SAO 〜少女の盾を目指した者〜   作:火星の渡鴉

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前後編のつもりだったのが、まさかの中編である。

前回から二ヶ月経ってしまいました。待っていてくれた人(が居たら)、長い間更新できなくてすみませんでした。



20:第三層にて 中

 翌朝。六時を過ぎた辺りでユウキは目を覚ました。身支度を整えて外に出る。念のためにと隣室で寝泊まりをしているナイトの様子を見に行き、部屋は空っぽなのを確認して階下に向かう。

 階段を下りる時、床から木目がそのままつながる踏板や手すりが目に入る。《ユーツリー》と名付けられた一本の巨大な樹を彫って出来た建物の造りには――それが仮想だとしても――何度見ても感嘆の息が漏れる。

 下りてきた一階の大ホールには、多くのプレイヤーとNPCが談笑しながら行き交っている。ホールの外周には食料品を売る店が軒を連ね、そこには朝食を求めるプレイヤーが並んでいる。その手前に席が設けられていて、その内の一つにナイトは座っていた。

 

「おはよう、ナイト」

「おっ――――ん……おはようユウキ」

 

 リンゴのような艶やかな赤い果実に噛り付いていたナイトは、口の中に入っていた分を呑み込んで挨拶を返してくれる。

 

「約束の時間までまだあるけど、何か食べるか?」

「そうだね~。ねぇ、ナイトが食べてるのは何?」

 

 これか、とナイトは赤い果実を持ち上げて見せ、ナイフを取り出して口を付けてない部分を綺麗に切り分けて差し出してくれた。

 見た目がリンゴに似ていたせいか、ユウキは躊躇いも無くそれを食べてみた。

 ゆっくりと咀嚼し、顔を顰めた。

 

「すっ、ぱ~い。酸っぱいよこれ」

 

 「眠気覚ましに丁度いいぞ」と、ナイトは苦笑いを浮かべながら残りに齧り付く。

 実の名称は『ジョナの実』と言い、名前と酸味が強いところからするとリンゴの紅玉の品種が元なのだろうか。赤い果実が何なのか気になったのはユウキ自身だが、苦笑いを――でもどこか楽しそうなナイトの微笑みに釈然としない気持ちになるユウキだった。

 でも、お詫びと口直しにと買ってきてくれたジョナの実のパイを食べて、そんな気持ちは吹き飛んでしまった。見た目はアップルパイそのものだが、実の酸っぱさを思い出したユウキは中々パイに手を付けれずにいた。ナイトが気にせず自分の分のパイを食べているのを見て、恐る恐るユウキもパイに口を付ける。パイはサクサクしていて、中の果肉も仄かに温かくて優しい甘味が口に広がる。思いのほかあっさりしていて、一口食べれば後は手が止まらなかった。

 

「やぁ。待たせてしまって申し訳ない」

 

 パイが食べ終わる頃にその人――今日の仕事の依頼主のヒースクリフは来た。前に流した銀灰色の髪に、痩身で高い背は真っ赤なローブに包まれている。剣技しかないこの世界でなければ、魔術師ではないかと思ってしまう。

 

「いえ、気にしてませんよ。それより、このまますぐに行きます?」

「ああ、私は大丈夫だ。これ以上君達を待たせる訳にもいかないからね」

 

 そう話をして、手早くテーブルの上を片付け、次に使う人が困らないように忘れ物がないか確認も済ませる。

 

「では、行こうか」

 

 ヒースクリフを先頭に、ナイトとユウキは《ユーツリー》の奥へと向かった。

 

 

 

 

 《ユーツリー》の上層にこの町の町長が居る。その町長に話しかけ、この《ユーツリー》にまつわる話を聞くのが、ギルドクエストの最初のミッションだった。

 

「ふぅっ――――んっ。長い話だった……」

 

 約一時間にも及ぶ大事業の話を聞いて、ようやく三人は解放された。

 じっとしていて固まったコリをほぐす様に軽く伸びをするナイト。だが、

 

「そんなこと言って。途中からずっと寝ていたじゃん」

「……まぁそうなんだけどさ」

 

 ユウキの言葉に否定はせず、ナイトはバツが悪そうに頭を掻く。

 

「あの様子だとあまり成績は良くないのではないかね、ナイト君?」

「……可もなく不可もなく。って所ですよ」

 

 少々リアルに抵触した内容だが、特に気にせず答える。

 

「言い訳させてもらえると、大筋を知っている話をただ黙って聞いているのは退屈なんですよ。このクエストに関して見直しもしてきましたし」

「それはありがたい話だ。だが、人の話はちゃんと聞くべきだ。知っている事でも、直に聞くと新しい発見があるものだよ」

「――――覚えておきます」

 

 そんな話をしながら、自警団のある詰所に足を運んだ。ギルドクエストを進行させるために町で発生するクエストをクリアして、名目上だが町へ功績を上げる必要がある。クエストには幾つか種類があるのだが、行うのは戦闘、討伐系がメインとなるクエストだ。

 自警団で話を聞いてクエストを発生させ、まずは『ズムフト』の町の南西にある森に向かった。

 森の中は高い木々に日を遮られ、少々薄暗い状態だった。だが、さほど影響は無い。元々システム上で夜目が効くので視界が真っ暗になる事はまず無いのだが、三人はスキルによる補正が効いているおかげで薄暗い森の中でも不自由しなかった。

 

「こちらにはモンスターがいないようだ。ユウキ君の方は?」

「――ボクの方も見当たらない。まだ暗いからモンスターも寝てるのかな?」

 

 冗談めかしてユウキは言う。ユウキとヒースクリフは《索敵》スキルで、それぞれ別の方向に目を凝らしてモンスターの存在を探していた。

 それに対して、ナイトは目を瞑っていた。それでも危な気のない足取りで歩を進めながら、二人とは別の方法で周囲を探っていた。

 

「…………向こうの木の陰に一体…………音の感じからして、結構大きいな」

 眼をつむったまま左手を上げて大木を指差すナイト。《聞き耳》スキルで森の中を動く音を聞き分けていた。

 スキルが戦闘系で埋まっていたナイトは第三層に来てから新たな感知手段として《聞き耳》スキルを試していた。まだ熟練度が低いので詳細までは聞き分けられないが、目で見るのとはまた違った感覚と利点に、面白味すら感じていた。

 

「一体だけなら、正面から行っても大丈夫かな?」

「他に居ないか警戒する必要はあるだろうが……まぁ大丈夫だろ」

「ふむ。では、各自警戒しつつ行こうか」

 

 頷いて、ユウキは剣を抜き、ナイトは大型盾を背中に設けたラックに掛けて、両手にナイフを一本ずつ持つ。ヒースクリフは盾剣士らしく、剣は腰の鞘に収め、左手に盾を握る。片手の空いているヒースクリフが音をたてないように手でカウントダウンをする。0になった瞬間、三人は弾けるように駆け出した。

 敏捷値の最も高いユウキが一番早くそれと対峙する。薄暗い森の中に溶け込むような暗い色の毛皮をした熊《グルーミィベア》が木の陰に腰を下ろしていた。

 ユウキの姿を視界に収めた熊は、ユウキを敵と認識してアクティブ状態に入り立ち上がった。立ち上がると三メートルを超える巨躯がユウキを見下ろす。

 威圧的なその姿にもユウキは恐れずに斬り込む。《スラント》で熊の脚を斬りつけつつその脇を抜けていく。

 先制攻撃を決めたユウキに熊の注意は引かれ、強靭な爪を足元を抜けていったユウキを追い回すように振り回した。最小限の攻撃だけで素早く距離を取ったユウキにその爪は届かずに空を切る。

 ユウキに気を取られた熊にヒースクリフが《バーチカル・アーク》を放つ。無防備な背中にV字の斬撃が刻まれる。剣戟がまともに入ったが、熊は特に堪えた様子も見せずに首だけを回して斬撃を食らった背後を振り向いた。そこに赤い軌跡を描いて飛来するナイフが熊の顔面を襲う。内の一本が熊の目元を掠め、ギャッ、と熊が小さな悲鳴を上げた。

 だが、怯んだのはほんの一瞬の事で、すぐに激高したかのように熊が吼える。衝撃を伴ったかのように空気を震わせるが、ユウキは怯まずに僅かな助走で熊の頭の上まで跳び、《バーチカル》を繰り出す。

 頭部を攻撃したユウキのソードスキルの隙をフォローするように、ナイトが背中のラックに掛けた大型盾を手に取り、盾を前面に翳して体当たり。間髪入れずに空いた右手で《体術》スキルを発動させて拳を打ち込む。立て続けに打ち込まれた衝撃で怯む熊に、ヒースクリフが背後に回ってソードスキルを放つ。

 前に、後ろに、とヘイトを散らしながら三人が《グルーミィベア》を追い詰める。

 

「――――っ?」

 

 不意に、音が増えた事にナイトが気づく。

 今まで他には何も居なかったはずの空間から、それが突然牙をむき出した事を《聞き耳》が感知した。

 

「ユウキ! 後ろから来るぞ!!」

「ッ!?」

 

 ナイトの声に反応したユウキは、身体を捻って剣を横薙ぎに払う。

 鉤爪の様な鋭い枝とユウキの剣が打ち合う。

 枯れ木の様な植物型モンスター《トレント・サプリング》。通常は《擬態》の能力で木のオブジェクト同然で索敵に引っ掛からないが、トレントの感知範囲内に入ると本性を現す。戦闘で動き回るユウキはその感知に引っ掛かり襲い掛かってきたのだ。

 

「いけない!?」

 

 偶然にも《トレント》と《グルーティベア》に挟まれる形となったユウキ。不運にも熊のヘイトもユウキに向いており、トレントの鞭の様にしなる枝に続いて巨大な熊の爪がユウキを襲う。咄嗟に剣を翳して爪を受けるが、強力な熊の一撃は軽いユウキの身体を易々と弾き飛ばす。

 

「――少し熊を頼みます」

「……任された」

 

 短いやり取りで行動を決める二人。

 両手に盾を持ち、一直線に逃げ回るユウキの元に向かうナイト。その姿を見送りながら、ヒースクリフも己が斬り込むタイミングを窺う。

 

「こっちだ!」

「ナイトッ!?」

 

 近づくナイトの元にユウキは飛び込んだ。

 飛び込んでくるユウキを覆い隠す様に盾が掲げられる。その上に二体のモンスターの攻撃が降り注いだ。

 

「――ダメージは?」

「大丈夫。まだいけるよ!」

 

 状態は視界の端に浮かぶHPバーを一目すれば分かるが、それでも確認せずにはいられなかった。

 問題ないと分かると、状況を確認して思考を巡らせる。

 

「そうか。なら――――熊にトドメを頼む」

 

 ユウキのカバーに入ったタイミングで、ヒースクリフが熊に大技を叩き込んで注意を引き付けていた。今まで削った分も含め、熊のHPはかなり減っており、ヒースクリフは的確に攻撃を盾で防ぎながらも攻勢に出ていた。そこにユウキが加勢すれば、この戦闘は確実だろう。

 ユウキは頷き、剣を構えて盾の陰から飛び出していく。

 ナイトはその姿を見送り、盾を叩く枝を跳ね除ける。

 

「……憂さ晴らしくらいはさせてもらおうか」

 

 迫る枝を両手の盾で跳ね除けながら、トレントに接近する。

 睨み合う様な距離まで近づくと、右手の盾を放り投げてベルトからナイフを抜き放ち、抉るようにナイフを突き刺す。痛みに顔を引き攣らせたかのようにうろの奥の青白い燐光が歪む。

 それに構わず、ナイトは拳を固く握り締め、渾身の《閃打》を突き刺したナイフの柄頭に叩き込む。ナイフに強烈な衝撃を打ち込まれ、トレントに刺さっていたナイフが芯まで貫くほど深く突き刺さっていく。

 ナイフの耐久度が無くなりポリゴン片となって散っていくが、代わりにトレントから「モロオオォォッ!」と言う雄叫びと共に大量のHPが減っていく。

 ほどなくして、《グルーティベア》を倒した二人も合流し、乱入者《トレント・サプリング》も爆散するのであった。

 付近にモンスターが居ない事を確認すると、ナイトとユウキはハイタッチを交わす。ヒースクリフもやれやれといった感じだが、右手を上げて二人とハイタッチを交わした。

 

「ダメージの方は?」

「私は大丈夫だ。回復の必要はない」

「ボクも大丈夫」

 

 不測の事態はあったが、幸い損耗は最小限で済んだ。

 状態の確認を済ませると、《索敵》と《聞き耳》スキルに集中してモンスターの捜索を再開した。

 

 

 

 

「……流石に少し疲れたな」

 

 椅子に腰を下ろしたナイトに疲労という名の重しが乗っかってきた。思ったより疲れが溜まってきている事を実感し、重めの溜息を吐く。

 

「しょうがないよ。朝からずっと動き尽くめだったもん」

 

 ナイトとは対照的に、疲れを感じさせない様子を見せるユウキ。

 獣狩りなど、自警団で受けたクエストを全てクリアし、その功績を町長に報告する事でギルドクエストが次の段階に進行する所で、ヒースクリフが一時休憩を提案してきた。

 時刻は19時を回っており、朝にクエストを開始してから半日は過ぎている。疲労も溜まってきているし、時間帯としては夕食時と、間を空けるには丁度良いと思い、その提案を受けた。

 ヒースクリフは「仮眠を取る」と早々に《ユーツリー》の宿スペースに向かった。ナイトとユウキは先に腹ごしらえを済ませてしまおうと、屋台で適当な物を見繕う。

 

「――ヒースクリフさんって強いね。前線に来てないのだが不思議なくらいだよ」

 

 切り分けられた梨のような瑞々しい果実を食べながらユウキは言う。話題のタネは限定的に組む事になったプレイヤーの事だ。

 

「そうだな。最前線に居たら、攻略組の中でも一目置かれていてもおかしくないだろうな」

 

 そう言って、焼いたベーコンのような薄切り肉を大量に挟んだトーストに齧り付くナイト。マスタードのような辛みがアクセントとなって食欲を誘う。

 今まで下層に居たと聞くヒースクリフの事を「守らなければ」とどこかで考えていた二人だが、実際にはそんな必要はなかった。盾剣士の見本と言えるほど堅実な戦いぶりは、守らなければいけないような弱々しさなど微塵も感じさせず、気付けばしっかりとした戦力として見ていた。残るクエストは後僅かだが、この調子なら問題なくクリアできそうだ。

 

「よぉ、お二人さん!」

 

 耳に馴染んだ豊かなバリトンが聞こえた方を向くと、見覚えのあるスキンヘッドの巨躯が見える。

 

「こんばんはエギル」

「こんばんは。……今日は上がりですか?」

 

 エギルの他に彼の仲間達も居る。各々食事や酒瓶などを持っていた。

 

「ああ。それより二人だけか? 後の二人はどうした?」

「キリトとアスナなら、この層に来てから別行動だよ。向こうはずっとキャンペーンの方を進めてる」

「そうなのか? てっきりお前達でギルドを組むんだとばかり思ってたんだがな」

 

 今は別行動をしていると言っても、一層のボス戦で組んで以来よくつるむ様になったし、フィールドボス戦でも当たり前のようにPTを組んでいた。そういう風に思われても仕方のない事だろう。

 ALSにもDKBにも入る気はないし、別行動はしても解散する事まで考えた事は無いから、いっそギルドを組んでしまった方が良いのかもしれない。が、

 

「その話はしてないからな。ギルクエがあるのだって、攻略本見てから知った事だし。それに……一応釘を刺されてるしな」

 

 確執が尾を引くのは仕方ないにしても、目の敵にされて難癖を付けられるのは流石に疲れる。単なる言い掛かりで済んでればまだいいが、攻略を進めていく上で問題になるような事態は避けたい。

 

「んだども、あんたらがギルド作ろうとしてるっちゅう噂を聞いたぞい」

 

 エギルの仲間の一人がそんな話を持ち出してきた。思いも寄らない話題に驚き、ナイトとユウキは顔を見合わせた。

 

「それって、誰が言ってたの?」

「――――朝早くに二人が町長の所から出てくるのを見たって言う人がいるらしいゾ。この層で町長の所に行ったとなると、ギルクエが真っ先に浮かぶからナ」

 

 疑問に答えたのは、いつの間にかユウキの隣の席に座っていたアルゴだった。

 

「いつからそこに居たんだよ?」

「まあマア落ち着いて。そんな事より……そこんところどうなんダイ?」

 

 空のコップをマイクに見立ててナイトに差し出してくるアルゴ。

 ナイトはめんどくさそうに頭を掻きながら、渋々答え始める。

 

「今ギルクエをやってるのは事実だよ。ただしっ! ギルドを作るのは俺達じゃない」

「ほうほう。一体どういう風の吹き回しダ?」

 

 ヒースクリフからの依頼で、以前世話になった礼のついでだと話すとアルゴは神妙な顔をして下がった。

 ヒースクリフの事を知らない者は首を傾げるばかりだったが、

 

「ボクたちが本気でギルドを作ろうと思ってたら、キリトとアスナも一緒にクエストに行ってると思うよ」

 

 とユウキが言うと、皆納得したように頷くのであった。

 ここに居る面子に誤解が解けたとは言え、噂として囁かれ始めているというのなら早めに誤解を解いておかなければ面倒な事になりかねない。親交があるおかげでスムーズに納得してくれた彼らと違い、邪推したり、中には誇張して言いふらす者が居ないとは限らない。

 

「アルゴ――――頼む」

「ん……随分気前が良いネ、ナーちゃん」

「アルゴの腕を見込んでだ。ボヤ騒ぎの内に何とかしてくれ」

「りょ~かい。まっ、一部は事実だかラ、完全鎮火には少し時間がかかると思っててくれタマエ」

 

 ヘラヘラと笑って言うアルゴだが、噂という無形の相手に対して情報を扱う彼女ほど頼りになる者は今のSAOにはいないだろう。他人を頼らなければいけないのは問題でもあるが、アルゴに任せた方が確実だ。

 

「ところで、お前達はこれから暇か?」

「ん? ああ、まだ時間に余裕はあるけど……」

「それなら、たまには一緒にどうだ?」

 

 エギルは酒瓶を持ちあげて言う。

 親交のあるエギル達と酒の席に付き合うのはやぶさかではないが、後に用事が控えているとなると考えてしまう。誘いを受けるかどうか悩むナイトだが、

 

「ボクは良いよ。ご飯の途中だったし、それにみんなで食べた方が美味しいよね」

 

 屈託なく言うユウキの言葉で、控え目にだが酒盛りをする事が決定した。

 テーブル一杯に様々な料理と酒瓶が広げられる。

 

「あ~え~……第三層迷宮区攻略を願って……乾杯」

『かんぱ~~い!』

 

 なぜか指名されたナイトの乾杯の音頭で細やかな宴会が始まった。

 

 

 

 

 酒――といっても酔う事は無いのだが、盛り上がった雰囲気で酔ったような気分になり、誰もが普段よりも饒舌になる。

 己の武勇伝。九死に一生を得たような事。他人には下らないような雑事。各々が得た情報。日々を必死に生きているからこそ、話のタネは尽きる事は無い。

 酒と肴が尽きるまで宴は続いた。

 

「酒も尽きたし、今日は終わりにするか」

 

 エギルの一言で宴はお開きとなった。

 片付けが始まる中、一人だけ動かない者が居た。

 

「ナイト……ナイト――――寝てる」

 

 ユウキはナイトの身体を揺すって起こそうとするが、起きる気配は全く無い。

 ナイトは椅子に沈み込む様にもたれ掛り、両手も力無くダラリと投げ出されていた。まるで糸の切れた人形の様に眠りについている。

 

「良かったら、部屋まで運んでやるぞい?」

「んーいいよ。このまま寝かせてあげて。もう少ししたら、ボクたちはもう一度出かけてくるから」

「そうなのか? だとしたら、誘って悪かったな」

「気にしないでよ。誘いを受けたのはボクたちの方だし、それにすんごく楽しかったから。だから、誘ってくれてありがとう」

 

 ユウキの笑顔の言葉にエギル達も笑みを浮かべ、テキパキと片付けを済ませて引き揚げた。

 

「オレっちも楽しかったヨ。ナーちゃんにもよろしく言っといてクレ」

 

 そう言ってアルゴも夜の街に消えていった。

 翌日からナイト達が作る新ギルド発足の噂に新たな要素が加わった。だが、その要素は多くの男性プレイヤーに複雑な思いを抱かせた。そこに一縷の希望を抱くプレイヤー達の間にそれがデマであると伝えられ、様々な思いが交錯する中、新ギルド発足の噂は少しずつ風化していったのだった。

 

 

 人が掃けて静かになった中で、ユウキは眠るナイトと向かい合う席に座った。

 

「今日は本当に楽しかったね、ナイト」

 

 感慨深げな様子でユウキは語りかけるように話す。

 眠るナイトにそれが聞き届く事は無いが、それでも口にしたかった。

 

「今度はみんなで……アスナやキリトも一緒に、今日みたいに楽しく騒ごうね」

 

 機会はあったはずなのに、色々あったおかげで今までそれをする事が出来なかった。

 友達と楽しく喜びを分かち合う。そんな些細な願いを夢見ながら、ユウキはナイトの寝顔を肴にして時間を潰すのであった。




色々思い返すなりして自分の文章が書けなくなっていたら、物凄く時間が流れていました。
ぼちぼち修正をしながら、遅いなりに続きを書き進めていますのでどうぞよろしくお願いします。


指摘、批判でも良いので感想をお待ちしております。
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