カイドウ「さあ着いたぞ、この店だ。おーい、兄貴!いるかい?」
カイドウというのはあの軍警の名前である。
彼の案内で街を歩いていたのだが、もう彼が紹介する鍛冶屋に着いたようで、店の前でそう呼びかけてから店内に入る。
どうやら彼が紹介する鍛冶屋は実の兄が経営する店らしい。
「邪魔するぞ。」
イザーク「お邪魔します。」
私たちもそう言って中に入る。
そして入った途端、複数の視線が私たちの方に向けられた。
「「「あ!あの時の!」」」
その視線の正体は、昨日私の薬で助かった者たち。
随分と元気そうだな、良かった。何故が浮かない顔をしているのが少し気になるが……。
そして奥には、随分と顔が厳つい人物がいた。
おそらく、彼がこの店の経営者でありカイドウの実の兄なのだろう。顔は似てないが。
どうやら私たちが来る前にこの3人が昨日のことについて話していたらしく、事情を聞いたカイジンさん(カイドウの兄の名前)から感謝された。
カイジン「あんたが俺の弟分を助けてくれた人間か。その事については感謝する。」
「頭を上げてくれ。私は偶然持っていた回復薬を提供しただけだ。」
カイジン「それで、この店に何か用か?」
カイジンがそう聞いてきたので、私とカイドウで今の状況を手短に説明した。
やはりカイドウの兄なのか物分かりがよく、会話はスムーズに進んだ。
カイジン「なるほど、話は分かった。だが、スマン。今は手を貸してやれそうにない。実はこっちも、ある国から依頼を受けていてな……」
秘密にしてくれよ?と念を押して、カイジン側の事情も話し始めた。
聞けば、どこかの阿呆が戦争を吹っかけるらしい、という恐怖感から先走った国々からの武具の注文を行っているのだそう。昨日の薬の在庫切れにも繋がる話である。
カイジン「で、だ。鋼製の槍200本は徹夜で用意できたんだが……肝心の剣20本がまだ一本も出来てないんだよ。素材がないからな……」
カイドウ「なら、無理だと言って断れば良いじゃねぇか。」
カイジン「俺だって最初はそう言ったさ!だが、あのクソ大臣のベスターの奴が……」
『王国でも名高いカイジンともあろうお人が、この程度の依頼をこなせないのですか?』
カイジン「……ってほざきやがった!しかも、国王の前で、だ!あの野郎、ふざけやがって……」
随分と怒り散らかしている。
向こう側にもいろいろな事情があるようで、ベスターとやらの嫌がらせのせいで素材が確保出来ないのでは?と私は思った。
「作った槍と剣では、素材が違うのか?」
カイジン「ああ。剣には「魔鉱石」って言う特殊な素材が必要なんだ。槍はただの鋼だからな。」
カイジン「しかも、一本完成させるのに一日かかる。最大限効率化しても、20本作るには二週間は必要なんだ……。」
「……その表情を見るに、期限は今週、といった所か?」
カイジン「ああ、その通りだよ。来週の初日に、王に届かなければならない。この依頼は国が請け負い、各職人に役割が当てられているんだ。依頼をこなせなかったら、最悪職人の資格の剥奪もあり得るんだ……。」
来週の初日となると、期限はあと5日。
この調子だと今日は無理そうだし、実質あと4日か。
随分絶望的な状況だな。
魔鉱石なら持ってるが、私関係ないんだよな……。
でも、昨日助けた3人の「あんたどうにか出来ないか?」と訴えかける視線が痛い。回復薬を提供しただけの男に何を期待してるんだ……。
……仕方ない。
ここで恩を売っておいて、ゴブリンの村の復興を手伝わせるのも一つの手か。
「……ほら、カイジン。これ使えるか。」
私は目の前の机に、「捕食者」の胃袋から取り出した魔鉱石、もとい加工した魔鋼を取り出した。
カイジン「……おいおいおい、これ魔鉱石じゃねーか!しかも純度がありえんくらい高い。こんなのどうやって手に入れたんだ?」
「何を言ってる?それをただの魔鉱石だと断定するのか?」
カイジン「……は⁉︎これ、魔鋼じゃねーか!どうやって加工したんだ⁉︎もしかしてこれ、譲ってくれるのか?い、言い値を払う!」
ふふふ、計画通り。
「なら、金ではなく、私の目的を手伝ってもらいたい。私たちの事情は聞いただろ?あんたの知り合いから、技術指導が出来る技師を数名探してほしいんだ。」
カイジン「な、そんな事で良いのか?」
「私たち、ひいてはゴブリンたちにとって最優先事項だからな。出来れば今後も、衣類の調達のツテや武具なんかも頼みたい。」
カイジン「その程度ならお安い御用だ!」
こうして、わたしはカイジンに魔鋼を渡し、約束を取り付けた。
細かい所は作業終了後に確認する予定だ。
その日は皆で晩飯を食べ、カイドウは帰っていった。
そういえばあいつ、軍警だったな。昼間から職務をサボるのは随分と御身分がいい事で。
私が助けた3人は、自分たちのせいでカイジンが国に睨まれていると恐縮しているらしい。
なら、私のところに来るか?と提案したら、3人でこそこそと相談を始めた。まあ、いつか結論を出してくれるだろう。
そこで、私はカイジンに切り出した。
「ところでカイジンさんよ、4,5日で20本も仕上げられるのか?」
カイジン「……正直、絶望的だ。でもやるしかねぇんだよ!」
どうやら気合いでなんとかしようとしていたらしい。
だか、いくら気合いがあったとて無理なものは無理だ。
可能な物事は、可能な要素が揃っている場合のみ可能なのだ。
私はそれを、身をもって実感した。
仕方ない。助けるならば、最後まで手を差し伸べてやらんとな。
「なら、わたしに策がある。あんたは自分が思う最高傑作を一本作ってくれるだけで良い。あとは私に任せろ。」
カイジン「なに?言っちゃ悪いが、あんた素人だろ?どうにか出来るとは思わんが……」
「信じれないならそれでもいい。ただし、依頼は失敗するだろうけどな。どうする?」
カイジン「……信じて良いんだな?もし失敗したらあんたに魔鋼の代金は支払わん。どっちにしろ依頼は失敗して払えなくなるからな。もし、依頼を成功させてくれるなら、俺も約束を守ると誓う。最高の職人を用意してやるよ!」
契約は成立だ。
約束は、果たすためにあるもの。
そして私は、それを可能にするための策がある。
この依頼、絶対に成功させて見せよう。
書いた。