旅の騎士と一国の女王と王女の物語。

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他の作品あるのに、また手を出しちゃった(^◇^;)
こんな設定の物語あったら面白そうってものを書きました。
お前かいーー!!
みたいな。
好評だったら続くかも笑
設定も何も考えてないけど笑


女王「褒美は………この私です!」王女「……はぁ!?」

 

「旅の騎士よ。この度は――我ら人類を脅かす魔王が四天王の一柱である、ルーゼンの討伐を果たし、更には、私と我が娘を窮地から救ってくれたこと。心より感謝します」

 

凛とした、しかしどこか慈愛を含んだ声が、広大な謁見の間へと響き渡った。

 

高い天井。

そこには幾本もの巨大な柱が並び、柱と柱の間には、この国の歴史を象徴する色鮮やかな旗が幾重にも掲げられている。

 

王家の紋章。

歴代の王が掲げてきた戦旗。

そして、魔王軍との長き戦いの中で失われた諸侯や騎士団の旗。

 

その一つ一つが、かつてこの国がどれほど多くの血を流し、どれほど多くの者たちによって守られてきたのかを物語っていた。

 

磨き上げられた石床には、幾筋もの陽光が差し込んでいる。

その光を受けて、武官たちの甲冑が鈍く輝き、文官たちの衣服が静かに揺れていた。

 

誰も口を開かない。

この場にいる全員が、一人の騎士を見つめていた。

 

謁見の間の最奥。

数段高く設けられた玉座。

 

その中央に、一人の女性が座している。

頭上には、黄金の王冠。

 

深い色合いの王衣を身に纏い、その姿には一国を背負う者だけが持つ威厳があった。

 

妙齢の、美しい女性だった。

しかし、その美貌だけを見て彼女を侮る者は、この国にはいない。

 

かつて――この国の玉座に座っていたのは、彼女の夫だった。

先代の国王。

代々、この国を治めてきた王家の血を受け継ぎ、剣を携え、民を導いてきた男。

 

だが、魔王軍との戦争が始まってから数年。

幾度もの戦場を駆け抜けた末、彼は戦死した。

 

王の死。

 

それは国そのものの崩壊を意味しかねない出来事だった。

 

魔王軍は強大だった。

 

人間の常識では測れぬ怪物たちが跋扈し、魔族の軍勢は人間の領土を次々と侵食していった。

王を失った国は、誰もが崩れ落ちると思った。

 

だが――そうはならなかった。

夫を失った彼女が、王冠を戴いたからだ。

 

最初は、誰もが彼女を侮った。

 

女王など飾りに過ぎない。

夫を失った未亡人に国を治めることなどできるはずがない。

 

そんな陰口が、貴族たちの間では飛び交っていた。

しかし彼女は、そんな声に耳を貸さなかった。

 

もともと彼女は武官出身だった。

剣を握り、兵を率いることに慣れていた。

 

そして何より――戦場を知っていた。

 

彼女は玉座に座って命令するだけの女ではなかった。

 

夫が死んだ翌月には鎧を身に纏い、最前線へと赴いた。

魔族の軍勢が押し寄せれば、自ら剣を抜き、味方が恐怖に震えれば、真っ先に敵陣へ踏み込んだ。

 

兵士たちが倒れれば、その前に立った。

 

「まだ終わっていません!」

 

何度、そう叫んだことだろう。

 

「我々の後ろには、家族がいる!」

 

「この国で生きる民がいる!」

 

「ならば――我々が退く理由など、どこにもありません!」

 

その声に、兵士たちは立ち上がった。

彼女は強かった。

剣の腕だけではない、人を奮い立たせる力を持っていた。

 

絶望の中でも前を向くことができる、稀有な指導者だった。

 

その姿を見た兵士たちは、いつしか彼女を「女王」と呼ぶだけではなくなった。

――戦場の女王。

――我らが剣。

そう呼ばれるようになった。

 

だが、それでも戦況は厳しい。

魔王軍は強大だった。

 

人間側がいくら抵抗しても、魔族の軍勢は次々と新たな戦力を送り込んできた。

そして――その中でも特に恐れられた存在がいた。

 

魔王直属。

四天王。

その一柱。

 

ルーゼン。

 

巨大な身体。

牛を思わせる頭部。

人間を遥かに超える膂力。

そして何より、戦場そのものを恐怖に変える残虐性。

 

ルーゼンが戦場へ現れた日から、戦線は大きく崩れ始めた。

 

人間の騎士団が一個隊まとめて吹き飛ばされ、盾を構えた重装兵たちが、まるで木の枝のように薙ぎ払われる。

魔法による攻撃すら、その巨体を止めるには至らない。

 

それでも――女王は退かなかった。

剣を握り、ルーゼンの前に立った。

 

幾度となく刃を交えた。

傷を負いながらも戦い続けた。

 

そしてルーゼンもまた、そんな女王を忌々しく思っていた。

だからこそ――魔族は、戦場で彼女を殺すことを諦めた。

 

代わりに、もっと卑劣な方法を選んだ。

 

女王には、一人娘がいた。

王女。

まだ若く、戦場とは無縁の少女。

 

母が前線で戦っていると聞けば、少しでも顔を見たいと願う。

 

そんな娘の想いを、魔族は利用した。

護衛を連れて前線へ向かっていた王女を、魔王軍は襲撃した。

 

護衛は殺され、王女は捕らえられた。

そして――女王へ突きつけられた。

 

娘の命と引き換えに、投降せよ。

 

女王の決断は早かった。

一人娘を人質に取られたと知った、その瞬間。

 

彼女は何の迷いもなく剣を置いた。

鎧も脱いだ。

兵士たちが止める声にも耳を貸さなかった。

 

ただ一人、何も持たず、自らの命だけを携えて、魔王軍の陣地へと赴いた。

それが――母親というものだった。

 

そして、その結果が、

 

「グハハハハハ……」

 

濁った笑い声。

巨大な影。

 

ルーゼン。

 

魔王軍四天王の一柱は、捕らえた女王を見下ろしていた。

 

「貴様には苦労させられたぞ。人間よ」

 

女王は地面に跪かされていた。

王冠はない。

豪奢な王衣もない。

 

身体には幾つもの傷が刻まれ、衣服は泥と血で汚れている。

 

それでも――その目だけは死んではおらず、真っ直ぐにルーゼンを睨みつけていた。

 

恐怖ではない。

憎悪でもない。

 

そこにあったのは――最後まで国を背負おうとする者の、揺るがぬ意志だった。

 

「私が死んでも――我が国は負けはしない」

 

かすれた声。

それでも、言葉には力があった。

 

「約束は果たしてもらうぞ」

 

ルーゼンは一瞬だけ黙った。

そして。

ニチャリ、と口元を歪めた。

 

「……あぁ」

 

吐き出された息が、腐臭のように辺りへ広がる。

 

「約束は果たそう」

 

その言葉に、女王は僅かに目を細める。

 

「お前の娘など、何の力も持たぬ小娘だ」

 

ルーゼンは、すぐ側にいる少女へ視線を向けた。

 

「生かしたところで、すぐ我が軍によって――どこの誰かも分からぬまま、息絶えるわ」

 

「――っ」

 

王女の顔から血の気が引いた。

そして。

 

「いやぁ――――!」

 

悲鳴が響き渡った。

 

「母さま!!」

 

少女は叫んだ。

 

「だめです! 母さま!!」

 

彼女はルーゼンの側に縛られ、座らされていた。

 

手首には縄。

自由などない。

目の前にいる母を助けることもできない。

剣を握ることもできない。

魔法を使うことすらできない。

 

ただ――見ているしかない。

 

母親が、自分のために死のうとしている。

その事実だけが、少女の心を引き裂いていた。

 

「お願い……!」

 

涙が頬を伝う。

 

「母さま、逃げて……!」

 

女王は娘を見た。

そして――微笑んだ。

 

その微笑みは、戦場で兵士たちに向けていたものとは違った。

母親の顔だった。

 

「我が娘よ」

 

「……母、さま……」

 

「泣いてはなりません」

 

優しい声だった。

まるで幼い頃、眠れない夜に語りかけてくれたときと同じ声。

 

「王族とあろうもの――どんな時でも、笑うのです」

 

「そんな……」

 

「そして、民を導きなさい」

 

女王は娘を見つめた。

涙で歪む視界の向こう。

 

そこには、震える少女がいる。

 

まだ何も知らない。

 

王冠の重さも。

玉座の孤独も。

国を背負うという意味も。

 

それでも――いつか、この子はそれらを背負わなければならない。

 

だから、母として、最後に伝えなければならない。

 

「……あとは、頼みましたよ」

 

「いや……」

 

王女の唇が震えた。

 

「いやぁ……」

 

頭を振る。

涙が飛び散る。

 

「母さま……」

 

声が幼くなる。

王女ではない。

ただの娘だった。

 

「一人に……しないで……」

 

縛られた手を必死に伸ばす。

母へ届かせようとする。

 

「お願い……母さま……!」

 

しかし。

 

「動くな」

 

ルーゼンの腕が少女の前を遮った。

巨大な身体が壁となり、母と娘の間を完全に隔てる。

 

「嫌ぁっ!」

 

「感動の別れは終わったかな?」

 

ルーゼンが笑った。

その声には、一切の慈悲がない。

 

「では――やれ」

 

低い声。

命令。

 

その瞬間、女王の横に立っていた魔物が動いた。

 

人の形をしてはいるが、人間とは呼べない。

 

歪んだ身体。

醜悪な顔。

異様に太い腕。

 

その手には、人間の身長ほどもある分厚い剣が握られていた。

 

ズシリ。

一歩。

 

魔物が歩く。

 

ズシリ。

また一歩。

 

巨大な剣が持ち上げられる。

女王は動かなかった。

逃げようともしない。

震えもしない。

 

ただ、娘を見つめていた。

 

「母さまぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

王女の絶叫が、謁見の間ならぬ魔族の陣地へ響き渡る。

 

剣が――

振り上げられる。

 

その刃が、曇り空の淡い光を受けて鈍く輝いた。

 

時間が止まったようだった。

女王は静かに目を閉じた。

 

脳裏に浮かぶ。

夫の笑顔。

まだ幼かった娘。

 

初めて剣を握った日のこと。

王冠を戴いた日のこと。

 

戦場で倒れた兵士たち。

共に戦った仲間たち。

 

守れなかった者たち。

守りたいと思った者たち。

 

そして――今、自分を見つめて泣いている娘。

 

(どうか……)

 

心の中で、ただ一つだけ願う。

 

(この子だけは――)

 

剣が振り下ろされる。

 

「いやぁ――――――!!」

 

その瞬間だった。

 

――轟ッ!!

 

空気が爆ぜた。

何かが、凄まじい速度で飛来した。

 

魔物の振り下ろした剣が――

甲高い金属音と共に弾き飛ばされた。

 

「――なっ!?」

 

ルーゼンの目が見開かれる。

 

女王も。

王女も。

その場にいた魔族たちも。

 

一斉に、音のした方を見る。

 

そこに、一人の男が立っていた。

 

青い外套。

全身を覆うフルプレートの鎧。

長い旅路によって傷つき、泥に汚れた装備。

 

腰には一振りの剣。

そして――その手には、先ほど女王へ振り下ろされるはずだった巨大な剣を受け止めた盾。

 

魔物が呻き声を上げながら後退する。

ルーゼンは男を睨みつけた。

 

そして――女王の目が、大きく見開かれた。

 

王女は涙に濡れた顔のまま、男を見つめる。

 

その男は、ゆっくりと剣を構えた。

 

青い外套が風に揺れる。

 

その姿は、まるで――

絶望しか残されていなかった場所へ、最後の希望が現れたかのようだった。

 

「……旅の騎士……?」

 

誰かが、呟いた。

男は答えなかった。

 

ただ、女王の前に立つ。

まるで背に庇うように。

 

そして。

ルーゼンを真っ直ぐに見据えた。

 

その瞳には――

一片の恐れもなかった。

 

ーーーーーー

 

その騎士は――強かった。

ただ、強いという言葉だけでは足りない。

 

戦場において「強者」と呼ばれる者には、いくつかの種類がある。

 

圧倒的な膂力を持つ者。

卓越した剣技を持つ者。

優れた魔法を操る者。

あるいは、幾多の戦場を生き抜いた経験を持つ者。

 

だが、目の前の騎士は――そのすべてを持ち合わせているかのようだった。

 

「……っ」

 

女王が息を呑む。

騎士は何も言わなかった。

ただ、彼女の前に跪き、静かに手を差し伸べる。

 

その仕草は驚くほど丁寧だった。

 

まるで、戦場に転がる一人の兵士ではなく、壊れやすい宝物を扱うかのように。

女王は一瞬だけ戸惑った。

 

「そなたは……」

 

しかし騎士は答えない。

代わりに彼女を軽々と抱き上げた。

 

「えっ――」

 

女王の身体が宙に浮く。

鎧を纏った成人男性が、何の苦もなく一人の女性を抱え上げる。

 

しかも、その動きには乱暴さが一切ない。

女王は思わず騎士の胸元へ手を添えた。

 

「……」

 

何とも言えない沈黙。

 

そして騎士は、そのまま戦場を駆け抜けた。

魔物が迫る。

 

「グォォォッ!」

 

騎士は女王を抱えたまま、片手で剣を抜いた。

 

一閃。

 

魔物が倒れる。

 

二体。

 

三体。

 

四体。

 

まるで戦場を歩くことが散歩であるかのように、次々と魔物を斬り伏せていく。

 

女王は呆然としていた。

 

(……何なのだ、この男は)

 

やがて安全な場所へ到着すると、騎士は女王をそっと地面へ降ろした。

最後まで、まるで壊れ物を扱うような手つきだった。

 

「……ありがとう」

 

女王が礼を言う。

騎士は一度だけ頭を下げた。

 

そして―振り返った。

 

そこには、四天王。

 

ルーゼン。

 

「……キサマは」

 

低い声が響く。

ルーゼンが騎士を睨みつける。

 

「キサマは、何者だ?!」

 

轟く咆哮。

しかし。

騎士は答えなかった。

 

ただ。

 

盾を構える。

剣を構える。

 

それだけだった。

 

「……」

 

「…………」

 

妙な沈黙が流れる。

ルーゼンの眉間に青筋が浮かんだ。

 

「……質問に答えろォッ!!」

 

それでも騎士は答えない。

 

盾。

剣。

以上。

 

「……キサマァ……!」

 

ルーゼンの身体から魔力が噴き出した。

 

大地が震える。

周囲の空気が歪む。

 

「答えぬのならば――死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

ルーゼンは魔力によって自らの身体を限界まで強化した。

 

筋肉が膨れ上がる。

骨が軋む。

魔力が血管を巡り、巨体そのものが一つの凶器へと変わっていく。

 

これまで幾多の人間の強者を葬ってきた必殺の強化。

 

一度発動すれば、魔王軍の四天王クラスですら反応することは困難。

 

「死ねぇーーーーーー!!」

 

ドンッ!!

大地が爆ぜた。

巨体が――消えた。

 

「――っ!」

 

王女が息を呑む。

速い。

あまりにも速い。

 

先ほどまで数十メートル先にいたはずのルーゼンが、瞬きの間に騎士の目の前へ迫っていた。

 

「騎士さま!!」

 

王女が叫ぶ。

 

間に合わない。

 

そう思った。

 

ルーゼンの拳が振り抜かれる。

その一撃をまともに受ければ、鎧ごと肉体を粉砕される。

 

誰もがそう思った。

 

――だが。

 

「……?」

 

ルーゼンが、そのまま騎士を通り過ぎた。

 

土煙が舞う。

 

ルーゼンが数歩進んでから止まった。

 

「……?」

 

何が起こったのか。

誰にも分からなかった。

ルーゼン自身でさえ。

 

「……な、に……?」

 

ゆっくりと振り返る。

そこには、変わらず立っている騎士。

 

盾を構えたまま。

剣を下ろしたまま。

 

まるで――何も起こっていないかのように。

 

「……き、さま……」

 

ルーゼンの声が震える。

 

「なに、もの……だ……」

 

一歩。

 

ルーゼンの身体が揺らぐ。

 

「おまえ……のような……強者は……しら……ない……」

 

その瞬間。

女王が気づいた。

ルーゼンの身体に――

一本の線が入っている。

 

肩から。

胸を通り。

腰へ。

 

斜めに走る、一本の線。

 

「……まさか」

 

王女も息を呑む。

そして。

騎士がゆっくり振り返った。

 

その顔には、何の感情もない。

ただ、静かにルーゼンを見る。

 

「……これで、知れたな」

 

「……!」

 

ルーゼンの目が見開かれる。

 

「は……」

 

口元が歪む。

 

「は、はは……は……」

 

そして――

 

「おもし……ろ、かった……ぞ……」

 

身体が崩れ落ちる。

 

「……ななし……の騎士……よ……」

 

ドォン……。

 

巨大な身体が地面へ倒れた。

 

魔王軍四天王。

ルーゼン。

討伐。

 

その瞬間。

 

それまで空を覆っていた厚い雲が――

ゆっくりと、割れた。

 

雲間から、一筋の陽光が差し込む。

光はまっすぐに――騎士へ降り注いだ。

 

青い外套が風に揺れる。

銀色の鎧が輝く。

剣を携え、静かに佇む姿。

 

まるで、神話の一場面だった。

 

「……」

 

王女は、言葉を失った。

見惚れていた。

胸が――

どくん。

 

「……」

 

どくん。

 

「……っ」

 

どくん、どくん、どくん。

 

心臓がうるさい。

顔が熱い。

頬が赤い。

 

(……すごい)

 

王女は思った。

 

(まるで……)

 

幼い頃から何度も読んできた英雄譚。

魔王に立ち向かう勇者。

絶望の中に現れる英雄。

人々を救い、最後には王国を導く者。

 

(……物語の勇者様みたい)

 

その時の光景は――

 

十六歳になった今でも、王女の心の奥底に鮮明に残っていた。

 

そして。

 

現在。

 

「……」

 

王女は、目の前に立つ騎士を見つめていた。

 

あの日と変わらない。

いや。

あの日よりも、ずっと近くにいる。

 

「……」

 

頬が、また赤くなる。

 

王女は今年で十六歳。

 

本来ならば、王族として結婚を考え始める年齢だ。

 

他国の王子へ嫁ぐ。

あるいは王子を婿として迎え、婚姻によって国同士の関係を強固にする。

王族の婚姻とは、愛だけで決まるものではない。

 

国益。

外交。

軍事。

血統。

 

すべてが絡み合う。

だが、この国には問題があった。

 

王女は――一人娘。

 

つまり。

婿を迎えなければならない。

 

ところが、この国は魔王軍との戦争の最前線。

 

「娘さんをください」

 

などと言って、わざわざ戦場の最前線へ婿入りしてくる命知らずなど――

いるわけがない。

 

……と思っていた。

 

あの日までは。

 

「……」

 

王女は騎士を見る。

 

強い。

文句なしに強い。

四天王を一人で倒すほどに。

 

カリスマ性もある。

民衆が放っておかないだろう。

 

人格も――おそらく悪くない。

 

何より。

 

「……」

 

王女の頬が再び赤くなる。

 

(……私、嫌じゃない)

 

むしろ。

 

(……この人なら……)

 

そう思ってしまう。

 

政治なら、自分が勉強すればいい。

 

母から学べばいい。

この人が戦場を守り、自分が国を支える。

 

そんな未来も――悪くない。

 

いや。

 

むしろ――

 

(……素敵かも)

 

王女の脳内では、すでに壮大な未来予想図が展開されていた。

 

二人で玉座に座り。

騎士が国を守り。

自分が政務を執り行い。

 

時々、戦場から帰ってきた彼を出迎えて――

 

(お帰りなさい、あなた……)

 

「……っ!」

 

自分で想像して自分で真っ赤になる。

 

「……だめ、だめだめだめ!」

 

小声で顔を振る。

だが。

そんな娘の様子を。

 

女王はーーじっと見ていた。

 

そして。

 

「騎士よ」

 

「!」

 

王女の背筋が伸びる。

 

「其方の働きには、褒美が必要であると、私は考えています」

 

来た。

王女は密かに拳を握った。

母がどういう人物なのか、彼女はよく知っている。

 

合理的。

決断が早い。

 

そして――娘を大切にしている。

 

もしかすると。

いや。

きっと。

 

母も同じことを考えているのではないか。

 

王女は姿勢を正した。

 

(どうしよう)

 

騎士へどんな顔をすればいい?

 

恭しく礼をするべき?

それとも――

少しくらい恥ずかしそうにした方が?

 

(いやいや、そんなことしたら軽い女だと思われるかも……)

 

王女の脳内で、作戦会議が始まる。

 

「王女らしく……」

 

小さく呟く。

 

「でも、可愛らしく……」

 

一方。

 

母は続けていた。

 

「其方の褒美として――」

 

王女は息を呑んだ。

 

「ふつつか者ではありますが…………」

 

来る。

絶対に来る。

王女の心臓が高鳴る。

 

どくん。

 

どくん。

 

どくん。

 

「少し歳を取り――」

 

王女の頭の中で結婚式の鐘が鳴った。

 

「その、身体も、少し弛んでいますが……」

 

「…………ん?」

 

王女の思考が止まった。

 

今。

 

何と?

 

「……」

 

母は恥ずかしそうに続ける。

 

「……私を娶ってはくれませぬか?」

 

「…………」

 

謁見の間が静まり返った。

王女の顔から――

スッ……

と、血の気が引く。

 

「そして、この国を導いて欲しいのです」

 

沈黙。

 

一秒。

 

二秒。

 

三秒。

 

王女はゆっくりと母を見る。

 

母もこちらを見る。

 

にこやかだ。

至って真面目だ。

冗談を言っている顔ではない。

 

そして

 

「……はぁ?!?!」

 

王女の悲鳴が、謁見の間を揺るがした。

 

こうして。

 

魔王軍四天王を討ち果たした英雄の凱旋は――

 

史上稀に見るほど、締まらない空気の中で幕を開けることとなった。

 

 

続きは……

  • 書けぇーー!!
  • 他のものをね……

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