黒刃と寄る辺なき花   作:アサナシケイ

3 / 4

第二話 ツグミと占い師 1/8
のネタバレを含みます




BackStory 2-1.酒場の喧騒〜カイの視点〜

 勢いで飛び出したものの、正直そこまでこの辺りには詳しくない。

 とりあえずこいつに何か食べさせないと。

 カイはよたよたと着いてくるニナを横目で見る。

 

 少し足早だったとはいえ、もう息が上がりかけている。あまりに体力がない。

 "ガラボネ"呼ばわりされた細過ぎる肩が上下しているのを見ると、やるせないような焦燥感が胸の奥に沈む。

 

 とにかく沢山食わせるしかない、か?

 

 ふと、良さげなレストランが目に止まる。入り口に飾られた細やかな花壇や、素朴で暖かみのある外装を見る限り、悪くなさそうだ。

「あそこにしよう」

 

 ドアを開けた瞬間、失敗した、と思った。

 酒類の提供はしてるだろうとは覚悟してたが、思った以上に客層が悪い。

 暗がりみたいな席から、アルコールで濁った視線がいくつか向けられる。

 

 やっぱり店を変えよう、と少女に声をかけようとすると——。

 ………………ぐぅ。

 少女の腹の虫の抗議。

 聞かなかったことに努めるが、ニナは赤面して俯いている。

 

 ——ああもう、仕方ない。

 食事は提供しているようだし、腹を括ってここに決めることにした。

 カウンターに向かい、近くの席にニナを座らせる。

 向かう途中に他のテーブルに見えたボリュームありそうなメニューを頼み、ついでに適当な持ち帰りも頼む。

 

 さて……。

 ごろつきみたいな奴らはともかく、何か、凄い——。

 見られてる。

 遠慮なく、ガン見されてる。

 殺気も敵意も無いのが逆に気持ち悪い。

 首の後ろにへばりつくような視線を手で払うが、なおも見てくる。ニナも食事の手を止めつつ、ちらちら視線の方を見ている。そっち見ないで、早く食べてくれ。

 

 ごろつきの方から動く気配がする。

 少し救われたような気がしたが、

「よぉ兄ちゃん」

 と絡まれたので気のせいだった。

 

「その鎧、見せもんじゃねぇんだろ? 」

 ああ、やっぱりベスカーか。

 高価らしいからな。売るわけがないから値段なぞ知らないが。

「騒ぎたくない」

 まだニナが食べている。俺の言葉でフォークを動かす手が忙しなくなる。よく噛んだ方がいいんじゃないだろうか。

 

 ごろつきはどれほど飲んだのか、こちらまで匂うぐらい酒精をはらんだ息でなおも絡み続ける。

 聞き苦しいけど我慢する。店主が包み終わった物を手に、どうしたものかとこちらを見ているのが見える。

 僅かにカウンターに向かって顎で示すと、店主もまた僅かに頷いて少し離れたところに置いてくれた。察しが良くて助かる。

 

 だから、あまり、面倒をかけたくないんだが——。

「なーぁ、おい、にいちゃん、こっち向けやぁ」

 くそ、しつこいな!

「後で表に出てやるから」

 言い聞かせてみたが逆効果だった。苛立たせたらしく、ついに小突き始めた。呂律が回らなさすぎて、言ってることが聞き取りにくい。聞いても大したことではないのは確かだ。

 

 ため息一つついて、酒場全体をそっと観察する。

 ひいふうみい……離れてるけどあいつも仲間か。

 ——すまないな。

 心で店主に謝ると、俺は行動に移すことを決めた。

 まず足を払う。崩れたところを、襟首掴んで引き倒す。手首のブレードを引き抜き、首に添えつつ、抜いたブラスターは仲間の方へ。

 離れていた仲間が身構えるのが見えたが、まだ抜く気はないようだ。そのままじっとしててくれ。

 

「まだやるか?」

 出来る限り脅すつもりで声を作ったが、本音も少し混じった気がする。

 酔っ払いは状況を理解したのか、涙を浮かべて謝罪の言葉——相変わらず呂律が回ってないが——を並べている。謝るぐらいなら最初から絡まないで欲しい。

 

 ニナは……まあ、食べ終わるわけないか。まだ半分も残ってる。これ以上急かすのも可哀想だ。

 

 ——しょうがない、出るか。

 離れていた別のならず者に抜かれた銃を撃ち落とすと、とっととどっか行ってくれ、と首をしゃくる。今度は大人しく従ってくれた。

 

 クレジットを適当に掴んでカウンターに置く。

 ついでに目に付いた菓子も貰って、ニナの肩を叩くとようやくパンを飲み込んだようだ。

 

 去り際、横目でカウンターを見ると、思った以上に支払われていたクレジットが……。

 しまった、と言いかけるのを何とか堪える。

 

「代わりにこれでも食べてくれ」

 ニナに菓子袋を渡し、後ろ髪引かれる思いで店を後にした。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。