松下千秋の余裕 作:中森藤之
友人の
同じクラスの
だって深夜に部屋から出てきたんだぜ? 綾小路くんが佐倉さんの部屋から。お前はどこから見てたんだって話だが、もちろん同じ
あの時の俺は眠れなかったから、階段ダッシュをしていた。途中で疲れたから休憩することにして、自販機を求めてさ迷っていたら、小走りでエレベーターに乗り込む綾小路くんを目撃したってわけだ。
俺は嬉しかったよ。
あのティーレックスが火を吹く日が来たんだと思うと、感慨深い思いだった。連れションした時の衝撃は忘れられない。
「とにかく嬉しかったんだ。だから人肌恋しくなったというか、ぶっちゃけ彼女欲しい」
「作ればいいんじゃないの?」
本当の本当に嬉しそうな顔をしていたかと思えば、いきなり落ち込み出した我が友人。
女の子に向かってティーレックスとか言わないで欲しいな。綾小路くんがティーレックスとか知りたくなかったよ。何言っちゃってくれてんのこの人。
「そう簡単に言うけど、まともに出来た試しがないんだってば」
「まともな女の子と仲良くすればいいじゃん。なんで短期間で三人もヤンデレに追いかけられてるのかな。中学自体は私も被害被ったんだから、そこのところ改めてくれないと困るよ」
私は
今いる部屋の主だ。あんまりキラキラフワフワさせるのは好きじゃないから、部屋のレイアウトはシンプルに。ごちゃごちゃしないよう心がけている。
勉強しながらティーレックスとか言ってたのは、中学時代の同級生ね。でも付き合い自体は一年未満。
彼、転校生だったから、中学でのクラスメイト期間は短いんだよね。
「そんな、ヤンデレってほどじゃなくない?」
「一人目。私を彼女だと勘違いして、カッターを持って襲いかかってきた」
「なにそれ聞いてない」
「言ってなかったからね。二人目、私をセフレだって決めつけて、呪いの文章を送り付けてきた」
「それも聞いてない」
「言ってないからね。三人目、とりあえず周りの女は許せないとか言って学校に乗り込んできた」
「それは知ってる。俺がキレて追い返したやつだ」
頭は良い。身長は私よりは高い。ことあるごとに爆走しに外に行くのは少し減点。会話のテンポは心地良いペースに合わせてくれるから、良好。
付き合ってはないよ。恋愛関係はなし。恋人だった過去もない。だから彼女を作ろうと思うなら作ることはできるよね。彼女っていう枠は空いてるわけだから。
「ヤンデレにまとわりつかれるのはやめてね。嫌だよ、刃傷沙汰に巻き込まれるとか」
「カッターとか呪いの文章の件は知らなかった……ほんとすみませんこの通りです」
わぁ土下座してる。情けないってそれは。
そこまでしろって強制はしてないのに、なんで進んでやっちゃうかなぁ。ほいほいやるもんじゃないよ、土下座っていうのは。まあ、流石に外でやったりはしないと思うけど。しないよね?
「はいはい。もういいよ顔上げて。私がいじめてるみたいじゃん。なんで唐突にヘタレになるかなぁ。ずっとオラオラしてればいいじゃん」
「疲れるじゃん。エネルギー使うし」
「そうなんだ。同意を求められても知らないよ私は。あなたと違ってオラつくこととかないし」
そんなシチュエーションは私にはない。乱暴な感じを試してみたこともあったけど、全く楽しくなかったからなしだな。二度とやらないつもりだ。
「しっかし、あの綾小路くんが佐倉さんと……かぁ。わからないものだね。いつ仲良くなったんだろう?」
「びっくりだよね。てっきり堀北さんあたりかと思ってたのに」
「いやー、それはどうかな。たしかにいいコンビではあるけど、恋愛ってなるとねぇ。コンパスで攻撃するような人は、いくら顔が綺麗でも嫌なんじゃないかな?」
「たしかに嫌だな……千秋ちゃんはやめてね。コンパス攻撃は」
「するわけないでしょ。私が暴力を振るうことがあるとしたら、せいぜいビンタして踏みつけるくらいだよ。それすら百年に一回レベル」
「おかしいな。どっちも覚えがある……」
私は記憶にありません。捏造じゃないの? えっちな夢でも見てたとか。それでビンタされて踏まれてるのは変だな。実はマゾだったとかはやめてほしい。その場合、受け入れるのに時間を要する。
「そういえば、堀北さんと綾小路くんはAクラス目指すってね」
「そうみたいだね。まな君もグループに加入すれば? そういうの得意でしょ?」
「そういうのってどういうの?」
「敵も味方も欺く……才能みたいな」
「褒められてる気がしないなぁ?」
「そりゃあね。半分くらいは皮肉だし」
中学時代、こんなことがあった。
私の周りをウロウロしてる虫みたいな人達がいたんだけど、気づいたらみんな転校してた。靴箱にラムネをぶちまけたり机にガムをくっつけたりされて、かなり鬱陶しかったから良かったよ。みんなまな君に怯えで逃げちゃったみたいなんだけど、土下座しちゃうようなヘタレな部分もあるのにね。
その時は短期間で一気に仲良くなって、弱味を握ってメンタルボコボコにしたんだってさ。仲良かった女子が教えてくれた。暴力はなかったみたいだから、私はとても安心したよ。
「低次元な人達の相手はしなくていいんだからね。無理して近付いても疲れちゃうし。私、やる時は自分で報復できるし」
「ちなみに、今はいないよね? 報復したい相手……」
「いないよー。でも今後はどうなるか分からないなぁ。私もそうだけど、うちのクラスは自分本位な人がとても多いし。私が目立たないくらい我が強い人が多いからね。そういう人ばっかり集めたのかなって勘ぐっちゃうよ」
優秀な人は我が強い人が多いし、自然なことなのかもしれないね。うちの学校は日本政府が力を入れている国立高校。
卒業生は希望の進路がなんでも叶うって噂の、高度育成高等学校だ。
蓋を開けてみたら、進路の話は嘘だったけどね。
進路の特権が貰えるのは、最上位クラスのAクラスだけ。うちのクラスは最下位を独走中だから、私は上がれたらラッキー位に考えてる。
「ふぅ……コーヒー飲む? 飲むなら飲んで、そろそろ寝ようよ。久しぶりに張り切って泳いだら肩
「いいよ座ってて。淹れるから」
座ってるっていうか既に寝転んでる。
この人は帰る気なさそうだし放っておこう。日付変わってから追い返すのも可哀想だしね。それに、お風呂も入ったことだし。
「彼女作るのはいいけど、連れてくるのはやめてね。誰であっても気まずいから」
「いやいやいや、そんな罪深いことするわけないだろ」
どうかね。
私がいいって言ったらやりそうな怖さがあるんだよなぁ。いや、それ以前にやろうと思ったらできるっていう事実ね。
この人、昔は自分がモテないと思い込んでたらしく、手当り次第に努力した結果モンスターになっちゃってるからなぁ。実際、彼女いたことはないし本人もそれは気にしてるけど、経験値は溜まってるからね。
私で。それなのにモテる努力がどうとか未だに言ってるけど、しなくていいから。たまに複数人と同時に付き合える悪い魅力を持った人っているけど、同じことできるから君は。
おまけにティーレックスは良くないね。良くないよティーレックスは。
「彼女連れて来たりはしないよ。普通に気まずいでしょ」
「そうだね。一緒に入ったことのあるお風呂とか、ベットとかあるしね。あー、でも背徳感で燃えるとかあるのか。なんだったらカーペットの上もそうだしね。玄関もか」
「思ったんだけど、そっちの方が大変じゃない? 彼氏連れて来れないじゃん」
「別に? 私が行けばいい話でしょ」
お互いに恋人できたらどうなるのかな? 考えると少しドキドキはするけど、私は無理だな。想像の域を出る勇気はない。仮にすごく好きだって言ってくれる人が現れたとして、放置しちゃうのが目に見えてるし。
そんなことしてたら自己嫌悪で死にそうになるよ。
「ん〜」
「千秋さん? 松下さーん? どうしたの、いきなり唸り出して」
「明日、遊びに行くって言ってたよね。綾小路くんおか須藤くんたち?」
「そうだけど、一緒に来る?」
「行かないからキャンセルしてよ。見返りは払うから。一日。ううん、月曜日の朝まであげるから、それでどうー?」
「わかった。人数はいるから一人くらい減っても大丈夫だと思う」
さすが判断早い。
少し悪いと思うけど、まあいっか。高校入ってから予定に割り込んだとはなかったし、たまにわがままを聞いてもらうくらいはね。
それに、ただ暇の相手をしてもらうだけじゃなくて、かなり頭を使って考えますから。何をどうすれば満足度が高くなるのか。人間は思考できる生き物だからね。本能だけで生きてるなんて勿体ないし、何するにも頭使わないと。