画面上の同時接続者数を示すカウントが、配信開始わずか数十秒で十万人を軽々と突破していく。
コメント欄は怒涛の勢いで流れる流星群と化していた。
『きたあああああ!』
『B小町全員おる!!』
『あかねちゃんかわよ』
『後ろで不機嫌そうなイケメン誰????』
『あれ、今ガチのアクアじゃね?』
「はいどうもー! 『HARU』です! 今日は予告通り、いま大注目の新生『B小町』、そして女優の黒川あかねちゃんを迎えての超豪華コラボ生配信でーす!」
ハルトの慣れた切り出しと同時に、隣のMEMちょがプロの動きでカメラに手を振った。
「はーいみんなー! 『B小町』のMEMちょだよ〜! 今日はHARUチャンネルにお邪魔してまーす! コメ欄すっごい勢い! みんな高評価とチャンネル登録よろしくね〜!」
トップYouTuberのハルトと、配信のプロであるMEMちょ。二人が阿吽の呼吸で場を温め、テンポよく進行をリードしていく。ルビーも「『B小町』のルビーです! 今日は楽しんでいってねー!」とカメラに弾けるようなスマイルを向け、コメント欄を『天使』『今日命日』の文字で埋め尽くさせた。
そんな賑やかな画面の端、露骨に嫌そうな顔でカメラの画角に収まっている男が一人。星野アクアだった。
「……なぁハルト。カメラはスタッフが回してるんだから、俺は画角の外で裏方に徹していても問題ないはずだろ」
「何言ってんだよアクア。お前も『今ガチ』でバズった立派な出演者だろ? カメラマンは俺の事務所のスタッフに任せて、お前は演者としてそこに座っとけって」
「そうよアクア! あんただけ画面の外で高物見物なんて許さないわよ!」
かなにまで背中を叩かれ、アクアは「……ハルトの煽りに対するツッコミ役として置かれているだけだからな」と溜息をつき、画面の隅で腕を組んだ。コメ欄にはすぐさま『アクアくんテンション低くて草』『ツンデレ助かる』と書き込まれていく。
「さて、まずはこのコラボが実現した経緯なんだけどさ」
ハルトがカメラに向かってニヤリと笑う。
「『今ガチ』の時は俺の都合で色々あって、結果的にアクアをコケにするような形になっちゃったからな。その埋め合わせってわけじゃないけど、俺がアクアの妹のルビーちゃんたちがやってる『B小町』のライブパフォーマンスの監修を手伝わせてもらったんだよ」
「そうなんです! ハルトさんには本当にお世話になって! 最高のステージになりました!」
ルビーが目を輝かせて頷く。ハルトは「いやぁ、ルビーちゃんのアイドルとしての資質と輝きはマジで本物だよ。見惚れちゃったね」と絶賛してみせた。
すると、画面の端から冷ややかな視線が突き刺さる。
「……ハルト。俺の妹に妙な色目を使うなよ」
「重い重い重い! シスコン圧が凄いのよアクアくん!」
ハルトが首をすくめると、コメ欄は『シスコン爆発www』『お兄ちゃん怖い』と大爆笑に包まれた。
「まあ、そんな『B小町』だけど、結成の経緯もなかなかドラマチックでさ」
ハルトのフリから、ルビーがアイドルを目指してアクアが苺プロにアイドル部門を立ち上げたこと、高校で再会したかなをスカウトしたこと、そして昔アクアとかなが子役時代に共演していた話題へと広がっていく。さらに『今ガチ』の放送後にMEMちょをスカウトして現在の形になったという経緯が、軽快なトークで振り返られていった。
トークが温まってきたところで、コメント欄とルビーから待望の質問が飛ぶ。
「ねえねえハルトさん! コメ欄もめっちゃ気にしてるんだけど、あかねちゃんとの馴れ初め聞かせてよ!」
『それな!』
『付き合った経緯詳しく』
『あかねちゃん隣で顔赤くなってて草』
「馴れ初め? 俺とあかねは元々、七歳の時に朝ドラ『ひまわりの日』で共演したのが最初だな。で、中学の時に再会して……一回俺が盛大に振られた」
「ちょ、ハルトくん! 昔の話はいいから!」
焦るあかねを余所に、ハルトはニヤニヤと暴露を続ける。
「でさ、『今ガチ』の時にアクアとあかねがビジネスカップルとしてキスしなきゃいけない展開になったじゃん? あの時あかね、緊張しすぎて俺のところに『キスシーンの予行演習して!』って頼みに来たんだぜ?」
「ーーーーっ!?」
あかねの顔が一瞬で真っ赤に染まる。コメ欄は『は????』『ガチ勢すぎるwww』『激アツ展開』と大荒れだ。
「しかも最終回の放送当日、画面の中でアクアとキスしてる自分を見たあかねが、恥ずかしさのあまり『うわあああっ!』って悲鳴上げて顔を埋めてたからね」
「う、嘘つかないでよハルトくんのバカぁぁぁっ!!」
涙目になったあかねは、恥ずかしさの限界に達してハルトの腕をポカポカと叩き、そのまま半やけくそで叫び返した。
「ハルトくんだって!! 私とアクアくんのキスシーン見ながら、裏で脳破壊されて死んだ魚みたいな目をしてたくせにっ!!」
「おい余計なこと言うな! あれはそういうフリをしてただけだ!」
「絶対違う! あの後ちょっと不機嫌になってたもん!!」
普段のクールな女優・黒川あかねからは想像もつかないガチ動揺と、ハルトとの生々しい暴露合戦に、視聴者は完全に大歓喜状態となっていた。
二人のやり取りでスタジオが爆笑に包まれる中、それまでタイミングを伺っていたかなが、ニヤリと口角を上げた。あらかじめ手元に忍ばせていた
「ねえねえ、ちょっと私、小耳に挟んじゃったんだけどさ〜」
「……ん? どうしたの、有馬さん」
涙を拭きながらお茶を飲んだあかねが首をかしげた瞬間、かなはその雑誌の表紙をカメラとあかねに向けた。
「かの天才役者と名高い黒川あかねが、演劇を始めるきっかけになった役者がいるって〜」
「……っ!? や、やめて! なんでそれ持ってるのっ!?」
雑誌の表紙を見た瞬間、あかねがガバッと立ち上がった。顔を真っ赤にして本気で取り乱している。
「こんなにすごい役者さんの憧れの人ってどんな人なんだろう〜って気になっちゃってさ〜? 黒川さんが子役の時に初めて演った舞台のインタビューがあるって聞いて〜、当時のバックナンバーを通販で買ってみたらね〜」
「ちょっと、有馬さん! 返して! 画面に見せないでっ!」
「そしたら〜、なんと!」
あかねの制止をスルーし、かなはドヤ顔でインタビューのページをカメラにドアップで映し出した。
「憧れの人って私!? あかねちゃん、私に憧れて演劇始めたのぉ〜!?」
「ううぅー……っ!」
リスナー二十万人の前でまさかのガチファンぶりを暴露され、あかねは両手で顔を覆ってソファーに沈み込み、涙目になって絶句した。
ドヤ顔で勝利を確信するかなに対し、ハルトがポテトチップスをポリポリと噛み砕きながら、山吹色の瞳を細めた。
「つーかそれ、俺と有馬が共演した『モルモのやくそく』のことだろ。あかねが演技の勉強始めたのが五歳くらいで、ちょうどその頃じゃなかったか?」
「そ、そうなの……っ! ハルトくんと……有馬さんの、あのドラマでの演技が本当に凄かったから……っ!」
あかねが泣きそうになりながら頷く。
その言葉を聞いたハルトは、パンッと手を叩いた。
「へえ〜……そういうことか。……いやぁ、いいフリだな、有馬」
「え……? いいフリって……」
かなの表情が、一瞬で凍りつく。
「じゃあここで!! 有馬かなの『黒歴史ドラマ』を、みんなで鑑賞&分析していこうじゃねえか!! もちろん最初は、その『モルモのやくそく』だ!!」
「ゔ……っ!? そ、そんなつもりじゃ……っ!?」
「自分から当時の過去作に触れて視聴者の注目を集め、自分の企画へ誘導する……完璧なセルフプロデュースだな、有馬」
画面の端で腕を組んでいたアクアが、一切の情け容赦がない冷ややかな声で追い打ちをかける。
「ち、ちがっ……! 私はただ黒川を煽りたかっただけで……っ! ハルト! アクア! 待ちなさいよバカぁぁぁっ!!」
かなの悲鳴のような絶叫とともに、ハルトが笑いながら画面上のVTR切り替えボタンを押し――生放送の座談会は最高の熱量のまま幕を閉じた。
☆ ★ ☆
配信から、数日が経過した。
薄暗いアクアの自室。デスクの上に置かれた大型モニターには、ドローン撮影によってダイナミックに収められた『B小町』の楽曲、『アイドル』のMVが鮮明に映し出されていた。
コラボ生配信と、その後に投稿された持ち寄り企画動画の相乗効果は凄まじかった。『B小町』の公式チャンネル登録者数は爆発的に増加。
特に、生配信の終盤でハルトに押し切られ、企画の流れで『モルモのやくそく』の作中ダンス――通称『モルモ体操』を、ノリノリのハルトの横で恥ずかしがりながらも完璧に踊り切ったかなのショート切り抜き動画がTikTokやX(旧Twitter)で記録的なバズを引き起こした。今朝のワイドショーでも「元天才子役の再ブレイク」として取り上げられ、『B小町』の知名度は一気に全国区へと駆け上がっていた。
画面の中で輝かしく踊るルビーたちの映像。
だが、アクアの視線はモニターの華やかな光から離れ、手元に置かれた一枚の書類へと落ちる。
それは、あかねとの情報交換の末に入手した『劇団ララライ』の関係者リストだった。
(『ソレイユ』――日野ハルトは何も知らなかった……、俺の推理違いだった。だが黒川のおかげで、あの男の足跡……〝父親〟の存在に一歩近づいた……)
アクアの瞳の奥で、黒い星が鈍く光を放つ。
あかねのプロファイリングは極めて正確だ。だが、アクアの猜疑心と偏執的な復讐心は、伝聞や状況証拠だけで納得することを許さない。確実な証拠――遺伝子検査によるDNAの一致が必要不可欠だった。
(どうやってララライに接触する……。内部に潜り込み、確証を得るための方法を洗う必要がある……)
アクアの指先が、リストに記載された無数の劇団員やOB、関係者の名前を追っていく。
その膨大な活字の並びの中に、一つの名前が存在していた。
『カミキヒカル』
アクア自身の認識としては、まだそれはリストに名を連ねる「その他大勢の演劇関係者の一人」に過ぎない。彼がその名に特別な意味を見出すのは、まだ少し先のことだ。
だが、彼が復讐という執念にとらわれ、思考を巡らせれば巡らせるほど――その精神は着実に、光の届かない昏い海の底へと深く、深く沈んでいく。
まるで、いつか訪れるかもしれない破滅的な最期に向かって、自ら冷たい水底へと足を踏み入れていくかのように。
華やかなMVの音楽が部屋に虚しく響く中、アクアは昏い影を落とした瞳で、静かに思考の海へと没頭していった。
トップのあらすじはきちんと書いたほうがいい?
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今のまま
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真面目に書け