寂れた神社の跡取り息子の俺、なぜ高速道路のど真ん中でHする美男子カップルの幽霊を退治しなくちゃいけないんだ?   作:haku728

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最後の対決

「えろえるじいびいていきゅうそわか!」

 

晴朗が呪文を唱えると、甚助の体に再び変化が起きる。

 

「どうだ!甚助?」

 

「駄目でさあ……胸は膨らんでやすが……イチモツが付いたままでさぁ」

 

「ハァ……。また失敗か……。もうちょっとなんだけどな。」

 

「若様!呪文の抑揚の付け方がご隠居とちょっと違う気がしやすぜ?」

 

「同じようにやってるつもりなんだけどな。仕方がない……。 もう1回だ!」

 

「若様。別に構わねえでやすが……最後はちゃんと元に戻してくれるんでやんすよね?」

 

「大丈夫。それは絶対約束する!だからもうちょっとだけ付き合ってくれ」

 

「はぁ……。仕方ねえでござんす……」

 

甚助も諦め顔だ。

 

俺が甚助の背中の札を張替えようとした時、遠くからこちらを呼ぶ声がした。

 

「晴朗さ―ん!」

 

俺は鳥居の方に目をやると、ちょうど細木さんが、右手に書類ケースを抱えて駆け寄ってくるところだった。

 

彼は俺の前で立ち止まると肩を揺らして息を切らす。

 

「ゼェ!ゼェ!遅くなってすみません!」

 

「こちらこそ急かしてすみません。それじゃあ社務所でゆっくり話をしましょうか」

 

「ええ。――おや!甚助さん、中々の美人じゃないですか」

 

「てめえ、道路屋!ジロジロ見るんじゃねえ!見世物じゃねえんだ!」

 

甚助が顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

 

細木さんは感心したように頷いた。

 

「晴朗さん。術の仕上がりは上々では?」

 

「それが……。男性化は完璧なんですけど、女体化がもう一歩でして……」

 

「まぁまぁ。焦らず行きましょう。では中へ……」

 

「おや!あっしはどうすればいいんで?」

 

「お前はそこで待っていろ。戻ったら特訓の続きだ!」

 

「ああ……今日は厄日だねえ……」

 

巨乳を両手で下支えして嘆く甚助を稲荷の前において、俺と細木さんは社務所に入って行った。

 

 

 

「で、どうでしたか?」

 

俺は座布団に座るなり細木さんに問いかけた。

 

「はい。まずはこれを。ミハエルとジュリアーノが生前収集したり閲覧したメディアのリストです」

 

細木さんは黒革の書類ケースからレポートを取り出す。

 

俺はそれを受け取り目を皿にしてリストに目を通した。

 

「『薔薇族』、『アドン』 『さぶ』、 『Badi』 、『サムソン』 、『G-men』 ……。これって……全部ゲイ向けの雑誌ですか? 」

 

「そうです。他に写真集やネットの閲覧記録なども調べましたが、全て男性の肉体美や同性愛に関するものばかりでした」

 

「とすると、黒髪と髭面は筋金入りのゲイであることは間違いなさそうですね」

 

「はい。バイセクシャルの線も調べましたが、そちらも大丈夫でした。女性に対する関心を一切示していません」

 

「となると細木さん……、ターゲットは決まりですね」

 

「その通りです。晴朗さん」

 

二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。

 

(後は、術を完璧に仕上げるだけだな……)

 

俺は稲荷の方向へ視線を向けた。

 

その瞬間、外から「へックショィ!」と甚助のくしゃみが聞こえた。

 

 

 

それから一週間が過ぎた。

 

深夜の静まりかえったハイウェイをパトロールカ―が疾走する。

 

ぐっと口を引き締めながら前方を凝視する俺の顔をオレンジの外灯がなぞる。

 

「いよいよですね。晴朗さん!」

 

ハンドルを握っている細木さんの周りも空気が張り詰めていた。

 

 

「ええ。今度こそケリをつけましょう!」

 

そう言って俺は妖しくピンク色に光る形代を握り締めた。

 

 

中央分離帯に到着して降車した俺は、こちらにお構いなしに電車のように1列になって絡み合う三人組を睨みつけた。

 

 

最後尾のミハエルが艶のある美声で叫ぶ。

 

「嗚呼!嗚呼!いいぞ!とてもいい!肉の宮だ!まさしく美肉の城だ!ジュリアーノ!さあ!君の美尻の門を開けてくれ!」

 

真中のジュリアーノが低音の渋声で喘ぐ。

 

「おお!おお!ミハエル!君の大砲に攻められて我が門は崩壊寸前だ!しかしそれが待ち遠しいのだ!早く!早く攻め落として我が城を開放してくれ!」

 

先頭のロリアナが甘い嬌声を上げる。

 

「愛!愛!ジュリアーノの愛!君の愛が、君の肉体が……今迄僕には重すぎたんだ。でも今なら受け止められる。大丈夫だよ!来て!来て!アイ――ン!」

 

 

――ちくしょう……!好き勝手やりやがって!

 

――でも今宵でそれもお終いだ!

 

 

俺は狩衣の袖から《霊性反転の札》を取り出して指に挟んだ。

 

 

それを見た瞬間、変態トリオは動きを止めた。

 

三人共警戒心をあらわにして俺を睨んでいる。

 

 

狙いは金髪だ。

 

俺は札をかざしながらジリジリとロリアナに接近する。

 

だがそれを察知したミハエルとジュリアーノが、肉体の壁となって金髪を庇うように立ちふさがった!

 

「邪魔だよ!」

 

俺は駆け足で背後に回ろうとする。

 

それに合わせて黒髪イケメンと髭面マッチョも移動して再びロリアナの前を塞ぐ。

 

「魔道士よ!何を企んでも無駄だ!」

「愛しのロリアナには一切手を触れさせない!」

 

 

「なあ……裸のお二人さん。そこをどいてくれないかな?」

 

「駄目だ!ロリアナを消すつもりだろう!」

「我々は死んでも天使を守る!もう死んでいるがな」

 

「へえ。そうなんだ……。そこを動くつもりはないんだね」

 

「当たり前だ!」

「しつこいぞ!」

 

 

「じゃあ仕方ないな……。甚助!やれ!」

 

「へい!がってんでさあ!」

 

驚愕した三人が後ろを振り向くと、いつのまにか巨乳をたゆらせた甚助が立っていた。

 

その足元には光を失った形代が落ちている。

 

あっという間もなく甚助は、ピンク色の札をロリアナの背中に貼り付けた。

 

「良し!今だ!」

 

俺は素早く呪文を唱え出す。

 

「えろえるじいびいていきゅうそわか!えろえるじいびいていきゅうそわか!」

 

「きゃ……!きゃあ!僕の!僕の体が!」

 

慌てふためくロリアナの胸が膨らみ出し、股間の一物がしぼみ、サラサラの髪が伸びて腰にまでかかる。

 

あっという間に全裸金髪美女が出来上がった。

 

 

「よし!術は完璧だ!」

 

思わず俺はガッツポーズを取る。

 

 

「ほほう!なんと……あでやかな!」

 

細木さんは鼻血をたらしながら眼球でメガネを突き破らんばかりに凝視した。

 

 

ロリアナは半泣きになりながら自分の身体をまさぐっている。

 

「ぼ、僕のが無い……!無い!無い!僕の体……どうなっちゃったの?」

 

「ロリアナさん。貴方は立派な女子になられたんですよ。とっても綺麗です」

 

細木さんが優しく諭すように教えてあげた。

 

「え、嘘!いや……!いやぁぁぁ――!ミハエル!ジュリアーノ!助けて!」

 

ロリアナは絶叫して、二人の方に振り返る。

 

 

「え……!」

 

彼(彼女?)は愕然として立ちすくんだ。

 

女体化したロリアナの姿を見る二人の目つきは、まるで汚物でも見ているかのようであった。

 

「な、なぜ……そんな目で僕を見るの?」

 

 

ミハエルは薄目でため息をついた。

 

「ロリアナ……。失望したよ。すっかり変わってしまったね……」

 

「ミ、ミハエル……?」

 

 

ジュリアーノは眉間にしわを寄せて睨みつける。

 

「無様な姿だ……。吐き気がする。我が天使はどこに行ったのだ?」

 

「ジュリアーノ。なんで……そんなことを言うの?」

 

 

「あの美しいロリアナはもういないんだね。さようなら」

「さらばだ、忌まわしきメスよ。もう二度と会うことはないだろう」

 

二人はロリアナから背を向けるとすっと姿が消えた。

 

 

「い、嫌!待って!僕を一人にしないで!いやぁぁぁ――!」

 

ロリアナも二人を追うように姿を消した。

 

あたりは静けさを取り戻した。

 

 

 

「やりましたね!晴朗さん!」

 

細木さんが嬉しそうに駆け寄って来た。

 

「はい!でも、細木さんの力がなければ今回は無理でしたよ。本当にありがとうございました」

 

「とんでもない。霊を相手にするなんて私には無理ですからね。これからもよろしくお願いします!」

 

細木さんは俺に向かって丁寧に頭を下げる。

 

俺は照れくさそうに頭を掻いた。

 

「あのう……。お取り込み中すいやせんが……あっしのこともお忘れじゃないでしょうね?」

 

「もちろんだよ、甚助!お前がいて助かったよ!」

 

「えっへっへ!そいつはどうも。ではお約束通り、あっしの体を元に戻してくだせえ」

 

「それがなあ甚助。お前が使った札が最後の一枚 だったんだ」

 

「へ!でも今、若様は一枚持っておいででは?」

 

「これは使用済みなんだ。囮だったんだよ」

 

「げげ!ということは……!」

 

「お前はしばらく女だということだ!」

 

「ひええ!そんな殺生な!」

 

「そんなに嘆くなって。札はまた作れるみたいだから……それまでの我慢だ」

 

「とほほ……。情けねえ……」

 

甚助は渋い顔で豊かな胸を両手で揺さぶった。

 

それを見て俺と細木さんは思わず大きな声で笑った。

 

その笑い声は、静まり返ったハイウェイの満天の星空に吸い込まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから一年が経った。

 

霧深い荒石神神社の朝。

 

俺はいつものように竹箒を持って境内の掃除にかかった。

 

その時であった。

 

「晴朗さん!晴朗さん!大変です!」

 

細木さんが息せき切りながら鳥居をくぐって境内に駆け込んできた。

 

「細木さん。おはようございます。こんな朝早くからどうしたんです?」

 

「ハァ!ハァ!また出たんです!」

 

「また?まさか……!」

 

「はい!そのまさかです!あの三人組です!」

 

「は、はひ!!」

 

俺は顎が落ちそうになった。

 

「今度はロリアナを挟んで男二人が前後から攻める構図です。男性ドライバーの事故が急増しています!」

 

「あいつら……女にも目覚めやがった!」

 

俺はめまいがした。

 

「もう夜が明けているのにまだ痴態を繰り広げています。今から緊急同行をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「わ、わかりました!準備するのでちょっと待っててください」

 

「はい。すいませんが急ぎでお願いします」

 

 

まいったね……。

 

 

俺は社務所に荷物を取りに戻ると、神棚に置かれた父ちゃんと、そしてじいちゃんの遺影に手を合わせた。

 

「晴朗さん!早く!早く!」

 

外から細木さんの泣きそうな声が響く。

 

 

「やるっきゃないな!」

 

 

俺は力強く駆け出した。

 

 

 

 

――完――

 

 

 

 

 

 

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