第二話 ツグミと占い師 1/8
のネタバレを含みます
勢いで飛び出したものの、正直そこまでこの辺りには詳しくない。
とりあえずこいつに何か食べさせないと。
カイはよたよたと着いてくるニナを横目で見る。
少し足早だったとはいえ、もう息が上がりかけている。あまりに体力がない。
"ガラボネ"呼ばわりされた細過ぎる肩が上下しているのを見ると、やるせないような焦燥感が胸の奥に沈む。
とにかく沢山食わせるしかない、か?
ふと、良さげなレストランが目に止まる。入り口に飾られた細やかな花壇や、素朴で暖かみのある外装を見る限り、悪くなさそうだ。
「あそこにしよう」
ドアを開けた瞬間、失敗した、と思った。
酒類の提供はしてるだろうとは覚悟してたが、思った以上に客層が悪い。
暗がりみたいな席から、アルコールで濁った視線がいくつか向けられる。
やっぱり店を変えよう、と少女に声をかけようとすると——。
………………ぐぅ。
少女の腹の虫の抗議。
聞かなかったことに努めるが、ニナは赤面して俯いている。
——ああもう、仕方ない。
食事は提供しているようだし、腹を括ってここに決めることにした。
カウンターに向かい、近くの席にニナを座らせる。
向かう途中に他のテーブルに見えたボリュームありそうなメニューを頼み、ついでに適当な持ち帰りも頼む。
さて……。
ごろつきみたいな奴らはともかく、何か、凄い——。
見られてる。
遠慮なく、ガン見されてる。
殺気も敵意も無いのが逆に気持ち悪い。
首の後ろにへばりつくような視線を手で払うが、なおも見てくる。ニナも食事の手を止めつつ、ちらちら視線の方を見ている。そっち見ないで、早く食べてくれ。
ごろつきの方から動く気配がする。
少し救われたような気がしたが、
「よぉ兄ちゃん」
と絡まれたので気のせいだった。
「その鎧、見せもんじゃねぇんだろ? 」
ああ、やっぱりベスカーか。
高価らしいからな。売るわけがないから値段なぞ知らないが。
「騒ぎたくない」
まだニナが食べている。俺の言葉でフォークを動かす手が忙しなくなる。よく噛んだ方がいいんじゃないだろうか。
ごろつきはどれほど飲んだのか、こちらまで匂うぐらい酒精をはらんだ息でなおも絡み続ける。
聞き苦しいけど我慢する。店主が包み終わった物を手に、どうしたものかとこちらを見ているのが見える。
僅かにカウンターに向かって顎で示すと、店主もまた僅かに頷いて少し離れたところに置いてくれた。察しが良くて助かる。
だから、あまり、面倒をかけたくないんだが——。
「なーぁ、おい、にいちゃん、こっち向けやぁ」
くそ、しつこいな!
「後で表に出てやるから」
言い聞かせてみたが逆効果だった。苛立たせたらしく、ついに小突き始めた。呂律が回らなさすぎて、言ってることが聞き取りにくい。聞いても大したことではないのは確かだ。
ため息一つついて、酒場全体をそっと観察する。
ひいふうみい……離れてるけどあいつも仲間か。
——すまないな。
心で店主に謝ると、俺は行動に移すことを決めた。
まず足を払う。崩れたところを、襟首掴んで引き倒す。手首のブレードを引き抜き、首に添えつつ、抜いたブラスターは仲間の方へ。
離れていた仲間が身構えるのが見えたが、まだ抜く気はないようだ。そのままじっとしててくれ。
「まだやるか?」
出来る限り脅すつもりで声を作ったが、本音も少し混じった気がする。
酔っ払いは状況を理解したのか、涙を浮かべて謝罪の言葉——相変わらず呂律が回ってないが——を並べている。謝るぐらいなら最初から絡まないで欲しい。
ニナは……まあ、食べ終わるわけないか。まだ半分も残ってる。これ以上急かすのも可哀想だ。
——しょうがない、出るか。
離れていた別のならず者に抜かれた銃を撃ち落とすと、とっととどっか行ってくれ、と首をしゃくる。今度は大人しく従ってくれた。
クレジットを適当に掴んでカウンターに置く。
ついでに目に付いた菓子も貰って、ニナの肩を叩くとようやくパンを飲み込んだようだ。
去り際、横目でカウンターを見ると、思った以上に支払われていたクレジットが……。
しまった、と言いかけるのを何とか堪える。
「代わりにこれでも食べてくれ」
ニナに菓子袋を渡し、後ろ髪引かれる思いで店を後にした。