寂れた神社の跡取り息子の俺、なぜ高速道路のど真ん中でHする美男子カップルの幽霊を退治しなくちゃいけないんだ? 作:haku728
亀岡の朝は霧深い。
鳥居の上部はかすんで見えない。
一応京都府なんだが……洛中となんて違うんだ……
こいつは酒呑童子とか鬼が出ると思われても仕方がない……
俺はそんなことをぼんやりと考えながら、眠い目をこすりつつ竹ボウキを手に取った。
「しっかり掃除するんじゃ!境内は神聖なところじゃからな!」
賽銭箱の前の木階段に座った忌々しいやつが俺に激を飛ばす。
「こんな広いところ……俺一人で掃除できるかよ!手伝ってくれよ!」
「阿呆吐かせ!お前はここの当主じゃぞ!」
「じいちゃん。俺は当主にしてくれと頼んだ覚えはない!」
「うるさい!泣き事を言わずにさっさと掃除をしろ!」
「ちくしょう……!」
霧に覆われている広い境内。
俺は無限に広がる落ち葉をかき集める。
「じいちゃん!参拝客なんてほとんど来ないんだから……掃除なんてたまにしとけばいいだろ!」
「晴朗!その性根がなっておらん。お前の父が生きておったら嘆き悲しむぞ!」
(ちっ!また親父かよ……)
俺の名前は石崎 晴朗(いしざき はるあき)。
神主だった俺の親父は昨年死んだ。
おかげで俺はまだ20歳を超えたばっかりなのにこの寂れ果てた神社を継ぐはめになっちまった。
この神社は荒石神神社という名前で、じいちゃん曰く1300年前に開かれた千歳町の出雲大神宮よりも古いという。
でも市内じゃすっかり影が薄くなり参拝客なんて滅多に来ない。
客が来ないから静かでのんびりできると思われるかもしれない。
ところがどっこいそうはいかないんだ。
あまり知られてはいないが神主というのは意外と忙しい。
神事に祭祀、お宮参りに七五三、本殿や庫裡の維持管理、氏子総代との打ち合わせ、建築工事があるたびに地鎮祭に呼ばれるし、何より表立って知られていない裏の仕事がある。
そいつが退魔師だ。
世間で意味不明な出来事やトラブルは大概人外の訳のわからない奴が絡んでる。
そんな時にお呼び出しがかかるってわけだ。
でも俺はまだ見習い中で、本格的な退魔行をやったことがない。
犬や猫、狐などの動物霊を祓ったことはあるが、こんなのはだいたい問題ない。
しかし難しいのはまだじいちゃん頼みだ。
朝の掃除が終わり霧が晴れだした頃、俺とじいちゃんは賽銭箱の前に座って一服していた。
その時鳥居をくぐり紺色のスーツ姿の細面の男性が姿を現した。
黒縁メガネのその男性の表情はひどく疲れているように見えた。
(細木さんか……また何かあったのかな……)
彼の名は細木 一夫(ほそき かずお)。
NEXCO西日本の総務担当だ。
まあ西日本の高速道路を運営してる会社の、何でも屋といえばわかるだろう。
ハイウェイは死亡事故が多いせいか心霊関係の面倒事も多いようだ。
うちにもちょくちょく顔を出してくる。
しかし今回俺はちょっと嫌な予感がしていた。
「いつも誠にお世話になっております」
彼は丁重に頭を下げる。
「総務長どの。また何か出たんですかな?」
「はい……お察しの通りで。大変厄介な事態になっておりまして……」
「ふむ……。詳しくお聞かせ願いますかな」
「はい……」
「じいちゃん。俺、庫裡に戻るよ」
「バカモン!お前も横で聞いておれ!」
「ええ!マジかよ……」
俺はため息をつきながら一度浮かした腰を元に戻した。
細木は落ち窪んだ目で語り始めた。
「又、心霊に関するトラブルのご相談なのですが、今回は2体おりまして……」
「ほう。人霊ですかな?」
「はい。それも外国人の亡霊です。2人とも若い男性でして……京都第ニ縦貫道、大原野附近の中央分離帯の中に深夜の2時頃出没するのです」
「外国人の亡霊とは珍しいですな。して、トラブルの内容とは?」
「それが……。彼らはいつも全裸で出没します。そして大声で愛を語り合いながら淫らな行為を繰り返すのです。走行中に目を取られたドライバーの事故が多発しています。二人とも目の覚めるような美男子のためか、特に女性ドライバーの事故が目立ちます」
「なるほど。彼らに関して何か情報はございますかな?」
「はい。こちらで調査しましたところ、出没ポイントあたりで今年の1月に事故死した外国人の2人組がありまして、その霊と思われます」
「二人のもう少し詳しい情報はございますかな?」
「ええ。《ミハエル・デカマラス 25歳》と《ロリアナ・キャピタラス 20歳》と判明しています。三年前に東欧の社会主義国家《ラブラブスタン》から京都市西京区に移住していたようです。2人は同性愛者で、かの国はそれが禁じられているため日本に逃れてきたようですね」
「事故当時の状況は?」
「なぜか2人とも全裸で乗車しておりまして、中央分離帯のガードレールに激突して車中から投げ出されて死亡しました。二人は抱き合ってキスをしながら倒れていたようです」
「ふぬう……。事情はだいたい分かりました」
「そういうわけで……あの……今回もご対応お願いしてもよろしいでしょうか?」
「分かりました。お受けしましょうぞ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「そういうわけじゃ。晴朗……今回はお前が行け」
「は!ハァ!冗談だろ!」
俺は腰が抜けそうになった。
「冗談でこんなことが言えるか。お前もこの荒石神神社の当主じゃ。これぐらいのことはこなしていかねば……」
「無理だって!人霊なんて扱かった事ねえよ!」
「何事も経験じゃ!わしも老い先は短い。四の五の言わずに行け!」
「う……ぐう……」
こうして俺は、外国人変態カップルの亡霊退治を任される羽目になっちまったってわけだ。
次回
晴朗は、激しく愛し合う美男変態カップルと対峙する