SAO 〜少女の盾を目指した者〜   作:火星の渡鴉

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久々の一万字越え。分量のバランス間違えているがご容赦を。


21:第三層にて 後

 夜の帳が下りた暗い部屋の中、淡いメニューウインドウの光だけが辺りを照らす。開かれたウインドウの明かりが照らし出す男の顔は笑みの形を浮かべている。

 暗く静謐な空間の中で、男は楽しそうにウインドウの中に綴られたモノを見ていた。

 

 

 

 

 陽の落ちた森の中は暗い。それでも、隙間から差し込む月明かりのおかげでまだ視界の確保は出来ていた。スキルを駆使して周囲を警戒しながら森の中を進むと、進行方向にモンスターの影を捉える。

 影の形は狼型。この辺りで該当するのは《ロアリング・ウルフ》というモンスターだけだ。厄介な特殊攻撃こそないが、一定値までダメージを与えると仲間を呼ぶタイプのモンスターだ。手こずっていると増援に囲まれてしまう危険がある。数は二匹。下手に長引かせないように順序良く確実に処理していきたい所だ。

 各々得物を構え、ハンドサインでタイミングを合わせて動き出す。

 まずはナイトが手前の方から聞こえる対象に向けてナイフを投げる。《投剣》スキルの赤い光が曳光弾のように森の中を走る。

 光を纏って飛ぶナイフは先頭を走るユウキを追い抜き、吸い込まれるように狼に刺さった。刺さるナイフも、それによって怯む狼の姿も《索敵》スキルによって光るユウキの目はしっかり捉えていた。すかさず《ソニックリープ》で追撃を行うユウキ。確かな手応えを感じ、着地しながら振り向いたユウキの目には一気にイエローゾーンにまで減っていく狼のHPバーが見えた。

 狼は倒れながらも首を上に向けて細長い喉を震わそうとしていた。このままでは狼の吠え声が森中に響き、仲間を呼び寄せるだろう。

 しかし、一筋の赤い光がそれを遮った。吠えようと伸ばしていた狼の細長い喉をナイフが貫き、遠吠えをキャンセルした。喉を貫かれた狼の元に剣を抜き放ったヒースクリフが駆け寄り、剣に黄緑色の光の帯を引きながら繰り出された一撃が狼の残るHPを刈り取った。

 

 

 残るもう一匹の狼は、最初に斬り込んできたユウキをターゲットに定めて向かっていた。狼はソードスキルの硬直で足を止めていたユウキに向かって猛然と飛び掛かる。ほとんど真上から体長二メートルに及ぶ体躯が襲い掛かってくる。小柄なユウキが上空から襲い掛かる巨体を正面から受ければ、押し倒され、転倒状態から噛み付き攻撃を連続でくらうだろう。

 けれど、それは盾役のナイトが許さない。ユウキと飛び掛かる狼の間にナイトは割って入り、背に掛けた大型盾が狼の牙を阻む。

 背に掛けた盾に狼は取りついてナイトを襲うとするが、技後硬直から回復したユウキがナイトの陰から飛び出し、真一文字に狼を斬り裂いて盾から払い落とす。そこにヒースクリフの追撃の一撃が決まり、狼はポリゴン片となって散っていった。

 

「「いえいっ!」」

 

 ナイトとユウキには戦闘後のお決まりとなっているハイタッチを、勢いでヒースクリフも混ぜて交わす。半日もの間、戦闘クエストを続けたおかげで単純な連携ではあるが不備は無く、消耗もほとんどしていない。

 周囲を警戒しながらも適度に気を抜いて、クエストの肝であるキーアイテムがあるダンジョンの捜索を始めた。

 

 

 

 

 遭遇するようになったクモ系のmobを蹴散らしながら森の中を進む三人の前に小さな丘が姿を現した。月明かりに照らされる丘の横腹に天然の洞窟が黒々と口を開けている。

 

「あれがキーアイテムのある洞窟かな?」

「そのはずだ。この辺りに他の洞窟は無いはずだからな」

 

 洞窟に近づくとカサカサと細かく動く音は聞こえるが、敵性反応は無い。入り口を覗き込むが光源になりそうな物はなく、洞窟内は完全な暗闇に等しい。

 

「……真っ暗だね。あまり奥まで見えそうにないよ」

 

 同じように奥を覗き込んだユウキが硬い声で言う。その言葉に応える様にナイトは松明を付ける。入り口付近を照らす光が蠢くクモのクリッターの姿を映し出す。

 松明の光は照射範囲が狭くて頼りない。無いよりはマシだが、視界が利かない状況では《索敵》スキルの範囲が著しく制限されるだろう。

 

「ボクが明かり持つよ。左手も空いてるし。ナイトは《聞き耳》に集中しててよ」

「だが、ユウキはユウキで動くのに邪魔になるだろ? 光源が動き回る訳にもいかないし」

「でも……」

「それなら私が持とう。盾で守りながらなら、前線で光源を確保しやすくなる。どうかね?」

 

 光量に左右されず、音で判別出来るナイトとしては《聞き耳》スキルによる警戒に専念したい所だった。だが、松明を二人に任せた場合、松明で片手が塞がる事による影響が何処まで及ぼすのか想像しづらかった。自身の負担とパーティー全体に及ぼすであろう影響。その二つを天秤にかけると、自ずと答えは決まった。

 

「やっぱり俺が松明を持つよ。《投剣》なら後方で支援も出来るし、それに《体術》があるから最悪素手でも戦える。その代わり――」

「分かった。では僭越ながら、壁役を務めさせてらうとしよう」

「なら、ボクもいつも通りアタッカーだね。任しといてよ」

 

 いつも通り。その言葉の通り、普段と変わらない戦いをする事を重視する。細かい調整とその負荷はナイトが自分で負えば良いと。そういう事が出来るスキル構成なのだからと考えた。

 暗闇の奥に目を光らせながらも、様々な音を聞き逃さないよう耳を澄ませて先導をするナイト。明かりを持つナイトを先頭に、カバーに入りやすいようヒースクリフを間に、足が速く素早い対応が出来るユウキを殿に置いて、三人は洞窟内へ入った。

 

 

 

 

 洞窟に入った三人を襲ったのはハシリグモ系のmobだった。その名の通り走り回るクモだが、松明の光が届かない暗闇から高速走行で襲い掛かってくるのは、中々に恐ろしいものがある。だが、ナイトの《聞き耳》スキルはその足音を捉える事が出来るので、余裕を持って待ち構えて対処する事が出来た。

 慎重に、しかし着実なペースで歩を進める。すでに此処を訪れたプレイヤー達によってマッピングは完了しているので、寄り道はせずに目的地がある地下二階を一直線に目指す。

 地下二階に下りると、一階のよりも一回り近く大きなハシリグモ系のmobが現れた。身体が肥大化した分一階のmobよりは強いが、それでもヒースクリフが築く前線が崩される事は無く対処できた。

 支援と警戒に集中できるのはありがたいのだが、壁役として堂に入った戦いぶりを見せるプレイヤーが今まで前線に出てこなかったのは不思議に思うナイトだった。後ろでじっくり観察できるからこそ、臆病風に吹かれて引き篭もるような人には見えなかった。とは言え、踏み込んでまで聞くような話でもないし、今頼りになっている事に変わりはないから、気にしてもしょうがない。

 さらに奥へと進み、目的地の部屋に繋がる十字路が見えてきた所でナイトの耳が異音を捉えた。枯れ木を擦り合わせる様な音。それが何のかは分からないが、規則的に発せられるそれが呼吸の様だと感じた。

 

「……何かいるの?」

 

 明らかに警戒の強まったナイトの様子を感じたユウキが剣を抜きながら問う。

 

「ああ。次の十字路を曲がった所に何かが居る。この様子だと、待ち構えているのかもな」

 

 各々臨戦態勢を整えてから歩みを進める。あえて十字路に近づくと、ソイツが動き出した事が分かった。《聞き耳》スキルなど関係ない。動く度にブーツの底を通して伝わってくる震動がソイツが大型モンスターなのだと報せてくれる。

 通路から巨大なクモが姿を現す。ちょっとした木の幹ほどもありそうな脚に、丸々と膨らんだ腹部。そして真っ赤に燃える幾つもの単眼が、三人の姿を捉えた。二段もあるHPバーと共に【Nephila Regina】が表示される。

 

「えっと……」

「『ネフィラレジーナ』。レジーナとは女王を意味する言葉だよ」

「つまり、あれがここのクモの女王様って事か」

 

 そんなやり取りをしながら女王グモと数秒の間睨み合い、「キシャアッ!」という咆哮を皮切りに三人揃って全速で後ろに向かって走り始めた。女王グモの事はしっかりと攻略本の中に記載されていてちゃんと頭の中に情報は入っていた。移動阻害系の特殊攻撃を持つので、狭い通路で戦うのは危険だ。

 走りながらマップを確認し、手頃な広さがありそうな部屋の中に駆け込む。入る直前にナイトは振り返ってナイフを一本投げ放ち、女王グモがちゃんと付いて来てくれるようにヘイト値を稼いでおく。ナイフが刺さった音でヒット確認をして、部屋の中に入る。

 先に入った二人が部屋の端の方に火をつけた松明を放って部屋の明かりとしていた。ナイトも適当な所に放り投げ、背のラックから大型盾を左手で取り、右腕に中サイズのラウンドシールドをオブジェクト化して付ける。ナイトとヒースクリフの盾持ち二人が前線を張り、ユウキがその後ろで構える陣形を取る。

 部屋に飛び込んできた女王グモは、その脚を止めようともせずに一直線にヘイト値を稼いでいたナイト目掛けて突進してくる。

 それに対し、ナイトは引かずに正面から立ち向かう。ぴくぴくっと震えたクモの右前脚が振るわれ、巨大な鉤爪が襲い掛かる。それを右腕の盾で受け、盾の湾曲を利用して後ろに受け流された右前脚が地面を貫く。続けて振るわれた左前脚を左手の大型盾で受け止める。鉤爪が耳障りな音を響かせながら強固な盾を滑っていき、地面に突き立って止まる。

 その交錯後、女王グモの動きが止まる。

 その時を計っていたユウキとヒースクリフが動き出す。ヒースクリフが手近な脚に向かい、鋭い横薙ぎの二連撃《ホリゾンタル・アーク》を叩き込む。ユウキは待ち構えて溜めていた脚力を開放し、一気にトップスピードで駆け出す。女王グモの両前脚の間に立つナイトの背を足場にして、速度を緩めることなく低く水平に跳んで、奥の膨らんで柔らかそうな腹部目掛けて突進突きの《レイジスパイク》を放つ。そのスピード故に、そのまま突き破っていきそうな一撃が女王グモの腹部を貫く。二重の強烈な光と音がクモの巨体を包み、耳障りな悲鳴を上げてその巨体を怯ませる。その間に二連撃を受け止めた痺れから回復したナイトが両前脚の内側、その奥にある頭部に向かって踏み込み、《体術》スキルの《水月》――右の前蹴りで女王グモの顎を蹴り上げた。

 女王グモが怯んでいる間にユウキは剣を抜いて飛び退き、ヒースクリフは足を斬りつけながら後退、ナイトは左の横蹴りを顔に当てて女王グモの正面に留まる。

 怯みから回復した女王グモの赤い単眼が眼前に留まる存在を捉える。その眼を剣呑な光で輝かせ、大きな顎を開かせた。毒を内包した巨大な牙で目の前に居る存在に襲い掛かる。

 迫るクモの牙をバックステップで躱すナイト。醜悪に感じる呼気と目の前で閉じられた顎がガキンッ!と強烈な音を響かせる。二回、三回と続けて襲う噛み付きをバックステップで躱し、付かず離れずの距離を維持する。強烈な勢いで迫ってきた顎がゆっくりと退いていくの見てとり、再びナイトは踏み込んで《体術》スキルでクモの顔を蹴る。ユウキとヒースクリフもそれぞれ左右の脚に分かれてソードスキルで脚を斬りつける。

 攻撃を受けて煩わしそうに女王グモが小刻みに足踏みをしたのを見て、即座に距離を取る。クモが八本の脚を一気に縮ませるとぐわっ、と空気を震わせて垂直に飛び上がった。巨体が洞窟の天井近くの高さにまで到達する。落下してくるタイミングを計って、女王グモに向かって跳ぶ。着地した女王グモから波紋状に振動エフェクトが広がり、ミノタウロスの《ナミング》と同種類の振動波が足元を通過していく。着地するやソードスキルで一斉攻撃を繰り出す。

 『ネフィラ女王』の事は先駆者――βテスターと先にクリアしたプレイヤー達のおかげで、遭遇する可能性も含めてある程度情報を得ていた。二枚盾という防御に専念したスタイルのナイトが女王グモの前に張りついて注意を引き、剣を持つ二人を可能な限り攻撃に専念させて少しでも多く早くダメージを取る作戦を考えていた。危険こそ伴うが、ナイトが崩されぬ限りは二人が攻めに全力を注げる。多少崩されても、盾を持つヒースクリフが回復するまでの間を凌いでくれれば問題ないと踏んでいた。

 結果、見込み通り戦闘は進み、五分足らずで大型蜘蛛モンスター『ネフィラ女王』の撃破に成功した。派手な爆散エフェクトに包まれながら、視界に獲得経験値などリザルト画面が表示される。

 それで緊張感は解け、ナイトは天井を仰いできく息を吐いた。

 

「お疲れ様。――でも」

 

 疲弊した様子を見せるナイトに駆け寄ったユウキは、拳を握って頭――には届かないから肩を叩いた。

 

「やっぱり無茶し過ぎだよ。もっと安全にやっても大丈夫な相手だったよ」

「まぁ……でも、これが俺の役割なんだが……」

 

 攻撃を引き付け続けたナイトだけはHPバーの色がイエローになるまで減っていた。その分ユウキとヒースクリフの損害が抑えられたのだから、『盾』であるナイトにとっては上々の戦果なのだが。

 

「それは解ってる。だけど、後ろで見てるボクはいつも心配なんだよ」

「それは……」

「ボクは、ナイトがちゃんと考えて行動してるってわかってるつもりだよ。でも、それだけは忘れないでいて欲しいな」

「――――分かったよ。ちゃんと忘れないようにする」

 

 それを聞いたユウキは「うんっ!」と笑って、部屋の隅でまだ火が付いている松明を拾いに行く。

 その姿を見つめるナイトにヒースクリフが近付いて肩を叩いた。

 

「中々に難儀なものだね。大変ではないか?」

「……嬉しい悲鳴と思って胸にしまってます。まぁ、気持ちは分からないでもないですから」

 

 苦笑を浮かべるナイトに、何か含みを持って笑うヒースクリフ。

 ポーションを飲みながら松明を持って呼ぶユウキの元に向かい、ダンジョンの捜索を再開した。 

 

 

 

 

 目的地である部屋は地下二階層の最奥に当たる。広いその部屋は壁がヒカリゴケか何かで淡い光を放っており、松明が無くても部屋全体を見渡す事が出来た。

 この部屋でキーアイテムが見つかる。部屋自体には気になる装飾は無いのだが、部屋の真ん中辺りに気になるものが転がっている。警戒しながら近付いてみると、人が倒れていた。ナイトは恐る恐る倒れている男の首筋に手を当てて脈を計ってみる――ゲーム内でその行為が正しいかどうかはともかく――が何も感じない。カーソルにも何も反応が無い事から、それが男の死体――のオブジェクトだと推察した。

 

「どうして、こんな所に……?」

「クエスト内容から考えれば、こいつが印象を盗んだ犯人という事になるんだろうが……」

 

 このギルドクエストの目的は『盗まれた印章を取り返す事』だ。盗まれた物を取り返す以上、盗んだ当人に会うのは当然の成り行きなのだが、それが(推定)死体になっているとなると流石に戸惑う。とは言え、目的の印章を取り返さない事には話が進まないので手分けして死体漁りを行う。

 

「あ……あった、かな?」

 

 ユウキが胸の内ポケットからそれらしい物をハンコを取り出す。ハンコをタップしてみれば『ギルドの印章』とアイテム名が浮かぶ。

 これを持ちかえればクエストクリアとなる。それを考えると思わず笑顔が浮かび、立ち上がってその場を去ろうとするが、『ギルドの印章』を持つユウキの足を何かがガシッと掴んだ。

 

「えっ……?」

 

 驚く暇も無くユウキは引きずり倒され、衝撃で『ギルドの印章』を落としてしまう。

 

「ユウキッ!?」

 

 ナイトが慌てて、起き上がった死体に《閃打》を叩き込んでユウキから引き剥がそうとするが、死体は特に堪えた様子を見せない。だが、死体はユウキから手を離し、素早い動きで床に落ちた『ギルドの印章』を拾って距離を取った。

 唸りながらこちらを睨む死体の上に一本のHPバーと【the Revenant】の文字が表示される。

 

「あれってゾンビ?」

「――の上位種みたいなものだ。ただのゾンビと違って知性があるらしいんだが……」

 

 獣の様に唸り声を上げる姿に知性は欠片も感じない。代わりにゾンビとは思えないほど機敏な動きを見せている。このタイミングで動き出したという事はアレがクエストボスになるのだろう。

 

「あのようなモンスターが居るとは聞いていないのだが……」

「うん。攻略本にもあんなのが出るなんて全然……」

「今まで出た事が無いだけなのかもな。何にせよ、やる事は変わらないがな」

 

 《印章》を持っている以上、アレを倒さないといけない。HPバーは一本だけだが、ボスであるのなら相応の強さを有しているはず。それでも三人掛りなら問題ない。そう思っていたのだが。

 

「待て。ナイト君、何か聞こえないか?」

「何かって? ……ん?」

 

 ヒースクリフの言葉で《聞き耳》スキルに気を向けると、確かに『音』が聞こえた。視線こそレブナントに向けてはいるが、《聞き耳》に集中して音を探る。

 

「二……三……五……いや……もっとか!?」

「ナイト。何が聞こえたの?」

「大量のクモのMobが、ゆっくりとだけどこっちに集まってきている。数は、十匹以上いる」

「そんなに!? どうして……?」

「分からない。けど、誰かが足止めしないとこの部屋になだれ込んでくる。それだけは阻止しないとな」

「一人で抑える気かね?」

「ええ。この中で俺が一番耐え凌げますから。レブナントの方は任せます」

「…………待って」

 

 新しい松明を付けて通路に向かおうとするナイトを、ユウキが呼び止めた。

 

「ボクが、一人でアイツを倒すよ」

「正気か? あいつの能力も判ってないのに、一人でやるなんて危険過ぎる!?」

「危険なのはナイトも一緒だよ。それにモンスターに無視されたら、ナイトの攻撃力だと止めるの難しいでしょ?」

「それは……」

「だから、ヒースクリフさんと二人でモンスターをこの部屋に入れないようにして。その代わり――ボクが一対一でアイツを倒すから」

 

 自信を持って、ユウキは勝つと言い切ってみせた。

 もしもを考えれば、防御力の低いユウキを一人にするのは恐ろしい。だが、ユウキに指摘された事に対してナイトは反論する術を持っていない。

 

「私も、ユウキ君の意見に賛成だ」

「ヒースクリフさん」

「ナイト君、どうやら私達の役目は彼女を自分の戦いに専念させる事だ。ユウキ君の言う通り、君が抜かれてしまう事態になればどちらかがmobを相手にする必要がある。それならば、初めから君と私でmobを食い止めるのに力を費やした方が彼女も戦いやすいのではないかね?」

 

 ヒースクリフが言っている事は十分理解できる。ただ、一抹の不安がナイトの決断を躊躇わせる。だが。

 

「ナイト、ボクを信じて」

「……ぁぁもう……それ言われるとどうしようもねーよ」

 

 それを聞いてナイトは頭を掻き毟りたい衝動に駆られる。

 それを言われるとお手上げだ。ナイトがここまで来れたのもユウキの力があってこそだ。ユウキの事を信頼してきたからこそ、今のナイトがあると言っても過言ではない。ナイトには、それを信じないという選択肢はない。だから、

 

「分かったよ。――任せた」

「任されたっ!」

 

 満面の笑顔を浮かべたユウキと拳を交わし、互いに向かうべき方向へ身体を向ける。

 

「すぅ――はぁ……」

 

 一つ深呼吸をしてからナイトは通路に入る。通路に入った瞬間、カサカサとクモが歩く音が頭の中を埋め尽くすほど耳に入ってきた。

 その音に顔を顰めながら、通路の脇に松明を刺し立てていつものように両手に盾を構える。

 準備が整った頃、こちらの接近を感知したのであろうクモが速度を上げて襲い掛かってきた。

 高速で這うように走ってくるクモを、ナイトは全力で蹴り飛ばす。蹴り上げられたクモは弧を描いて松明の明かりの向こう側へと消える。すると、クモの群れの音の雰囲気が変わった。

 

「来いよ。ただし、ここで通行止めだ」

 

 足元を踏み鳴らしてナイトはそう宣言した。

 

 ナイトがクモの群れとの交戦が始まろうとしている頃、ヒースクリフは剣を構えてレブナントと対峙するユウキを眺めていた。

 

「……さて」

 

 どこか名残惜しそうな様子を見せながら、ヒースクリフも通路に入っていった。

 

 

 

 

「ありがとう、待っていてくれて」

 

 剣を抜きながら、唸り声を上げて対峙するレブナントに向けて礼を言うユウキ。

 同時に早く何とかしてあげようと心に決める。クエストの為に用意されたNPCだったのだとしても、死から戻されてモンスターとなった存在に複雑な思いを抱かされる。

 だから、ここで解放してあげようと剣に思いを乗せる。

 

「――行くよっ!」

 

 その言葉を合図に、ユウキとレブナントの一対一が始まった。

 初撃。ユウキの放った振り下ろしの一撃は、モンスターらしく伸びた両手の爪を交差させて受け止めるレブナント。その姿に驚くユウキだが、すぐに気を取り直して素早い連撃で攻め立てる。だが、それも爪が硬質な音を響かせながら斬撃を弾き返す。

 剣戟の手を緩めず、ステップを加えて軌道と緩急の変化を付けながら防御を崩そうと試みる。しかし、一本の剣と両手の爪では、片方の爪を抜いてももう片方の爪の防御が間に合う。それでも剣戟の手を緩める事はしない。むしろ少しずつスピードを上げていく。

 レブナントの視界を埋め尽くすかのように斬撃が降り注ぐ。防戦一方ではあるが、レブナントは両手の爪で全ての斬撃を弾き返し続けていた。その中で軽い斬撃を弾き返した瞬間、斬撃の雨が止んだ。止んだだけでなく、それを放っていた対象が眼前から姿を消していた。そして、

 

「やあぁっ!!」

 

 気合の叫びと共に刀身が光を放つ斬撃がレブナントの右脇腹を斬り裂いた。

 

 

 視界を塞ぐように斬撃を放ち続けたユウキは、右側面へと回り込もうとステップを刻んでタイミングを計る。そして回り込む直前に囮の斬撃に合わせて上体を伸ばして正面に残す。剣が弾き返されると同時に上体を戻そうと身体を引き付ける。身体を引き付けようとした勢いを乗せて一回転しながらモーションを起こし、身体をスピンさせた勢いを乗せた《ホリゾンタル》でレブナントの右脇腹を斬り裂いた。

 

「どうだっ!」

 

 初のクリーンヒットにユウキは意気揚々と言う。

 想像以上に機敏に反応するレブナントに驚きを抱いたユウキだが、全く慌ててはいなかった。ユウキには防御の専門家と言える相手とのデュエル経験が十分にある。少しくらい防御が上手い程度なら、こうしてそれを抜いてみせる自信があった。

 まともに斬撃を食らったレブナントは飛び退いてユウキから大きく距離を取る。

 仕切り直しか、と剣を構え直しているユウキの目にレズナントに与えた脇腹の傷跡のエフェクトが少しずつ消えていくのが見えた。不思議そうにそれを見届けると、レブナントのHPが僅かだが回復した。

 

「えぇ~、そんなのずるいよ」

 

 落胆した声を上げるユウキだが、それならばと駆け出して攻めに行く。

 レブナントもそれに応じる様に走り出す。

 剣と、爪が振るわれ、交錯した斬撃が硬質な音を響かせる。

 そこから双方足を止めず、部屋中を駆け回りながら攻撃を交わし続ける。文字通り命の削り合いへと突入する。

 紙一重で攻撃を見切りながら、素早く的確な斬撃を与えるユウキ。それに対して自己修復を含めた耐久力の高さで相手を押し潰す様な強引な攻めを行うレブナント。ユウキは通常攻撃で有効打を与えてはいるが、レブナントの相打ち状態からのカウンターがユウキを掠める。防御力の低いユウキにとって、攻撃が掠めるだけでもHPは減らされる。

 削り合いはほぼ五分だったが、攻撃をまともに食らってはいけない分ユウキの踏み込みが少しずつ浅くなり、レブナントが優勢になっていく。

 慎重になって自分の攻撃の手が弛んできたのに気付いたユウキは、思いっきりレブナントの爪を弾き返して距離を取った。本来ならここで誰かとスイッチしてポーションで回復したい所だけど、一人だからそれは叶わない。臆病になりそうな気持ちを一つ深呼吸を挟んで落ち着かせる。

 僅かずつでも回復する相手との削り合いはやはり不利で、どこかで大技で圧倒しないと削り負けてしまう。いつもならスピードで引き離して間を作るなりする所を、防御度外視で突っ込んでくるレブナントにそれは上手くいかないでいた。

 どうにか決定的な隙を作ろうと思考を巡らせる中で、見慣れた背中がユウキの脳裏に過ぎった。新しいスキル枠に入れてからも使う機会が無かったスキル。もしもの時の保険になるかもしれないと思って組み込んだスキルの存在を思い出した。

 思考に耽って足を止めたユウキに、レブナントが一直線に向かってくる。

 レブナントが向かってきている事に気付いて、ユウキは足を止めたまま待ち構えた。

 突進からレブナントの右の爪が真っ直ぐに突き出される。近づいてくる爪に意識が集中する。その時、ユウキの目にレブナントの動きがゆっくりと、そしてはっきり映った。その事に構わず、ユウキは迫ってくる爪に集中してレブナントの動きを見て取る。爪をギリギリまで引き付けて、剣を翳した。

 翳した剣にレブナントの爪が当たり、激しいスパークが発生する。《武器防御》スキルによって盾代わりとなった剣が爪を受け止める。攻撃を受け止めた剣を傾けさせ、レブナントの爪を狙い通りの形に滑る様に左手を剣の腹に添えて誘導する。

 攻撃を受け流したレブナントの身体が後方へと流れていく。ユウキは痺れが残る右手の上に左手を重ねて剣を握り、たたらを踏むレブナントに攻撃を仕掛けた。

 

「はあぁぁぁああっ!!」

 

 素早い突きでレブナントの右肩、胸、左脇腹を貫く。ユウキの突きに構わず、レブナントは大きく左腕を振り払いながら振り返る。その左腕を屈んで躱したユウキは右手だけで剣を握り直し、撓めた膝を伸び上がらせて左肩、胸、右脇腹を突く。

 立て続けに剣を受けたレブナントの身体に硬直が発生する。左腕を振り払ったその体勢は無防備に胸を曝け出している。

 ユウキはそのチャンスを逃さずに渾身の一撃を繰り出そうとする。突きを放った右腕を引き戻しながら、軸足でその場で一回転する。光が刀身を包み込む。回転して得た勢いを殺さずに踏み込み、全身を投げ出すかのように右手の剣を突き出した。眩いまでの光が刀身を照らし出し、レブナントの胸を貫き、その遥か後方までをも駆け抜けていった。

 胸を貫かれて呻くレブナントのHPバーが一気に消え去り、まるで土に還るようにレブナントの身体が崩れ落ちていく。レブナントが崩れ落ちた場所に《印章》が転がり、ユウキの視界に【congratulation】の文字がに浮かんだ。

 

 

 

 

 血払いをするように剣を振ってから鞘に納める。張り詰めていた緊張の糸が切れ、ユウキは大きく息を吐いた。

 

「素晴らしい剣だった。見事だよユウキ君」

 

 柏手を叩きながらヒースクリフが歩み寄ってくる。少し遅れてナイトも通路から姿を現す。

 

「無事か、ユウキ?」

「ボクは大丈夫だよ。クモの方は?」

「さっき一斉に退いていった。あれは、レブナントの相手から逃げ出さないようにする為のギミックだったのかもな」

 

 そう言ってナイトはポーションを取り出して飲み干す。ユウキもポーションを飲み干し、HPが安全域まで回復すると一心地が付く。

 

「それより……見ていたんですか、ユウキの戦い?」

 

 ナイトがヒースクリフに疑問を投げかける。ヒースクリフも通路に入っていったはずだが、さっきの口振りからすると少なくても最後の攻防くらいは見ていたのだろうとユウキは思った。

 

「ああ。ナイト君が頑張っていた分だけ私は暇になってしまってね。時々ではあるが、いざという時の為にもユウキ君の方の様子も見ていたのだ。いや、本当に素晴らしいものが見れたよ」

「随分、興奮してますね?」

「うむ。特に最後のソードスキルは驚くほど美しい輝きを放っていた。ソードスキルがあれほど澄みきった光を生み出せるとは思いもよらなかった」

 

 頷きながら興奮した様子で語るヒースクリフ。

 なんだか過剰に持ち上げられている気がして、ユウキは急に気恥ずかしくなってきた。

 

「ねえ、ちょっと……」

「澄みきった光を放つ剣、か。……澄む……すむ……澄んだもの……清流……『清剣』と略せない事もないか?」

「なるほど、『聖剣』とかけて『清剣』か。中々悪くない響きだ」

 

 戸惑うユウキを余所に盛り上がりを見せる男二人。

 あーだこーだと語り合い、最後にはうんと頷き合う。そして、

 

「ユウキ君。今度から『清剣』を二つ名として名乗ってみないか?」

「ぜったいにイヤ」

 

 その提案をにべも無く切って捨て、プイッとそっぽ向くユウキだった。

 

 

 

 

 『ギルドの印章』を回収して、三人は『ズムフト』の街まで無事に戻ってくる。

 時間帯は深夜でほとんどの人は眠りについている時だが、構わずに町長の部屋を訪れてギルドクエストを完了させる。クエスト完了のリザルトを済ませると、ヒースクリフとのパーティー設定を解消させて別れる。ヒースクリフからの報酬は後日に、という事だがフレンド登録までしたので踏み倒すような事はないだろう。

 

「ごめん、ユウキ。不愉快な思いをさせて悪かった」

 

 朝までまだ時間があると休む為に部屋に戻る途中、不機嫌にしてしまったユウキに頭を下げるナイト。気が抜けた所に興が乗ったせいか悪乗りが過ぎてしまった。やり過ぎてしまったと自覚しているだけにちゃんと謝りたかった。

 

「……まだ怒ってるか?」

「もう、怒ってないよ」

 

 そう言って振り返るユウキ。怒ってはいないと口では言うが、表情はまだ不機嫌そうだった。

 

「でも、恥ずかしかったんだからね。勝手に二つ名なんて考えられたりして」

「あれは……悪かったよ、ホントに」

「もういいよ。謝ってくれたし」

 

 いつまでも怒ってるのも疲れるしね。と表情を崩すユウキ。

 その顔を見て、ナイトもようやく肩の荷を下ろす。

 

「お疲れさまナイト。今日は大変だったね」

「ああ。一日中戦い漬けだった様なもんだからな。……本当に無事に終わってよかったよ」

 

 互いに今日の労をねぎらい、ナイトはユウキの頭を優しく撫でる。

 洞窟での戦いは考えさせられる事ばかりだった。ユウキが積極的な防衛に出るナイトを見て心配するように、ナイトは自分が見えない所で戦うユウキに心配の念を抱く。互いに相手の力を認め、信頼している。けれど、足りない部分を必要とする時に自らの力を注ぐ事が出来ない事態に対して不安を抱いてしまう。相手が強敵だったから、一つ間違えれば本当の意味で命を落としてしまうから、力を尽くす事が出来ない時を辛く感じる。

だから、こうして無事に触れ合えている事に安心を覚える。そして、

 

「お休みナイト。またあし――じゃなくて、また朝にだね」

「お休みユウキ。また朝にな」

 

 こうして「お休み」を言い合える瞬間が、何よりの成果なのだとナイトは心から思うのだ。

 

 

 

 

 

「あ、あ~、ん。それじゃ、第三層ボス攻略会議を始める。会議の進行役兼今回のレイドリーダー担当のナイトだ。よろしく頼む」

 

 ズムフトの会議場で開催された攻略会議で、ナイトはレイドリーダーとして壇上に登る羽目になっていた。

 なぜこんな事になったか。依頼を終えた翌朝から攻略の為に迷宮区最寄りの村に向かったナイトとユウキは、その村でちょうど迷宮区に向かおうとしていたエギルのパーティーと再会した。軽い談笑を交わした後、人数がちょうど6人になるという事でエギルのパーティーに誘われたのだ。ナイトもユウキもその提案を断る理由は無いので、ありがたく誘いを受けて攻略区に挑む事となった。

 そして、どのパーティーよりも早くボス部屋の扉に辿り着く事が出来てしまったのだ。攻略組で定めたばかりのルールだという事で順守しなければならず、6人の中の誰かがレイドリーダーを担当しなければならないのだが、それが多数決でしかも満場一致でナイトが支持されたのだ。それも理由らしい理由など無い、強いて言うなら「この6人の中で一番向いていそう」という曖昧な理由が偶々一致しての支持だ。反論する取っ掛かりの無いまま、泣く泣くナイトはレイドリーダーを引き受ける事となった。

 決まった以上はちゃんと役割を務めようと努力する。集まったプレイヤー達の前で攻略戦のスケジュールや報酬などの大まかな決まり事を話し、戦術の話に移る所で一度言葉を切る。

 

「次に具体的な戦術の話をするのだが、その前に紹介しておく事がある」

 

 そう言って、ナイトは壇上の後ろに控えてもらっていたリンドに前で出てもらう。簡素な自己紹介をしてもらって、話を再開する。

 

「ボス戦の戦闘指揮は彼――《DKB》リーダーのリンドに任せる。俺は指揮など出来ないし、この層で正式にギルドを組めるようになったから、見ず知らずのプレイヤーより大型ギルドのリーダーに指揮してもらった方がやり易いだろうと判断しての事だ。みんな、よろしく頼む」

 

 その内容に、主に青い衣装に身を包んだ《DKB》のメンバーが湧き立つ。それ以外――特に緑色の衣装に身を包んだ面子――はまばらに拍手を送ったり、頷いたりしている。この辺りの事は予めリンドとキバオウと話し合って決めていた段取りだ。ちなみに指揮者の選出方法はじゃんけんである。

 具体的な戦術の話はそのままリンドに担当してもらう。《アルゴの攻略本・ボス編》の情報を元に各パーティーの役割を決定していく。

 一通りの質疑応答が済んだ所で、再びナイトが前に出る。

 

「それから、重要な情報があるという事で情報提供者は壇上まで来てくれ」

 

 と、ナイトはキリトに視線を送る。

 視線が合うとキリトは「何故?」という顔をする。情報自体は先に聞いているのだが、こういう事は情報を得た当人から話して貰った方が色々と手間が省けるのだ。ナイトが手招きまでするとその方向に視線が集まっていき、渋々キリトは立ち上がる。

 壇上に上がったキリトの口からキャンペーンクエストに関して詳しい経緯を聞く。フォールンエルフ登場の辺りで会議場がどよめくが、今は抑えてもらう。そして本題とも言える部分に話が突入する。

 

「結論から言えば、アイテムに関してはフロアボスに対して特別な効果は無かった。ただ……報酬を受け取った後、エルフの司令官が一つだけボス戦のアドバイスをしてくれたんだ」

 

 その先を聞き漏らすまいと、一同は静まり返る。しかし、

 

「えーと…………『ボスは毒攻撃をしてくるから、解毒Potはたくさん用意しておくように』……以上」

 

 キリトの言葉に会議場は微妙な空気に包まれる。正直な所、基本的な事過ぎて「それだけ?」という思いが強いだろう。ナイトも最初に聞いた時はそう思ったくらいだ。

 だからナイトはそこに言葉を付け加える。

 

「攻略本を確認すると、ベータ時代のボスに派手な毒攻撃は見当たらない。これから察するに、かなり派手な毒攻撃が追加された可能性が高いと考えられる。……という訳で、今回のボス戦は持てる限りの解毒ポーションを用意してくれ。何か質問は?」

 

 一度話を切ると、会場内がざわめき出す。単純すぎて拍子抜けに思う者もいれば、下手なアイテムより重要な情報だと主張する者もいる。賛否が飛び交う中で会場内を通る声が響く。

 

「ベータ野郎が聞いた情報だけじゃ安心できねえ。俺たちもキャンペーンに挑んで他の情報を聞き出してこようぜ」

 

 どこかで聞いた金切り声から出た提案にプレイヤー達は耳を傾ける。他にも情報があるかも、という誘惑に賛成の声が上がる。

 キャンペーンに挑もうという気概が高まりつつある中、ナイトは口を開いた。

 

「その提案は却下してもらう!」

 

 その言葉に会場内が静まり返る。ナイトが口にした内容が浸透していくと、何故だ、という疑問が怒号となって飛び交う。

 

「どうして情報を探しに行っちゃいけねぇんだ? さてはまたお前たちが情報を独占する気だろ!?」

 

 例の金切り声が先導となってナイトを責め立てる声が上がる。

 酷く耳障りな声にレイドリーダーを放棄したくなるが、一つ呼吸を挟んで、《体術》スキルを発動させて靴裏で床を思いっきり叩く。床を叩いて響く音と振動に気取られて、会場内に静けさが戻った。

 

「理由はちゃんとある。これはDKB、ALSの両ギルドリーダーと話し合って決めた事だ」

 

 これには騒いでいたプレイヤー達も、現在攻略を担う二大ギルドのリーダーも関わっているとなると姿勢を正して聞かざるを得なかった。

 会場内を一度見回し、全員の聞く様子を見てからナイトは理由を語りだす。

 

 理由はいくつかあり、一つは情報を得てきたキリト達はベータ版では死亡するはずのダークエルフを生存させ、味方に付けた上でキャンペーンクエストをクリアした事だ。ベータ版には無かった展開から得た情報という事で、この情報は信憑性が高いという事が一点。また、そのクエストが負けイベントとされるほど相手のエルフのレベルが高い事から、味方になるエルフの生存は難しいのでは協議された事も理由に含まれる。

 次にキリト達がキャンペーンを攻略中に他のパーティーとバッティングした事だ。これにはリンドとキバオウも関わっており、複数のパーティで挑んではいずれかのパーティーが攻略を断念する必要が出てくる可能性があるという事。加えて、キリト達が三つ巴になった事から同陣営のクエストでもバッティングする現象は起きる事が示唆され、一度に大量のパーティーをキャンペーンに挑ませるのは非効率になると考えられた。場合によってはプレイヤー間での潰し合いに発展しかねないと当事者でもあるリンドとキバオウからも援護射撃が飛ぶ。

 そして、キャンペーンクエストのクリアには日数がかかるという事だ。場合によっては時間をかけてもいい事だが、ここに集まるプレイヤーの多くは早期のクリアを望んでいるはずだ。日数がかかる上に一度に大量のパーティーを挑ませる事がしにくい為、情報を得る為に時間を徒に浪費する可能性が考えられた。

 以上の事から、今からキャンペーンクエストに挑むという事は却下するという方針が決まった。

 

 それらを語り終えてなお、キャンペーンに行こうという声が上がる事は無かった。不満そうな表情を浮かべる者はいたが無視する。

 その代わりという訳ではないが、ボスに挑んだ際、現在の情報にない未知の行動をとる様子が見られたら即時撤退。情報収集には各々の方針に任せるという旨を伝えた。

 これで今話すべき事は全て話した。質問も上がらない様子を見て、改めて解毒薬を用意する事を言明して会議を締めくくった。

 

 

 演壇を降りたナイトを迎えた仲間達に向けて開口一番に、

 

「二度とレイドリーダーなんてやらん」

 

 と言った。

 

「どうして? すっごく決まってたと思ったけど」

「ガラじゃないんだよ。人前に立ってあれこれ話すのは……」

「あら? 私は正面から意見をズバズバと言っているイメージが強いんだけど?」

「物事を指摘するのと、人を率いるのは全然立場が違うだろ。自分の言葉に責任は持とうとは思ってるけど、何人もの意見を受け止めて背負うのは、流石に重過ぎる」

「確かに。リーダーとなると、一人だけの問題じゃすまないからな」

 

 今から背負うであろう重責を前に、愚痴を仲間達に吐露する。

 けれども、これから先は違う重責を進んで背負いに行くのだろうと思う。自分が背負えるものを、背負いたいと思うものを、守りたい仲間の命を守る為に全てをかけるのだろうと。自分は『盾』なのだからと、改めて思うのであった。

 

 

 

 

 2022年12月21日水曜日。

 アインクラッド第三層ボスモンスター《ネリウス・ジ・イビルレント》は、七パーティーは四十二人のレイド部隊によって倒された。

 ナイトの最初で最後になるであろうレイドリーダーとして挑む戦いは、第二層に続いて犠牲者ゼロで終わった。

 

 




これにて第三層編終了。

やらせたかった事、言わせたかった事、言わせてみたくなった事など色々あった分だけ細部が煮詰めきれてない感が……特に舞台にしたギルクエの元情報が半端過ぎて……でもやり過ぎると冗長になるのがな。
文章をまとめる力がもっと欲しいこの頃。

次回は第四層編。
だが、三層編に倣って原作組と同行する部分は大幅カットの予定で、描く予定なのはあの日常イベントくらいになるかもしれない。

批判、指摘でも良いので感想をお待ちしています。
次回もよろしく。
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