

「いや、君ね……」

 

いかにも『池袋ウエストゲートパーク』に出てきそうな若者が、気の弱そうなサラリーマンからカツアゲしている現場を見掛けたので、声を掛けた。

 

「はい、そこまで。君、未成年だろ? 早く帰りなさい〜」

 

「お、お巡りさん!?」

 

「お巡りさん〜。あんたも俺らの税金で働いてるなら〜、俺達のために頑張ってくれても良くねぇー?」

 

「そうか〜。大変だな〜。だから家に帰って早く寝ないと、背が伸びないぞ」

 

「んだと!? 誰がどチビだ!」

 

おっ。

 

ズボンを腰まで下ろして、足を長く見せたいらしい変な若者が俺にメンチを切っている。

 

だが……厚底の靴を履いているにもかかわらず、俺を見上げるほどの身長なのが痛々しくて、思わず笑いそうになった。

 

「はいはい、とにかくこのお兄さんから離れなさい。俺も早くカップ麺食いたいから、君も帰ろう」

 

「調子こいてんじゃねぇーぞ!」

 

「メリケンサック!? お巡りさん!!」

 

ズボンに手を入れていた男の拳には、メリケンサックが嵌められていた。

 

拳が俺の顔面目掛けて振り抜かれる。

 

だが――。

 

俺はその手首を掴んで止めた。

 

そのまま、身長160センチ前後の坊やの首根っこを掴み、持ち上げる。

 

「痛い痛い〜!」

 

「喧嘩を売るのは気を付けなよ。未成年でも公務執行妨害は、それなりに人生のペナルティだから〜」

 

「離せよ〜!」

 

「分かった分かった〜。離そうか?」

 

俺は彼を近くの川が流れる橋まで連れていき、欄干から身を乗り出すように腕を伸ばした。

 

「テメェー、何してるんだ!」

 

「いや、離して欲しいみたいだからさ。暴れそうだし、川で反省してもらおうと思って」

 

「ふざけるな! それでも警察官かよ!?」

 

「そうだよ、警察官だよ。色んな業務が残ってるから君に構ってられないんだよ〜。で、離したらいいんだよな?」

 

「ひっ!」

 

流石に蒸し暑い時期に、ガキの喧しい声を聞かされ続けてイライラしていた。

 

少しドスを利かせて、ガキに話しかける。

 

「そんじゃ、離すぞ」

 

「待ってよ! 俺、泳げないんだ!」

 

「それ、俺に関係ある? 他に言うことないなら……」

 

「ごめんなさい! もう二度としないので、落とさないで下さい!!」

 

「何だ、謝罪できるじゃん〜。ヨシ、ほら」

 

俺はガキをこちらへ引き寄せ、地面のある場所へ下ろした。

 

さっきまで息巻いていたガキは、涙と鼻水だけじゃなく、失禁までしていた。

 

「イキがるのも勝手だけど、俺よりも怖い相手に出くわしたらシャレにならないからな〜。あと、俺やこのお兄さんにちょっかい掛けるなら、次は自殺者が多数出るくらい深い川に――」

 

「もうしませーん!!」

 

ガキんちょはビビりながら逃げ去っていった。

 

「あの……大丈夫ですか? 親御さんからクレームとか?」

 

サラリーマンの男性が心配そうに尋ねてくる。

 

「その時はその時ですよ。あぁ、もしかしたら、その時はお兄さんに証人をお願いするかもしれませんが」

 

「なるほど……あぁ〜、ありがとうございます」

 

「いえいえ。市民の安全を守るのが警察官の仕事なので」

 

見た感じ、歳は俺より二、三歳下に見えるが……。

 

「あっ!」

 

「どうかしましたか?」

 

「お巡りさんの携帯のストラップ!」

 

お兄さんが指差したのは、俺の携帯電話に付けていたストラップ。

 

仮面ライダークウガのストラップに反応していた。

 

「仮面ライダー好きなんですか?」

 

「まぁ〜ね。昔はスタントマンに憧れてたし、バイクの免許もライダー好きが高じて取ったからね」

 

「へぇ〜、凄いですね!」

 

「何だ、お兄さんもこういうの好きなのか?」

 

「俺はアニメやゲームが好きなので」

 

「へぇ〜、いいな。俺、こっちに引っ越してきてから、この手の話ができる奴がいなくてさ〜。今度、休みの時に話そうよ」

 

「いいですね! 俺は三上悟です」

 

「俺は只野圭吾だ!」

 

そんな会話をしていた気がする……。

 

「……」

 

何か、懐かしい夢を見た気がする。

 

前にも、昔の夢を見たような……。

 

「ケイゴさん、起きてください〜」

 

「ん?」

 

ぼやけた頭に、俺を起こしてくれている人の声がようやく届く。

 

目を開けると――。

 

いつ見ても天使みたいに可愛らしいリティスが、そこにいた。

 

「あれ? お迎えの時間?」

 

「天使じゃないですよ、ケイゴさん」

 

「……口に出てた?」

 

「いえ。私が起こすたびに言ってくるので!」

 

少しムッと膨れている顔が可愛らしくて、もう少し弄りたい気持ちはある。

 

だが、一応彼女が上司なので、ここは切り替えないと。

 

「さて、それじゃ顔を洗ってヒゲを剃るので、飯はすぐに出しますよ」

 

「はい。楽しみにしてますね」

 

上位精霊との契約を終えた後、ギャルド、フリッツ、リティスの三人は隊長へ昇格した。

 

そして俺は、神殿騎士団(テンプルナイツ)に入団した。

 

その後、研修と称してリティスの部下となり、俺は四年間を過ごしていた。

 

回復を主体とするリティスと、タンク役である俺との相性が最も良かったこと。

 

そしてリティスの部隊は、遠征中の治療任務が多く、俺のスキルも遠征中の料理番として重宝されたこと。

 

この二つが大きかったのだろう。

 

「ヒゲ剃りは終わり〜。あとは髪をオールバックに……ヨシ!」

 

顔を洗い、ヒゲを剃る。

 

髪をオールバックに固め、騎士服を纏う。

 

普段の無精な姿とは違い、鏡に映った自分は、それなりに貫禄のある騎士に見えた。

 

そして俺は、キャンプの調理場へ向かった。

 

「よう〜、ケイさん。朝食は何だい?」

 

「ポトフとホットドッグだよ」

 

「ハンバーグが食いたいよ」

 

「今度、肉が入ったらな〜。もしくは自分で調達してこい!」

 

こんな感じで、騎士団の面々には遠征中の料理番として定着していた。

 

ヒナタは最初、俺を戦場で活躍させたそうだった。

 

だが、団員達から「ケイゴは後衛に回すべきだ」と多数決で判断されたため、表立って俺を戦闘任務に出せなくなった。

 

その時、ヒナタが苦虫を噛み潰したような顔をしていたのは、今でも忘れない。

 

「おはようございます、ケイゴさん!」

 

「準備できてます! ケイゴさん!」

 

「おはようございます! ケイゴさん!」

 

「おはよう!」

 

ちなみに、遠征中の料理番として俺を手伝ってくれているのは、あの時助けたエルフ達――ボレス、ウル、ローラの三人だ。

 

数名程度のキャンプなら俺一人でも大丈夫だが、流石に数十人、百人を超える規模になると人手が欲しかった。

 

特大鍋のポトフは、既に煮込んである。

 

隣では大量のウインナーを焼いていた。

 

パンも昨日焼いていたので、切り込みを入れ始める。

 

「さて、もう一品何か作るかな〜」

 

俺はキャンプで使うクーラーボックスをイメージして作った、移動用の冷蔵庫を覗き込む。

 

これはドランに新たに作ってもらった道具で、氷魔法の魔石を組み込むことで、食材を冷やすことができる。

 

お陰で野菜や果物を保存できるようになった。

 

ビタミンを摂れるかどうかで、体調管理は大きく変わるからな。

 

「お、ヨーグルトができてるな〜。果物もあるし、ビュッフェ形式でやってみるか」

 

「ケイゴさん、何を作るんですか?」

 

「このヨーグルトで、皆にオリジナルのデザートを作ってもらうんだよ」

 

冷蔵庫から林檎、オレンジ、ブルーベリー、木苺のジャムを取り出す。

 

皿にヨーグルトを入れ、フルーツを乗せて蜂蜜を掛ける。

 

「ほい、フルーツヨーグルトだ。これは見本用で全部乗せしたけど、好きな物を自分で選んで作るんだ」

 

「あの……食べてみてもいいですか?」

 

「これ、ローラ!」

 

「いいよ。味見も立派な仕事だからね」

 

「やった〜!」

 

ローラはフルーツヨーグルトを口に運ぶ。

 

「美味しい!」

 

「だろ? これで健康管理にも最適だからね〜」

 

「なるほど。好きなソースだけでも、フルーツだけでも美味しくいただけるのは良いですね」

 

「そうそう。それじゃ、すぐに準備するか」

 

すぐにキャンプ地のメンバーへ、ホットドッグとポトフを乗せたプレートと、空の皿を配り終える。

 

「そんじゃ、その空の皿に、こんな感じで自分好みのフルーツヨーグルトを作ってくれ!」

 

最初はヨーグルトという白い食べ物に抵抗していた騎士達だった。

 

だが、リティスが先陣を切ってヨーグルトをよそい、食べてみる。

 

「美味しい〜! そして甘い!」

 

『俺も俺も!』

 

騎士団員達が子供みたいに夢中になってヨーグルトを食べていた。

 

「よしよし、大成功だな」

 

移動用冷蔵庫のお陰で、食材の保存にも余裕ができた。

 

これは本当に役立っている。

 

「ケイゴさん、ヨーグルト美味しかったです」

 

「それは良かった。ミルクを無駄なく処理するために、チーズとか色々試して、ようやくできたんだよ」

 

「ケイゴさんが来るまでの救護班は、本当に大変でした。回復魔法は基本的に傷を癒すことはできますが、その回復には食事から得られる栄養も重要ですから」

 

「まぁ、生き物は食って生活してるからね」

 

実際、こちらの世界の歴史を見ても、食事から十分な栄養を補給できるかどうかで、人類の寿命が変わるくらいには重要な要素だ。

 

特に、あちこちへ派遣される騎士団にとって、遠征中の食事はかなり重要になる。

 

ヒナタが来てから騎士団は強く立て直された。

 

だが、継続率が悪く、人手不足も目立っていたらしい。

 

俺の登場によって、そこが少しずつ解決された。

 

その功績もあって、俺の料理番としてのポストを無視できなくなったのだろう。

 

「それに、ケイゴさんが背中にいてくれると安心するので、私、助かってるんですよ」

 

「そう? リティスちゃんにそう言われると、おっさん嬉しいわ〜」

 

いいね〜。

 

こういう可愛らしい女性がいる職場。

 

警察官時代は、基本的にむさ苦しい男どもの世界だったからな。

 

あぁ、異世界最高。

 

「さて、今日で皆、目的の街に着くんだよな?」

 

「ええ。あとはルベリオスまで目と鼻の先ですから」

 

「そんじゃ、またしばらくの間、休暇を貰っても――」

 

「え? 今からドワルゴンに向かうのですか?」

 

「まぁ〜ね。ドランに進捗も聞きたいし、何よりも……『例の件』」

 

「ジュラの大森林の『暴風竜ヴェルドラ』の消失についてですね」

 

そう。

 

ドランに会いたいのもある。

 

だが、目下の重要な任務は、ジュラの大森林に封印されている暴風竜ヴェルドラの消失だ。

 

一ヶ月前、ヴェルドラの消失が確認された。

 

周辺国は調査を進めているが、現状、ヴェルドラについて有力な情報はない。

 

さらに、ヴェルドラの消失によって周囲の魔物が活性化しているらしく、騎士団もその対応に追われ、情報収集が思うように進んでいない。

 

そこで俺は、ヒナタから調査の指令を受けた。

 

まずはドワルゴンへ向かい、情報収集を行う。

 

「向こうには、一ヶ月くらいで着くと思うけど」

 

「気を付けてくださいね」

 

「了解」

 

――同時刻。

 

ジュラの大森林。

 

「リムル様! おはようございます!」

 

「ああ、おはよう!」

 

ゴブリンと牙狼族が集落の中を行き交い、その中心には一匹のスライムがいた。

 

「今日も平和だな〜」

 

喋るスライムは、呑気にそう呟いていた。

 

だが――。

 

このスライムの存在が、やがて世界を巻き込む大きな渦の中心となる。

 

そしてケイゴにとっても、異世界へ来てから最大級の騒動へと足を踏み入れることになるのだった。

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