SAO 〜少女の盾を目指した者〜   作:火星の渡鴉

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かなり久しぶりです。
これに需要があるのか分かりませんが、地味にアクセスが増えている事もあって少しずつ続きを執筆中です。

久々に書いたという事もあって今回は短めです。
それでは、本編をどうぞ。


14:糾弾

 ナイトがネズハを連れてきた場所は先日検証に利用した『空き家』。その一室には四角いテーブルと数脚の椅子が並べられ、キリト、アスナ、ユウキ、アルゴの四人が机の前や壁際など各々の場所で待っていた。

 ナイトは空いている椅子を寄せてネズハに座るよう促し、ネズハがそれに座ると自身は対面の席に着いた。

 

「こんな所に連れてきた理由は分かってると思うから単刀直入に言わせてもらう。なぜ《強化詐欺》なんて真似をした?」

 

 ナイトは話して貰いやすいように出来る限り優しく――それでも固さの残る声音でネズハに問い質す。

 最初は顔を俯かせて何も言えずにいたネズハだが、根気強く待ち続けると、ぽつぽつと語りだした。

 

「……要するに、騙し取った武器は全て換金して、飲み食いやら宿代やら豪遊して、金はほとんど残っていない。そういう事で間違いないんだな、ネズハ?」

「はい……本当に、申し訳ありません……」

「――――攻略組の面々が、文字通り命を懸けて死に物狂いで鍛え上げた武器を、私利私欲で浪費したと?」

「本当に……なんと……お詫びしたらよいか……」

 

 ネズハの話を聞いて天を仰いだり、深い溜息を吐いたり、苦い表情を浮かべたりとそれぞれ反応を示す。

 言葉を失ったかのように静まり返る中でナイトは壁際に居るアルゴの方にそっと目配せをする。それを見たアルゴは頷きを返した。

 

「……そろそろ嘘は止めにしよう、ネズハ」

 

 沈黙を破るようにナイトはそう切り出した。

 ネズハはへっ、と訳が分からないと言った声を漏らす。

 アルゴの情報網を元にネズハが豪遊して金を浪費した形跡がない事は確認している。むしろ質素なくらいだった。では一体、詐欺を行ってまで荒稼ぎした金はどこに行ったのか。何の為にそんな真似をして稼いでいたのか。ネズハ個人が金を使っていないのなら、別の誰かが使っていると考えるのが自然だ。

 

「は……はは……僕が誰かに貢いでるっていうんですか? 一体何を根拠に――」

「根拠か。それもなくはないよ、『Nezha(ナーザ)』」

「ッ!!!」

「その様子じゃ、分かってて名乗らなかったみたいだな」

 

 息を呑み、目に見えて身体を震わせるネズハ。

 『Nezha(ナーザ)』。一般的には『哪吒(ナタク)』という呼び方が有名だ。漢音で正しくは『ナタ』と読み、毘沙門天の三男で道教で崇められている少年神。『封神演義』『西遊記』などの民間説話や小説などで馴染み深い登場人物で人気がある。シャルルマーニュ伝説の『オルランド』や西洋風ファンタジーの源流ともいえる『ベオウルフ』に勝るとも劣らない《伝説の勇者》と言っても差し支えない存在だ。

 

「やっぱり、君が彼らの為に装備の調達資金を稼いでいたんだな。だからこそ、あんなにも急速に台頭してこれた」

「…………」

「先に言っておくけど、君が店仕舞いした後に酒場で《レジェンド・ブレイブス》と会って親しげにしているのも確認している。彼らの事を知らない、と言っても無駄だよ」

「…………そんな所まで見られてたらどうしようもないですね」

 

 やがて観念したかのようにネズハは口を開いた。

 

「ネズハさん、どうして強化詐欺なんてことを始めたの?」

「初めは僕もこんな真似をするなんて考えてもいませんでした。でも、僕にFNC判定があったから、いつかはこんな事になると決まっていたのかもしれません……」

「F……?」

「フルダイブ・ノンコンフォーミング。民生用のナーヴギアではたまに発生する障害なんダ」

 

 フルダイブ不適合。通称FNC。脳と直接信号のやり取りをするフルダイブマシンは、本来デリケートな調整を必要とする機械だ。何万台もある民生用ではとてもそんなケアをしてはいられない。マシンに自動調整機能が搭載されいるが、ごく稀に《不適合》の判定が出てしまう場合がある。最悪の場合、ダイブ不可能なんて事も有り得る。

 ネズハの身に起きたのは両眼視機能不全。奥行き――遠近感を失っている。リアルな世界観が存在するSAOでは致命的な欠陥だ。敵との距離を判別できないのでは戦闘なんてまともに出来やしない。ましてや、デスゲームと化した今ではむざむざ殺されに行くようなものだ。

 

「そっか。それで遠距離攻撃が出来る《投剣》スキルを覚えたのね」

 

 そう言って、アスナは以前出会った『隻眼の魔剣士』が忘れていった投擲用の短剣をテーブルの上に置いた。この短剣も調べがついている。プレイヤーメイドの特注品で一度も市場に出回っていない物。従って、持ち主は作り主で、そのスキルを持っているのは現在はただ一人だけ。

 

「そうです。僕もなんとか戦闘職に就くために、仲間の情けに縋りついて《投剣》スキルの熟練度を上げてきました。でもその所為で、みんなの夢を台無しにしてしまいました」

 

 デスゲームが始まった当初から、《レジェンド・ブレイブス》はハンデを抱えるネズハをリカバーしながら行動していたのでは、前半の非効率な狩場に長く足止めされるのを強いられたのだろう。そんな状況で、ハンデを抱えるメンバーの修業に費やしながら行動していたのでは、レベル上げも満足に出来なかったはずだ。

 

「僕が戦闘職を諦める頃には、攻略組からの遅れは取り返しのつかないほどでした。誰も口には出しませんでしたが、僕を抱えているせいで出遅れたってみんな思ってたはずです。いっそ僕を置いていこうって、そんな話を誰かが言い出すのを待つような、そんな険悪な雰囲気でした」

 

 ネズハは軽く唇を噛んでから、すぐに話を続けた。

 

「僕がその話を切り出せればよかったんですけど、どうしても言えなかった。怖かったんです、一人になるが。……鍛冶屋に転向してでもみんなに付いていこうとしましたが、最初は乗り気じゃありませんでした。生産スキルの修行にはお金がかかりますから。……そんな時です、話し合いをしてた酒場の隅にいた、それまでずっとNPCだと思っていた男が話しかけてきたのは――」

 

『OK。話は聞かせてもらった。そいつが戦闘スキル持ちの鍛冶屋になるならすげえクールな稼ぎ方があるぜ』

 

「そいつが詐欺のやり方を? 何者なんだ、そいつ……?」

「名前も分かりません。武器すり替えのやり方だけ話して、すぐに行っちゃったんです。それ以来一度も会っていません。でも、なんだか……妙な感じの男でした。喋り方も、恰好も、黒いポンチョをすっぽり被ってて……」

「じゃあ顔もちゃんと見てないんだなナ?」

「はい……」

 

 黒いポンチョ――フード付マント自体はファンタジー系RPGなら定番と言ってもいいアイテムだ。その恰好自体はさほど珍しくもないが、顔も隠れるほど被っているなら少し話は変わってくる。もし明確な目的で人相を隠しているなら、今もどこかで匿名のプレイヤーXとして活動しているのかもしれない。

 どうにか黒ポンチョの男を補足する機会はないかと、ナイトはネズハに訊ねた。

 

「そう言えば、そいつにマージン――強化詐欺で得た利益の分け前はどういう風に渡していたんだ?」

「いえ……そういう事は、特に何も……」

「何も……? 何も受け取ってないのか、そいつ!?」

「はい。預かった武器をすり替える手法を説明しただけで、分け前とか、アイデア料とかは一切要求しなかったんです」

「……随分、変わった奴なんだナ」

 

 有って当然と思った事が無いことに絶句するナイトに変わってアルゴがそう言った。

 今回行われた強化詐欺のトリックは正直見事な代物だった。このトリックのキモは武器スキル強化オプションの一つ《クイックチェンジ》。この効果は装備武器を瞬時に変更する事。通常なら装備武器をしまい、取り出すという工程を踏む必要があるが、《クイックチェンジ》を取得していれば、設定しておいたショートカットボタンを押すだけで武器の変更が行われる。

 ネズハはこの機能を使って、直前に装備していたものと同種の武器をストレージ内から自動的に選択する設定をして、「預かった武器」をストレージにストックしておいた「同種のエンド品」とすり替えていたのだ。

 《クイックチェンジ》を行う時のメニューウィンドウは商品棚の裏に隠し、発動時に発生するエフェクトと音は強化素材を炉に入れた時に発生する光と音でかき消される。これで、クイックチェンジはほぼ一瞬で行われるため、そうと疑って見ていない限りはまず気づかれる事は無い。

 仮に気づかれたとしても、もう一度クイックチェンジを発動させれば元の品に戻る。また、すり替えた品が砕けた後なら、何を言っても証拠が残っていない。そうなれば強化詐欺を証明する事が難しくなる。

 アルゴは発案者を天才かも。と称したが、実際この詐欺は証明する事はおろかトリックを見破る事もかなりの難題だったはずだ。戦闘に活用するであろうスキルMobを詐欺に用いる発想といい、ベータテスト時にも同じ事が出来たはずのに誰ひとり思いつかなかった事といい、発案者の異才ぶりが窺える。

 ナイトがこのトリックに早急に気づけたのは、ネズハと同じ《投剣》スキルを扱い《クイックチェンジ》を取得して日々常用していたおかげだ。もしそうでなければ、このトリックを見破れなかったかもしれない。

 それほどの物を他人に伝授しながら、黒ポンチョの男が何も代価を要求しないというのは奇妙な話だ。黒ポンチョの男が自身で詐欺を行って稼いでいる訳でもないし、詐欺の方法を教えているだけに無償の善意というのも考えにくかった。

 一体黒ポンチョの男は、何が欲しくて詐欺の方法を他人に伝授したというのだろうか。皆目見当もつきそうになかった。

 

「しかし……いくら教わったとはいえ、よく詐欺なんてやる気になったな?」

「その……最初はみんなも否定的な反応だったんです。そんなの犯罪じゃないか、って。そしたら、あいつは映画みたいに綺麗で、楽しそうに笑って言ったんです。ええと……『やっちゃいけないことは、最初っからシステム的に出来ないようになってるに決まってるだろ? ってことはさ、やれることは何でもやっていい……そう思わないか?』って……」

「そ……そんなの、詭弁だわ!!」

 

 アスナが鋭く叫んだ。それを聞いていた他の四人も同様に険しい表情で頷く。

 やれるから何をやってもいい。など犯罪者の詭弁だ。出来るからといって、それがどんな悪事であろうと許されてしまっては社会が成り立たなくなる。ゲームでも同じだ。ルールもマナーも無用な無法地帯でどれだけの人が楽しめるのだろうか。少なくとも、真面目にやっている人を陥れ、嘲笑うような真似をするのが正しいとは思えない。

 

「それで……詐欺をやって良いなんて思ったのか?」

「不思議なんですが……あいつがいなくなった後、ギルドの雰囲気が変わってて……やれるんならやっちゃうか、みたいなノリで盛り上がって。僕も役立たずのお荷物より、詐欺の主役になってお金を稼ぐ方がマシだなんて思ったんです。でも…………」

 

 そこで、ネズハは一度息を呑んだ。ぎゅっと両眼をつぶり、口元を強張らせて、絞り出すように言葉を紡いだ。

 

「…………それはすぐに、間違いだと気付きました。すり替えたエンド品が砕けた時の、お客さんの顔を見て……。でも、打ち明ける勇気は無くて、せめてこの一回で終わりにしようって思ったんですが…………僕の成果を見て、みんながすごく、すごく喜んで、僕を褒めてくれて……僕は……僕は……っ!?」

「……誰かの力になりたいって気持ちはすごく解るよ。でも……やっぱり駄目だよ。その人の大切な物を騙し取るなんて。大切なものを失うのは、すごく……辛いんだよ」

 

 ユウキの真摯な瞳がネズハを貫く。他でもない、詐欺の被害にあった張本人の一人でもあるユウキの言葉だ。この中の誰よりも実感のこもった思いである。

 それを聞いたネズハは頭を抱えて嗚咽を漏らした。間違っていると気付きながらも続けた行いが招いたものが、糾弾されるべき人からの言葉がネズハの胸に深く突き刺さった。もしFNC判定がなければ、もし「止めよう」と言う勇気があれば、もしといくつものIFを想像しながら、それが出来ずに今まで流されてきた自らの弱さを嘆くようにネズハは泣き続けた。

 

 

 これで、ネズハは強化詐欺を行う事は無いだろう。しかし胸を撫で下ろすにはまだ早い。彼にはまだ、超えるべきハードルが残されているのだから。




世紀末なモヒカンはヒャッハーしている間は楽しいかもしれないが、ヒャッハーできなくなると楽しくなくなる。悪事なんてそんなものだ。などと偉そうに言ってみる。

大まかな話は出来ているのだが、いざ書き起こすと会話や話の流れが不自然でないかと悩み、中々筆と話が進まない現状。二次創作的にはもっと話をサクサク進めた方が良いのだろうか。

御指摘、誤字脱字の報告でも構いませんので、感想お待ちしております。
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