カルルインの街のとある民家で、夜ごと謎の怪奇――いや超自然現象が起きる。原因は地下にあると思われるので、地下墓地を件の家の真下にあたる場所まで移動すると、そこには如何にも怪しげな古の礼拝堂があった。横長の椅子が何列も並び、奥の壁際には半壊した怪しげな石像が立っている。光源は床の数箇所でちろちろと燃える蝋燭だけ。
四隅に据え付けられている蝋燭を消すと、礼拝堂の中はほぼ完全な暗闇に包まれた。視界には何も映らない、歩く事もままならないほどの暗闇の中で、不意に床の中央に青白い光が灯る。
三層の蜘蛛洞窟に生えていたようなヒカリゴケでもなく、発光するマジックアイテムでもない。一切の熱を感じさせない……それどころか氷のような冷たさを帯びた、虚ろな光。
オオオォォォォ…………。という木枯らしのような音が礼拝堂の空気を揺らす。
床から、何かが染み出すように姿を現わす。青白く透き通った、枯れ枝のように細い、ヒトの手。怨嗟に満ちた声を響かせながら、腕から肩、そして頭が床から湧き上がる。ほつれた長い髪、がりがりに痩せた体。這い出て来たのは女の姿をしていた。しかし両眼があるべき場所には赤い鬼火がちろちろと輝き、口からは鋭い牙がはみ出している。
得物に手を掛けて注視するが、一向にカーソルは出てこない。しかしただのNPCでも、ましてやプレイヤーでもない事は確実だ。その姿を見た者はきっとこう呼ぶだろう。
あれは、幽霊だと。
恐怖を煽るかのようにたっぷりと時間をかけて全身を露わにした幽霊は、鉤爪の生えた両手を振りかざすと甲高い声を迸らせた。
「ヒオオォォォォォ…………!!」
途端、礼拝堂全体がガタガタと激しく揺れる。長椅子が次々と倒れ、壁や天井からは細かい石のかけらがこぼれ落ちる。
反射的に得物を構え、厳戒態勢のまま幽霊の姿を見据える。
その間もゴーストは悲鳴じみた声を上げ続け、礼拝堂の震動は激しさを増す。明らかにこの現象が夜ごと起きる謎の怪奇――とある民家を揺らしている原因だと思われる。
長く感じられる数十秒が過ぎて、揺れが少しずつ弱まり始めた。幽霊の声も徐々に薄れ、遠ざかり、やがて消えた。
再びシンとした静寂が訪れる。怪奇は治まった。が、警戒態勢は解けないでいた。
幽霊の姿は、未だにそこにあった。
そこは偶然にも、この場で最も怯えていた少女の目の前三十センチの場所に。
落ち着きを取り戻して目を開いた少女と、青白い燐光を放つ幽霊の赤い火の目があった。
「い、いやああああああああ――――――――!!」
先刻の幽霊の叫び声を遥かに上回るボリュームで悲鳴を迸らせて少女――アスナは隣で支えていたキリトに全力で抱きつき、顔をコートの胸に押しつけた。
夜が明けた頃、カルルインには無数の水滴が空から地面へと降り注いだ。
「珍しいね、雨なんて」
「偶の雨なんてリアル志向なのは結構だが、鬱陶しいのがな」
昨夜も訪れた地下墓地の入り口で、二人は空を見上げながら呟く。
たかが天気と言いたい所だが、装備が完全に水を含むと水濡れエフェクトが発生し、動き辛くなってしまう。特に軽装スタイルのユウキなんかには意外と厄介なペナルティとなる。そういう理由もあって、今日は屋内での行動が中心となる予定だ。
「悪い…………待たせたか?」
「いや、そんなに」
雨が降りしきる中、黒いレザ-コートの襟を立てただけで前髪から水を滴らせる少年――キリトとフードを目深に被った少女――アスナが地下墓地に駆け込んでくる。昨夜に用事があるからと第四層に下りた二人は、知人から舟を譲って貰えたおかげで、早々にその用事を済ましてきたのだ。
「ふうん。……ここが目的地のクエストがあるわけね」
ケープに付着した水滴を払い落としながら、初めてここに来たアスナが興味深そうに内装を眺める。
キリトは濡れた前髪を掻き上げ、ウインドウを開いて可視モードに変更し、クエストタブの受注済みリストを開いた。
「ああ、《迷子のジェニー》はクリアしたんだ」
「うん。キリトたちと別れた後にボクたちだけでやっちゃったけど……マズかった?」
「いや、そんなことないよ。後は《悪趣味な収集家》って特定の遺物を拾い集めるやつに、《三十年の嘆き》って地下墓地のどっかを彷徨ってる悪霊を……」
「にえっ!」
突然アスナは奇妙な叫び声と上げ、右手で説明するキリトの口をバシッと塞いだ。
びっくり顔でモゴモゴ何かを言おうとするキリトを、ありったけの眼力で黙らせてから、ゆっくり手を離す。
一同はしばらく沈黙していたが、やがてユウキが恐る恐るという風に口を開いた。
「アスナ……いまの、にえっ、って何?」
「…………ロシア語の『ノー』よ」
「なぜにロシア語? ……で、何がノーなんだ?」
「それは……えーと……クエストのネタバレ禁止ってことよ」
苦しい説明だと思ってるのか口元が引きつってるが、言ってる事はナイトも理解を示す事だ。キリトも大いに納得した表情で頷いた。
「そっか、そうだよな。フロア攻略に関連する必須クエストならまだしも、単発物ならストーリーを知らない状態でやりたいよな……」
「そ……そうよ。というわけでキリト君、なにも言わずに先導してちょうだいっ」
「ん? 俺が先導していいのか?」
「効率的に動くなら、内容を知っているあなたが先導するのが一番でしょ」
アスナの提案にキリトは腕を組んで考える。それで良いのか? とユウキとナイトに視線を送るが、二人とも問題ない、と頷き返した。クエストは既に受注を済ませている。無駄なく消化して回れるなら、それに越した事はないのだ。
「そっか。それじゃ……みんな準備は出来てるか?」
『おうっ』
キリトの号令に、各々得物を鳴らしながら答える。
キリトを先頭に、四人揃って地下墓地の下り階段を下りていった。
そうして、キリトの先導で最初に訪れたのがこの朽ちた地下礼拝堂。キリトの口から告げられたクエストタイトルは《三十年の嘆き》。
依頼主は毎夜――午前二時頃に起きる謎の振動現象に悩まされていた。その家の直下にこの朽ちた礼拝堂があり、小男のNPCが定期的に蝋燭を取り換えに訪れているようだ。具体的な時間は不明だが、小男の話からすると朝から夜の間は蝋燭の火が灯っているが、深夜には消えていると思われる。その灯りが消えているであろう時間帯に、直上に在る依頼主の家で怪奇現象が起きていると推測され、試しに蝋燭の灯りを消して真っ暗闇にしたら、その原因と思われる幽霊が現れた、という事である。
「う……うぅ……ぐすっ」
間近でホラードッキリを食らったアスナはキリトの胸に縋り付いて泣きじゃくる。脇で見ていたナイトも、あれは怖いだろうなぁ、としみじみ思った。
「なぁユウキ。お前、アストラル系――ああいう幽霊って大丈夫な方か?」
「う~ん、得意じゃない、かな? 今はゲームで、そういうのが来そうだなって思ってたから、思ってたより落ち着いてるけど。……そういうナイトは?」
「俺は、苦手だな。殴ってどうにかなりそうな相手じゃないし……そもそも殴れるかどうかも怪しい相手だからな」
ナイトの答えにそういう問題なのかな、とユウキは首を傾げる。
偶然かそれとも狙ったのか、この空間で一番怯えていたアスナに幽霊は今も数十センチしか離れていない所から鬼火のような両眼でアスナを見ている。
いつまでもあんな状態なのはさすがにイヤだなぁ、とユウキは思う。
最初はモンスターかと思われた幽霊だが、冷静になってみればここはまだ圏内。危険なものは出てこないはずなのだ。なら、あの幽霊はモンスターではなく、クエストイベント用のNPCの可能性が高い。つまり、
「キリトっ。このオバケに話しかければイベントは進むか?」
「ああ。任せていいか?」
「おう。……えっと、幽霊さん。君はどうして、この礼拝堂で暴れているんだ?」
ナイトが幽霊に話しかけると、幽霊はグリンと首を動かして顔を向けた。しばらくして、エコーのたっぷり効いた、木枯らしのような声を響かせた。
「…………ここから……出られないから…………」
「どうして出られないんだ?」
「…………ここに……閉じ込められたから…………」
幽霊と向き合って話すのはおっかないが、おおよその当てが付き、その後も幽霊との会話をスムーズに続けた。
彼女(?)がこの礼拝堂に閉じ込められたのは三十年前、まだ生きていた時である事。
閉じ込めたのは、当時将来を約束していた男である事。
その男への恨みゆえに、この場所に縛り付けられている事。
以上の情報が開示されると、幽霊は姿を消し、その気配は遠ざかっていった。
「終わったぞ……」
「…………どっかいった?」
「うん、幽霊の姿はもうないよ」
「…………もう出てこない?」
「う、うん、まあ、いまのところは」
それを聞いて、アスナは深く息を吐いた。いつまでも真っ暗なのもあれなので、ナイトとユウキが手分けして蝋燭の火を点けて回る。
その間、ドッキリを食らわされた形のアスナは捲し立てるように文句を言い続けた。最後に今のを速やかに忘れて、今後ことさら話題に出したりしないように、脇で見ていたナイトとユウキにも釘を刺して締めた。
その後、幽霊が出てきた場所を捜索し、黄金のペンダントを発見してひとまず街へと戻った。クエストアイテムタグが付いているそれをNPCに鑑定してもらうと、古代の遺物ではなく、カルルインの街の豪商一族の紋章だと言われ、その屋敷へと向かう。幾らか苦労して一族の領袖だという五十絡みの男と面会し、地下墓地でペンダントを見つけた事を告げると、男は過去の罪を涙ながらに告白。三十年前に付き合っていた娘が邪魔になり、遺物拾いに誘うふりをして地下礼拝堂に閉じ込めて、ペンダントはその時娘に引き千切られたのだと言う。
明らかに怒りを覚えたアスナを、クエストが途中終了してしまうからと宥めながら、男を地下の礼拝堂へ連れいていく。一度点けた蝋燭を再び消すと、青白いオバケ――というか、レイスの娘が再登場し、豪商の男が床に頭を擦りつけて謝罪すると、呪いが解けたのかスウッと消滅した。
男を屋敷まで送り、幾ばくかの報酬を受け取って部屋を出る。扉を閉めた途端、その向こうからガタガタと強烈な音と男の悲鳴が響き渡り、再び扉が開いた時にはもう男の姿はどこにも無かった……という中々に背筋がぞっとする結末で、クエスト《三十年の嘆き》は終了した。
「……なんだか、子供の教育に悪そうなクエストだったわね」
「気にするような事か? 大筋だけを見れば、ありがちな話だと思うぞ」
「そうかもしれないけど……」
アスナは納得のいかない顔をするが、実際気持ちの良くないストーリーなのは理解している。幽霊を無事に成仏させて解決かと思いきや、最後の最後に復讐を果たしたかのような終わりを迎えている。スッキリしない所か、解釈の次第では思いもしない事に利用されたとして、後味の悪い思いをさせられる。
だからといって、これっきりのクエストに悩まされても無駄に疲れるだけだ。どこかで割り切ってしまった方が色々と楽だ。
「今日はまだ始めたばっかりなんだ。さっさと次のクエストに取りかかろうぜ」
溜息を吐きながら、ナイトはそう促す。
「そうね。次のクエストもささっと終わらせちゃいましょ。……収集家のやつは、オバケを相手にする必要はないでしょう」
「まあ、たぶんな。もしかしたら遺物に取りついたオバケは出るかもだけどな」
「……」
「キリト。あんまり意地悪なことを言わないでよ」
気を取り直して、四人は暗い口を開ける地下へと再び降りていった。
残る地下墓地のクエスト《悪趣味な収集家》は、地下一階を探索してクエストアイテムタグが付いた遺物を集めるものだった。集めたアイテムは、武器にはなりそうもない石剣や異様な機構が隠れてそうな仮面に妙にデフォルメされた埴輪など、凡そ価値が無さそうな物ばかり。昨夜の《迷子のジェニー》探しの最中に幾つか見つけていたおかげで、さして時間も掛からず、特に山場も無く、クエストはクリアしたのだった。
街で受けたそれ以外のクエストも夕方までに終了させると、一行のレベルは一つずつ上昇した。
一段落ついた事で攻略を切り上げ、レストラン《ブリンク&ブリンク》を訪れる。五層開通三日目となる今夜も、予想外に閑散としていた。夕飯時なのに、外のテラス席にも店内にも他のプレイヤーの姿はない。
「あれー……」
いぶかしい顔で昨日と同じテーブルに座ったキリトが、卓上のメニューを見て再び眉を寄せる。
「どうした?」
「いや……例のブルーブルーベリータルト、まだ売り切れてないんだよな。てっきり今日あたり、開店前から行列ができると思ったんだけどなあ」
「へえ……地下墓地に遺物拾いの人たちいっぱいいたのにね。みんな、視覚ボーナスなしでやってるのかな?」
「そう、なのかなあ」
キリトが首を傾げていると、NPCウェイトレスが注文を取りにきたので、とりあえずオーダーを済ませる。
「それにしても、まだ売ってるとなると食べたくなるな、ブルブルタルト。バフ効果はともかく、味もけっこう好きなんだよな」
「そうだな。俺も気に入ったよ、あのタルト」
ブルーベリーの爽やかな甘酸っぱさとカスタードクリームの濃厚な滑らかさを思い出しながら、ナイトも頷く。
また頼むかどうかメニューと睨めっこする中、首を傾げたアスナは疑問の声を上げた。
「……でも、どうして売り切れてないのかしら。遺物拾いをするのに、あんなに便利なバフはないのに」
「アルゴも知らなくて、攻略本に書いてなかった。とか?」
「いや、待てよ。それ以前に……」
キリトがふと眉を寄せ、転移門広場の方を見やる。
あっ、とユウキが何かを思い出したように声を上げた。
「ねえ、さっき道具屋に寄った時、ネズミ印の攻略本見かけなかった気がするけど……誰か見た人いる?」
「言われてみれば……。今までは、どんなに遅くても開通翌日の夜にはその層の第一号が発行されてたのに」
「うーん。向こうにも色々都合はあるんだろうが……気になるな」
「……一応、メッセージ飛ばしてみるか……」
そう言うとキリトは、右手に持っていたフォークを置いてウインドウを開いた。手早くホロキーボードを叩き、数秒待ってから眉をひそめる。
「……届かないな……」
「他のフロアにいるんじゃないのか?」
ナイトが最も蓋然性が高いであろう推測を口にすると、キリトは一瞬視線を泳がせてから、
「いや……今の、フレンド・メッセージだから」
と答えた。それを聞いてナイトは腕を組んで唸る。
相手の名前さえ解っていれば誰にでも送れるのが利点のインスタント・メッセージがあるが、文字数制限が厳しく、相手が同じフロアの街か屋外にいなければ届かないという難点がある。一方、フレンド登録している相手にのみ送れるフレンド・メッセージは、文字数が多くて他のフロアにも届く。だがこちらも、ダンジョンやインスタンスマップでは範囲外となって届かない。
つまり、そのフレンド・メッセージが届かないという事は、相手がダンジョンに潜っているという事になるのだが。
「でも、初回の攻略本を後回しにするほどの情報が、ここのダンジョンにあったかな……」
「ここの、って地下墓地の?」
「ああ……」
キリトはちらりと視線をテラスの床へと向ける。
「俺たちが今日クエストで歩き回った地下墓地の地下二階からはダンジョン扱いで、圏外なのは喋ったよな」
「うん。地下何階まであるのかは聞いてないけど……」
「それは三階だったかな。一応最深部にはボスがいて、そいつを倒すと次の街への近道のトンネルを通れるようになる」
「単なるサブダンジョンじゃないって訳か。それなら、アルゴが情報を集めるのに潜っていてもおかしくなさそうだな……」
その意見に、キリトはしかめたままの顔をほんの数センチ上下させた。
「ああ……そうかもな。街と直結したダンジョンだから、攻略本第一号でしっかりフォローしておこうと思って情報を集めてるんだろう」
「きっと、すぐにそのへんからぴょろっと現れるわよ。今までみたいに」
「そうだな。……さ、食っちゃおうぜ」
ようやく話の落とし所を見つけて、キリトはウインドウを消して再びメニューを手に取る。余っているのなら遠慮なく、という事でデザートにブルーブルーベリー・タルトを追加注文した。
今日はこれで休むことにして、宿屋も兼ねている《ブリンク&ブリンク》の二階に部屋を取る。
翌日の合流時間を確認し、お休み、と言葉を交わして各々部屋に行く所を、ナイトは一人食堂に残ってテーブルにつき、フィックルワインを注文した。
グラスには赤のスパークリングが注がれ、綺麗な赤色の外観にクリーミーな泡が見え隠れする。渋味が支えとなっているそれを味わいながら、ブルーベリーなどの黒系フルーツを使ったスイーツも合うと言っていた身内の酒飲みの話を思い出す。タルトと合わせて味わってみれば良かったな、と少しだけ悔みながら、新しくワインをグラスに注ぐ。今度は白だ。
注ぐ度に中身が変わるフィックルワインは、くじを引くような楽しさも味わえるのでナイトは気に入っていた。泥酔する事が無い為、かなり速いペースでボトル一本を空ける。
気になる事を解消しに行こうか考えていた所で、耳がある情報を拾う。テーブルの陰に隠れてコソコソと動く影が一つ。目では捉え辛いが、耳ではしっかりその姿を把握している。予想はしていただけに、つい口元が綻んでしまう。
行き先は分かっているので、正面扉の前に先回りする。
「考えてる事は一緒みたいだな……ユウキ」
振り返ると、フル装備で身を屈めて進むユウキの姿があった。
あ、と少しびっくりした表情を浮かべ、観念したかのようにゆっくりと立ち上がる。
「ナイト……ボクはさ……」
「気になるんだろ、アルゴの事が?」
「う、うん」
「じゃ、行くぞ」
そう言って、ナイトは扉を開けて外に出る。
ユウキも慌てて、行ってらっしゃいませ、と声をかけてくるNPCを置き去りにして、《ブリンク&ブリンク》の正面扉から外へと飛び出した。
「やっぱり、ナイトも気になってたんだ?」
「まあな。情報に関しては任せっぱなしだし、偶にはその恩を返したいからな」
駆け足で地下墓地に向かいながら、ユウキの問いに答える。
今までずっとアルゴの作る攻略本に世話になってきた。新しい情報であっても高い精度を持って提供されるものにどれだけの恩恵を得てきたか。攻略において、アルゴが積み重ねてきた功績は大きい。
だからこそ、彼女に掛かる負担はとても大きい。新しい情報を逸早く提供する為に誰よりも早く、多く、自らの足で未開の地を訪れている。攻略本の情報を元に対策を練ってダンジョンを進む攻略プレイヤーと違って、安全策が確立されていない状態で危険な場所に足を踏み入れるのだ。それも一人で。
彼女とて人間だ。ミスの一つや二つくらいするだろうし、一人ではどうしようもない事態くらい普通にあるはずだ。信用しているとはいえ、最も綱渡りな行いを続けていると言っても過言ではない彼女の仕事を、楽観的に判断するのは、やはり甘い考えなのだろうと思う。
アルゴは死なせてはいけない人材の一人だ。ナイト程度の攻略プレイヤーならどこかで代わりが見つかるだろう。だが、アルゴの様な情報屋の代わりが見つかる保証はどこにも無い。
目的の地下墓地に辿り着き、さっさと地下一階に下りる。大広間には遺物拾いか何かで寝泊まりしてるプレイヤーが数人いた。その中にアルゴの姿はないか探すが、それらしい影は見当たらなかった。
落胆するのもそこそこに、まずはボス部屋があるという地下三階まで下りようと考える。そこで、ナイトは階段から猛スピードで駆け下りてくる音を捉えて振り返った。そこには、
「ナイト……ユウキもか」
「キリト。キリトもアルゴのことが心配で?」
「ん、まあ、ちょっとね……」
階段を駆け下りてきたキリトと顔を見合わせる。もう休むはずだったのに、こんな所で鉢合わせた事に驚きがない事もないが、結局の所、皆同じ考えだったのだろう。
アルゴは頼りになる知人で、友人とも言える仲だ。彼女の安否が気になるなら、その確認の為に予定を変えてダンジョンに潜るくらい訳無いのだ。
「キリト、先導頼む」
「OK。遅れずに付いてこいよ」
言葉少なに行動を決め、三人は全速でダンジョンの中を駆けていく。
心配がただの杞憂ならそれで良い。大事なのは、アルゴが無事であるのを確認する事だ。
サブタイを考えるのと、そのセンスの無さが辛い今日この頃。
最近は特に筆も話の進みも遅いですが、御容赦下さい。