SAO 〜少女の盾を目指した者〜   作:火星の渡鴉

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二話分書いていたので、遅れました。

所謂、ボス攻略前編になります。


08:挑戦。コボルドの王

 昨日、『会議』が行われた噴水前広場に続々と人が足を踏み入れる。

 

「おはよう」

「おはよう!」

 

 それはナイトやユウキも同様で、集まった人と挨拶を交わす。普通に挨拶を返す人もいれば、微妙な表情をする人もいる。中にはナイトだけを無視したり、睨めつけるような視線だけを送る者もいる。それ以外の理由もありそうだが、昨日の会議の影響は小さくなさそうだ。

 

「おはようございます」

「おお、おはよう。今日はよろしく頼むぜ」

「こちらこそ。そちらも気を付けてください」

「みんな、頑張ろう」

 

 黒人の巨漢――エギルをリーダーとするB隊の面々とは軽く談笑する。リーダーのエギルを初め、B隊は大人と呼べる人たちが集まっていた。おかげで余計な気を遣わずに会話を交わす事ができた。

 

「おはよう」

「おはようアスナ、キリト」

「ああ、おはよう」

「おはよう、ユウキ」

 

 やはりというべきか、人だかりの外側にキリトとアスナが居た。

 並んで立つ二人の間に微妙な空間があるのが気にかかるが、それ以外は特に変わった様子は見られない。

 

「あ! アスナ、靴新調したんだ?」

「え? ええ、そうよ。前のはボロボロだったから」

 

 ユウキの声に惹かれて、ナイトもアスナの足元を見る。昨日は大分損傷していた感じの白い靴が、今は傷一つない新品のブーツに代わっている。

 

「へぇ、良いんじゃないか? 動き回るフェンサーなら足回りに気を遣うのは良い事だな」

「そ、そう?」

 

 良く見ればフーデットケープも昨日より綺麗になった気がする。ブーツ以外は隠れて見えないが、他の装備も新調したりしたのだろう。キリトの方を見れば、何やら納得した顔で頷いている。

 しばしの間、談笑を続けると時間が午前十時となった。

 

「みんな、いきなりだけど――ありがとう!」

 

 例の如く、噴水の縁に立った青髪の騎士ディアベルが美声を張る。

 広場に集まった人数は四十六人。ボス攻略に挑む者たちは誰一人欠ける事は無く、集合場所に集まった。

 

 

 

 それから二時間半の行軍を経て、攻略部隊はボス部屋の前に到達した。

 

「――俺からは以上だ。何か質問は?」

 

 ディアベルからの確認と注意喚起が終わり、部隊の後ろにいたキリトが隠れながら手を上げた。

 

「一点だけ。ベータテスト時の……攻略本の情報と異なる状況が発生した場合はどうする? ディアベル、リーダーのアンタから撤退の指示が出ると考えていいか?」

「もちろん、人命が最優先。でも事前のシミュレーションは完璧さ。誰も死なせやしない」

「相手にせんでええで、ディアベルはん。こいつらあんさんの指揮ぶりを知らんから、そないな杞憂が出てくんのや。合同練習にも参加せんと、乳繰りおうてたヤツらが偉そうに口出しすなや」

 

 キリトは必要な事を聞いたと思うが、横からキバオウが茶々を入れてくる。しかし合同練習には参加してない上に、ディアベルの指揮能力を知らない以上は返す言葉もない。

 話す事が無くなると、ディアベルは銀の長剣を高々と掲げ、大きく一度頷く。他の攻略メンバー全員も、各々の武器をかざし、肯き返した。

 青いロングヘアーを靡かせて振り向き、騎士は左手を大扉の中央に当てて――

 

「さあ――――行こう!」

 

 短く一言だけ叫び、思い切り押し開けた。

 

「ええか。あんましゃしゃり出んと、大人しゅうしとけや」

 

 ボスへと続く扉が開かれていく中、キバオウがキリトの傍に寄って釘を刺しているが、気にした所でどうしようもなさそうだ。

 

 

 

 広い。それがナイトがボス部屋を見て最初に思った感想だった。暗い、が奥行きが分かる程度には明度が設定され、奥に向かって延びる長方形の空間が視界に映る。扉から壁までの距離が百メートル。左右の幅が二十メートル。それが、マッピングの完了した地図の空白から推定される部屋のサイズだった。

 数値上の空間と違って、実際に体感する空間は数値以上のものを感じさせる。

 そんな事を考えていると、暗闇に沈んでいた部屋の左右の壁で粗雑な松明が燃え上がり、奥へ向かって次々と火が点いていく。大量の松明が部屋を明るく照らし、部屋の様相を――最奥にある粗雑だが巨大な玉座の姿を映し出す。

 そして、その玉座に座る巨大な影とその脇に控える三つの影を――。

 先頭に立つディアベルが長剣を高く掲げ、巨大な影に向けてさっと振り下ろした。

 それを合図に、総勢四十六名のプレイヤーは盛大な鬨の声を上げつつ、一気に大部屋へと流れ込んだ。

 

 

 

 第一層のボス。個体名《イルファング・ザ・コボルドロード》。骨斧と丸盾を手にした二メートルを超える巨漢のコボルド、獣人の王ともいえる存在。

 それに挑むのは、壁役のAとBの二隊と、攻撃役にディアベル率いるC隊とD隊が中心となる。さらに長柄武器を装備したプレイヤーをFとGの二部隊に分け、支援と妨害を行う。キバオウ率いるE隊が遊撃、取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》を中心に相手をする。ナイト達はH隊に分類され、遊撃隊のサポート――取り巻きの相手が役割である。

 重武装で固めた《センチネル》が振り回す長斧を盾でしっかり受け止め、お返しに片手棍の振り上げの一撃《アッパースイング》で顎をかち上げる。

 

「スイッチ!」

 

 そこを合図と共にユウキと入れ替わり、がら空きになった弱点の喉元をユウキの剣が貫き、《センチネル》が一体四散する。取り巻きといえど、ボス部屋専用のレアモンスターの《センチネル》を相手に馴染みとなった連携も問題なく通用した。

 取り巻きの相手に回ったG隊の壁役として援護に入るナイトとユウキ。G隊のリーダーと確認を取りながら、ローテーションでポーションでの回復を行う。

 その最中、各戦闘の状況の確認を行う。攻略部隊に集まったのは現状のトッププレイヤー達が集まったというだけあって、どこも危なげなく戦闘は推移している。

 ボスの《ロード》を相手にしている部隊も、左端に映る各パーティーの平均HP残量が8割以上をキープしているという余裕のある状態で戦い続けている。他に《センチネル》の相手をしているE隊もほとんど消耗していない。いや、向こうはほとんどアスナと、特にキリトが持っていっている。E隊が回復のローテで手間取っている間を切り込み、無駄を感じさない動きで《センチネル》の首元を斬り裂いた。

 

「スゴいな、キリトの動き。人って、あんなに綺麗に動くことができるんだね」

「ああ。とんでもないな、あいつ。……ここに居る中でも群を抜いてそうだ」

 

 最適化された。とでも言うべき鮮やかな剣捌きに、見ていた者達からは感嘆の息が漏れる。

 最前列のディアベルから「二本目!」という叫びが響いた。それに惹かれてみると、《ロード》の四段あるHPバーの内の一つが消えていた。それを合図に、追加の《センチネル》が奥にある壁の穴から出てくる。

 

「来たぞ!? 壁を頼む!」

「――あいよ」

 

 向かってくる《センチネル》を目にしたG隊のリーダーにそう答え、役割を果たすためナイトは前に出た。

 

 

 

 第一層のボス攻略は、想像以上に順調に推移していた。

 攻撃部隊は順調に《ロード》のHPを削り、壁役が何度かHPを黄色くさせる程度で、危険域の赤まで落ちることは無い。最初は取り巻きを相手にしていたG隊も、今ではボス攻撃部隊に加わっている。

 取り巻き相手も、G隊をメインの方に回した当初はE隊とH隊に分かれて相手をしていたが、元々取り巻きは本隊に向かわせなければ十分なくらいだ。いつの間にか《センチネル》には、キリトとアスナで一体。ナイトとユウキで一体。E隊で一体という奇妙な分担が出来上がっていた。キリトは一人でも《センチネル》の相手は問題ないほどで、ナイトも押し留めるだけなら一人で何とかなる。明らかにバランスが悪いが、特に問題なく相手をしていられた。

 鎧で身を固めていても、打撃属性のメイスにはあまり問題にならない。《センチネル》が振り回す長斧をナイトは盾で受け止め、鎧の上からでも関係なくブッ叩く。頭を殴ってスタンを起こすか、長斧を弾き飛ばして出来た隙を、ユウキが逃さず切り込む。それが時間は掛かるが一番消耗が少なく、確実な戦い方だった。

 ポリゴン片に変わる《センチネル》を見送ると、他の二匹も既に処理が完了している。《ロード》の方を見ると、順調にHPが削れているが、次が湧くまでまだ余裕がありそうだ。僅かな間でも暇な中、キリトとキバオウが一緒にいるのが気になり、そちらに近寄ってみる。

 

「わいは知っとんのや。ちゃーんと聞かされとんのやで。あんたが昔、汚い立ち回りでボスのLAを取りまくっとったことをな!」

「……」

 

 気になる会話だ。LA――トドメの一撃。今が初めてのボス戦である以上、キリトが過去にそれを取ったという事は、ここ以外のどこかの出来事だ。どうしてキバオウはそんな事を聞かされているのか。そして誰がそんな事をキバオウに聞かせたのか。疑問は尽きない。

 疑問で頭がいっぱいになる中、前線の方から歓声が弾けた。《ロード》の長大な四段のHPバーが、ついに最後の一段だけになった。

 

「ウグルゥオオオォォォ――――!!」

 

 《ロード》が一際激しい雄叫びを放ち、同時に壁の穴から最後の《センチネル》が飛び出してくる。

 同時に、《ロード》が大きな行動――右手の骨斧と左手の革盾を投げ捨てるのが見えた。もう一度高らかに吼え、右手を腰の後ろに持っていき、ボロ布が粗雑に巻かれた柄を握りしめた。

 

「…………違う」

 

 それを疑問に思ったのは偶然だった。このゲームのタイトルが『ソードアート』だから、どんな剣を使ってみようかと刀剣図鑑を開いた事がある。やった事のあるファンタジーゲームでその剣を用いた事があるなど、そんな些細な経験から、一般的にタルワールと呼ばれる剣とボスの握る剣の造りが違う事に気づいた。

 

「あ――なにが違うんや、ワレ?」

 

 自分の隊に戻ろうとしたキバオウは、近くまで来ていたナイトの呟きを聞き取り詰め寄ろうとする。

 

「一般的なタルワールは、十字型の鍔と円盤状の柄頭が一体になった柄が特徴の曲刀だ。でもあれは……」

 

 遠くからではシルエットしか見えない。だが、ボロ布を巻いただけの柄に緩く反った長大な刀身。ある意味良く見知った刀剣が、獣人の王の手に握られている。

 

「まさか……!? ダメだ、退け!!」

「!? 下がっとれ!!」

 

 叫びながら前線に向かおうとするキリトを、キバオウは押さえつける。

 

「おどれ、そんなにLAボーナスが欲しいいんか?」

「待てキバオウ。今そんな話をする時じゃないだろ?」

 

 ナイトは、キバオウをキリトから引き剥がす。

 興奮か焦りか、キリトは荒い息を吐きながら叫ぶように言う。

 

「あれは日本刀だ! あのコボルド王は……ベータとは別物だ!!」

「っ!?」

「ベータやと? おどれ、やっぱり……!?」

 

 キバオウの驚愕を無視して、弾かれるようにキリトとナイトは前線の方を振り向く。

 

「全力で後ろに跳べ――――ッ!!」

 

 キリトのあらん限りの叫びは、《ロード》が始動させたソードスキルのサウンドエフェクトによってかき消された。

 《ロード》の巨体が床を揺るがせ、垂直に跳んだ。空中で身体を捻りながら落下してくる。その巨体に溜め込まれたパワーが、深紅の輝きに形を変えて竜巻の如く解き放たれた。

 深紅の輝きは、水平に三百六十度の軌跡を描く。

 カタナ専用ソードスキル、重範囲攻撃《旋車》。一撃で、《ロード》を取り囲んでいたC隊が斬り裂かれた。視界の端に映るC隊のHPバーが、一気に半分以下に減り黄色く染まる。同時に、床に崩れ落ちる五人の頭を回転するおぼろな黄色い光が取り巻いている。一時的行動不能状態――スタンも引き起こしたのだ。

 

「あぁあああかん……追撃が……」

 

 突然の事態に、ほとんどが動けずにいた。

 スタンで動く事のできない一人の前に《ロード》が近付き、無造作にカタナを振り下ろす。

 しかしその一撃は、唯一範囲攻撃を躱していたディアベルが盾で庇った。

 

「ディ、ディアベルはん……!」

 

 キバオウが――ディアベルの活躍に喜色の歓声が上がった。

 その歓声に押されるように、動きを取り戻すプレイヤー達。

 

「壁隊、ピヨったC隊を救出してくれ!」

「オウ!」

 

 傍を駆け抜けるキリトの声に応え、エギル達B隊が最前線の救援に駆け出す。

 《ロード》の元へ向かって一番前を駆けるキリト。その行く手を阻む様に《センチネル》がキリトの前に躍り出た。

 

「そいつは任せろ!」

 

 キリトを追走するナイトは盾を放り投げ、重しを下ろした分加速してキリトを追い抜き、両手で棍を握り直す。キリトの進行方向から退かす為、横薙ぎの《スマッシュブロウ》で《センチネル》を殴り飛ばす。

 走り抜けるキリトを見送り、殴り飛ばした《センチネル》に向き直るが、いつの間にか追いついていたユウキが《センチネル》を斬り裂いていた。

 

「えへへ、ブイっ」

「――ったく、出来た相棒だよ」

 

 ユウキにVサインを返す。でもすぐに表情を引き締め、放り投げた盾を拾いながら前線の援護に向かう。

 いち早く向かったキリトと、その背に追いつくアスナがディアベルの元にもうすぐ辿り着こうという時、ディアベルは剣を構えて叫んだ。

 

「よし、武器の打ち払いを頼む! オレが喉を撃つ!!」

 

 ディアベルが単独で《ロード》に斬り込んだ。

 それに応えるかのように《ロード》のカタナも刀身が輝きだす。

 

「やめろディアベル! 防御に専念しろ!!」

 

 キリトが必死に叫ぶ。その必死さは、いっそ悲痛なほどに。

 だが、ディアベルは無視した。構わず、エフェクトで輝く剣を《ロード》に向かって解き放った。 

 

「――――これで、決める!!!」

 

 

 

 だが、淡い輝きは、より大きな輝きの前に呑み込まれた。

 

 

 

「ディアベル――――――――」

 

 《ロード》から放たれた赤い軌跡。それはディアベルの身体を通り過ぎ、鮮やかに赤いエフェクトが迸った。

 カタナはディアベルを両断し、急速にHPバーが減っていく。そのスピードは緩む事は無く、あっさりと全て消え去った。

 

 その先は、誰の目にも見慣れたものだった。

 

 ディアベルの身体はポリゴン片へと変わり、四散する。それはモンスターと変わらない光景。

 それが、この世界の死なのだ。

 攻略部隊の指揮官、騎士ディアベルは、この時死を迎えたのだった。

 




大人数戦闘で、あまりグダグダにならないようカット気味に展開を進めていますが、流れが不自然になっていないか気になる所。

後編分は大体出来てますので、二、三日以内を目標に仕上げる予定。
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