廻人がカルデアに行きたくなかったのは、物語に関わりたくなかったからです
カルデアに行く=物語に深く関わる ですからね
死亡フラグがわんさかある物語の渦中になんか行きたくなかったんです
廻人君的には、『お家で寝て起きたらなんか全部終わってた』がベストだったのです
仮に立香が世界を救えなくて自分が死んでも廻人は良かったのです
少なくとも世界を救う旅路で死んでしまうよりかは...
まあ、一話の『お願い』で廻人の計画は消し飛んだんですが
「へぇ、これがカルデアっていろんな施設があるんだねー」
マシュに自分たちの部屋へと連れられている最中、カルデアのパンフレットがあったのでそれを見ながら呟く
ふむふむと流し読みして、立香に渡す
「...?廻人さん、もう読まれたのですか?」
マシュは疑問の声を上げる
「ん?あぁ、もういいんだよ。全部覚えたからね」
「...はい?今の一瞬でパンフレットに記載されていたカルデアの内装を、ですか?」
「うん」
「あー、廻人は昔から記憶力がずば抜けて良くてねー。えーと、映像記憶?ってのを廻人は持ってるんだよ」
「え、映像記憶ですか?」
信じられないといったマシュに立香はパンフレットから目を離さずに答える
僕の幼馴染、僕に対してだけ雑じゃね?
「というかそんなに驚くことなのかい?魔術師なら魔術で完全記憶能力くらい持っているんじゃ?」
「記憶や記録に関する魔術はあるにはあります。しかし...っと。すみません廻人さん、会話の途中なのですが...」
マシュは話を切り上げて、二つの扉の前で足を止める
「お待たせしました。こちらがお二人の部屋です」
はい、親の顔より見たマイルームです。よろしくお願いします。
「わたしはファーストミッションがあるのでここで失礼します」
「ここまで案内ありがとう!またね、マシュ!」
「...!はい。それではまた」
ニコリと笑ったマシュは駆け足で去っていった
「...大丈夫かな、マシュ」
ポツリと呟いた立香の顔はどこか不安そうだ
「パンフレットを君も読んだから分かると思うけど、ここには多くの人が関わっていそうだし。安全面は保証されているんじゃない?」
「なんか胸騒ぎがするんだよね...。何か良くないことが起きるんじゃないかって」
良くないことしか起きませんけどね、この先
「フォウ!」
ピョンピョンとフォウは立香の方に飛び乗る
「フォウ君...マシュについて行かなかったの?」
「フォウ、キュー。フォウフォウ!」
「マシュさんに僕たちをよろしくと言われたらしいよ」
「え?廻人フォウ君の言ってること分かるの?」
立香は驚いた表情で僕を見る
「いいや?なんとなくで言っただけだよ。さ、中に入ろうか」
「うん、じゃまたね」
「フォウ」
立香は自分の部屋へと入っていく...ん?
なんでこんなに静かなんだ?
...なるほど(この間0.3秒)
「ハァ...そういうパターンね」
僕はため息をつきながら、自分の部屋の扉を開ける
「はーい、入ってまーって、うぇぇぇぇ!!誰だ君は⁉」
そこには驚愕した表情でこちらに指をさす、オレンジ髪の男性がいた
「ここは空き部屋だぞ、ボクのさぼり場だぞ⁉誰のことわりがあって入ってくるんだい⁉」
「あー...「廻人大丈夫⁉今、叫び声みたいなのが聞こえたけど⁉」」
隣の部屋から立香が飛び出して僕の部屋に入ってくる
「え⁉誰この人⁉」「わー!僕の聖域を侵す侵入者が増えたぞ⁉」
「...だっっっる」
僕は互いに指をさしあっている二人に説明をした
立香には扉を開けたらこの男がケーキを食べながらくつろいでいたことを
ロ...オレンジの男性には、僕たちの名前と、僕たちがカルデアに来てからこの部屋に来るまでの経緯を
「あー、そっか。ついに最後の子達が来ちゃったかぁ...いやぁはじめまして廻人くん、立香ちゃん。予期せぬ出会いだったけど、改めて自己紹介しよう」
目の前の男性は一瞬俯いた後、にへらっと笑って口を開く
「ボクは医療部門のトップ、『ロマニ・アーキマン』。なぜかみんなからDr.ロマンと略されていてね。理由はわからないけど言いやすいし、君たちも遠慮なくロマンと呼んでくれていいとも」
「何というか...ゆるふわ系って感じだね」
「力が抜ける感じがするよ」
僕と立香は「ロマンっていい響きだね」とふにゃふにゃしているロマンを見ながら小声で話す
「あれ?もしかしてこれが噂の怪生物?うわぁはじめて見た!」
「...フウ」
「あ、あれ?何かすごく哀れなものを見るような目で見られている気がする」
哀れなものではあるでしょ、憐憫を感じるくらいには
「そういえばどうしてロマンさんはここにいるんですか?」
「いやあ、ボクも君たちと似た感じでね。『ロマニが現場にいると空気が緩むのよ‼』と所長に言われて仕方なくここで拗ねていたんだ」
「な、なるほど...」
立香の質問に、ロマ二はバツの悪そうに答える
「でも、そんな時に君たちが来てくれた。地獄に仏、ぼっちにメル友とはこのことさ。ボクたち所在ないトリオでのんびり世間話でもして、交友を深めようじゃあないか!」
「来てくれたというか、僕の部屋にあなたが勝手に入っていただけというか」
「うん。つまりボクは友人の部屋に遊びにきたって事だ!ヤッホゥ、新しい友達ができたぞぅ!」
「あーこの頭抱えたくなる感じ身に覚えがあるぞー」
「こっち見ながら言うな」
“偶然”目線の先にいた立香にぺシンと頭を叩かれる
「ふむふむ、これが幼馴染というものなのか。いやぁ、小説やアニメで見たときはこんなのあるわけないと思っていたけど、あながち間違っていなかったんだねぇ」
その後、立香はロマ二にカルデアについて説明してもらっていた
パンフレットで見ていたから聞かなくともいいと思うが、彼女はそこで働いている人間の口からもう一度聞いておきたかったのだろう
ロマニが僕の部屋にいたため、原作通りに物語が進まない可能性があった
アドリブでどうにかしようとしたが、この流れなら問題ない
僕は説明をしているロマニと専門用語が多くて宇宙猫になっている立香を傍目に、マイルームに備え付きのコーヒーメーカーからコーヒーを淹れる
うん、なんかあったかくておいしい
僕はふと時計を見る...そろそろかな
「とまあ、以上がこのカルデアの構造だ。標高6000mの雪山の中に作られた地下工房で...
ピピッ
ロマ二が締めに入ろうとしているときに彼が付けている腕輪型の装置から電子音が鳴る
「ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?Aチームの状態は万全だが、Bチーム以下、慣れていない者に若干の変調が見られる。これは不安からくるものだろうな。コフィンの中はコクピット同然だから」
「やあレフ。それは気の毒だ。ちょっと麻酔をかけに行こうか」
「ああ、急いでくれ。いま医務室だろ?そこからなら二分で到着できる筈だ」
立香が何かに、おそらくここが医務室ではないことに気づき僕の方を見る
僕は自分の口元に人差し指を当て、『黙っていろ』とジェスチャーをする
立香はコクリと頷き、ジト目でロマニの方を見る
ジト目で見たいのはお前の方だよ
レフとの通信が切れていない状態でお前が喋ったらロマニが医務室にいないとレフが感づく可能性がある
だってマシュが自室に案内したはずの立香がロマニのいる医務室にいるというのは違和感がある
ファーストミッションのため戻ってきたマシュにレフが立香と僕はどうなったのか聞いているかもしれない
考えすぎかもしれない、そうはならないかもしれない
だが、すべては『かもしれない』だ。絶対ではない
だから僕はその『かもしれない』を消すために立香を制止した
あーダルい、だから僕は
僕という存在がいるだけで、本当なら話かける人間がいないためレフとロマニの通信を黙って聞いていた立香が僕に話しかけようとした
レフに始末されるかもしれないという可能性を生んでしまった
舞台に乱入した観客なんて、邪魔以外のなんでもないのだ
「___さて、ボクみたいな平凡な医者が立ち会ってもしょうがないけど、お呼びとあらば行かないとね」
どうやらロマニはそろそろ管制室へと向かうようだ
僕は立香に話すことを任せて、隣で相槌を打っていただけだ
「お喋りに付き合ってくれてありがとう、立香ちゃん、廻人くん。落ち着いたら医務室を訪ねに来てくれ。今度は美味しいケーキぐらいはご馳走するよ」
「はい!マシュも誘ってお邪魔しますね!今から楽しみだなぁ」
「その楽しみの七割はケーキなんじゃない?」
「ちょっと廻人?私はそんなに食いしん坊じゃ___
僕と立香のやり取りに笑みを浮かべながらロマニが部屋を出ようとしたときだ
プツンと部屋の電気が消える
次の瞬間
ズゥゥゥゥン......
「きゃっ!」「うわっ!」「おっと」
爆音と共に地響きが身体に伝わる
立香とロマニが体勢を崩すのに僕も合わせる
『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の障壁は____』
けたたましいサイレンと共に避難を促すアナウンスが流れる
「今のは爆発音か⁉一体なにが起こっている...⁉モニター、管制室を映してくれ!みんなは無事なのか⁉」
ついさっきまでのものとは違う、焦った声のロマニがそう叫ぶ
立香はまだ何が起こったのか理解していないのか、体勢を崩したときに咄嗟に掴んだ僕の手を握ったまま固まっている
ロマニの声に反応して、モニターに管制室の映像が映し出される
そこは地獄であった
あちらこちらから火の手が上がり、建物は残骸と化している
考えなくとも分かる、この場にいた者は決して無事ではないということを
「立香、廻人、すぐに避難してくれ。ボクは管制室に行く。もうじき隔壁が閉鎖するからね。その前にキミたちだけでも外に出るんだ!」
ロマニはそう言って、僕の部屋から走って出ていく
「...管制室って、
あー、アイデアロールに成功しちゃったかー
成功した立香は、覚悟を決めて管制室に行くことを決意する
SAN値を回復してください...回復すんじゃねぇよ、そこは一般人らしく怯えて避難しろよ
「っ、廻人!」
「なに?」
立香は僕から手を離し、部屋の出口の前に立つ
「私はマシュを助けに行くから!廻人は避難してて!絶対に戻ってくるから!...あ、それと」
部屋を出ようとした立香だったが、何を思ったのかこちらを振り返る
「フォウ君と一緒にいてね!お願い!」
立香は僕が止めるふりをする暇もなく、管制室へと向かった
よし、これで原作通りに進むな。イレギュラーは早速避難するとしよう
えー、管制室から最も遠いところは...ロストルームに行くか?
...ん?
「フォウ!」
僕の目の前にフォウが立つ
「...僕は行かない。君もマシュが心配だろう。さっさと行くといい。」
「フゥ、フォウ。キュー」
「は?『さっきなんて立香は言ったか覚えているか?』だって?」
何を言っているんだこの獣は、そんなことどうでもいいからさっさと立香とマシュのところに行けよ
立香がなんていったのか?
そりゃ、マシュを助けに行くって...あ
「いや、言うてそんな。ハハハ、ご冗談を」
僕はとあることに気づいてしまい、咄嗟に部屋から出て管制室から反対方向に行こうとする
...
......
だっっっっっっっっっっるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!
ああああああああああああああ!人生終わったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
人生、終わったぁぁぁァァァァァァ!!!!!
「フォウ君と一緒にいてね!『お願い』!」
「おい!フォウ!待て!マジで!死ぬ!管制室に逝ったら僕死んじゃう!」
「フォウ!」
僕の魂の叫びを無視して、フォウは管制室へと走っていく
何度もフォウを捕まえようとするが、まずフォウに追いつけない
クソ!物語に関わらない一般人だからと身体を鍛えなかったことが悔やまれる!
止まれこの野郎!クソ!獣は人の心が分からない...!
『中央隔壁 封鎖します。館内洗浄開始まであと180秒です』
そのアナウンスが耳に入る
徐々に隔壁が下がっていく
フォウが先に管制室へと入っていく
障壁は地面から80㎝のところまで閉じている
「いや、無理だろ」
口ではそういうが、身体は動き続けている
やめろ、なんかボロボロだけど気合だけで戦い続けるキャラみたいじゃないか
僕嫌いなんだよそういうの
内心でくだらないことを考えながら、速度を殺さず、上体を後ろに倒す
そのまま身体を滑らせて、隔壁の内側へと入る
「...なんでシャッタースライディングはできるんだよ。こんなときに運動神経覚醒しないでくれよ」
後ろで隔壁が完全に閉まる音がする
どういうことか分かる?終わりってことだよ
フォウは瓦礫の横で止まる
僕もそこで足が止まる、今になって悪癖が解除された
フォウの視線の先には二人の女の子
「...隔壁、閉まっちゃいました。...もう外に...は」
「...うん、そうだね。一緒だね」
「...」
マシュは朦朧と立香を見ている
彼女には目の前の少女がやけに輝いて見えているだろう
『コフィン内マスターのバイタル、基準値に達していません。レイシフト 定員に 達していません。該当マスターを検索中...発見しました』
「...廻人は大丈夫かな」
ボソッと立香がつぶやく
大丈夫じゃないです立香さん、僕特異点Fにサーヴァント抜きで飛ばされようとしてます
高確率で死にます
というかシバがカルデア全域を監視してるから僕の『管理室から遠くに逃げよう作戦』という素晴らしい計画は初めからご破算だったんだよなぁ...薄々感づいていたけど
僕がレイシフトしたくないとワーギャーしていたのはただの現実逃避である
カルデアに来た時点で詰んでいたのだからこのくらいの茶番は許されると思う
『適応番号48 藤丸立香 適応番号49 灰野廻人 をマスターとして 再設定 します。アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します』
聞きたくないアナウンスが耳に入る
身体から粒子が発生し始め、もうすぐレイシフトするのだろうと察する
マスターに設定されてしまったが、マシュが僕のサーヴァントになることはない
なぜなら...
「...あの...せん、ぱい。手を、握ってもらって、いいですか?」
「これでいい?」
立香はマシュの手を握る、顔には出さないが恐怖で手が小刻みに震えている
『レイシフト開始まで あと3 2 1 全工程
なぜならマシュは...
______________________________________
ここは特異点F
見渡す限り全てが炎に包まれ、骸骨が徘徊する地獄である
そして...
「どうして私がこんな目に遭わなければならないのよー!!!!!」
僕は銀髪のヒステリック気味な女性を落ち着かせなければならない
やはりここは地獄である
立香は廻人が『映像記憶』ができると思っていますが、正しくは『完全記憶能力』です
廻人は経験したことを決して忘れません。雨粒だろうと、円周率だろうと
廻人の起源『記録』によるものであり、記憶は魂に刻まれます
さらに、『完全耐性』がなくとも記憶に関する耐性を有しており、魔術はもちろんのこと、例えサーヴァントや神の権能で大規模な世界改変、記憶改変が起こったとしても、廻人だけは記憶を保持し続けることができます
これは転生特典ではありません
なぜ転生特典ではないのにそのような能力を廻人が持っているのかは...今はまだ語る時ではない(ホームズ感)
感想・考察等お待ちしております