松下千秋の余裕 作:中森藤之
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原作とは時系列が少し変わってたり、イベントの内容も多少変化してたりする。あと、これはとても大切なことなんですが、堀北さんは調教済み。
堀北鈴音にとって
高度育成高等学校に入学して間もない頃、ちょっとしたことで口論になったのがはじまり。
どうしてあんなことになってしまったのか。
どちらが正しいか空き教室で話し合うことなり、そして
『堀北さんは他人をバカだアホだって言うけど、無駄に敵を作ってるだけだからね。なにか指摘するなら普通に言え。いちいち毒を吐くのを正当化できるならどうぞ』
『そうだぞ堀北。何かを注意するにしても、毒を吐く必要はないからな。何とか言ったらどうなんだ、堀北』
『綾小路君、やけに強気じゃない。あなたまさか仲間を得て調子に』
『堀北さんは自分を価値のある人間だと思ってるんだよね。でも、今のままだと適当な評価ってことになるけど大丈夫? 無能な人を無能だって言うだけなら誰でもできる。自分は価値のある人間だっていうなら、無能のひとりやふたりくらい上手く導いてみせなよ』
『そうだぞ堀北。お前は孤高を気取っているみたいだけど、そんな態度じゃ社会に出た時に絶対に困るぞ。あと、友達ができないのを他人のせいにするなよ』
『堀北さん、知ってる? いくら学力が高くても人望がないと他人は話を聞かないんだ。小説家とか特殊な仕事をするならともかく、今のままじゃ日本社会を背負って立つような人材にはなれないよ。その棘だらけのエーティーフィールドをなんとかしないと、他人と会話することすらできない無能になるよ?』
『そうだぞ堀北。オレのコミュニケーション能力の低さ、略してコミュ力を馬鹿にする前に、まずは自分のぼっちを反省しろ』
淡々と論破してくる早瀬。普段通りの死んだ魚の目ながら、やけにテンポよく便乗してくる綾小路。
奴らは言いたい放題だった。
もちろん黙ってやられ放しになる鈴音ではない。目を吊り上げ、しかし冷静な思考をもって言い返したが
『会話の通じない人達とコミュニケーションを取る必要性を感じない。私が将来仕事を一緒にする人達は、きっと無能ではないはずよ。だから今、仮に私に友人がいなかったとして、それは全く問題では──』
『──それ、いちいち敵を作ることに対する合理的な理由ではないよね。ぶっちゃけそこまで深く考えてないでしょ堀北さん。あえて敵を作っていいことなんてひとつもないからね。仮に刺されて失血死したりしたらどうするの? ただの間抜けだよそれは』
『そうだぞ堀北。人から恨みを買うことはカッコイイことじゃないし、報復されて死んだら頭の良さとか無意味だから。むしろアホだ。リスク計算もできないバカってことになる』
『なんなのよ……どうして寄ってたかって、私を責め立ててくるのよ貴方達は!』
奴らは左右から鈴音を挟み、延々と言いたい放題を続けてきた。
しかも逃がしてくれなかった。あの悪趣味な男子共は鈴音の前に立ち塞がり、逃走経路を完全に潰してきたのだ。
『こんなの無駄な時間よ。付き合っていられない。失礼するわ』
『どこ行くの? 話はまだ終わってない。自分が正しいんだろ? 短絡的じゃなくて長期的に物事を考えてるんでしょ? だったらあえて敵を作るような言動をしてるのはなぜなのか、早く説明してくれない? ほら、ほら、早く』
『そうだぞ堀北。ほら、ほら、早くしろよ堀北。あえて他人をバカ呼ばわりする必要性を教えてくれ。反撃されたらどうするつもりなのかも、合わせて聞かせてくれないか? あと、オレを見た目で判断したのはなんでかも教えてくれ。ほら、どうしたんだよ堀北』
『……』
最初のうちは絶対許さないと怒りを燃やしていたものの、
「あの男はどこをほっつき歩いているの? 急用があるから来れないという話だけど、まさか彼女と宜しくやっている、なんてことはないでしょうね。この大事な時に」
「落ち着け堀北。
「綾小路君。そんなわけないでしょう。常に一緒にいるわけではないみたいだけれど、あの空気感はどう考えても普通ではないわ」
その後、なんやかんや何度か口論を行った後、堀北鈴音は態度を多少改めた。あくまで表面上は。心の中では罵詈雑言は日常茶飯事である。
激しい悪口はあくまで内心で。口にはあまり出さなくなったので、クラスの面々とは普通にコミュニケーションが取れるようになった。
「普通じゃないってなんだよ」
「綾小路君。あなたはそういうのに疎いからわからないのかもしれないけど、女子である私には手に取るようにわかる。あれは恋愛よ。それ以外に考えられないわ」
「お前に恋愛の何がわかるんだよ……」
「失礼ね。それくらい、本で呼んで知っているわ」
さて、鈴音は今、綾小路とファミレスに来ている。
時間帯は夜である。二人は隣り合って座っており、綾小路は左側。鈴音の右側には渦中の人物、須藤
「おい……んなことはどうでもいいから、俺を助けるための話をしてくれ」
普段は威圧的な須藤だが、今は少し元気がない。
暴力事件のせいでクラスメイト達から陰口を叩かれ、厳しい目を向けられたせいだ。
先週金曜日、須藤はCクラスの生徒達から一方的に絡まれたそうだ。襲われたから返り討ちしたら、なんと須藤から喧嘩を吹っかけたことにされてしまい、罰としてクラス評価はマイナス。もちろん冤罪であることを主張したが、教師達は信じてくれなかった。
「もちろんだよ須藤くん! そのために佐倉さんも来てくれたんだし、明日はちゃんとみんなで説明するから大丈夫!」
「おぉ……天使が見えたぞ、今……」
向かい側の席にはクラスのアイドル的存在の
「あの……本当にごめんなさい、須藤君。すぐに言い出さなくて」
「あー……もう気にしてねぇよ。明日ちゃんと言えば大丈夫なはずだし……俺は怒ってねえって。だからビビらないでくれ」
小さくなっている佐倉に、須藤は歯切れの悪い口調で声をかけた。
佐倉愛里は暴力事件を見ていたらしいが、怖いことに巻き込まれるのが嫌で言い出せなかったそうだ。しかし、このままではいけないと決心して、親交のある綾小路を呼び出して相談した。
それが先週金曜日のことだ。
月曜日になったら恐怖が再燃してしまったので、須藤達に打ち明けるのが遅くなってしまったらしい。まあ、こうして話してくれたのだからそれでオッケー。誰も彼女を責める者はいない。
「ありがとう、須藤君。い、意外と優しいんですね……」
「そんなんじゃねえけど……マジで救世主な奴にキレたりはしねえ。そんな真似はしねえよ、いくらなんでも」
「とにかく、これで上手くいきそうだね。須藤君が一方的に殴りかかった──っていう向こうの主張は嘘で確定。ひと安心だ」
「平田、たしかに大きすぎる収穫だが、これで減点がなくなるかはわからないぞ。須藤が相手をぶちのめしたのは事実なんだから」
「綾小路君……そうだね。でも、須藤君は間違いなく被害者だ。正当防衛だと認めてもらえるよう、明日はしっかりと説明しよう。フォローするからよろしくね、佐倉さん」
「う、うんっ」
今後の流れはこうだ。
明日の朝、担任の茶柱に事実を伝える。
その際、正当防衛であることを強く主張して減点0を勝ち取る。支給が保留されていたポイントを手に入れ、ハッピーエンド。理想的な流れは以上。
「堀北と綾小路も、マジで頼むな……俺が喋ると良くないことが起こりそうだから、お前らに任すわ。なんか嫌な予感がするんだよ、俺が喋ると」
「須藤君、それは予感などではなく、純然たる事実よ。お願いだから余計なことは言わないでね。あなたには私が台詞を用意するから、それ以外のことは喋らないこと」
「俺、そんなに信用ないのかよ……!? 綾小路ぃ、俺ってそんなふうに思われてるのか?」
「残念ながらそうだな」
「悲しいことにそうね」
以前の鈴音であれば、もう少しひねりのきいた嫌味をぶつけていたことだろう。
しかし、今は協調性というものを少しだけ意識するようにしている。須藤は弱っているわけだし、追い打ちをかけて痛めつけるのは得策ではない。そんなことをしてもなんのプラスにもならないからだ。
「じゃあ、須藤君の冤罪を祈って、乾杯しよう!」
「冤罪を祈るって、その言い方は微妙じゃね……?」
「須藤君が冤罪を着させられることを祈る……という風にも聞こえるわね」
「須藤、堀北、深読みしすぎだ。ところでオレのミラノ風ドリアの件だけど、なんで堀北が食べてるんだ?」
「言うまでもないわ。そこにミラノ風ドリアがあったから」
「ふざけんなよお前、少し態度が柔らかくなったと思ったら、変な方向にゴーイングマイウェイしてるんじゃねえよ」
これはきっと怪我の功名。
鈴音はそのように考えていた。
もし、発狂寸前まで論破されていなければ、きっと視野は狭いままだったはずだ。こうして他人の長所に気付くこともなく、クラスを改善していくことも今より苦労していたはず。
思い出すと腸が煮えくり返るので素直に感謝はできないが、早い段階で色々と気づくことができたのは本当に良かった。
「美味しいわね、これ」
「完食しやがった……オレが注文したミラノ風ドリアを」
「綾小路、俺の食いかけでよければいるか? 焼きおにぎり。腹いっぱいになっちまってよ」
「いらない」
明日は最善を尽くそう。
鈴音は勝利の絵が見えた。
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「顔の筋肉がついちゃいそうで怖いなー」
「どうしたのいきなり」
寝落ちする前に顔をマッサージ。してもらうんじゃなくて自分でやる。もちろんノーメイクだけど、顔を揉まれるのは抵抗があるんだよね。
んー、疲れながら疲労がとれた。いつも思うけど不思議な感じだ。たまにトータルすると余計に疲れてるから、翌日が学校だと朝がつらい。休日なら何も気にしなくていいから楽なんだけど。
「知らん顔してる人には教えてあげない。そんなことより寝ないと。まな君、すぐ眠れそう?」
「今、すごい眠い……まじで落ちそう」
「よかった。じゃあ、追い討ちで安眠させてあげるよ」
「追い討ちってなに……千秋ちゃんっていきなり怖いこと言うな」
「こわくないよ?」
私は彼の背中に話しかけながら、両手を脇の下に回した。前より細くなってはいるけど、筋肉はやっぱり増えてるな。将来プロレスラーみたいになられても困るし、やりすぎないよう今度釘をさしておかないと。できるだけ今の体型を維持して欲しいものだよ。
「千秋ちゃん? その格好きつくない?」
「君が寝落ちるまでこうしてあげる。すぐ眠れるように、BGMもつけてあげるからね」
耳掃除も済ませたことだし、久しぶりにしてあげようかな。耳をはむはむ。この人、要求はしないけど好きなんだよね。
私がしてあげることは基本喜んでくれるけど、特にお口関係は大好物みたい。私も好きだよ。意地悪するのもされるのも。舌、入れちゃお。