ハリーポッターと深き魂の黎明   作:るりむジャイ子

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プロローグ

 

以前来た時はあんなに活気のあった魔法省のホールが、今は自分の呼吸と心臓の音だけで満ちているようだった。磨き上げられた床がいやに冷たい。

緑の閃光が魔法使いの像を吹き飛ばした。吹き飛んだ頭部が、黄金の噴水に隠れたハリーのそばを転がって、床に大きな傷をつける。

 

「出てこないのか?ポッター……」

 

杖をハリーの隠れた像に向けた、ヴォルデモート卿が立っていた。恐ろしい蛇のような顔は蒼白で落ち窪み、縦に裂けたような瞳孔の真っ赤な両眼は、加虐の愉悦に満ちてハリーのいる方へと視線を向けている。

 

「出てこねば戦えぬぞポッター……出てこなければ名付け親の仇は討てん……」

 

再度激しい憎しみが、ハリーの胸に湧き上がった。ハリーはじりじりと噴水の反対側へと回りこむ。そのとき、また緑の閃光があたりを照らした。弓を持ったケンタウロスの腕がくるくると回りながら飛び、ハリーはまた身を屈めざるを得なかった。腕が金色の魔法使いの頭部の近くの床にドスンと落ちる。

 

「無事でよかった、ハリー」

 

金色のゲートの前に大柄な男が立っていた。黒く全身を覆う外套をきて、分厚いグローブとブーツで身を固めている。顔には紫のラインが走るヘルメット。首元には、そこだけ白いペンダントのようなものが見える。足元からは恐竜のような尻尾がのぞき、背中には何かを背負っている。少なくとも、それがただのリュックサックではないことだけは明らかだった。

 

「ボンドルド先生!」

 

ハリーは叫んだ。魔法省に来て騙されたと知ったハリーを、はじめに助けてくれた大人。再び安心感が湧き上がり始める。

 

「先生──ごめんなさい、僕……シリウスが───」

「大丈夫ですよ、ハリー」

 

ボンドルドはヴォルデモートから目を離さずに続ける。

 

「今は一度、落ち着いて。全てが落ち着いてからにしましょう」

 

ボンドルドは、ヴォルデモートがいる噴水の前まで、ゆったりとした余裕を持った様子で歩いてくる。

 

「神秘部の者か……引きこもるばかりで戦えぬものが何用だ……」

 

ヴォルデモートは隠れているだけのハリーよりも、突然現れた不可解な人物に興味があるようだった。

 

「こんばんは、トム。私はボンドルド。神秘部の部長を務めています。」

 

ボンドルドは先ほどと変わらない、優しい口調で続ける。

 

「あなたとも話したいことがたくさんあるんですよ。ですが、可愛いハリーを殺されてしまうのは困ります」

「守れると思うのか?このヴォルデモート卿を前にして『アバダ ケタブラ!』」

 

緑の閃光が走る。ボンドルドは気にもしていない様子で、緑は心臓に飛び込む。

 

「おっと」

 

多くの死を招き、ハリー以外に生存者を残していないその呪文だが、ボンドルドは鼻血ひとつも出ていないようだった。

呪文が当たったはずの胸にあるのは、赤く焼かれたようなコートの穴がひとつ。

 

「素晴らしい・・・・・・これに穴が空いたのは初めての事です」

 

ボンドルドは出来のいい生徒の発表を褒めるように、ヴォルデモートの死の呪文を称賛した。

 

「そこらの品ではないようだな……だが、何度も防げるほどでもあるまい」

 

ヴォルデモートは、呪文が効果を発揮しないことに初めこそ驚いていたようだったが、胸の穴を見て愉悦の笑みを浮かべた。

ヴォルデモートは杖を上げ、振るう。その一振りごとに緑の閃光が走り、ボンドルドに向かう。

 

「月に触る(ファーカレス)」

 

ボンドルドは袖から覗く射出口から、黒い触手を打ち出した。触手は魔女の像をつかみ、盾にする。光は魔女の胸に当たり、虚しく散っていく。

 

「明星へ登る(ギャングウェイ)」

 

ヘルメットに光が走ると、数多の光線が放たれた。殆どの光線はボンドルドが盾にした魔女の像に向かい、残りは地面や天井、誰もいない左右に広がった。しかし光線はあらゆる場所を反射して、最終的に全てがヴォルデモートに殺到した。ヴォルデモートは杖をふるい、空中から銀色の盾を取り出して防ぐ。ゴングを連打するような音が反響していく。

 

「少し、おとなしくしていただきたい」

 

先ほどまでとは違い、素早く魔女の像の前に出たボンドルドは、再び袖から触手を広げ、ヴォルデモートを覆う。

 

「閉じろ」

 

声と共に触手は急速な収縮を始めた。ヴォルデモートに逃げ場はない。ヴォルデモートは一瞬消え去り、噴水から少し離れた場所に再び姿を現す。

 

「俺様を殺そうとしないのか?」

 

ヴォルデモートは真っ赤な目を細めて、ボンドルドのことを睨め付けていた。

 

「トム、人を滅亡させる方法は、残念ながらいくらでもあります。私はそのどれも、貴方に向けたいとは思いません」

 

ボンドルドは両手を広げ、優しく語りかけながらヴォルデモートに歩み寄ってゆく。癇癪を起こした子供をあやしてやるように。

 

「そういった手段を跳ね除ける方法も。貴方も知っているはずですよ」

 

ヴォルデモートが歩み寄るボンドルドへ死の呪文を放つ。しかしそれはボンドルドの尾によって弾かれた。

 

「愛、愛ですよトム」

「死よりも酷な事は何もないぞ!」

 

ヴォルデモートは唸るように言った。

 

「いいえ、トム。死は新たな旅立ちに過ぎません。去ったとしても、残した多くの事が、生きている者たちを勇気づけ、力を与えるのです。」

 

ボンドルドは、ヴォルデモートも勇気づけられている者である事を全く疑っていないようだった。

 

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