松下千秋の余裕   作:中森藤之

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高校生活の日々も書いてますが、半同棲の方が量は多くなるかもしれません。何がとは言いませんがそのうち増えます。大丈夫だよなこれ。まだr18じゃないよな?


相互リラク

「そういや、綾小路君と佐倉さんは付き合ってなかったんだって」

 

 タオルで頭を拭きながら、先日の話は早とちりだったことを報告する。

 髪、少し伸びてきたな。あと半月もしたら鼻のあたりまできそうだし、そろそろバッサリいっとくか。あんまりやりすぎると引かれるから、ほどほどの長さで。

 

「そうなんだ。誤情報には気をつけてね……私は言いふらしたりしないけど、早とちりは良くないよ早とちりは」

「ですよねー。反省します」

 

 佐倉さんと密会していたのは事実だが、やましいことはなくて須藤の話をしてただけ。件の暴力事件、佐倉さんが見てたんだってさ。佐倉さんはそれを言い出せなくて、綾小路に相談しようと思ったんだと。

 夜の密室。何もなかったと断言はできないけど、二人の感じを見てると本当に何もなかったっぽい。

 せっかくお祝いしてあげようと色々考えてたのに、俺はとても残念だよ。

 

「ドライヤー借りるね。あ、このままの方がいい?」

「いやいや、乾かしちゃいなよ。せっかくマメに手入れしてるのに、傷んじゃったら勿体ないじゃん」

「じゃあお言葉に甘えて」

「別に聞かなくても勝手に使っていいからね、ドライヤー」

 

 千秋ちゃんは安物のドライヤーを片手に、鏡を見ながらスイッチを入れた。しっとりと重みを帯びた栗色の長い髪が、温かい風に吹かれて艶やかに揺らめく。

 ぶかぶかのTシャツの裾下では健康的な腿が光っていて、お風呂上がりなのもあって色気が凄い。

 スレンダーだけど柔らかいんだよな、この子。女子ってそういうものなんだろうけど、抱き心地は良い方だと思う。つまり抱いたことがあるのだ。なんだったら5分ほど前まで堪能してたし、おかげで疲れが吹っ飛んだわ。

 

「ん? なんで見てるのー?」

「サイズ大きめのシャツ着てるのいいなーって」

「そっかそっか。胸元も余裕あるし、色々と便利だもんね。制服とどっちがいい?」

「それは……甲乙つけがたい」

「あはは、私も」

 

 たおやかで色白な美人。

 松下千秋を簡単に表現するとそんな感じだろうか。

 詳しく言い出すと長くなるけど、ひとまずたおやかで色白。このふたつは誰が見てもそうだと思う。

 裕福な家の生まれなのもあって、将来は親が納得する相手と結婚することになる。という話を高校入学前まではしてたけど、最近は結婚したくないとか言い出している。そんなことより、30歳くらいまでは自由に好きなことをしてたいらしい。

 

「歩き回ったから疲れたでしょ。髪、乾かし終わったら揉んであげるよ」

「いいよ、そこまでじゃないし。それよりゴロゴロしたい」

「そっか。それじゃ私、枕になればいい?」

「まじ? なってくれたら疲れ吹っ飛ぶ」

 

 なんで歩き回ってたのかと言うと、上級生相手の聞き込みだ。須藤の件で。途中で佐倉さんからメッセージが来て、綾小路に話したことを教えてくれた──自分が見ていたことを──から、その時点で俺は退散することに。

 もう少し早く教えて欲しかったな。

 足は張ってないし精神的な疲労もないけど、無駄な労力を使ってしまった。

 

「ふぅ。はい、おしまい」

 

 千秋ちゃんはドライヤーの電源をオフにして、コードを綺麗にまとめた。こういうとこ丁寧でいいね。俺は結構適当にしちゃうから、多分断線の頻度が多い方だと思う。

 

「先戻ってて良かったのに、ずっと私のこと見てたね?」

 

 千秋ちゃんは振り向きざまに、少し目を細めた。

 透き通った碧眼。涼しげな美貌によく映えてる。

 

「見られるの好きでしょ?」

「んー、嫌いではないかな。でも、気をつけた方がいいよ? 表情は変わってなくてもわかるから。ギラギラしてるのって」

「ギラギラってなんだ。俺そんな凶暴じゃないよ?」

「さっき言ってた枕、膝枕でいい? まったり撫でてあげるから、ベッド行こ」

 

 ほらほら、と背中を押されてベッドへと移動。

 松下千秋は唐突に押しが強くなることがある。挑発的になることもしばしば。俺がどんなことが好きか熟知してるんだよなこの子。一度も教えたりしたことはないけど、いつの間にか。

 

「あー……なにしてるんだろうね、私達。ていうかいつから始まったんだっけ、こういうの」

「家出した時の翌週じゃない? ほら、むしゃくしゃして家出したくなったって連絡来たやつ」

「だよね。懐かしい」

 

 この子は自己管理能力が非常に高い。メンタルコントロールも大人顔負けの安定感なんだが、一回だけ癇癪を起こして家出したことがあった。

 中学時代。どこでもいいから遠くに行きたいとか言い出して、ほんとに消えて、夕方から深夜にかけて探し回ってようやく見つけた。橋の途中に立ってたからマジで焦ったよ。思春期こじらせた勢いで飛び降りるんじゃないかって。

 

「一緒に川に飛び込んだよね。寒かったなー」

「俺じゃなかったら溺れてたから、二度としないでね」

「本気で?」

「本気で」 

 

 飛び降りはしなかったけど、川に飛び込みはした。

 ()()()。本人いわく『誰でも頭がおかしくなる時期はあるよ』。それはわからなくもないけど、命に関わることは二度としないで欲しい。運が悪かったら水死体が二つ完成してたからね。スリル満点で意外と楽しかったとか言ってる場合じゃない。

 

「じゃあ、今日は本当に溺れてみる? 私の脚、好きでしょ。おいで。なんか愛でたい気分なんだよね。ここじゃペットとか飼えないから、代わりに撫でてあげる」

 

 千秋ちゃんはベッドの上で女の子座りになって、自分の太ももをポンポンと叩いた。羞恥で固まったり遠慮したりはしない。来いと言われてるんだから有り難く堪能させてもらうまでだ。

 

「じゃあよろしく」

「うん。よろしくされた」

 

 横になると速攻で幸せな気分になる。

 この子の体、マシュマロか?

 

 

 

────────◇────────

 

 

 

 防音カーテンとか買っちゃおうかな。

 頭が急に冷静になる現象。はっと我に返った時間の中で、私は後で検索してみようと思った。 

 あー、顔が熱い。冷房ガンガンにつけてて、超薄着だから寒いはずなのに……って寒いは寒いね。触れてるところと顔以外は寒いや。

 

「大丈夫? まったりしすぎてて、退屈じゃない?」

「全然……むしろもうちょい。千秋ちゃん脚とか痛くなってない? 大丈夫?」

「脚はなんともないけど、胸はちょっと辛いかな。そこはずっとまったりされても困るよ。まったりっていうか、ゆっくりっていうか……」

 

 もどかしい。そこまで言う必要はなかった。

 彼は意図を汲み取ってくれたようで、すぐに力強くなってくれた。頭、撫でてあげないと。えらいえらいってね。あー、ペットは飼えなくてもいいから、やっぱりこの人がいいなぁ。

 

「……っ、ふぅ」

「千秋ちゃんって静かだよね。あんまり叫んだりしないし」

「教室では叫ばないよ。私、そういうキャラじゃないし。ずる賢く生きてるからね」

「たしかに。気配薄めて上手く立ち回ってる感じ」

「そう考えると性格はあまり良くないよね。計算高い女子に純粋によしよしされる気分はどう?」

 

 撫でる加減も計算して、と。

 頭やら胸やらソフトタッチ……全然力入ってないのに、ちょっと汗ばんでくる。不思議。

 

「うーん、天国?」

「それじゃ、恋人でもない女友達にこんなことさせてる気持ちはどう……? 罪悪感とかあったりするの? それとも背徳感かな?」

「それは……どっちも。てかこれ、本当に付き合ってないの?」

「付き合ってないよ。だって私達、どっちも告白とかしてないよね? まあ、今はどうだっていいよそんなこと。お互いに相手が喜んでくれるのがすごく嬉しくて、だいたい何でもわかってるじゃない? だから、ふふ……大変だよ。恋人作るのも、将来結婚するのも」

「すごい嬉しそうに喋るじゃん。今、機嫌めちゃくちゃ良い?」

「んー、どうだろ?」

 

 機嫌はいいよ。お喋りするのが楽しいし、私と一緒にいて嬉しいのも手に取るようにわかるし。

 買い出し、いかなくてもいいかな。料理はまた別の日でいいよね。機会はいくらでもあるんだし、焦る必要はないよ。

 

「ひとつお願いがあるんだけど、いい?」

「なに?」 

「アラームセットしておいて欲しいな。いつ寝落ちするかわからないし、念のためにね」

「もうセットしてるから大丈夫。いつ寝落ちてもいいよ」

「ふふ。さすが。じゃあ頭空っぽにしていい?」

「もちろん。いつでもどうぞ」

 

 そんなわけでポジション交換。

 今度は私が膝枕してもらって、引き続き一緒にまったりしていくよ。お喋りながらでも、無言でも、どっちでも君の好きな方で。

 あー、あと半年くらいしたら、私は完全にお嫁にいけなくなるな。そうしたらこの人、どうするんだろう?

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