十二月二十四日(土)07:13
黒川あかねは、寝不足の重い瞼をこすりながら、借りている客間のドアをそっと開けた。
ハルトと同じ屋根の下で過ごした、初めての夜。意識するなという方が無理で、結局まともに眠れたのは数時間だけだった。それでも、女の子としてのプライドで、スキンケアからメイク、髪型のセットまでは完璧に仕上げてある。
リビングダイニングに向かうと、すでに部屋には香ばしい匂いが漂っていた。
「あ、起きたかあかね。おはよう」
ダイニングテーブルの席についたハルトが、ノートパソコンの画面を見つめたまま片手を上げる。画面を覗き見ると、配信の準備画面ではなく、自身の個人事務所『サン・マネージメント』の年末の税制書類や、ソレイユ名義の楽曲の著作権管理に関する複雑なグラフや数字が並んでいた。配信直前だというのに、全く違う次元のビジネスを涼しい顔でこなしている。そのデキる男の横顔に、あかねは朝からさっそく胸を射抜かれた。
「日野くんが朝ご飯作ってくれたの……?」
「おう。二十四時間、体力勝負だからな。しっかり食っとけ。……ちよっと作りすぎたか?」
「ううん、大丈夫だよ。おいしそう! 私、お腹空いちゃった」
テーブルに並べられたのは、黄金色に焼けたフレンチトースト、カリカリのベーコンエッグ、温かい野菜スープに、瑞々しいレタスとトマトのサラダ。育ち盛りの男子高校生基準のボリュームで、本人曰く「ちょっと作りすぎた」らしいが、どれもお店のメニューのように美しい。
「んー、おいしい……! ハルトくん、本当にお料理上手だね」
「だろ? 配信でもたまにやってるしな。ほら、冷めないうちに全部食えよ」
和やかで、まるで新婚のような――とあかねが勝手に妄想して顔を赤くしている――朝食を済ませると、ハルトが淹れてくれたコーヒーとミルクティーをそれぞれ手に、一息つく。
あかねは愛用の手帳とペンを取り出し、テーブルの上に広げた。
「ねえ、今日のタイムスケジュール、もう一度おさらいさせて。メモとるから」
「おう、真面目だな。十時頃に夕食の食材の買い出しに行って、昼食までの間に下拵え。十二時頃に俺とあかねの事務所のスタッフが来るから、そこで昼飯を振る舞う。そこから二時まで大人たちと最終リハーサル。三時前にヘアメイクとスタイリストが来るから、あかねは時間まで身支度。で、五時に配信スタートだ」
「わかった……。あの、そうだ。日野くんのこと、配信ではどう呼べばいいのかな? 『HARU』くんって呼んだほうがいい?」
ふと思いついた疑問を口にすると、ハルトはコーヒーをすすりながらあっさりと答えた。
「いつも通り苗字でいいだろ。俺は別に本名隠してねーし、元子役の経歴とかも公式サイトにも載ってる公開情報だからな。変に『HARU』って呼びかけようとしてトチってもつまんねーだろ」
「あ……うん、そうだよね。〝日野くん〟、ね」
あかねは手帳に『配信中でも日野くんと呼ぶ』と書き込みながら、胸の奥で小さな、ささやかな寂しさを覚えていた。
十二月二十四日(土)16:54
スタッフやスタイリストたちが慌ただしく行き交う嵐のような時間を経て、スタジオの空気は一変していた。
完璧にドレスアップされ、薄いスタジオメイクを施されたあかねは、配信用のローソファに座り、緊張で指先を震わせていた。
目の前には、テレビの収録現場と見紛うような本格的な大型カメラ。そして、YouTubeの
「カメラの死角には、うちのチーフとそっちの社長さんが般若みたいな顔で控えてっから。緊張すんなって」
隣に座るハルトが、いつものパーカー姿のまま不敵に笑う。
「配信開始まで、あと三十秒。――十、九、八……」
スタッフのカウントダウンが響く。あかねの心臓の音が、防音室の中に木霊するようだった。
「……三、二、一。――配信開始です」
カメラの上の赤いランプが、静かに点灯した。
「はいどーも皆様こんばんは! HARUです! メリー・クリスマス・イブ!」
ハルトの口から、いつも画面越しに聞いていた『HARU』のペルソナが滑り出す。その瞬間、モニターの右側に表示されたチャット欄が、視認不可能なほどの
同時接続者数、開始一分ですでに八万人。土曜日の夕方、冬休みの初日。日本中のリスナーが、この怪物の二十四時間配信の始まりを待っていたのだ。
「いやー、約束通り始まりました二十四時間生配信! 今日は土曜日だし、お前らどうせ予定ねーだろ? チキン冷ます前に、俺の配信で脳みそ溶かしていってね! ――で、画面見て察してると思うけど」
ハルトがニヤリと笑い、カメラの手をあかねへと向けた。
「今日はスペシャルゲストが来てくれてまーす」
「あ……はじめまして。劇団ララライ所属の、黒川あかねです。よろしくお願いします……っ」
あかねが緊張しながらも、役者としての綺麗な笑顔で一礼した瞬間。
モニターの数字が弾け飛んだ。同接は一気に十二万人を突破。コメント欄は、文字の激流と化して原型を留めていない。
『は?????女の子?????』
『クリスマスに女連れ込み配信かよwwww』
『HARU終わったな、ガチ恋勢解散』
『え、ちょっと待て、超絶美人じゃん誰!?』
『黒川あかね……? どっかで聞いたことあるぞ……』
荒れ狂うコメントの濁流。ネットの洗礼に息を呑むあかねだったが、ハルトはそんな激流を、まるで止まっているかのように平然と目で追いながら、けらけらと笑った。
「はいはい、ガチ恋勢息してるかー? お前らすぐそうやって燃やそうとするー。ほら、カメラの向こう、スタジオの奥見てみろ。あかねの所属事務所のマネージャーさんと、ウチのチーフマネージャーが腕組んで、仁王立ちで俺のこと睨みつけてっから。いかがわしいことなんか起きるわけねーだろ、俺の命が危ねえわ!」
ハルトのその見事な『プロレス能力』に、コメント欄の空気が一瞬で「お祭りモード」へと変わっていく。
『大人が監視してて草』
『ガチの公式コラボかよww』
『命の危険を感じる配信www』
さらに、爆速で流れるコメントの中から、ハルトの動体視力がある「一つの流れ」を捉えた。
『あ!!! 『ひまわりの日』のあかねちゃんじゃん!!!』
『うわマジだ! 日野ハルトの伝説の朝ドラの相方じゃん!!』
『あかねって、HARUがたまに動画で言ってた「役者の友達」か!』
「お、気づいた奴がいるな。そう、あかねは俺が九年前、連続テレビ小説『ひまわりの日』で共演した元子役でさ。今は劇団ララライってところでゴリゴリに役者やってる、俺のすげー仲のいい友達。 今日はちょっと、大人の事情とプロモーションも兼ねて、二十四時間付き合ってもらうことになりました!」
ハルトが快活に、堂々とそう宣言する。
「日野くんのリスナーさん、皆さん凄いです……。一瞬で気づいてくれるなんて……」
あかねはカメラに向かって感心したように微笑んだ。
だが、その胸の奥では、ハルトがはっきりと口にした「俺のすげー仲のいい友達」という言葉に、ほんの少しだけ、チクリとした痛みが走っていた。
(……やっぱり、ただの『友達』、なんだよね)
あかねの眉尻が、一瞬だけ、ほんのわずかに切なげに下がる。
その刹那、ネットの荒波を生き抜いてきたリスナーたちの『勘』が、画面の向こうで一斉に牙を剥いた。
『おい今のあかねちゃんの表情見たか!?』
『「友達」って言われた瞬間、一瞬めちゃくちゃ寂しそうな顔したぞ!!』
『あかねちゃん絶対HARUのこと好きだろこれwww』
『HARUお前これ片思いされてるぞ気づけ唐変木wwww』
『コメント欄のプロファイリング能力高すぎて草』
一瞬の表情の揺らぎから、あかねの恋心を完璧に察知し始めるコメント欄。ハルトは「はいはい、お前ら妄想乙ー! じゃあ、最初の企画、その場で一問一答コーナー行くぞ!」と、爆速のコメントからあかねが答えやすい質問を神がかった速度でピックアップし始め、力技で進行を戻していく。
何百万人という視線が見守る中、あかねの恋心という名の小さな火種を孕んだまま、前代未聞のクリスマス配信は、波乱の幕を開けるのだった。
十二月二十四日(土)20:15 ── クリスマスパーティー&ゲーム・映画
配信開始から数時間。スタジオの奥に控えるスタッフ陣が買ってきてくれた特大のピザとクリスマスケーキがテーブルに並び、画面の向こうのリスナーと一緒に乾杯する聖夜のパーティーは大盛況のまま幕を閉じた。
続くゲームや映画同時視聴のパートでも、ハルトのテンポ良いトークと、あかねの真面目ながらも時折見せるお茶目な素顔の相乗効果で、同時接続者数は常に大台をキープし続けている。
「……あ、日野くん。そこ、私の『スピード』のカード残ってる」
「ゲッ、あかねお前、おっとりした顔してカード捌く速度バグってんだろ! 役者の動体視力舐めてたわ!」
「ふふ、これでも舞台で殺陣の稽古とかしてるからね」
ゲームでハルトを容赦なくボコボコにしてむっつりとドヤ顔を決めるあかねの姿に、コメント欄には『あかねちゃん可愛すぎる』『HARUがボロ負けで草』と絶賛の嵐が吹き荒れていた。
十二月二十四日(土)24:00 ── 深夜のプレゼント交換
日付が変わり、12月25日のクリスマス当日を迎えた瞬間、二人はカメラの前でプレゼントを交換することになった。深夜を回り、スタジオの大人たちも少し疲労の色が見え始め、防音室の中にはどこかプライベートな、甘い空気が漂い始めている。
「じゃあ、私から……。はい、メリークリスマス、日野くん」
あかねが少し恥ずかしそうに差し出したのは、丁寧にラッピングされた袋。ハルトが中身を取り出すと、そこには赤と山吹色、そしてハルトのパーソナルカラーであるオレンジ色が綺麗なボーダー柄を編み出す、手編みのマフラーがあった。
「……これ、あかねが編んだのか?」
「うん。稽古の合間に少しずつ……。日野くん、冬でも薄着で配信とかお仕事行くから、風邪ひかないようにって思って」
「マジか……ありがたく使わせてもらうわ。めちゃくちゃ温かい」
ハルトが嬉しそうに首に巻くと、あかねの胸が高鳴る。
「じゃあ、俺から。はい、これ」
ハルトから手渡されたのは、小さな、けれど高級感のある小箱だった。あかねがそっと開けると、そこには透明なリップの中に、本物の小さな一輪のドライフラワーと金箔が閉じ込められた、美しいリップグロスが入っていた。
「わあ……綺麗……!」
「それ、ただのグロスじゃなくて、塗る人の体温や唇の酸性度で、その人だけのピンク色に変わるやつらしくてさ。お前、冬は唇カサカサになるまで稽古に没頭するだろ? 役者のケア用。……一応、キャップに名前も入れといたから」
見ると、ゴールドのキャップ部分に『Akane.K』と綺麗な刻印が入っている。
「私だけの、色……。名入りなんて、ちょっと重いかな……?」
「あ? 聞こえなかった、何だって?」
「ううん! なんでもない! すっごく嬉しい、ありがとう日野くん!」
付き合っていない男友達から贈られるには、あまりにも特別で、あまりにも自分専用のプレゼント。あかねは破裂しそうな心臓を隠すように、グロスを宝物のようにきゅっと抱きしめた。
十二月二十五日(日)02:15 ── カラオケ&深夜の雑談
丑三つ時。深夜の特別企画として、部屋の明かりを少し落とし、マイクスタンドを立てての「カラオケ&雑談タイム」が始まった。
ハルトがリクエストに応えて歌ったのは、普段の配信でも滅多に歌わないしっとりとした大人の恋愛を歌うバラードだった。防音室の中に、彼の優しくも芯のある歌声が響き渡る。
隣でそれを聴いていたあかねは、完全にプロの歌声と、大好きな男の子の横顔に、魂ごと魅了されていた。
最後の伴奏がフェードアウトし、ハルトが息を吐く。
完全にトランス状態というか、心地よい眠気と幸福感の中にいたあかねは、うっとりとした表情のまま、マイクが音を拾っていることも忘れて、心の声をそのまま口に溢れさせていた。
「……すっごく、ステキな歌声だったよ、ハルトくん」
その瞬間、スタジオに詰めていたチーフマネージャーの書類を持つ手が止まる。
そして、深夜にもかかわらず起きていた十万人以上のリスナーが映るモニターが、文字通り『爆発』した。
『ハルトくん!?!?!?!?!?!?』
『今ハルトくんって言ったあああああああああ!!!!』
『おいおいおいおい配信中は日野くんって呼ぶって決めてただろ今誤爆したな!?』
『裏での呼び方バレてて草アアアアア!!』
『てぇてぇ死にそう助けて』
「──ッ!?」
コメントの叫びで、あかねは一気に覚醒した。自分が何と言ったかを理解し、顔面が沸騰したように真っ赤になる。
だが、ハルトはそんなあかねの動揺を救うように、あえてコメント欄をスルーし、平然とした顔で次のトークテーマの紙をめくった。
「はい、じゃあ深夜の質問コーナー行くぞー。……お、これ良いな。『あかねちゃんの今後の芸能活動について教えてください』。あかね、お前ずっと舞台メインだけど、本当はテレビとか映画とかに出演したり、どういう役に挑戦したいとかってあるの?」
ハルトのプロとしての機転、そして何より、あかねの役者としての魅力を引き出そうとするその100%ポジティブな質問のセレクトに、あかねの胸の奥がじんわりと熱くなる。
ハルトがスルーしてくれたお膳立てを無駄にすまいと、あかねはまだ顔を赤くしたまま、けれど「ハルトくん」と呼んでしまった親密な距離感のまま、真っ直ぐに語りかけた。
「……うん。私は、舞台も大好きだけど、これからは映像のお仕事にもたくさん挑戦して、もっと色んな人に、劇団ララライのことも、私の演技も知ってもらいたいな、って……思ってるよ、ハルトくん」
腹を括ったあかねの「ハルトくん呼び続行」宣言。
画面の向こうのリスナーたちは『公式が最大大手を供給してきた』『切り抜き動画作成決定』と、深夜の狂乱に包まれるのだった。
十二月二十五日(日)09:22 ── 映画同時視聴パート2
朝を迎え、24時間配信も残すところあと数時間。
ここで、ハルトの悪巧みによる「黒川あかね・義務キャー検証企画」がスタートした。題材は名作ジャパニーズホラー『仄暗い水の底から』。
「世の男どもは、女の子がホラー映画で『キャー! 怖い!』って男の腕に抱きつくのを期待してるわけよ。だが俺のプロファイリングによると、黒川あかねは絶対に怖がらない『義務キャー』の女だ。お前ら、あかねが本当に怖がるか、しっかり監視しとけよ」
「そんなことないよ? 私だって、怖いものは怖いよ……?」
そう言って映画がスタートしたのだが ──。
(画面の中で、怪異がじわじわと迫るシリアスなシーン)
「……ねえ日野くん、今のシーン、カメラのライティングが凄く不気味で素敵。あと、この子役の男の子の、恐怖で喉が詰まったような視線の泳がせ方、ものすごくリアル。勉強になるなぁ……」
「だろ? この監督、役者の『視線』で恐怖を煽るのが天才的なんだよ。あ、この後のカット、音響の低音がじわじわ削ってくるから注目しろ」
「うん、本当だ……! 音だけで心臓が痛くなる……素晴らしい演出……!」
抱きつくどころか、身を乗り出して役者の演技と演出の技術論で大盛り上がりする二人。
『デートじゃなくてガチの映画監督のオーディオコメンタリー始まってて草』
『義務キャーすら放棄した本物のガチ勢』
『波長合いすぎだろこの二人www』
コメント欄のツッコミ通り、二人の「クリエイターとしての深い繋がり」が改めて世界に証明された瞬間だった。
十二月二十五日(日)13:09── お昼の
配信開始から二十時間が経過した、クリスマスの昼過ぎ。
徹夜のハイテンションと疲労が限界を超え、コメント欄もどこかおかしなアドレナリンに包まれる中、ハルトがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「おいお前ら、朝から目が覚めるようなもん見せてやるよ。題して天才役者・黒川あかねのガチ
「えっ、三秒以内!? 画面の向こうに何万人もいるのに……っ」
突然の無茶振りにあかねが目を丸くするが、ハルトはすでに爆速のコメント欄からお題を神速でピックアップしていた。
「よし、設定は『十年間片思いしていた幼馴染の男が、別の女と結婚すると報告してきた時のヒロイン』。一言目のセリフは──『おめでとう、幸せになってね』。……3、2、1、アクション!」
ハルトの指パッチンが防音室に響いた、その刹那。
黒川あかねの「空気」が、完全に変貌した。
「──おめでとう。幸せになってね」
声のトーンは、鈴を転がすように優しく、どこまでも祝福に満ちていた。
だが、あかねの〝目〟だった。
口元は完璧な笑顔を作っているのに、瞳の奥だけが完全に光を失い、深い絶望と、歪んだ執着で澱んでいる。おめでとうと言いながら、あかねの右手の指先が、自分のスカートの布地を千切れんばかりに強く、白くなるまで握りしめ、微かに震えていた。
言葉の美しさと、肉体が発する圧倒的な〝狂気〟のギャップ。
スタジオの空気が、一瞬で凍りついた。
カメラの向こうで見ていたあかねの事務所の社長が、思わず手元のお茶をこぼし、「……っ」と息を呑む。爆速だったコメント欄が、一瞬だけピタッと止まり、次の瞬間、畏怖を孕んだ叫びで埋め尽くされた。
『鳥肌たった、いまゾクッとした……』
『目が、目が笑ってない、殺される』
『これララライのガチの天才のやつじゃん……HARU、お前今すぐあかねちゃんに謝れ』
『プロってこんな一瞬で空気変えられるの……!?』
「──はいカット!」
ハルトが手を叩くと、あかねは「ふぅ……」と小さく息を吐き、いつものおっとりした少女の笑顔に戻った。
「あ、あれ……? 変だったかな……?」
「変なわけねーだろ、最高にゾクらせてもらったわ。お前ら見たか? これが劇団ララライの黒川あかねだよ。今の演技でビビった奴は、今すぐあかねの公式Twitterフォローして舞台観に行け!」
ハルトの誇らしげな声に、コメント欄は『即フォローした』『あかねちゃんマジ天才』と大絶賛の流れへ。
ハルトがあかねの「役者としての知名度」を爆発させるために仕掛けた即興劇。あかねは、彼が自分のためにその技術を披露する場を作ってくれたのだと気づき、胸の奥で最高の幸福感に満たされるのだった。
十二月二十五日(日)17:05 ── 配信終了、そして
「──というわけで! 二十四時間生配信、無事に完走いたしました! お前ら、最高のクリスマスをありがとう! バイバイ!」
ハルトがカメラに向かって手を振り、配信終了のボタンを押す。
カメラの上の赤いランプが消えた瞬間、防音室の中に、スタッフ一同からの大きな拍手が沸き起こった。
「お疲れ様でしたー!」
大人たちが機材の撤収にかかる中、あかねはソファに深く体重を預け、長いため息をついた。
二十四時間、張り詰め続けていた緊張が一気に解け、強烈な眠気が彼女を襲う。綺麗なメイクの下から、隠しきれない疲労がのぞいていた。
「お疲れ、あかね。マジで助かった。お前のおかげで同接も過去最高連発だったわ」
ハルトがポカリスエットのペットボトルを差し出す。
「ううん……私も、すごく楽しかった……。でも、なんだか、急に眠気が……」
あかねの瞼が、今にもくっつきそうに閉じかけている。今から電車に乗って自宅や寮に帰るなど、到底無理そうな状態だった。
それを見たハルトは、頭を掻きながら、至極当然のトーンでこう提案した。
「おいおい、限界じゃねーか。……なぁあかね、もう一日、うちに泊まっていけよ。明日も日曜日だしさ。部屋はそのまま片付けてねーから、泥のように眠ればいい」
「え……? でも、またお邪魔したら、悪い、し……」
「何言ってんだよ。二十四時間付き合わせて、このフラフラの状態で追い出せるわけねーだろ。俺の飯がもう一食食えると思って、大人しく甘えとけ」
ハルトのぶっきらぼうだけど優しい言葉。
あかねは、もう抵抗する気力も、そして何より「帰りたくない」という本音を隠す理性も残っていなかった。
「……うん。じゃあ、お言葉に、甘えちゃおうかな……」
あかねは、ハルトの手編みのマフラーを愛おしそうに抱きしめながら、今度こそ、心からの安心を浮かべて小さく微笑んだ。
世界中を巻き込んだ喧騒のクリスマスが終わり、二人の距離は、また確かに、誰も立ち入れない場所へと近づいていた。
そろそろ書くネタがなくなってきた。
「恋愛リアリティショー編」が終わるあたり、今週末までは集中連載する予定です。その後は未定。
最新話の更新時間は何時がいいですか?参考までに。
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