SAO 〜少女の盾を目指した者〜   作:火星の渡鴉

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16:奏で伝えるものは

 自分を見下ろしていたのがユウキだと分かり、ホッと一息を吐くナイト。

 なかなか会いに行く踏ん切りがつかなかったくせに、こうして顔を合わせると嬉しく思うのは我ながら現金な事だ。

 

「なんで笑ってたの?」

「んー。色々考え事してたら、その答えがおかしくてね。気付いたら笑ってた」

 

 肝心な部分はぼかして答えたが、ユウキは「そうなんだ」と言ってそれ以上聞いてこなかった。

 間が空き、沈黙が流れていく。

 小さく、けれど深く深呼吸をする。これはチャンスなんだと自分に言い聞かせ、肺の中にある駄目な空気を全て吐き出し、新しい空気を吸って言葉を絞り出す。

 

「なぁ――――」

「ねぇ――――」

 

 言葉が重なる。互いに驚くが、先に気を取り直したナイトが先にどうぞ、とユウキを促す。

 ユウキは頷き、一度躊躇いを見せて、言葉を発した。

 

「ナイト……話たいことがあるから、ちょっとついてきて」

 

 ナイトは一も二もなく頷いた。

 それを見たユウキはまた少し表情を硬くして、歩き出した。

 

 

 

 

 ユウキが連れてきたのは、街から外れた人気のない見晴らしのいい平野。

 安全な『圏内』から少し離れていてモンスターがいないか少し気になったが、見晴らしもよく光量も十分だからと必要以上に警戒するのを止める。

 周囲の確認をしている間にユウキとの距離が空いたと思ったら、目の前にウインドウが現れた。内容を確認すると、それはユウキからのデュエル申請だった。モードは《半減決着》。

 突然のデュエル申請に驚いたが、ナイトは迷うことなくYESを押した。これがユウキの『言葉』だとすれば、それを受け止める責務がナイトにはある。それに百聞は一見に如かずと言う様に、百の言葉で伝えるよりも一の行動で示した方が分かる事もある。

 

「……ありがとう、ナイト。何も言わずに受けてくれて……」

「いいさ、これくらい。それに『剣』でこそ語れる事もある」

 

 そう。ここは剣技で彩る世界なのだから、『言葉』よりも『剣』を交わしてこそ伝わる思いがあるはずだ。

 ユウキがアニールブレードを抜いて構える。

 ナイトが右手にヘビーメイスを、左手にラージシールドを持つ。

 カウントが進むにつれて空気が張り詰めていく。それに合わせて集中力が高まっていく。次第に得物を握る手に力が入っていく。 

 カウントが0になった瞬間、二人は駆け出した。

 

 

 

 

 カウント0と同時にユウキは機先を制するように得意の《レイジスパイク》を放つ。

 瞬く間に間合いを詰めた突進突きは、それを読んでいたかのように盾が進行を遮った。オレンジ色の火花と赤色の光芒を飛び散らせながら盾が僅かに傾けられ、剣先を外側へと受け流していく。

 突きを盾で逸らし、吹き荒れるライトエフェクトが消えていくのを確認しながら、ユウキを間合いへと引き込んだナイトはメイスを振り上げた。

 技後硬直を狙って強襲してくるそれをユウキは寸での所で身体を仰け反らしてかわす。そこからさらに足を捻って身体を回し、その勢いを付けて剣を水平に斬りつける。

 水平に払った剣を、ナイトは冷静に一歩退いて避ける。が、ユウキも一歩踏み込んで開いた間合いを詰め、手首を返して剣を逆方向に再び水平に払う。単発ではなく水平の二連撃《ホリゾンタル・アーク》の二撃目をナイトは盾で受け止める。

 剣と盾が音を奏でる。

 数秒間の間押し合い、盾が剣を払い除ける。体勢が崩れた隙を狙ってメイスが振り下ろされる。だが、態勢は素早く立て直され、剣で切り払われた。

 

「オオォッ!」

「ハアァッ!」

 

 二つの掛け声に一つの金属音が鳴る。重いメイスと速い剣が打ち合い続ける。強い共鳴音を伴う剣戟が、まるで音楽の様に平野に響き渡る。

 打ち合いを続けていく中、最初は五分だった均衡が次第に崩れていく。速さで上回るユウキの手数に押され、ナイトは十分な威力を持った一撃を放つ隙を奪われていき、ついに打ち合いに負けた右腕が跳ね上げられた。僅かながらもナイトの体勢が崩れた瞬間、ユウキの膝が限界まで撓む。至近距離から弾丸の様にユウキの剣が赤色の輝きを纏って放たれた。

 

「ヤァアアア――――ッ!!」

 

 絶叫と共に襲い掛かる高速突きを、盾を翳して受け止める。が、勢いに押されて少しずつ後ろに下がっていく。

 

「――――チィッ!?」

 

 押し切られる。そう予感した瞬間、力を抜いて背中を限界まで仰け反らせた。ユウキの突きに盾が押し切られた勢いそのままにナイトは後ろに倒れ込み、足を跳ね上げた。跳ね上がった足がソードスキル特有のライトエフェクトを放つ。

 光の軌跡が三日月を描き、ユウキの身体を捉えた。

 予想もしなかった形の攻撃を受けてユウキは足を止めてしまう。その間にナイトは倒れた体を起こし、距離を取って態勢を整える。

 

「――――ケホッ。……今のは?」

「《体術》スキルの一つ。《弦月》って言って、倒れながらでも使える技だ。外したら転倒する上に硬直するオマケ付きで多用は出来ないが……悪足掻きにはちょうどいい」

 

 あまり威力は高くないがな、と続ける。事実、完全な奇襲で綺麗に捉えたにも関わらず、ユウキのHPは8割近く残っているのがその証拠。

 ナイトはメイスと盾を構え――一度構えを解いてメニューを操作する。右手のメイスをストレージにしまい、改めて取り出したのは、予備の丸盾だった。右腕にも盾を装備し、大盾を持つ左側を前にする構えを取った。

 

「……どういうつもり?」

 

 

 

 

「……どういうつもり?」

 

 武器を持たない、傍目には攻撃する気のない構成。ふざけているのかと思い、胸中に苛立ちと疑問が湧いてくる。

 

「安心しろ。ちゃんと考えた上での構成だ」

 

 そう答えるナイトは至って真剣だ。

 武器を持っていないから攻めに行くのは怖くない。でも、盾を二枚も構えてるせいでどう切り込んだらいいか分からない。

 悩んでいる間も残り時間は過ぎていく。

 考えても分からないことに悩むのは止めて、剣を構えて集中する。

 初手は全速の突きで斬り込む。それに反応して大盾が翳されるのを見て、右足を踏み込んで無理やりブレーキを掛け、剣が盾に当たる直前に踏み込んだ足を捻って身体を回転させて軌道を変える。

 突進突きの勢いを強引に遠心力に変えて放った横薙ぎの一撃は、右の丸盾に跳ね返された。剣が跳ね返された影響で身体に硬直が発生する。その時、ナイトの左脚が赤い光を放ちながら振り上げられた。

 硬直で動けない身体を、せめて固くして襲い掛かってくる水平蹴りを受ける。軽い身体は蹴り飛ばされ、二度三度と地面を跳ねて転がる。追撃を食らうまいと慌てて身体を起こしたが、ナイトは振り上げた脚をゆっくりと下ろして二枚の盾を構え直していた。

 ダメージを受けた身体の調子を確かめる。蹴られた脇腹からくる痺れに似た痛みを呼吸を整えながら抜いていく。剣の握り具合を確かめ、力が籠められる程度に痛みが抜けると、剣を構えて集中する。

 《投剣》も追撃も来なかったのは不思議に思ったけど、舐められている、とは考えなかった。今までとは違うのだ。見たまま攻めても怖くないと思った自分が間違いだったのだ。

 それでも、やることは――やれることは変わらない。やれることは自分の力を信じて斬り込むだけだ。

 

「ヤァアッ!」

 

 全速からの斬撃。大盾に防がれるけど、構わずに次の斬撃に繋げる。

 反撃を許さず、防御を押し切るつもりで剣を繰り出し続ける。それでも剣を跳ね除けられ、その隙に襲いかかってくる蹴りや張り手に捉まらないようにするため、常に動き続ける。

 手も足も一切止めたりはしない。勝ち負けではなく、全ての力を出し切ろうと、ただそれだけを剣に込めて、ユウキはこの決闘の終幕に臨んだ。

 

 

 

 

 いかに速く鋭い剣戟だろうと受け止め、隙あらば跳ね除けて《体術》の打撃を叩き込む。そんな構想で組んだ二枚盾のスタイル。戦術として間違ってはいないはずだが、次第にユウキの剣戟を捌くのが厳しくなってきた。

 少しずつだが、確実に速くなってきている。剣だけでなく、体の動きそのものが。大盾が視界を遮る事も加わってユウキの姿を見失う回数が増えてきた。それでも剣を防ぎ、時折反撃の手を加えれるのは慣れと、ユウキの剣が素直だからだろう。

 だが、反撃の手も次第に減っていく。剣戟を盾で防ぐのに手一杯になっていく。このままいけば、いつか押し切られてしまうのは想像に難くなかった。

 それは、許せそうにない。この一時の勝ち負けでなく、突き詰めようとした事を示せないのは、その情けない己の姿を見せるのを許してはいけない。

 盾を持つ手に力を込め、辛抱強く剣戟のラッシュを凌ぎ続ける。そして、

 

「――ハァアッ!!」

 

 ありったけの気合と共に、大盾を持つ左手に振り絞れる全ての力を込めて大盾を突き出した。

 パリィや直前ガードのような技術的な防御ではなく、どこまでも強引な力技でユウキの剣を跳ね返しにいった。

 

「――ッ!?」

 

 大盾とかち合った剣は、その勢いに負けてユウキの手から飛ばされた。ユウキ自身もその圧力に押されて踏鞴を踏む。

 今まで止まらずにいたユウキの足が止まった。その好機を逃さず、ハイキック気味に単発蹴り技《水月》を発動させる。右脚が赤い軌跡を描いてユウキに襲い掛かる。

 当たる。そう思って放った蹴りは、空を切った。

 好機は一転して、致命的な隙を晒す結果となった。ソードスキルの技後硬直で身体は動かせず、脚を振り上げ切った不安定な体勢で満足に踏ん張る事も出来ない。

 ナイトの蹴りを身を屈ませてかわしたユウキは手から離れた剣を拾いに行かず、無手のまま懐に飛び込み、拳を振り上げた。

 

「ヤアァァッ!!」

 

 無防備なナイトの腹にユウキの拳が突き刺さる。が、ダメージは無い。スキルアシストも無い、小柄で軽いユウキの拳ではダメージを与えるほどの威力は無かった。

 だが、不安定な体勢に衝撃を与えられたナイトは己の身体を支え続ける事は出来なかった。ユウキの拳に押されて地面に仰向けに倒れる。

 ユウキも支えを失い、もつれる様にナイトの上に倒れ込む。

 二人は、動かなかった。その状態のまま僅かな残り時間が過ぎていき、デュエルは制限時間終了という形で幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 デュエルが終わっても、そのままの体勢から動けないでいた。

 身体の上に倒れ込んだユウキの手がナイトの服を掴んで離そうとしない。表情も、確認しようにも顔を胸に押し当てて覗く事が出来ない。

 ナイトは大きく溜め息を吐いて、大盾から離した左手をユウキの頭に置いて、優しく撫でた。

 

「…………その方が良いと思った。周りから反感を買った俺は、傍に居ない方が良いって……」

 

 びくっ、とユウキの身体が震えたのが伝わる。

 ポン、と一度優しく叩いて言葉を続ける。

 

「心配は、しなかった。アスナやキリト、それにエギルの様な大人が居るなら俺一人くらい居なくても大丈夫だと思った。それなら俺は、一緒に居る事で余計な迷惑を掛けたりする前に離れた方が良いと思った。それが必要な事だって、信じてた」

 

 損得の計算から成り立った考え。そこに気持ちは含まれていない。置いていかれる側の気持ちも、置いていく側の気持ちも。

 半端に賢しいから、大切にしなければいけなかったはずのモノを見過ごして考えていた。本当はただ、

 

「ユウキ……お前を、俺に向けられるはずの悪意から守りたかった。お前が傷つかないようにする為に行動してた、つもりだった。……でも、それは――――」

「――――一番最初にボクを傷つけたのは、ナイトだよ」

 

 ナイトの言葉を遮って、ユウキは言った。

 

「あの時……ナイトが一人で行っちゃった時、ボクは悲しかった。置いていかれて、寂しかったんだよ」

 

 ギュッ、とナイトの服を握るユウキの手の力が強まる。

 

「ボクでも、ナイトが何であんな真似をしたのか。ちゃんと考えたら解るよ。だから、説明してほしかった。一人で、勝手に行かないで、相談してほしかったっ。だって……」

 

 ユウキが俯かせていた顔を上げた。涙を堪えた瞳が正面からナイトを見据えた。

 

「ボクたちは、パートナーだよ! このゲームが始まってから、ずっと、一緒に頑張ってきた、大切な――――友達だよっ! そう思ってのは、ボクだけ?」

「――――――――そんな訳ないだろ」

 

 ユウキの瞳から零れ落ちた涙が、ナイトの頬に滴り落ちる。涙を拭おうとするが、いくら拭っても涙は流れてくる。

 ナイトは身体を起こし、ユウキの泣いている顔を隠すように胸元へ優しく抱き寄せてた。

 

「俺だって……大切に思っていない奴を守ろうなんて考えたりはしない。……ありがとう。俺の様な身勝手な奴を、今でも友達だって言ってくれて」

「また、一緒に頑張ろうよ。ボクは、守ってもらわなきゃ戦えないほど弱くなんかないよ」

「――守る必要が無かったら、俺のお役御免じゃないか?」

「そんなことないよ!? ナイトが守ってくれた方が、ボク安心するもんっ」

「ありがとう、ユウキ。――――もっと強くなんないとな」

 

 そっとユウキの頭を抱き寄せていた腕を解き、その顔を覗く。ユウキの瞳にはまだ涙が溜まっていたが、その表情は彼女本来の屈託のない笑顔を浮かべていた。

 もう一度やり直す事が出来る。そう思わせてくれる温かみのある笑顔だ。

 

「これからまたよろしくね、ナイト」

「ああ。またよろしく頼むよ、ユウキ」

 

 差し出された手を握り交わす。

 そうして、ナイトも数日振りに心からの微笑みを浮かべる事が出来た。

 

 

 

 

「無事、話は解決したみたいだな」

「――――キリト、それにアスナも?」

 

 突然掛けられた声に驚き、何時から、とナイトは呟きを漏らす。

 今まで誰も居なかったはずの、特に身を隠せるような物の無い平野にいきなり現れた様にしか見えなかった。

 

「《隠蔽》スキルでそこの草むらに隠れてたんだよ。それに今は夜で、この黒革コートの補正が効いてるからな。スキル無しじゃ、相当気を付けないと見つけられないはずだ」

「……《索敵》も何もない俺じゃ無理だって事か」

 

 キリトが指し示した少々背の高い草むらを見て、仕方ないと思いつつもナイトは頭を抱える。

 システム上、スキルに加えて夜の暗さとそれに混ざる暗色系の装備を身に付けたプレイヤーを、索敵関係のスキルを持たない自分が見つけるのは難しい事だと理解しているが、そんな単純な隠れ方に気づけなかったのは情けなかった。おまけにスキルを持たないアスナが隠れているのにも気づけなかったのだからさらに悔しい。

 

「良かったね、ユウキ。ちゃんと仲直りできて」

「うん。ありがとうアスナ。ボクの背中を押してくれて」

 

 ナイトが頭を抱える横で、アスナがユウキを抱きしめて喜びを分かち合っていた。

 

「それじゃ、このお祝いに《トレンブル・ショートケーキ》を食べに行きましょう。もちろん、ナイト君の奢りで」

「ちょっと待て。勝手に決めんなコラ」

 

 突然の提案にナイトは財布の危機を感じて抗議する。

 そんな事は知らないとばかりにアスナは弱味を突きつける。

 

「元はと言えば、あなたが勝手な事をしてたから話が拗れたんじゃない。女の子を悲しませた罰として、これくらいは安いものよ」

「それを持ち出すな。返せる言葉が無くなる。…………ホール一個だけな。それ以上はほんっとうに懐が厳しいから」

「良いの、ナイト?」

「良いよ。甘い物は俺も好きだし。仲直りの景気づけにそれくらいは出すさ」

「ナイト……ありがとう。ごちそうになるね」

 

 懐は痛いが必要経費と割り切る。それに、それで笑って許して貰えるのなら安いものだろう。

 四人一緒に町へ戻り、前に入った《トレンブル・ショートケーキ》を出す店に立ち寄る。わだかまりが無くなった今、ケーキを囲む四人の空気は穏やかで、その日食べたケーキは以前食べた時よりも美味く感じたのだった。

 

 

 

 

 それから三日後。

 広大な迷宮区タワーの攻略は順調に進み、ついに第二層フロアボスの待ち受ける広間にまで到達した。

 ボス攻略に挑むプレイヤー達は、ボス部屋前の広大なスペースでグループごとに固まり、装備の点検やポーションの分配等に勤しんでいた。

 

「ひいふうみい――――四十六か。フルレイドには少し足りないか」

「前は居なかった人も居るのにどうしてだろう?」

 

 《レジェンド・ブレイブス》など、第一層ボスの攻略で見なかった顔ぶれを見かけるのにも関わらず、フルレイドの四十八人に満たない人数しかこの場に集まっていない。

 第一層の犠牲者が一人だけであった事を考えれば、《レジェンド・ブレイブス》だけが加わった計算にしてもフルレイドを超える人数が集まっても良いはずなのに、実際はそれにすら満たなかった。

 

「リーダーだったディアベルが死んだ影響は大きかったって事なんだろうな。それにもしかしたら、『あの事』に遭って参加を断念せざるをえなくなった可能性も――――」

「す、すみません」

 

 ナイトの呟きに謝罪の言葉が挟まる。

 その謝罪の言葉の主は、フード付のコートを深く被ってナイトの背に隠れるように縮こまっていた。失言だっただろうが、これから死闘に挑もうというのに敵だけでなく味方にも怯えているような状態はマズイと思い、活を入れようと声をかける。

 

「シャンとしろ。責任を感じるなら、なおさらお前の力で来れなかった奴の分まで働いてみせれば良い。その為にキツイ修行をクリアしてきたんだろう?」

「あ……はい」

「大丈夫だよ。ボクたちだっているし。みんなで協力して頑張ろう!」

「そう、ですね……頑張りますっ」

 

 ユウキのフォローも加わって、フードの男はフンッと気合を込める。

 それでも、あるグループをチラチラと気にしてはナイトの陰に隠れるような位置取りをする。その視線の先にいるのは《レジェンド・ブレイブス》だった。

 

「やっぱり気になるか?」

「はい。……やっぱりいけない事だったとはいえ、勝手にやめて……何日も音信不通でしたから、なんだかばつが悪くて……」

「でも、悪いことはやめないと駄目だよ。それに、ちゃんと謝ってみんなに許してもらわないと」

「そうですね……そうなると、良いですね」

 

 フードの男の声のトーンが下がる。ボス戦の後に控える彼の戦いを思えば、憂鬱な気分になるのも仕方のない話だ。《レジェンド・ブレイブス》に音信不通になった事を謝罪するのは序の口だ。その先に待つのは、事情を知る極一部のプレイヤーを除いた全てのプレイヤーに対して《罪》を背負って戦い続けなければいけない。

 いつ救われるか分からない罪悪を抱え続けるのは、相当にきつくなるのは想像に難くない。

 

「よう、お久しぶりだな、お二人さん」

 

 ユウキがフードの男を元気づけ続ける中、ナイトの背後から見事なバリトン声が聞こえた。振り向いた先にいたのはボス攻略戦で戦線を共にした巨漢の斧戦士のエギルだ。

 

「エギルさん、お久しぶりです」

「エギル! お久しぶり」

「聞いたぞ、仲直り出来たらしいな。まずはおめでとうと言っておくよ」

「う、うん。ありがとうエギル」

「余計な心配をかけてすまなかった」

 

 再会の挨拶を交わし、エギルとの旧交を温める。数少ない親しく話せる間柄と会って、自然と顔も綻ぶ。

 エギルは視界から外れるように控えていたフードの男に気づき、声をかける。

 

「よぉ。そっちは初めて見る顔だな。よろしく頼むぜ」

「よ……よろしくお願いします」

 

 消え去ってしまいそうな声で彼も挨拶を返す。事情を知るナイト達と違って、何も知らないエギルは心配そうにフードの男を見つめる。

 ナイトは彼の肩を組み、明るい声でエギルに向かって言った。

 

「安心してくれ。今は緊張してこんな調子だけど、役に立つと思って誘ったんだ。面白い技を使うから、期待していてくれ」

「そうか。お前がそういうなら、期待させてもらうぜ」

 

 さらに二、三言エギルと言葉を交わし、エギルは仲間の所へ戻っていった。

 エギルが離れていくのを見ると、肩を組んでいた彼の身体が弛緩した。

 

「すみません。さっきから気を遣わせてしまって」

「今からそんな調子だとボスに挑むとき疲れちゃうよ。もっとリラックスして」

「何度も言うが、今のお前の力は必ず攻略の役に立つ。何も怯える必要なんてないぞ、ネズハ」

 

 フードの男――ネズハが《体術》取得のクエストを始めたのが三日前。移動時間も考慮すれば、クエストに費やした時間は正味二日と言った所だろう。クリア経験からのコツを教えたと言っても、結局は多大な根気を必要とするあの試練をナイト達よりも短い時間でクリアできたのはネズハのやる気あってのものだ。「この世界で剣士になりたい」というネズハの一念が岩をも通した結果だ。その思いが得た力が弱いはずがない。

 

「『努力は人を裏切らない。なぜなら成功者はみな努力しているから』――てな。だから自信を持て。あのお岩を砕いてきた自分の手を信じろ」

「……――――はいっ! ありがとうございます」

 

 スキルモーションを感知したネズハの両手が赤く輝く。それはネズハが死に物狂いで得てきた力の証だ。

 ネズハはさっきまでとは違う力強い返事をして、両手をゆっくり開いて光を霧散させる。 

 この攻略部隊の――レイドリーダーに挨拶に行った二人が戻ってくる。アインクラッド第二層ボス攻略戦が目前に迫っていた。

 

 

 

 




よくある、河原で殴り合った末に互いを認め合うお話。のようなもの。
本編ではスルーしてるが、デュエル結果はクリーンヒットが多かった方がルール上勝った事になっている。

久々の戦闘描写。想像した動きが無理のない動作をしているか、またそれをちゃんと書き起こせているか。相変わらず不安である。

もうすぐ第二層が完結。
苦手な暑さに負けてたり、夏の風物詩を視聴したり、もうすぐ盆だったりと色々あるけど、スパ〇ボ新作までにはプログレッシブ一巻分を書き上げたい。

では、また次回。


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