松下千秋の余裕 作:中森藤之
ブクマの確認とコメントもちゃんと読んでるんで、諸々ありがとうございます。
次回から多分無人島試験編。ここまではゴチャゴチャしちゃったんで、できるだけシンプルにいきたいですね。
そもそも頭脳戦とか苦手な人なんで、かなり苦労しそうではありますが……今下書きは半分くらいなんですが、まとまるかなぁ。
──現在までの登場人物(1年)──
【Aクラス】
◇
表情筋はあまり動かないが整った容姿をしている。
口数はかなり少ない方。チャラい奴が近づいてくるとイラッとする。性格はあまり優しくない。
なお、普通に生活していても退屈なので窃盗に走るという、反社会的な性癖がある。万引きの現場をDクラスの早瀬に見られ、特に脅されることなく友人になった。同時期に坂柳というクラスメイトにも現行犯逮捕され、自分の才能に自信がなくなった。
◇
神室から早瀬に伝えられた情報は以下の通り。
・長所は顔だけ。
・性格はたぶん
・クソみたいに頭いいけど、あれは長所ではない。
・杖がないと日常生活に支障がある。
・誰か知りたいなら、顔が良くて杖ついてるチビを探せばいいよ。
・関わるとろくなことがないから、興味があるなら遠くから見るだけにしておいた方がいい。
◆
退学済み。
理由は登校することへの恐怖感。
Aクラスの中心人物達から陰湿な虐めを受けたとのことだが、真偽のほどは不明である。
【Bクラス】
担任教諭
優しくて美人な先生。Dクラス担任の茶柱とは仲良しの関係とのこと。
◇
清廉潔白で頭脳明晰。極めて高いリーダーシップを持っており、クラス内外から信用・信頼されている。
須藤の暴力事件の際に綾小路、堀北らと連絡先を交換した。Dクラスとは良い協力関係でありたいと考えている。
◇
一之瀬を支えるBクラスの有能男子。
物事の判断基準は感情的よりも合理的。
危うく無期停学になるところだったが、諦めて寝て起きたら解除されていた。
◇
素朴で大人しそうな女子。
一之瀬帆波を心から尊敬しているようだ。
◇
学力は高いが運動能力は極めて低い。
昔、ブサイクと罵られたのがトラウマで眼鏡とマスクが手放せなくなった。
【Cクラス】
担任教諭
眼鏡をかけた物静かな男性教師。自分の生徒を信じ、守ろうとする、教師の鏡のような行動が印象的。
◇
筋肉質であり体格の良い男子。
性格は好戦的で喧嘩慣れしている。
人を殴る時の感覚をよくわかっていて、それでも殴れるメンタルの持ち主。
◇
バスケットボール部所属。
須藤を嵌めて退部に追い込もうとしたが、堀北達によって阻止された。
◆
元バスケットボール部。
小宮、石崎と共に須藤を陥れようとしたが、堀北達によって阻止された。
現在は退学済み。
校内で堀北達に協力していたBクラスに因縁をつけ、暴言を吐いて逃走。その際に階段から転落して意識を失い、病院に搬送された後に自主退学を申し出た。
【Dクラス】
担任教諭
日常的に生徒を罵る癖がある美人教師。生徒から『お前が退学しろ』と言い返された経験がある。
◇
Dクラスにおいて最も人望がある美少年。
顔良し、成績良し、サッカー良し、性格良しのパーフェクトイケメン。正式にリーダーを決めることになれば真っ先に候補に上がるであろう男。
軽井沢恵と交際していると公言している。
◇
クラス内外から人気を集めている美少女。
超高水準で可愛く、スタイルも良好。
誰にでも優しく、困っている人がいたら手を差し伸べ、どんな相手にも平等に接する人格者。
共感力に長けているようで、他者の心の中に言葉巧みに入り込み、悩みを打ち明けられれば親身に寄り添う。絵に書いたような正統派ヒロインである。
◇
顔は綺麗だが素行は汚い。
相手を見る時に注目するのは、自分との力関係。なぜなら、生きていくために大切なことだからだ。
◇
飄々とした雰囲気の男子。
名前に反して正義感はあんまりない。隣の席の前園と仲が良いらしい。
◇
表情に乏しいものの、顔は整っている一般男子。
平穏で平凡な高校生活を望んでいたが、気付いたら堀北の助手にされていた。一緒にAクラスを目指すことになって嫌がっていたが、最近は明確に嫌というほどではなくなった。
周りに優しい人が増えたのと、堀北の攻撃とか口撃とかが劇的に減ったからだ。代わりに珍言とか奇行に悩まされるようなったが、罵られたり蔑まれたりするよりは遥かにマシだ。
これは内緒だが、早瀬にエロ動画を貰っている。
Bクラスのとある女子生徒に酷似している女優を見たため、そのとある生徒を直視すると思い出すようになった。
彼女はできれば欲しい。早瀬にどうすればできるか質問したところ、『オレに任せろ』と言えば好感度が上がると教えて貰った。ちゃんと実践している。
◇
入学当初は自分は孤高だと思っていたが、実は孤独なだけだったクール系黒髪女子。長さはロング。
4月前半時点では口を開けば毒、あるいは棘を吹きまくっていたが、現在はそんなことはない。
綾小路への暴言を見かねた早瀬に拉致され、様々なことを教え込まれ、はたと気付いたからだ。
優秀な人間はそうでない人間に手を差し伸べ、導かなければならない。ノブレス・オブリージュが大切なのだと。また、真に無能な人間を導くことができる者こそ、本当に優秀な人間なのだと。
最近は帝王学とか教育論とかを読み漁り、他人の前で名言を披露する快感を覚えた。綾小路は引いている。
◇
眼鏡をかけた大人しい雰囲気の少女。
隣の席が須藤という不良だったこともあり、入学当初はいつもビクビクしていた。社交性に難があることもあってしばらくは孤独だったが、早瀬の勧めで綾小路と仲良くなる。
オレに任せろ、と言われ続けていたら、いつの間にか彼を目で追うようになってしまった。
◇
喧嘩っ早いバスケ男子。
大柄で声がデカく威圧的、髪の毛は赤い短髪。
佐倉が怯えるのも当然の反応である。
堀北とはかつて犬猿の仲だったが、最近はお互いを認め合うことができている、ような気がしている。ただしヘレン・ケラーがどうとか言われても意味不明なので、そういう時は無視。あるいは知ったかぶりをしてやり過ごしている。
早瀬の部屋に綾小路と一緒に勝手に入り、冷蔵庫のアイスを美味しくいただいたことがある。次の日はジュースでお返ししたが、不法侵入については報告していない。なお、冷凍庫の中が空になるのはまずいと考え、綾小路のススメでトマトを入れた。
◇
中学時代はエースで背番号4番だった凄い男。
早瀬と松下は以前、彼についてこんな話をした。
彼はなぜDクラスにいるのか、入学の時点で何か間違いがあったのではないか、と。
山内は既に大きな実績をあげている。
5月の定期考査では赤点退学の危機だったが、本来のポテンシャルを遺憾なく発揮して見事に回避。赤点ラインギリギリを狙い、クラスの平均点を引き下げるという神業を披露した。そうすることで、他の赤点候補達の助けとなったのだ。
まさに神である。ゴットである。
そして、以上のことは全て本人の談である。
一部の女子たちによれば『Dクラスの隠し最終兵器』とのことだが、実力が発揮される日は来るのだろうか。能ある山内は実力を隠す、という謎の名言も生まれていることから、総じて期待値は高いと思われる。
なお、入学直後にグループで遊びに行く話になった際、早瀬の前で松下に失礼な発言をした。しっかり記憶されているので気をつけた方がいい。
◇
彼女募集中。
ムードメーカーの才能があり、よくクラスメイト達から笑われている。早瀬いわく『本気で頑張れば彼女はできるよ』とのこと。
山内、須藤と合わせて三馬鹿と呼ばれている。
◇
人当たりは良くしているが、実は内向的な男子。
大体のことは既存の経験の応用・組み合わせで何とかなるがモットー。何とかならない場合も普通にある。
最も自信がある能力は持久力と継続力。
席は廊下側の最前列。左隣は
昔は笑顔が不気味だったこともあり、女子の評判はあんまり良くなかった。『中の下のイケメンもどき』と痛烈な陰口を叩かれ、死にたくなった経験あり。
身長がもうすぐ175cmに届きそうなので、早く伸びろと願っている。
◇
細かいことは苦手なイケイケギャル。
見た目はチャラいが恋愛観はしっかりしており、友達は大事にするタイプの人。学力は際立って低い。
なぜか早瀬の部屋の合鍵を持っていたが没収された。
松下、前園、森とグループでいることが多い。
◇
高いポテンシャルを持つお澄まし美人。
意味もなく目立つのを嫌い、教室では静かに暮らしていることが多い。外見にしろ能力にしろ自分磨きに余念はないが、将来は決まっているので恋愛イベントは不要。
◇
トップカーストに憧れを抱いている普通系女子。
他人にハッキリ物申せるタイプで、陰ではご意見番と呼ばれている。松下千秋の誕生日には避妊具をプレゼントした実績があるが、どうやら捨てられたようだ。
◇
早瀬の左側の席の女子。
そこそこ恵まれた家庭で育ち、良くも悪くも普通の感性を持っている人。実質既婚者の友人と野心家の友人がたまにギスギスするので、内心ではウンザリしている。学力はクラス上位だが運動は苦手。
前園が松下に避妊具をプレゼントした時は、めんどくさいのでニコニコ笑って流した。
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定期課題
客観的事実を用いて議論を重ね、最も価値のない不良品を決定せよ。不正解の場合は抽選で6人を不良品とし、1名を卒業とする。
制限時間、33分。
定期課題2
客観的事実を用いて議論を重ね、最も価値のない不良品を決定せよ。不正解の場合は6人全員を不良品とする。
制限時間、33分。
定期課題3
客観的事実を用いて議論を重ね、貢献度の順位付けを行え。また、下位3名を説得して不良品であることを認めさせろ。順位が誤っていた場合、説得に失敗した場合、いずれも5人全員を不良品とする。
制限時間、3分。
最終課題
出題される暗算問題に協力して取り組め。
全33問、1問ごとの制限時間は3秒。
今回の課題の終了を持って、全課程を修了したものと認める。
追加課題
どちらが不良品に相応しいか議論し、3分以内に決定しろ。制限時間内に同意できなかった場合、卒業式は執り行わない
『3分どころか1分もいらないよね。速攻でけってーい。ねーねー、お兄ちゃん。卒業おめでとうって言えばいい? 何かリクエストがあるなら今にしてね。時間ないんだからさっさと決めて──』
────雷の音で目が覚めた。うるさい。
手の平に、じわっと汗が浮かんでいた。
ろくでもない夢を見たせいで寝起きは最悪。最悪といえば今日の天候も最悪そうだ。シャワー浴びたいけど……待ち合わせ時間を過ぎそうだな。
(あー……昨日、あいつと連絡取ったからか。久しぶりに出てきちゃった)
カーテンの向こう側から激しい雨音が聞こえてくる。風も強いみたいだけど、台風来るとか言ってなかったよな?
俺は音を立てないように起き上がり、千秋ちゃんに布団をかけ直した。寝落ちたのは朝方だったし、しばらく起きないだろう。今日は土曜日だ。
(この子は、いい夢見てるといいけど)
ササッとジャージを履いて、パーカー羽織って、俺は私物の回収を始める。まず歯ブラシ。新調することにしたので、最後の歯磨きをチャチャッと済ませて袋にポイ。
次、服。
別のやつと入れ替えときたいから、一旦全部持って帰る。タオルも回収でいいな。色がちょっとくすんできたし。
(よし、行きますか)
部屋を出て玄関へと。本日の目的地に向かう前に、まずは自分の部屋に向かって歩き出した。
────────◇────────
待ち合わせ場所は俺の部屋と同じ階。
ノックを連打して中に入れてもらった俺は、今、昔からの知り合いと向き合っている。
持参したコーヒーを片手に、俺は床に。家主の男子、
「んで? そろそろ聞かせてくれない? 何を隠してんの、神崎は。わざわざ俺を呼び出したってことは、何か話す気になったんじゃないの?」
神崎は短パンに黒のティーシャツ姿。髪ボサボサだし、完全に寝起きだな。顔も洗ってないらしく、イケメンな顔に小さな目ヤニがついていた。
「別に何も隠してない。もう入学してしばらく経つから、ここらでなんか話しといてもいいかなって、そう思っただけだ」
「なんかってなんだよ……」
「話題はそっちが考えろ。俺は寝起きなんだよ」
「いや、こっちも寝起きだから。はぁ……いきなり呼ばれたから恐る恐る来てみたら、なんなの一体」
神崎は眠たそうにボーッとしている。それが人を呼びつけてる人間の態度か。
この男のことは昔から知っているけど、こんな雑な対応されたのは初めてだな。
……そう、俺と神崎は昔馴染みの関係だ。とは言ってもいつも遊んでたとかじゃない。親同士が親交があって、会うのはたまに。神崎の親が俺の住んでいたところに来る時、こいつも一緒についてきてた。滞在時間は半日くらいはあったから、話をする機会もあったんだ。
「まあ、改めて近くで様子を見てみたくなったんだよ。随分様子が変わったなと思って、気にしてたからな」
「普通に学校でいいだろ……わざわざ呼ばなくても」
「周りに関係を聞かれた時、説明するのが面倒くさい。俺もそうだが、お前は面倒くさいうえに嫌だろ」
「そうだね。かなり嫌だ」
先に言っておくと、神崎のことは嫌いではない。
ただ、親交があった当時のことは思い出したくないんだよね。神崎もそれは同じのはずだ。年齢的には小学生の時の話だけど、俺にとっても彼にとっても愉快な思い出ではない。
「昔話はしないからね。そんなことより、近藤と何があったのか喋ってくれない?」
そんなことより、どうせ喋るなら直近であった事件のことを話して欲しい。一時は無期停学、退学の可能性すらあった近藤との一件について。
「綾小路や堀北から聞いてないか? 詳細については、一之瀬から綾小路に伝えてあるはずだ。近藤は勝手に転げ落ちた。だが、俺はあいつに向かって手を伸ばしていたから、動転していたのもあって俺のせいだと思い込んだ。先生達にもそのまま話したら停学になって、近藤が事実を話してくれてなけりゃ俺は退学になってたかもな」
なるほど。よくもまあスラスラと。まるで、事前に考えてあった文章をそのまま喋ってるような感じだ。
内容は綾小路達から聞いたまんま。噂で流れてる話とも一致する。
これでどう納得しろって言うんだ? この男は。
「単刀直入に聞くよ。誰か庇ってんの?」
「まさか。俺はそこまでお人好しじゃない。お前も知ってるだろ。小学生の時点で既に、俺は冷たい人間だったって」
抱いている疑念をぶつけてみるも、シレッとした顔で否定される。そして始まるのは昔の話だ。数少ない共通の話題だから、どうしてもこうなるんだよな。だから、俺はあんまり神崎に関わりたくないんだ。
「残念ながら、そう思ったことはないね。あんな気味悪い場所に来て、俺達と会話してくれてたんだ。冷たいやつはそんなことしないだろ」
「大層なことじゃない。気味悪かったのはたしかだけどな。場所もそうだが、出入りしてる人間達が最悪だった。みんな、どこか別の世界に行ってたからな」
「来世でも見えてたんじゃない? もしくは新世界の夜明けとか。知らんけど」
神崎が言っている気味悪い場所とは、世間に広く知られている宗教法人の総本山だ。俺の父親はそこの信者で、まあまあ高いポジションについていた。これは後でわかったことだけど、日本政府と随分仲良くしていたようで。
現在の
「俺はあそこで、お前が通ってた学校を見学したんだ。それで、お前らと出会った」
「学校じゃないだろあんなん。7人のクラスがひとつだけって……ああ、やめやめ。こんな話をするなら帰るぞ」
俺はため息交じりに立ち上がった。
こちとら寝不足でしんどいんですよ。階段ダッシュして目を覚ましておくのもありだけど、それだと早い時間に眠くなりそうだからなぁ……。どうせ今日も夜更かしだし、やっぱ今のうちに寝とこう。
「待て待て。近藤のことは置いておいて、別に話したいことがあるんだよ」
「なんだよ」
「お前のクラスの綾小路って、もしかして綾小路先生のご子息か?」
「……」
俺は一旦は踵を返すも、すぐに体を反転させた。ウンザリとした気持ちで、尻を床に下ろす。
「無言ってことは、やっぱりそうなのか。最初は気付かなかったが、一之瀬が『有能そうな人』って言ってたからさ。注目して見てみたら、もしかしてって思ったんだ」
「さあ、どうだろうね。言質を取ったわけじゃないし、取るつもりもない。聞きたくても本人には聞くなよ。嫌がられるぞ」
神崎は上半身を少し前に出して、顔の前で両手を合わせた。
綾小路の父親。
俺は直接は会ったことはないけど、母親が懇意にしていた。野心溢れる政治家だって褒めてたけど、俺からの印象は最悪。好感度はゼロだ。
「嫌がられるってわかるってことは、やっぱ父親の話をしたんだろう?」
「父親の話はね。お互いに父親は嫌いだねって話はしたよ。名前とか、何してるとかは抜きで」
と、言いつつも俺は知っている。
綾小路清隆の父親は、政治家の綾小路
ホワイトルームとかいう教育施設に入れてるって話で、こちとらよく比較されて大変だった。
ちなみに、ホワイトルームの教育とは法的にも倫理的にも完全アウト。人工的に天才を生み出すためならなんだってやる。俺も同じようなところにいたからわかるけど、精神崩壊者が続出するレベルのヤバさだ。
俺がいたところはホワイトルームのやり方を参考にしていたみたいだけど、まあ上手くいかなかった。出来上がったのは粗悪品だけだ。既製品を見た目だけ猿真似しても、下位互換になってしまう。よくある話だ。
「そうか……それだと確定はできないか。でも、なんで確かめなかったんだよ」
神崎は不思議そうな顔をしている。
つまんないこと聞かないで欲しいな。堀北鈴音さんを呼んで、愚問ねって嘲笑してもらおうか?
「嫌な顔してたからだよ。父親の話になった時点でね。だったら無理に聞く必要はない。興味本位で友達に不快感与えるとか、ないから」
「仮にあの人の息子なら、もっと有能なんじゃないのか? 実力を隠してるだけなら、もっと働いてもらった方が」
「その選択肢はない。本人が今のままでいいって言ってるし、そもそも普通の高校生活がしたいんだから。Aクラス争いとかしてる時点で既に普通じゃないんだ。これ以上を求めるつもりはないよ」
刺激したら怖そうとかいう話じゃなくて、本人が望んでないことを強要したくないってだけ。もし本気で競争したくなったら、その時はガンガンやればいいと思うけどね。それは俺達が決めることじゃないのよ。
「仮に、形勢を大きく変えてしまうだけの実力があったとしてもか?」
「そんなのはないと思うけどなぁ。もし、万が一そうだったとしても、1人に頼らなきゃ勝てないクラスなら
実際はかなり実力ありそうだけどね。でも、勝手にアテにして働けって迫るとか、ないわ。
彼の場合は今まで散々そういう環境にいたわけだしさ。こうして自由になれた先でまで、何かを強要されるとかないわ。ナシナシ。ありえない。
「ていうか、俺には普通の高校生にしか見えないけどね。綾小路篤臣の面影は全くないし、堀北さんに責められるとヨワヨワになってたりするし。そんな化け物みたいな実力とかないから。多分」
「そうか……もしかしたらと思ったんだが、お前が言うならそうなんだろうな」
「うん。そりゃあ年齢的に子供がいてもおかしくはないよ、綾小路篤臣には。でも、実際どうなのかすら知らないだろ、俺達。少なくとも俺は知らない」
苗字が同じってだけだろ、と続けると神崎は短く嘆息した。
「だな。この話はもういいか……」
「もしかして、この話がしたくてわざわざ呼んだの? だったら悪いけど、話せることはないな」
「みたいだな」
「神崎は俺の聞きたいことには答えるつもりないみたいだし、もう帰るよ。今度こそ」
神崎は昔は意志の強い男だった。子供心にすげーなーって尊敬してたものだけど、それは今も変わっていないみたいだ。
近藤の件を聞き出すのは無理だ。
引っかかることが多いからできれば真実を知りたいんだけど、神崎は絶対に話さない。
「近藤のことか? だからあれは──」
「──3つ続いた違和感は無視できないね。百歩譲ってパニックだったとして、無抵抗で処分を受け入れようとしたこと。図ったかのように発生していた原因不明の停電。敵意丸出しだった近藤がお前を庇う証言をしたこと。あのタイミングで
3という数字が無意識に出てきてしまうのは、昔のことが抜けたようで抜けていないからか。
どうでもいい。これだけ言っても神崎は顔色ひとつ変えないけど、それならそれで構わない。今のところは放っておく。粘ったところで、無駄に時間を使うだけだろうから。
「早瀬、考えすぎだ。この学校はやたら特殊で、後出しで色々出てきてるから、疑心暗鬼になるのはわかるが……俺は何も隠したりなんてしてない。一之瀬といいお前といい、必要以上に警戒しているだけだ」
神崎は毅然した態度で言った。その決意に満ちた鋭い瞳が既に違和感なんだけど、そのことは言わないでおこう。
「わかった。まあ、人が死にかけて気が立ってたのは確かかな。ちょっと言い方がキツくなっちゃったから、悪かったね」
「気にするな。そこまでじゃない。それにしてもお前、本当に丸くなったな」
「顔が?」
「顔はシュッとしてるだろ……何言ってんだよ」
一言
「冗談は置いといて、特定の女子と親密になる姿とか想像できなかったぞ。あの子、松下さん。どうやってお前のこと落としたんだよ」
「何を質問してるんだお前は。あの子は普通に中学生してただけだよ。それだけ」
「付き合ってないって聞いたけど、お前まさか……」
「待って待って。なんでいきなりゴミを見る顔になるの? まさか体目的とか失礼なこと考えてるんじゃないだろうな。違うからね」
俺は神崎に向かって顔をしかめ、まだなんか言ってたけどドアを閉めた。
人のこと気にしてないで、君は彼女でも作ってなさい。顔はいいしスペックも高いんだからできるだろ。
まあ、理想高そうなイメージだから、相手は限定されそうではあるが。
(……帰ろ。無駄に疲れた)
頭を使ったせいで眠れなくなりそうだ。やっぱり階段ダッシュするか。
────────◇────────
「びっくりした」
「びっくりしたのはこっちだよ。千秋ちゃん何してんの」
部屋に戻ったら千秋ちゃんがいて、なぜか掃除機をかけていた。
白いショーパンにダボダボのシャツ姿……寝起きの服装そのままである。いつもは綺麗なウェーブを描いている長髪は、ところどころ変な方向に跳ねてる。
「私物を持って帰る時は事前に言ってね。何事かと思うから」
瞬きの回数がやけに多いし、声に抑揚がない。どうした。
「私物……? よくわからないけど、そう言うならその通りにするけど」
「うん。なんか寝苦しそうだったから、起きたらゆっくりリラックスさせてあげようと思ってたけど、こんなことされたらフラッと消えたかと思うんじゃん? 血の気が引いて、焦るじゃない? だからとりあえず部屋に来て、掃除機が目に入ったからスイッチオン」
「なぜ掃除機」
「あんまり言いたくないけど、ゴキブリがいたから……」
「吸うなよ! 生きたまま吸わないでよ中で生きてるじゃん!」
ゆっくり話をするのは後回しにして、ダストカップの中にゴキジェットを噴射し、殺してからゴミ袋を用意! ホコリの塊ごとゴキを袋に放り込み、俺はゴミ捨て場に向かった。
「さすが! うんうん、やっぱりまな君は頼りになるね!」
「その格好で外出ないでね。待ってて。穿いてないように見えるから」
ついてこようとしたので、普通に止めた。それでも出てこようとしたから、アイアンクローしてやめさせた。エロい姿で外に出ようとするな。
「戻ってきたら、今日はもう外出禁止だからね」
「ずっと家ってこと? いいけど何する?」
「んー、とりあえず噛む」
「噛む!?」
戻ってきたら本当に噛まれた。
布団の中に引きずり込まれた後、あっちこっち甘噛み&ペロペロされて、気付いたら午後になってた。
────────◇────────
突然だが、うちのクラスの担任はダメだ。
連絡事項は失念する、生徒に暴言を吐く、やたら高圧的、そして教え子を駒扱い。今のところロクなことがない。お願いだから、そろそろ素敵な姿を見せて欲しい。
「随分とちんたらやっているな。お前も、綾小路も。そろそろやる気を出したらどうだ」
「俺も、綾小路君も、そこそこやる気は出してますよ」
週明けの月曜日。
職員室に呼び出されたから何かと思えば、またしょーもない話を。茶柱先生は綾小路の実力の高さを見抜いていて、Aクラスに上がるために本気を出させようとしているようだ。
それでこの人にどんなメリットがあるのかは知らない。聞いても答えないのである。利用しようとしてるくせに誠意の欠片もない。なんて不誠実な大人だ。
「須藤の件は無駄が多かったな。綾小路と堀北達はともかく、お前は何をしていたんだ? 朝比奈を巻き込む必要なかっただろ」
「必須じゃないのはその通りですけど、いてくれた方が良かったのは間違ってませんよね。綾小路達だけでも大丈夫だったとは思いますけど、失敗する可能性はゼロじゃなかった」
「だとしてもだ。朝比奈というカードを切れるのなら、出し惜しんでも良かった。勝率が高い状態でダメ押しに使うには、勿体なかったんじゃないか。人を利用する時はしっかりタイミングを見極めなければ、費用対効果が悪くなる」
毎回助けてもらえるわけじゃないんだぞ、と先生は呆れた顔をしている。そんなことはわかってるし、何でもかんでも泣きつくつもりはないよ。
それはそうと利用とか言うな。他の人の口から聞くとそうでもないけど、この人に言われるといやーな気分になるんだよな。嫌な事ばかり言う人っていう先入観のせいだ。
「俺は戦略立てるのに向いてないってことですね」
「そうは言っていない。被害妄想はやめろ」
「……」
さて、帰ろっかな。
俺は先生に背を向けた。
「待て、学校に提出済みのお前の調査書だが、不備があってな。確認させてくれ」
調査書? ああ、中学から提出してるやつか。なら俺は自分で書いてないな。
「不備ってどこがですか? 抜けてるとこがあったとか?」
「いや、小学校名が恐らく間違っている。
俺は後ろを向けたまま、視線だけを先生に送る。
本当にネット検索はしてるみたいだけど、俺は那須野小学校って聞いてるぞ? でも、現に間違ってる、存在しないとなると、やっぱり先生が言ってる方が正解か。
市町村は合ってるようだし、単なる記載ミスだな。
時間をかけると怪しまれるし、さっさと答えてしまおう。
「そうですね。大事な書類を間違うなよって感じですけど」
「まあ、誰にでもミスはある。ところで中学とは都道府県が違うようだが、引っ越したのか?」
「はい。引っ越せて良かったですよ」
「だろうか。そのままなら松下と会えなかったもんな」
「そうですね」
「いや、否定しないのか……」
しないよ。その通りだし。
否定したのがバレたら気まずいしな。絶対に言われる。別に本当のことなんだから良くない、って。
「しませんよ。いい友達に会えて本当に幸運でした。それじゃ俺はこれで」
「友達なぁ……まあいい。時間を取らせたな」
「いえ、失礼します」
今度こそ先生の前から立ち去ると、途中で顔色の悪い美人とすれ違った。Bクラスの星之宮先生だ。
俺は咄嗟に思ってしまった。雰囲気も見た目もこっちの方が良かったと。
「あれ〜、早瀬君だぁ〜……」
「どうしたんですか、めちゃくちゃしんどそうですね。特に顔色が……」
「お酒のみすぎちゃった……うっぷ。ふふ、良かったら介抱してくれないかな〜、今から静かなところ行かない?」
「失礼します」
前言撤回。
やっぱりダメだ。
生徒にベタベタ触って上目遣いをするような人は、どう考えても普通じゃない。
この学校にまともな先生はいないのだろうか。
普通でいいんだけどな、普通で。